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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第五部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(前編)
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007 ダークエルフが依存体質だっていうのはなんとなく分かる気がします。

 レイさんとエアリーを散歩に連れ出してからおよそ二時間後。

 フェアリードラゴンに乗ったレベッカさんと紅魔族の面々が魔王城に到着し、俺達は彼女達を城に招き入れた。

 一応、三国との同盟協定を結んだときに俺達は全員顔合わせをしているんだけど、めっちゃ慌ただしかったからゆっくり話とかもしていないんだよね。

 ……それもこれも、俺が世界中に宣戦布告なんてしちゃったからなんだけど。


「久しぶりだねぇ、カズハ。同盟協定以来か。元気にしていたかい? エリーヌ姫様との結婚式には参列できなくてすまなかったよ」


「ううん、レベッカさんも忙しいだろうにわざわざ来てもらっちゃって悪いね」


 王座から立ち上がった俺はレベッカさん達を応接間に案内しようとします。

 まあ普通は宰相とか大臣とかメイドがそういうことをするんだろうけど、俺の国では誰もやってくれないからね。

 もう慣れっ子です。


「……それにしても、一体なんだい? 『剣姫』として名高いレインハーレイン殿と、うちの国の姫様を両脇に抱えているだなんて……。結婚したばかりだというのに、もう側室を作ったのかい?」


「側室っ!! なんと甘美な響きなのでしょう……!!」

「とてもえっちな感じがしますぅ!!」


「……」


 俺の両側から同時にアホが叫んだが、俺は何も答えずに王の間を出ます。

 …………出れま、せん。


「? 何の遊びだから知らないけれど、女の嫉妬は怖いから気を付けるんだよ。……ああ、あんたも女だったか」


 苦笑してそう言ったレベッカさんは、ぎこちなく歩く俺達の後ろを付いてきます。

 興味津々といった感じで、後ろからガン見している紅魔族達の視線が痛い……。


 ちょうどお昼時だったのでタオとミミリに昼食を用意してもらって、俺達は楽しく談笑しながら飯を楽しみました。

 ……俺は非常に食べ辛い状況にあるから、楽しくもなんともなかったんだけど。

 スプーンを口に運ぼうとすると糸は絡まるし。

 どさくさに紛れてレイさんは料理じゃなくて、俺を食べようとするし……。

 落ち着かん。というかイライラする……。


「――そうかい、あんたらの状況はよく分かったよ。まあユウリ殿が言う通り、カズハを一人で行動させるのは危険だろうからねぇ。魔王城のことは任せな。私らが責任を持ってここを守るよ。……でも、ひとつだけお願いを聞いてもらえないかい?」


「お願い?」


 俺がそう言うと、皆が一斉に食事の手を止めて顔を上げました。

 何だろう、『お願い』って……。『お金ちょうだい』とかかな……。


「アルゼインを――妹を、私に一時預けてくれないかい?」


「姉さん……? 一体何を……?」


 レベッカさんの言葉を聞き、筋肉質の紅魔族らも箸を止めて立ち上がった。

 何か知らんけど、ものすごく真面目な顔をしています。


「別にあんたらを信頼していないわけじゃないし、むしろ苦しんでいた妹や私らを救ってくれたことを心から感謝しているよ。でもね、私は怖いんだよ。きっと妹は命懸けで救ってくれたあんたや仲間達に『恩』を返そうとする。これまでの裏切りをチャラにしてくれたあんたらに……再び仲間として迎えてくれたあんたらに、彼女も命懸けで応えるだろう。それがどういう結果を齎すのか――」


「……どうして、そんなことを言うんだよ姉さん! あたいにはもう、ここしかないんだよ? 本当の仲間が、守りたいものが、ここにはある……! 皆があたいにしてくれた恩は、返しても返し切れないものなんだ!」


 興奮して立ち上がったアルゼインはレベッカさんに掴みかかろうとしました。

 それを察していたのか、彼女の前に立ちはだかり主人の盾となる紅魔族の面々。

 俺は何も言わず、ただ全身に絡まる糸と戦いながら一部始終を聞き流します。


「そうやって今度はカズハ達に依存するのかい? あんたはいつまで経っても独り立ちできない未熟な妹だから、心配してやっているというのに……。ダークエルフの血は歴史の影響で依存体質が身についていることは、あんただって自覚しているんだろう? 仲間を想うことと、自分の命を軽々しく投げ出すことを一緒にするんじゃないよ」


「そうやって姉さんはいつもあたいを馬鹿にする……! 確かにダークエルフ族は奴隷として長年苦しんできた民族だけど、あたいはその現状を変えようと必死に頑張ってきたんだよ……!」


「その頑張りが『一線を超えている』って言っているんだ。命を投げ出してまで主人を守る。仲間を守る。国を守る――。言葉にすれば素晴らしいことのように聞こえるけれど、あんたのそれは奴隷体質から出ているものだって何度言わせるんだい? 一人では何もできない癖に、自分の力量さえ推し量れず、結果的に周りに迷惑を掛けていることに、いつ気付くんだい? あんたは?」


 怒涛の如く責め立てるレベッカさんに皆が息を呑んでいます。

 俺はお茶を飲みたいのに糸が絡んで飲めなくてイライラしています。


「……どうして姉さんは解ってくれないんだい? 守りたいものがあったら、命を懸けて当然じゃないか。姉さんだって紅魔族を守るために、自らが囮になってあたいに捕まって留置所に入ったじゃないか。あの時に・・・・本当のことを教えてくれていれば、あたいが偽物の『英雄』になることもなかったのに……」


「はっ、私があんたに捕まったのはわざとだよ。こいつらのためじゃない。……そんなことにも気付かないから、私はあんたが心配なのさ」


「?」


 レベッカさんの最後の一言はアルゼインには聞こえなかったようです。

 まあお互い色々と言いたいこととかあるんだろうけど、姉妹喧嘩は他所でやってください。


「はいはーい、もうそこまでにしてくださーい。ユウリ、ゼギウス爺さん。この国の宰相はお前らなんだから、レベッカさんの要求に応えるかどうか、ちゃちゃっと決めてくださーい」


「おい、カズハ……! まさか姉さんの言い分を聞くんじゃないだろうねぇ。あたいはあんたに付いて行くよ。これまで受けた恩を一気に返すチャンスを、みすみす逃す訳が――」


「……アルゼイン、すまない。実はレベッカさんから今回の魔王城の件をお願いしたときに、君のことも検討課題にするように事前に言われていたんだよ。僕らで勝手に決めるわけにもいかないから、皆が集まったときにどうしようか決めるつもりでいたんだ」


 それまで聞きに徹していたユウリが発言すると、アルゼインは驚いた表情でレベッカさんとユウリを交互に見比べました。

 事前通告があったんなら、話が早い。

 どうするのかさっさと決めちゃってくださーい。

 俺は姉妹のプライベートな問題に割り込むのはすごく苦手だから、お前らに任せまーす。


「ふぉっふぉっふぉ、アルゼインよ。おぬしの姉さんはのぅ、おぬしのことを思うて言っておるのじゃ。本当に似た者姉妹じゃて、言葉足らずというか、頑固というか……」


「ジジイ……! あんた姉さんから何を聞いたんだい……? 正直に答えないと――」


 魔剣を抜こうとするアルゼインを慌てて止める筋肉質の紅魔族達。

 あー、もう面倒くせぇ……。

 後は仲間達に任せて、俺は出発までベッドでゴロゴロしていよう。

 …………うん。立ち上がれないね。

 マジなんなの、もう……! 疲れる!


「君は陽の魔術禁書を使用した。これまでに魔術禁書を使用したことがある者はカズハと君、そして例外的に使用したのはゲイル、この三人しかいない。カズハとゲイルが特殊であることは説明するまでもないね? 彼らとは別にして、君は魔術禁書を使用したことで魔法遺伝子に変異が起きている状態だ。つまり『陽属性の消失』――。先の戦いでの疲弊と遺伝子の変異、そして君の依存体質や『恩』に対する考え方。これらを総合的に考えると、君をレベッカさんや紅魔族に預けることが最善だと思うんだけど、皆はどうかな?」


「おい、ユウリ……てめぇ!」


 今度は怒りの矛先をユウリに向けたアルゼイン。

 ていうか俺をゲイルと同じ枠にするんじゃねぇよ!

 異議を申し立てます! 俺はこんなゲス野郎とは違うもん!


「同じくエアリーに対する不安要素もあるんだけれど、彼女にはカズハの監視役を担ってもらっているから、もしも新生物キメラ因子による副作用が発生しても、カズハとレイが常に傍にいるから大事には至らないと思う。これはむしろ、アルゼインとは逆・・・・・・・・なのかな。依存体質が・・・・・あるようには見えない・・・・・・・・・・アルゼインと、依存体質があるように見えるエアリー。しかし実際は逆だ。こう言ったら酷かもしれないけれど、君よりもエアリーのほうがよほどしっかりとしているだろうね。『仲間を頼ること』と『依存』はまったくの別物だよ。それを君は理解したほうがいい」


「ぐっ……」


 ユウリにまで厳しく言われ、口を噤むしかないアルゼイン。

 あー、なんか段々可哀想になってきた。

 ここまでボコボコに言わなくても良いんちゃうかなぁ……。


「……分かったよ。でも最後にカズハの口から聞かせてくれないかい? あんたは、あたいを姉さんに預けるつもりかい? あたいは、どうしたら良い? どうやって、あんたに……恩を返したら良い?」


 アルゼインが俺に話を振るので、皆が一斉に俺に視線を向けました。

 ……どうしよう。ほとんど話を聞いていなくて、さっさとベッドで横になりたいとか考えてたなんて、絶対に言えない空気になっちゃった。


「あー、ええと、どうしたら良い……。うーん、そのー、俺は別にお前とレベッカさんの問題は、お前とレベッカさんで解決したら良いんじゃないかと……」


「それじゃあたいの気が収まらないんだよ! あんたは絶対に何も欲しがらないんだろうけれど、あたいは何かを返さないと気が済まないんだ! あんたがそういう態度だから、あたいは最前線に立って命を懸けてあんたを守ろうと――」


 この言葉で俺は目が覚めました。

 あー、やっと分かった。

 アルゼインは陽の魔術禁書を俺に使用した。

 それにより俺の覚醒した力――《制限解除リミッター・ブレイク》は失われ、レベルが99に戻っちゃった。

 今回のエルフィンランドの件だって、俺が覚醒状態だったらもっと早くに解決してただろうし、世界戦争に発展したとしても、俺が一人で解決できちゃうとか思ってるのかもしれない。

 だから彼女は『責任』を取ろうとしているんだ。

 そこまで大きなことをしちゃった責任――つまり、自分の命を投げ出そうと。そういうことか。


「あー、お前、本当に馬鹿だな」


「はぁ? あんた、何を言って――」


 何かを言いかけたアルゼインだったけど、俺の目を見た瞬間に口を噤みました。

 たぶん俺が本気の顔をしてたからだろうけど。


「じゃあ、俺から命令するよ。これはアルゼインだけじゃなくて、お前ら全員に命令する。絶対に守らないと俺は許さない。いいな、よく聞けよ」


 俺は大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出します。

 そしてはっきりと言ってやったんだよ。


「『死ぬな』。絶対に死ぬな。生きてりゃ色々あるんだろうけど、死ぬよりはマシだ。俺のために死ぬな。仲間のために死ぬな。自分一人で出来ないことがあるんだったら、仲間を頼れ。一人で考えるんじゃなくて、皆で考えろ。……でも、どうしても、どうにも出来ないことがあったら――俺が最後になんとかしてやる。以上」


 俺が言い終わると、皆が静まり返りました。

 これは絶対の約束だ。

 破ることは許さない。

 俺は魔王。俺の言うことは絶対だ。


「……お前、もしかしてあたいの……いや、そうじゃない。カズハはきっと、こう言うと知っていた……。あたいは、あたいは……」


「ふふ、決まりだねぇ。じゃあアルゼインはしばらく預かるよ。もしも奴らが空から急襲してきても、この城はあたいらで必ず守ってみせる。魔族の土地をあんな奴らに奪われてたまるかい。……それと、カズハ」


「うん?」


 椅子から立ち上がったレベッカさんは最後に俺の耳元でこう囁きました。

 俺はそれを聞いてニコリと笑って返しただけだけどね。


「……本当に、ありがとう」


 でも糸に絡まってるから、全然締まらないというか格好悪いんだけどね……。




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