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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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090 さあ、そろそろお家に帰りたくなってきました。

「……くく、くははは! 貴女が世界を支配する……? 聞きましたか、世界中の皆様方! この魔王はあろうことか、全世界・・・に宣戦布告をしたのです! 歴代の魔王でさえ、全世界、全種族を敵に回そうなどという愚かなことは考えもしなかっただろうに……!!」


「……え? そうなの?」


 両腕を広げ大きなモニターに向かって雄弁に語り始めたジェイド。

 俺はまた面倒臭くなって鼻をほじりながらそれを聞いています。

 お喋りが好きだよなぁ……。やっぱエルフの血が混ざるとそうなっちゃうのかなぁ。


「これで我々の敵がはっきりとしました! 『魔族の血が混ざっていない魔王』という懸念が払拭された瞬間です! これでアゼルライムス帝国の人々も目が覚めたでしょう! 『戦乙女』はもう存在しないのです! ここにいるのはれっきとした魔王……! 世界を恐怖のどん底に突き落とす、憎き魔族の長なのです!!」


 ……あーー、なるほど。やっと気づいた。

 そういう・・・・方向・・に話を向かせるのも、奴の狙いだったわけかぁ。

 公の場で全世界に俺が宣戦布告をすれば、俺に味方していた人達は協力しづらくなるわなぁ。

 意外に頭良いなぁ、こいつ……。

 …………。

 いや、俺があたま悪かっただけだったりして……。


「エルフィンランド、ゲヒルロハネス連邦国、ラクシャディア共和国、ユーフラテス公国……! そしてドベルラクトスにアゼルライムス帝国! この主要六カ国が世界ギルド連合として力を合わせ、魔王とその配下をこの世から消し去るのです! 慈愛と幸福に満ちた世界はすぐそこまで…………ん? あれは、何だ……?」


 急に演説を止めたジェイドはモニターのうちの一つに目を凝らしました。

 そこに映っているのはラクシャディアとユーフラテスの艦隊で勇敢に戦っているデボルグとセレンの姿なんだけど……。

 ていうかあの二人、マジで強えぇな……。

 なんかそのうち追い越されちゃうような気がしなくもない……。


「あれは……アゼルライムス帝国の艦隊! 映っているのは……みなさんです!! もしかして、私とアルゼイン様のために……?」


 エアリーが嬉し涙を零しながらそう呟きました。

 あー、確かに映ってる。

 ええと……ユウリとレイさん、グラハムにリリィにルーメリア。それにルルとタオとミミリもいる。……あれ? エリーヌまでいるじゃん! あとついでにゲイルも!

 まあゼギウス爺さんとメビウス婆さんは戦力にならないから留守番だとして……。


「あいつら無事に戻って来れたんだな。まあ、全然心配はしていなかったけど」


 そう言いながら俺は安堵の溜息を吐いた。

 ユウリとエリーヌも一緒に船に乗っているということは、彼女の『呪い』を解くことも成功したのだろう。

 これで陰の魔術禁書による死の運命から、彼女は完全に逃れることが出来ただろう。

 ……ん? ていうか彼女の体内から取り出してもらった魔術禁書はユウリが持ってるのかな。


「ぐっ……! どいつも、こいつも私の邪魔ばかりを……! アゼルライムス帝国は魔王軍に寝返るつもりなのか……! ガロン帝王も地に落ちたものだな! しかし――!」


 魔道衣を翻し、再び雄弁に語り始めたジェイド。

 もう魔導増幅装置アヴェンジャーとかいう機械で魔力を高めることもできないんだし、アゼルライムス帝国も俺らの味方についたっぽいから諦めればいいのに……。


「ラクシャディア兵、ならびに聖堂騎士団よ! 聞こえているか! アゼルライムスの軍艦に魔王軍の配下が乗船している! 奴らは恐らく残りの『四宝』――『刀』、『扇』を持っているはずだ! それに各国の情報を合わせると、いくつかの魔術禁書も確保しているはず! それらを一つでも奪えた者には1000万Gの報奨を出す! 死に物狂いで奪うのだっ!!!」


 ジェイドの叫び声が兵士達にも届いたのか。

 映像を見る限りでは士気が上がったかのようにも見えなくもないんだけど……。


「あのー、クズのジェイドさん。無理じゃね? デボルグとセレンだけでもあの軍勢を何とか凌いでいるのに、残りの俺の仲間からお宝ぜーんぶ奪うとか。言っておくけど、全員化物みたいに強いよ。……一部を除いて」


 もちろん『一部』とはタオとミミリ、それにエリーヌのことなんだけど……。

 でも彼女達でさえも一般の兵士よりは遥かに強いし……。

 酷じゃね? 兵士達が可哀想になってくる……。


「……ふふ、そう言っていられるのも今のうちですよ。すぐにゲヒルロハネスから『新生物キメラ』の軍勢を乗せた艦隊が到着します。我が研究の成果をようやく披露できるのですよ、くくく……。おっと、もちろん世界に配信する映像には加工を施しますがねぇ……!」


 モニターに音を拾われないように、小さな声でそう答えたジェイド。

 あー、それってアレか。デボルグとセレンが戦って倒した奴らみたいな化物か。

 エアリーみたいに可愛く犬耳とか生えていればいいんだけど、きっとゲテモノ揃いなんだろうね。

 じゃあ、さっさとこいつを倒して加勢に行ってやらないと。


「くく、くくく……」


「……?」


 俺が魔剣を構えても、ジェイドは不気味に笑っているだけだ。

 どうしたんだろう。頭おかしくなっちゃったか。

 いや、元々おかしいのか。


「エアリー。お前の叔父さんぶっ飛ばすけど、良いよな?」


 一応エアリーの許可を貰っておかないとね。

 血が繋がっている親族をボコボコにするわけだから。


「……はい。エルフィンランドはもう……終わりです。…………いや、これから始めます。カズハ様と共に……。みんなと共に……!」


「良い答えだ。じゃ、遠慮なく」


 魔剣をゆっくりと円を描くように回す。

 それが右脇の下まで来た瞬間、地面を蹴り剣を滑らせた。


「《センティピード・テイル》!!」


 百足の動きに似た剣閃はジェイドに向かって一直線に放たれる。

 そして奴の身体を貫こうとしたした瞬間、それは起きた・・・・・・


ガキィィン――!


 けたたましい音と共に青白いエフェクトが発生した。

 弾かれた剣閃は宙に浮くモニターの一つに衝突し、破壊した。

 そして奴の頭上に表示された一つの文字――。

 ――『No Damage』。


「………………なんで?」


 俺は肩を落とし、絶句する。

 『No Damage』? ……ノーダメージ?

 過去の記憶が蘇る。

 エリーヌを救えなかった、最初の襲撃を。

 魔獣王ギャバランが振り下ろした斧は、彼女の身体を引き裂いた。


「くく、くはは! くはははは……!!」


 ジェイドの猟奇的な笑い声が異空間に木霊する。

 同じだ……。あの時と同じ……。

 絶対に・・・倒せない設定に・・・・・・・なっている・・・・・……?

 どうしてこのタイミングで? 俺はまたあの絶望を味わうのか……?


「……」


「おや、どうかしましたか魔王? 私を倒すのではなかったのですか? くく、今の攻撃は一体なんでしょうかねぇ……! 魔導増幅装置アヴェンジャーを破壊して、仲間が助けに来てくれて、そんなことで勝ちを確信していたとでも言うのでしょうか……!!」


 魔道杖を振り上げ、ジェイドが落胆する俺に一歩、また一歩と近づいてくる。

 軽く顔を上げると、エアリーの困惑した表情が視界の隅に映った。

 ……彼女には『No Damage』の文字が見えていない?

 これは俺にだけ特別に掛けられた呪いなのか。

 この世界に生きる人間で、あれ・・が確認できるのは俺だけなのか。


「貴女ももう知っているのでしょう? 私が知勇アーザイムヘレストの末裔だということを。彼が研究していた魔法遺伝子の副産物のうちのひとつ――。それが『不死魔法エデン』」


不死魔法エデン……?」


 そんな魔法がこの世界に存在するのか?

 ……いや、以前からあったはずだ。

 だから俺はあのとき・・・・、エリーヌを助けることが出来なかった。


「ただし、常人に使用しても効果は一瞬だけ。ほんの申し訳程度の『不死』です。しかし、我らアーザイムヘレストの血筋には、その効果を・・・・・永久に引き延ばす・・・・・・・・可能性がある・・・・・・遺伝子配列・・・・・が存在しました。くく、まさに神に等しい血族だとは思いませんか? 全ては精霊王のおかげ。神の聖遺物を・・・・・・喰らった・・・・我らは恩恵を授かりました。……永遠に生きられるという、恩恵をね!!」


 頭を鈍器で殴られたような錯覚に陥る。

 俺の敵は、永久に死なない化物が相手なのか……?

 俺はまた、救うことができないのか……?


「ああ、そうそう。あの船にはもうひとつ・・・・・、宝が乗っていましたねぇ。精霊ルリュセイム・オリンビア――。現存する精霊の血肉は、我らに『不老』の効果を齎してくれるとの言い伝えです。『不老魔法ディストピア』が完成すれば、双方を融合して完全なる不老不死――『神』を再現できるというわけです。私が『世界の王』と言った意味が分かりましたかな? 神となる者は世界の王に相応しい――。ただそれだけのことです」


 俺の目の前に立ち、振り上げた魔道杖に片手を添えたジェイド。

 そしてカチリと音を立てて鞘を抜き、隠された剣を抜いた。


「さあ、今度こそ死になさい! 世界は精霊王と世界ギルド連合の名の元に!!」


ヒュンッ――。

ザシュッ!!


 飛び散る鮮血。異空間に鳴り響くエアリーの悲鳴。

 ――俺は奴を、奴らを倒せない。

 でも、だからといって、何も出来ないわけじゃない。


「くっ、素手で刃を掴むとは、往生際の悪い魔王め……!」


 更に力を込めてくるジェイド。

 俺の手は血だらけで、もう少しで指が五本とも切り落とされてしまいそうなほどだ。

 でも、あのときのエリーヌの痛みに比べたら何十分の一の痛さでしかない。

 その彼女の呪いが、今は解かれたのだ。

 それは仲間がいたから。皆が俺と一緒に戦ってくれたから。


「…………《ツーエッジソード》」


 二刀流スキルを発動する。

 がくんと膝から力が落ちる感覚。防御力の半減。

 逆に腕には力が籠る。攻撃力の上昇。


「馬鹿が! そのスキルは痛みを倍加させるぞ……! その指を切り落として、そのまま串刺しにしてやる……!」


「《絶・ツーエッジソード》!!」


「なっ……!?」


 さらに隠し二刀流スキルを発動し、相乗効果で攻撃力をさらに倍増。

 そのまま腕に力を込めて、奴の剣を握り潰した。


「この腕力馬鹿が……! ならば――!」


 すぐに無属性の魔法を詠唱したジェイド。

 俺は超反応で奴の魔道杖に魔剣を振り抜く。


ガキィィン!


 振り抜いたと同時に魔道杖と魔剣が宙に舞った。

 唖然としているジェイドの脇をすり抜け、俺は後方に落ちていた二本の黒剣を拾い上げる。

 二刀流に二刀流スキル。そして隠しスキルの重ね掛け。


ピキィン――!


 溢れた魔力はセレンの水魔法により封印されていた鞘の錠を破壊する。

 二本同時に抜かれた黒剣により、俺の全身を漆黒の魔力が覆い尽くした。


「その魔力……! やはり貴様は世界を破壊に導く諸悪の根源――」


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 全力で振り抜いた二刀は、ジェイドの身体に直撃した。


「うがあああああああぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 青白いエフェクトと同時に『No Damage』の文字が出現する。

 しかし俺は構わず、全身の力を込めて、全ての魔力を奴にぶつけた。


「くく、くははは! 良いぞ! 貴様の魔力は近いうちに必ず、我が物としてみせよう……!! それだけの魔力があれば、新生物キメラを数千、いや数万は大量生産ができよう……! 首を洗って待っているが良い、魔王カズハ・アックスプラントよ!!!」


「吹っ飛べ!! このゲス野郎がああああぁぁぁぁ!!」


 黒剣を振り抜き、異空間の狭間まで奴を吹き飛ばした。

 次の瞬間、ガラスのように割れた空間は奴もろとも遥か彼方まで消し飛んでしまう。


「あ……」


 エアリーが宙を見上げる。

 そこには天井が吹き飛んだ城の最上階が出現した。

 俺達は異空間から解放されたと知り、彼女はその場に崩れるように膝を突いた。


「はぁーーーー…………。マジで疲れたーーーー…………」


 黒剣を放り投げ、その場で大の字に寝転がる。

 きっと奴は死んではいない。ていうか不死だから死なないだろう。

 どこぞに吹き飛んだのかは知らないけど、すぐにまた俺達に立ち塞がってくるだろう。

 不死魔法に不老魔法かぁ……。

 ゼギウス爺さんとメビウス婆さんの件もあるし、帰ったら皆で作戦会議を始めないと駄目だなぁ。

 あー、メンドクセェ……。


「……カズハ様」


「うん?」


 俺が寝転がっていると、エアリーが顔を覗かせてきました。

 彼女は目に涙を浮かべていて、そんでもって犬耳をぴくぴくと動かしていて。

 うーん、似合ってるねそれ。めっちゃ可愛い。


「……ええと、ですね。その、あの……。いっぱい、いっぱい、話したいことがあって……。でも、どうしてかな……。声が詰まっちゃって、うまく話せなくて……」


 彼女は嗚咽を漏らして泣いてしまった。

 誰だよ。こんなに可愛いエルフ犬を泣かす奴は。

 そんな奴はいつものように俺がぶっ飛ばしてやる。


「まあ、良いんじゃね? 城に帰ったらゆっくりと皆に事情を話せば。俺はお前とアルゼインを取り戻したらそれで満足だから。じゃ、俺、疲れたから寝るから」


「え? ええっ……!?」


 エアリーが何か騒いでいるけど、もう魔力が尽きちゃって動けません。

 妖竜兵団のほうは紅魔族とエルフィンランド兵達に任せて。

 他国の援軍と新生物キメラの軍勢のほうは俺の頼りになる仲間達に任せておこう。


「あ、そうだ。もしも、ちょっとでも俺に悪いことしたなーって思ってるんだったら、俺の横で一緒に寝てよ、エアリー。いや、エルフ犬」


「はうぅ……! エルフ犬は嫌なのですぅ……! でも、カズハ様がそう仰るのならば……」


 ふくれっ面のまま、エアリーは俺の横で丸くなりました。

 そして俺の傷付いた右手に気付き、そこをペロペロと犬みたいに舐めてます。

 ほら、犬じゃん。何度も言って悪いけど、お前それめっちゃ似合ってると思うよ。

 

 ――そして俺はいつの間にか眠りに落ちてしまいました。




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