003 俺の性格とか分析するの止めてもらってもいいでしょうか。
魔王城の屋上テラスで急遽開かれたパーティ。
タオとミミリが腕によりをかけて作ってくれた料理の数々はマジ旨くて涙ものでした。
そしてゼギウスの爺さんが採ってきてくれた山菜も意外に旨かったという……。
見た目は灰色でウネウネしてて、ナメクジみたいだったんだけど……。
「はいはーい、注目ー。えー、色々あって慌ただしかったんだけど、アルゼインとエアリーの件やアゼルライムスとエルフィンランドとの三者会談、それに俺とエリーヌの結婚式も無事に済みましたー。ということで今更なんだけど、みんなの各国訪問の報告、宜しくお願いしまーす」
ミルク片手に俺がそう言うと、一同は一斉に溜息を吐きました。
なにその態度……。
まるで俺が楽しい雰囲気をぶち壊したみたいな空気になってるし……。
「……報告もなにも、私達が各国に向かっている最中に最悪の事態に発展していたじゃないですか。どうしていつもカズハはじっとしていられないのですか」
「え? なんかしたっけ俺?」
俺がルルの質問にそう答えると、皆が冷たい視線を俺に向けた。
ええと……ごめん。全く身に覚えがない。というか覚えていない。
「はぁ……。『なんかしたっけ』じゃないでしょう? 私たちはあ・な・た・の・せ・いで交渉に失敗して、そのまま軍から追われる羽目になったんだから。知らないとは言わせないわよ」
「……リリィ。真面目に答えてもいいかな。俺、ぜんぜん覚えていない」
「…………はぁ」
リリィ先生は落胆したご様子で、少し前のギルド公報の記事を皆の前に広げました。
えー、なになに。あー、アレか。俺が魔王認定されたときの記事か。
「私たちが各国との交渉寸前で貴女は第25代魔王として世界ギルド連合に認定されたわ。そして世界平和協定条約第三条第四項が発動された。この時点で交渉は棄却。私とルルちゃん、そしてルーメリアが公国に到着するや否や、問答無用で聖堂騎士団が襲ってきたんだもの。さしずめ向こうからすれば『鴨が葱を背負って来た』って感じなんでしょうね」
「こちらもほぼ同じような状況でしたわ。ラクシャディアに到着したと同時にあちらの正規兵達に囲まれましたから。中にはモンスター化した兵士までおりましたから、あれが新生物なのでしょうね。私達の持つ魔術禁書や四宝を執拗に狙ってきましたわ」
リリィ先生に続きレイさんがそう言うと、ゲイルとグラハムがうんうんと頷きました。
あー……確かにそんな状況だったような気がします。
ていうかこの過去の記事にそう書いてある。
ごめん……。すっかり忘れてた……。
「それだけじゃないよカズト。君はここにいる魔女メビウスと出会い、過去に戻った。そして一度未来を崩壊させた。その後アルゼインらに襲撃され、君の能力――《制限解除》は失われた。そこから先は皆も知っている通りだ」
ユウリが補足すると、皆はさらに深くため息を吐きました。
いやいやいや! アルゼインが俺を襲撃したことまで俺のせいみたいになってるから!
未来を一度崩壊させちゃったのは何にも言い訳できないんだけど!
「ここまでのことをしておきながら、結局最後には丸く収まるから不思議なものだな」
「確かにそうだな。この馬鹿と関わってると、『常識』っていう言葉の意味が何なのか分からなくなってくるぜ……まったく」
セレンとデボルグがそう言うと、皆が首を縦に振りました。
なんか納得ができないんだけど、圧倒的多数で俺が悪いみたいな雰囲気になっちゃったから、もう言い訳もしません。
でもいいの! ちっちゃなこととか気にしてたら、立派な魔王にはなれないからね!
「まあでも、アルゼインもエアリーも無事に戻ってきたアルし、二人とも散々皆に謝ったアルし、この話はもう良いアルよね。それよりもこれからのことを皆で考えるアルよ」
追加のデザートと珈琲を持ってきたタオが話に加わってきました。
これからのこと、かぁ。
あまり深く考えたくないなぁ……。
だってどんどん俺が望む平和から遠ざかっていくんだもん。
一体いつになったら俺は家庭菜園をしながらのんびりと暮らせるんだろう……。
「おい爺さん、なんか良い案とかないのかよ。……ていうか、四宝のこととか思い出したか?」
ミミリにお茶のおかわりを貰っていたゼギウスに話を振ってみる。
この爺さんの過去の記憶が蘇って、四宝が今よりも更にパワーアップとかしてくれたら凄い戦力になるんだけどなぁ。
あのなんとかっていう機械でエアリーの弓が強化されたときは凄まじかったし。
核ミサイルだよねあれ……。完全に。
「いいや、全然思い出せんのぅ。……しかし不思議なもんじゃて。頭では覚えていなくとも、身体は覚えておるもんなんじゃな。確かにこの四宝――『弓』、『刀』、『扇』、『爪』はワシが作ったものじゃと理解できる。……が、それだけじゃ。どのようにしてこれを作成できたのか。材料はどこで調達したのか。その辺りは皆目見当もつかんわ」
「覚えてんのか、覚えてねぇのかどっちだよ! 大事なことなの! もっとちゃんと記憶を辿って!」
席を立ちあがった俺は爺さんの頭を掴んで左右に揺さぶりました。
そしたら嬉しそうに『ふぉっふぉっふぉ』って笑ってやがるし……。
遊んでんじゃねぇっつうの!
「四宝の力を極限まで増幅させた魔導増幅装置――。カズハが破壊したのは試作壱号機だという話だけれど、ゲヒルロハネスの研究者らが量産開発に着手するのは時間の問題だろうね。問題なのは魔力源だ。連中は恐らく、この黒剣を真っ先に狙ってくるだろう」
ユウリの言葉を聞き、皆が王の間の壁に掛けられた二本の黒剣に視線を向けた。
――『血塗られた黒双剣』。
俺が過去に使ったことのある剣の中で、最も使えなかった剣だけどね!
「……あっ! 良いこと考えた! 奴らにあげちゃえばいいじゃん、この黒剣!」
「…………」
俺のステキ提案を華麗にスルーする仲間達。
いやいやいや! だって使えないんだし、危なっかしいんだし、いらないじゃん!
むしろこの黒剣のカラクリを研究所の奴らに解明してもらって、そのなんとかっていう機械を大量に作らせて、完成したらそれを片っ端から奪っちゃえばいいじゃん!
「……カズハよ。その黒剣は、この魔王城の地下に眠っておった化物が持っておった武器を元に、おぬし用に作った武器じゃ。つまり奴らにこの剣を渡したとしても、鞘から刀身を抜けばおぬしの魔力を消費してしまうのじゃよ」
「……はい?」
今、なんつった? このボケ爺さん……。
「忘れたのか、カズハ。ゼギウスの作る武器には、必ず仕掛けがあることを。この魔剣もそうであるが、こやつは『リスク』を『切れ味』に変換させることで有名な伝説の鍛冶職人だ。莫大な力を持つ黒剣には、相応のリスクが生じて当然であろう」
俺が口を開けたままポカンとしていると、セレンが補足説明をしてくれました。
……確かにそうだった。
このボケ爺さんの作る武器は、変な装置とか呪いとかいっぱい付いているんだった。
前に作ってもらった剛炎剣とかもそうだったし……。
「じゃあ絶対に死守しなきゃ駄目じゃん! これ奪われたら、俺死んじゃうじゃん! どうすんのこれ! おい、メビウスの婆さん! どっか異次元の彼方とかに封印してよ! このポンコツ剣を!!」
「そんなことをしても、ゲヒルロハネスの科学力があれば所在が割れて奪取されるやも知れんぞ。あのジェイドという男は底が知れんからのぅ。おぬしが自ら持っておったほうが一番安全じゃろうて」
「やだよ! もう二度と持ちたくないんですけど! また監獄に入れられて、看守に耳元で怒鳴られたくないもん!」
俺が駄々をこねるとミミリとエアリーが俺を宥めてくれました。
あぁ……。ケモ耳メイドは癒されますなぁ……。
…………じゃなくて!
「それともう一つ。ユーフェリウス卿がカズトとの戦闘中に呟いた『不死魔法』と『不老魔法』という謎の言葉――。恐らく無属性魔法の一種なのだろうけれど、僕もルーメリアもそれを知らない」
「ええ。きっと向こうの研究所に勤めてる職員も知らないんじゃないかしら。私のような無属性因子の被験者の中でも、そんな付与魔法を使える人なんて一人もいないし」
ユウリとルーメリアの言葉にうーんと唸る仲間達。
さすが元研究者と被験者が言うと説得力がありますね。
「……『不老魔法』を完成させるには、私の血肉が必要だと言っていましたよね。つまり、この黒剣と精霊族の生き残りである私が奴らの狙いというわけですか」
「ルルさん……」
心配そうにルルを見つめるレイさん。
つまり、これからは今までのような軽率な行動を慎まないといけないってことだよね。
うんうん、慎重に慎重を重ねていかないとね!
仲間達としっかり連携して『報告・連絡・相談』を欠かさずにしないと駄目だからね!
「そこで提案なんだけど、ガロン王に頼んで僕らの拠点を帝都に移すというのはどうだろう?」
「へ? 魔王城どうすんの? 破棄?」
ユウリの言葉に素っ頓狂な声を上げた俺。
せっかく改装工事とかが着々と進んでいるのに、拠点を移すだなんて……。
「いや、破棄するわけじゃないよ。あくまで拠点を帝都に移すだけだ。ここは土地も広いけど、周囲には何も無いからね。人や物の行き来も不便だし、この前みたいに空から襲撃されたらひとたまりもないからね」
「あー……確かに」
アルゼインが率いる妖竜兵団にいとも簡単に領土に侵入された挙句、俺の能力をあっという間に封印されちゃったからね。
帝都だったら軍の設備がしっかりとしているし、陸海空どこから攻められても対応できるからなぁ。
「それに奴らに君の性格を知られてしまった。仲間のためだったら何でもするという君の行動は、美談だけれど危う過ぎるんだ。帝都には君の妻、エリーヌ姫がいる。彼女を誘拐されたら、君はまた単身敵軍に突っ込んでいってしまうだろう? 姫だけじゃない。僕らはもう単独で行動することが許されない状況に陥ってしまった。これが僕らの最大の『弱点』なんだ」
「……何か、すいません、本当に。どうも頭に血が上ってしまうと、その、突っ込んでいってしまう性格というかなんというか……」
「お前は闘牛か!」
デボルグに鋭い突っ込みを入れられても、俺は何も言い返せません……。
だって! 許せない奴いたら、ぶっ飛ばしたいじゃん!
我慢なんてするの嫌やもん!
「確かにこれからは一か所に纏まって、相手の出方を窺うのが賢い戦い方かも知れませんわね。黒剣とルルさんは最重要死守項目として定めて、次は私達自身の安全を守る。それが結果的にカズハ様の暴走を食い止める手立てとなるのでしたら、それに越したことはありませんから」
「レイさんまで! ちょっと、お前ら! 少しは俺のことを信頼しろよ!」
俺が叫んでも、誰も俺の目を見ようともしてくれません。
どうしてみんな目を逸らすの!?
そんなにいつも暴走してたか俺!?
「ドベルラクトスへの使者もワシら以外の者が行ったほうが無難のようじゃのぅ。あの国と軍事協定が結べれば、ゲヒルロハネスの軍事力にも対抗できるのじゃが……」
「そうですわね。ドワーフ族がこちらの味方に付けば、兵士達の武具も一段と強化されますし千人力ですわ。さっそくガロン王に頼んで使者を送ってもらいましょう」
すぐに魔法便を用意し、帝都宛に手紙を書き始めたレイさん。
今までに何回もドベルラクトスには連絡をしているみたいなんだけど、一度も返信が来たことがないってエリーヌも言ってたしなぁ。
あの辺境の地まで使者を送るとなると、かなり時間が掛かるだろう。
「そうと決まれば、行動は早い方がいい。明日には魔王城を出発して帝都に向かおう。レイ、その辺りのことも魔法便でガロン王に知らせてもらえるかな?」
「ええ、分かりましたわ。きっと喜びますわね、エリーヌ姫様も」
俺のほうを向き、嬉しそうにそう話すレイさん。
普段の変態顔と違って、たまにこういう顔をするからドキっとしちゃうんだよなぁ。まったく……。
でもまあ、仲間の安全が確保されるんなら、これが一番だと思います。
ジェイド達の不死対策も練らないといけないし、課題は山積みなんだけどね。
――というわけで俺達御一行様は、アゼルライムス帝国の首都、アルルゼクトでお世話になることになりました。




