018 絶壁姉ちゃんが変態かもって言った奴、ホントすいませんでした。
「せぇの……とうっ!」
自室に戻った俺はベッドにダイブして寝転がります。
うんうん、良い感じに魔力が回復してきました。
やっぱお風呂とマッサージは大事だよね。
セシリアが戻って来るまで暇だし、先にちょっとだけ仮眠しちゃおうかな。
「……あー、やっぱ自宅のベッドは最高だなぁ。フカフカのおふとぅん……。…………」
ヤバい……。落ちる…………。
…………。
……………………。
「……ん? あれ、セシリア?」
人の気配がして目が覚めました。
薄暗い部屋の中で俺のベッドの上に……というか、俺の上に跨っている人がいます。
あれ、なんで照明が消えてるんだろう……?
たしか点けたまま仮眠してたはずなのに……。
「カズハ様……。このまま起きずに聞いて下さい。私の話を。私の……抱えている悩みを」
「……悩み?」
俺がそう聞き返すと、闇の中で首を縦に振る彼女の姿がうっすらと見えました。
うーん、まあ寝たまま聞けば良いんだったら楽で良いんだけど……。
ていうか、どうして照明を点けてくれないのかが気になるんですが……。
「先ほども少しお話しさせていただいた通り、私と『血槍』――シャーリーは士官学校の出身なのです。彼女はその類稀なる才能と美貌、そしてマクダイン家の令嬢という地位により一気に頭角を現しました」
「うん。あいつの槍術はかなりヤバいって話だからなぁ。相当強いっていうのは理解できるけど」
セシリアの悩みって、ライバルとの力の差の話なのかな……?
……あれ? でも首席で卒業したのはセシリアのほうじゃなかったっけ……?
「マクダイン家は長い歴史を持つ吸血一族です。中には相当な魔力を持って生まれた者もいれば、高い知能により研究者として名を馳せた者もいます。ですが、シャーリーは生粋の吸血族ではありません。彼女の血の半分はエルフ族のものなのです。他の吸血族のように、生まれながらにして力を得ていたわけではありませんでした」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ努力して強くなったってことかぁ。いいライバルがいて良かったじゃん」
俺がそう答えると、一瞬躊躇した感じでセシリアは言葉を止めた。
うん? もしかして、悩みってその『血槍』と何かがあったってことかな……。
「……彼女はずっと努力をしていました。もちろん『家柄』という後ろ盾も利用していましたが、それでも日々の鍛錬は決して怠らなかった……。そして私は、士官学校に入学してすぐに彼女と親しくなりました。共に競い合い、どちらかが必ず首席で卒業しようと約束をしました」
……何かだんだん話に熱がこもってきたようなんですが、そろそろ飽きてきちゃった。
でも聞いてあげないと怒り出しそうだし、俺を二回も助けてくれたしなぁ……。うーん……。
「私はどんどん彼女に惹かれていきました。彼女の周囲には男女問わず、いつも人がいましたが、彼女は私を見つけるといつも微笑みかけてくれました。それが本当に嬉しかった。そして卒業の日――。士官学校の校舎の裏で私は見てしまったのです」
……あれ? なんか話の方向性が急に変わってきた……?
彼女に惹かれていった……? 微笑みかけられて嬉しかったって…………え?
もしかして――。
「そこには彼女以外に数人の生徒がおりました。彼女は軽く微笑みながら彼らに近付き、彼らの首筋に唇を当てました。唇を当てられた生徒らは喜びに震え、恍惚の笑みを浮かべているではありませんか。私はその時に初めて知ったのです。生き血を吸うことで魔力を吸収し、その対価としてシャーリーは生徒らに身体を捧げていたことを。私は慌てて彼女の元に駆け、彼女に問いただしました。『何故そのようなことをするのか』と」
「……ゴクリ」
……アカン。これは修羅場だ。
彼女はシャーリーのことが好きだったのに、これはショックだ……。
ていうか、お前も百合かよ!
もうどうなってんの! 俺の周りはっ!!
「彼女は笑って答えました。『強くなるために決まっているじゃない』と。私はすぐに反論しました。『そんなことをせずとも、私と一緒に高みを目指せばいい』と。私の言葉を聞き、深く溜息を吐いた彼女は私の傍に近付きました。そして私の手を握り……握り……!」
「? どうしたの?」
急にセシリアの声が震え出しました。
え……? なに恐い……。
これ以上何かあるんですか……?
「自身の下腹部にあるモノを握らせたのです!!!」
「…………」
……………………はい?
「彼女は女性の身体を持ちながら、男性器を備えた吸血族の変異種だったのです! 日夜、男女を問わず、私の知らないところで、生徒らを惑わし、生き血を吸い、魔力を高めていたのです……! 他者を欺き、惑わすことに特化した吸血族の中でも異質な存在……。何十年かに一度生まれる変異種である彼女は、それを巧みに利用していたのです!」
……………………はい??
「……私はそれ以降、彼女とまともに話すことすら出来ず、そのまま士官学校を卒業し、聖堂騎士団に入隊しました。それから八年――。彼女に対する想いはとうに冷めても、あのときのショックだけは忘れることが出来ません……。ですが! 貴女だったら私の悩みも全て受け止めてくれると思ったのです!」
……………………はい???
「貴女が『転生者』だということは知っております! そして元は『男性』だったということも! 彼女に近しい特性を持った貴女にこの身を捧げれば、私の呪いは断たれるだろうと、ずっと考えておりました……! どうかお願いです! どんな罰でも受けますから、今夜はこのまま私を抱いてはくれませんか……!」
そのまま俺のおふとぅんを剥ぎ取ったセシリア。
俺の上に覆い被さり、強く抱きしめてきます。
……うん。照明を消した理由が分かりました。
こいつ、裸だった。
――そして、馬鹿だった。
「もう嫌だ! この異世界あたまおかしいだろ!! 誰だよ作った奴!! マジで変態しかいねぇじゃねぇか!! 離せっ! 俺は変態は相手にしたくないの! マトモな人間でいたいの!!」
「約束して下さったじゃないですか……! 何でも言うことを聞いて下さると……! もう私にはこれしか方法が無いのです! 光の加護を失った今、魔王たる貴女にこの身を穢して頂くことが最善なのです! さあっ! どんと来いです! 痛いのもイケます!」
「それお前の性癖だろっ! アレか! 盾使いなのも痛いのが好きだからか! このド変態がっ!! 触るんじゃねぇ!! あ、ちょっと、足を絡ませんなっつうの! この……絶壁が!!」
「―――今、なんと仰いましたか?」
よし、動きを止めた今がチャンス……!
俺はその場でウネウネ動き、セシリアの拘束から逃れることに成功。
そして窓を開き、外に脱出しようとした瞬間――。
「よう。見つけたぜカズハ」
「げっ! ゲイル!?」
次元の隙間から出現したゲイル。
こいつ、もう目を覚ましてやがったのかよ……!
「話は全部聞かせてもらった。そして鬼ごっこもここで終いだ。そこの裸の騎士団長さんも城に連れて行く」
「やだーー! 軟禁生活に戻るの反対ーーー! 俺は自由を手に入れたんだーーー!」
ゲイルに首根っこを掴まれてジタバタします。
でも魔力が完全に戻っていないので、逃げられそうもない……。
「いいから言うことを聞け。またあちらさんに動きがあったみたいだぜ。どうやらエルザイム主教が騎士団長さんと捕虜の部下の処遇をどうするか決定したんだとか」
「「へ……?」」
ゲイルの言葉を聞き、俺とセシリアは同時に声を上げました。
シャーリー「私の槍術は凄いんだからね……!」




