015 大聖堂で待っていたのはゲス男代表のあの方でした。
お母さんとの二人きりの食事を終え、お腹がいっぱいになった俺は自室のベッドでごろんします。
久しぶりの実家ってなんかこう『帰ってきたー!』って感じがするよね。
……でもまぁ、なんというか、俺からしたらこの家はループの開始地点でもあるから、良い思い出ばかりじゃないんだけどね。
「深夜まで、まだ大分時間があるなぁ……。少し寝ておくかぁ」
もし俺の仲間がこの家に訪ねてきても、お母さんだったら俺の味方をしてくれるはずだし。
さすがに土足で家に上がってきて散策までしないだろう。きっと。
あー、お腹いっぱいになったら眠くなってきた……。
寝よう。おやすみー。
…………。
……………………。
◇
深夜になりお母さんを起こさないように家を抜け出した俺は、その足で帝都に向かいました。
もちろん目的の場所は、城の中庭にある大聖堂です。
つい先日、その大聖堂の前に建っている勇者オルガン像を真っ二つに割っちゃったのは記憶に新しいのですが――。
「失礼しまーす。あー……、見事に割れたままになってる。世界遺産に登録されてるってのに、修復させずにそのまま放置ってことは、マジでここ取り壊すつもりなんだなぁ」
足音を殺しつつ割れたオルガン像の前に立った俺は、一応手を合わせて頭を下げました。
ホント罰当たりなことをしてしまい、申し訳御座いません……。ご先祖様……。
「グラハムは……まだ来てないか。他の奴らに見付かると厄介だし、大聖堂の中にでも隠れてよーっと」
そーっと扉を開き、中に誰もいないことを確認した俺はその辺に座って時間を潰すことにしました。
窓からは月明かりが零れてくるし、照明がなくても意外に明るくて助かります。
こういう時に火魔法があると便利なんだよなぁ。
メビウス婆さんに会ったらグラハムの件と一緒に、俺の魔法のことも相談しようと思っているんだけど――。
「よう、遅かったじゃねぇか」
「ぐおっ!? え? 誰!?」
いきなり暗がりから声を掛けられ、変な声が出ちゃいました……。
ちょっと待って! 中には誰も居なかったはずなのに……!
「……ていうか、ゲイルかよ! お前、どうやって隠れてたんだ!?」
いつの間にか俺の背後に立っていたのは、ゲス神様ことゲイルでした。
奴は俺の慌てる姿を見て苦笑しています。
「見りゃ分かるだろ。この『刀』の力だ」
ゲイルは腰に差した刀を抜き、俺の前に突き出してきます。
……あの、どういうことでしょう。全然、分かりません。すいません。
「……その顔は理解してねぇ顔だな。……まあいい。そんなことより、どうして俺がここに隠れていたか聞かないのか?」
刀を鞘に納めたゲイルは、ゆっくりと俺の周りを歩き始めました。
ええと……話が全然見えてこないというか、俺は別にお前に用が無いというか……。
「そんなの決まってるだろ。ユウリに言われて俺を捕まえに来たんだろ? でもそうはいかない! 何故なら――俺はもう、自由を手に入れたのだからっ!」
人差し指を立てそう叫ぶと、ゲイルは深く溜息を吐きました。
……え? 違うの? それ以外に理由なんてあるの?
「……この場所は、俺にとって最も忌むべき場所だ。忘れたくても、忘れられねぇ。あの声も、お前の顔も、俺の脳の奥深くに刻まれちまっている」
「この場所……?」
周囲を見回し、ゲイルの顔をもう一度見た瞬間、俺は過去を思い出しました。
あー、あの時ね。ゲイルが精霊王に身体を乗っ取られたときの話か。
その影響で頭がおかしくなって、再び俺の前に敵として現れてきたんだっけ。
ごめん。すっかり忘れてた。
「仲間を半殺しにされたときのお前の顔は、勇者の顔じゃなかったぜ。ありゃ、まさしく魔王の顔だ。ギリギリで俺を殺さなかったのはレイがいたからなんだろう? もしもレイがお前の仲間になっていなけりゃ、お前は躊躇なく俺を殺していたはずだ」
「うーん、そう言われちゃうとそうかもしれないけど……。でも、それがどうしたの? ていうか俺がどうしてここに来るって分かったんだよ」
そう言って俺が頬を膨らませると、ゲイルは掌を上にして首を横に振るばかり。
何その態度! それにさっきから意味分かんないことばかり言うし!
言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい!
「俺はもうお前に二度も負けた身だ。今更裏切るつもりもねぇし、俺のこの『死ねない身体』を好きに使えばいいさ。だけどな、俺だって過去に決着を付けたいとずっと思っていたんだ。――だから、俺はここでお前を待っていた」
「……つまり、どういうことですか?」
「…………こういうことだよ」
ギラリと目を光らせたゲイルはいきなり刀を抜きました。
当然俺はそれに反応して、瞬時に後方に飛び退いたわけなんだけど……。
「あっ! せっかく買ったばかりの服がもう切れた! てめぇ、何すんだよコノヤロウ!」
完璧にかわしたつもりだったけど、何故か胸のあたりの服が斬られちゃいました。
うーん、なんでだろ。月明かりでよく見えてなかった……とか?
「本気でかかって来い。どうせ俺は死なねぇんだ。あの時のお前を、俺にもう一度見せてみろ」
「だから! どうして戦う必要があるんだよ! 俺はお前に用が無いの! グラハムと待ち合わせてるの! もう帰って!」
俺が喚いても叫んでも、ゲイルは攻撃の手を休めません。
そして完全に攻撃を避けているつもりが、いつの間にか全身の服がボロボロに斬り刻まれてしまっています。
もしかして、これって――。
「気付くのが遅せぇんだよ。『次元刀』――。俺はこの刀の力を使って、時空を斬ることができる。おめぇも知ってるだろうが」
「……うん。そうでした」
四宝のうちのひとつ――『刀』の最大の特徴でもあるそれを、当然俺は知っていました。
時空を斬ることができるということは、射程範囲とか全く関係ないもんね。
……。
………あれ、待てよ。
もしかして、ゲイルが隠れていた場所って……?
「……お前、その『斬った空間』の中に入れるのか?」
「ああ。ようやく理解したか。だが常人には無理だ。時空の中じゃ息もできねぇし、皮膚も焼けるように熱くなるからな。……いや、熱いとか冷たいの域を超えているか。不死身の身体を持つ俺だからこそできる所業だ」
「なにそのチート! どんどん人間離れしていきますね! ゲス神様!」
だから俺がここに来るのも知ってたのかよ!
きっとゲイルはずっと俺の後を付けてきていて、グラハムとの話を盗み聞きしたってことじゃん!
うわぁ……。さすがはゲス神と呼ばれるだけあるね。
時空の中に隠れてまでストーカーとか……。
「お前らが過去に戻って何をしようが、俺はまったく興味がない。俺は自身の過去を変えようなんざ、これっぽちも思わないしな。……だがな、決着は付けておきたいのさ。本気のお前と戦って『答え』を得たい――それだけだ!」
「うわっち! お前、相変わらず自分勝手な奴だな! それならそうと最初からちゃんと言えよ!」
次から次へと繰り出される刀技に翻弄される俺。
グラハムといい、やっぱ俺の仲間はみんな強くなってるわ。
うかうかしているとマジで追い抜かされちゃうかもしれない……。
「本気出すと大聖堂がぶっ壊れちゃうけど……まあいいか。ガロン義父さんも取り壊すつもりだって言ってたし」
俺は二本の黒剣を取り出し、それぞれの手に構えます。
「《ツーエッジソード》!」
二刀流スキルを発動し、攻撃力が倍増。
それを確認したゲイルはニヤリと笑い宙を舞う。
「俺の刀とお前の黒剣、どっちが強えぇんだろうな……! はは、楽しくなってきたぜ……!」
「うるせぇ! これでまた他の仲間に見付かったら、お前のせいだからな! 俺が勝ったら、ぜってぇに俺とグラハムに協力しろよ!」
「ああ、いいぜ……! 俺を本気で殺すつもりで来い……! あの時みたいに、俺を恐怖のどん底に落としてみろ……!」
戦いの行方は如何に――。




