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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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088 異世界にも動画配信の技術とかあるんですね。

「おお、これはこれはカズハ様……! 本日も麗しゅう御座いますなぁ……!」


 礼拝堂を出るとホクホク顔で両手いっぱいに金を抱えたザノバが俺達に声を掛けてきました。

 奴の後ろにはさっきまで俺を警戒していたエルフィンランド兵達が何故か敬礼のポーズで立っています。


「これは、どういうことだ? ザノバ殿」


 俺に肩を借りたまま、その光景に目を丸くしているアルゼイン。

 まあ、俺はなんとなく理由が分かっちゃったけどね……。


「御無事でなによりですな、アルゼイン殿。見ての通り、ここにいるエルフィンランド兵らは魔王であらせられるカズハ様に忠誠を尽くすことを誓った者達ですぞ。彼らの顔をよく見てくだされ。幸福に満ち満ちた顔をしているのが分かりますでしょう」


 ザノバの言う通り、兵士達は幸福に満ち溢れた――というよりは、金を抱えて満足そうにホクホクしているだけに見えるんだけど……。


「……つまり、王都にいるエルフィンランド兵は魔王軍に寝返ったと。まさか、そんな簡単に……」


「いいや、これは決して簡単なことではありませんぞ。エルフィンランド国が一兵卒に支払う報奨額は年額でもおよそ40Uユリウスほどと言われております。准将である私でさえ、200Uも貰っておりませんからなぁ。カズハ様がばら撒いた1億Gがどれほど高額なのか……。そしてそれをいとも簡単に、たった一人の仲間のために、何の迷いも躊躇もなくばら撒けるカズハ様の情けの深さと言いますか、その心意気に皆感動しておるのです」


 ザノバがそう言うと、兵士達が一斉に泣き出しちゃいました。

 こいつら……本当に単純というか、馬鹿なんだな。

 まあ嫌いじゃないけど。こういう奴ら。


「……情けの深い魔王、か。ふふ、世界の人々がそれを知ったら、きっと驚くのだろうな」


「いや、誰も信じないんじゃね? ていうかどうせまた『金をばら撒いた』って部分だけがピックアップされて世界中に配信されて、兵士を騙したとか金で釣ったとか言われて終わるだけな気がするんだけど……」


 しかも、別にどこも間違えていないし。

 ザノバや兵士達の目はみんな『G』になってるし。

 そもそもザノバのおっさんとか、超胡散臭いし……。


「しかし、おかげで戦力の補強ができた。だがじきに妖竜兵団が王都に到着するだろう。姉さんが率いる紅魔族だけでは奴らを押さえ切れるとも思えんからな。デボルグやセレンもたった一人で援軍を押さえているのだろう?」


「はい。それなのですが……。先ほど入った情報ですと、アルゼイン殿の仰るとおりかなり劣勢を強いられておるみたいですな。明らかな戦力差ゆえ、仕方のないところなのですが……如何致しましょう。ここにいるエルフィンランド兵を、どちらの援軍に向かわせるか……」


 考え込むアルゼインとザノバ。

 普通に考えたら、たった二人で大軍を押さえているデボルグ達に援軍に向かわせるんだろうけど……。

 でも俺はこう言い切りました。


「北東島の紅魔族の援軍に向かわせてよ。アルゼインのお姉さんには色々とお世話になったし。デボルグとセレンはめっちゃ強いから、きっと大丈夫だ」


「……宜しいのですか? カズハ様の大事なお仲間が劣勢なのですよ?」


 まるで俺を試しているかのような視線を俺に向けたザノバ。

 こいつ、たまにこういう目をするんだよな……。

 でも別に裏があるような感じはしない。

 俺がどういう反応をするかを見定めている感じ……とでも言えばいいのかな。分からん。


「うん。きっと何とかなるさ。じゃあ、さっきも言ったとおりアルゼインのことを頼むよ」


 俺はザノバの後ろに立っている兵士に声を掛け、彼女に肩を貸すように頼みました。

 さあ、これで残るはジェイド一人だ。

 あいつをぶっ飛ばしてエアリーを連れて帰ろう。

 後のことはどうにでもなるさ。たぶん。恐らく。


「それでは、カズハ様。ご健闘をお祈りしておりますぞ」


 ザノバがそう言うと、再び敬礼をしたエルフィンランド兵達。

 彼らに見送られ、城の最上階に視線を上げたところで、思い出したかのようにアルゼインが声を掛けてきた。


「これを持っていけ、カズハ。情けないが、今の私にはこいつの力を引き出すことが難しいからな」


 アルゼインが俺に差し出したのは、以前俺が彼女にあげた魔剣だ。

 最強の魔剣――『咎人の断首剣クリミナルダークネス』。

 ジェイドとかいう咎人を倒すにはもってこいの魔剣ですね。

 この使えない二本の黒剣よりも、よっぽど戦力になります。


「おっし! じゃあ、行ってくるぜ! 後のことはよろしく!」


 そう答えた俺は身を屈め、全力で地面を蹴る。

 ドンと音を立てて飛び上がった俺は城の中腹にあるテラスにしがみ付いた。

 そのまま身を翻し、再び上階へ。

 待ってろよ、エアリー!

 今すぐ助けに行くからな!!





「うーーーーん…………いねぇ」


 あれからすぐに最上階まで辿り着いたものの、エアリーがいるらしき部屋がまったく見つかりません。

 別に魔王城みたいに迷路になっているわけでもないのに、どうして見つからないんだろう……。


「あのー! 誰かいませんかー! 魔王来ましたよーー!」


 …………。

 シーン…………。

 どうしよう。さっそく詰んだ……。

 こういうときは、アレだ。

 俺が今までに経験してきたダンジョンやら迷路やらを、どうやって切り抜けてきたか思い出してみよう。

 今までにあったパターン……。なんだろ。

 ①特定の魔力にしか反応しない隠し部屋がある

 ②『城の最上階にいる』という情報がそもそもフェイクで、エアリーは別の場所にいる

 ③すでに俺が何らかの状態異常魔法に掛かっている

 ④俺がただの方向音痴


 ええと、この中だと③のパターンが一番可能性が高いのかな……。

 あいつらゲヒルロハネス製の武器持ってたからなぁ。

 今回のラスボスがジェイドって奴だとすると、状態異常魔法のオンパレードな気がするし……。

 無属性魔法とはめっちゃ相性悪いからなぁ、俺。

 ②は無さそうだよね。エルフィンランド兵は馬鹿だから。

 ①だったら俺にはどうしようもないし、④だったら……俺が馬鹿なだけだし。

 うーん……。


「確か『皇族しか入れない部屋』って言ってたっけ。どうやって皇族だけしか・・・・・・入れない仕様・・・・・・にしてるのかな……」


 エルフィンランドの皇族……。血統、血筋……。

 ジェイドはゲヒルロハネスで研究していた……。魔法遺伝子……。……属性?

 あれ、そういえば勇者の家系ってみんな弱点属性が一緒だったよね。

 俺とレイさん、それに昔のゲイルが三人とも『光』と『闇』が弱点属性だったし。

 もしかして、それが隠された扉を開くになるとか……?


「ええと、エアリーの属性って何だったっけ……」


 俺はウインドウを開き、かつての仲間の情報欄を出現させた。

 前に一回聞いたことがある内容はここに記入してるんだよね。俺ってマメだから。

 ええと……得意属性は『陽』と『木』で、弱点属性は『火』と『闇』かぁ。

 この中のどれかの組み合わせが、ユーフェリウス家の血筋にだけ受け継がれているとかだったら、脈ありなんだけどなぁ……。


「当たるまで試すしかないよね。ええと、属性が付加されているアイテムを全部出して、と」


 そのままずらりとアイテム欄に並んだ物を無作為に選別して出現させます。

 陽属性の『奇術師の御札』。

 木属性の『レヴィアン樹木の枝』。

 火属性の『フレイムボトル』。

 闇属性は、この魔剣でいいや。


 とりあえず、フレイムボトルと魔剣で試してみましょう。


「……えい! えいえい!」


 魔剣にフレイムボトルをくっつけて、あちこちの壁に振りかざしてみます。

 ……うん。何にも反応なし。はい次。

 今度は御札と枝に持ち替えます。


「はい! それそれ!」


 ……。…………。

 うん。これも違う。

 弱点属性同士の組み合わせでもなければ、得意属性同士の組み合わせでもないのか……。

 今度はそれぞれ一個ずつクロスさせてみましょうか。

 俺は魔剣に御札を巻き付けて、いろんな場所に翳してみました。


キラン――。


「ん? あれ、なんか光った」


 もう一度魔剣を翳してみると、確かにうっすらと扉の形に光るものが見えました。

 これ、ビンゴじゃね? 俺って天才じゃね?

 つまり、エルフィンランドの皇族は得意属性に『陽』を持ち、弱点属性に『闇』を持っているということになる――と思う。たぶん。

 俺はそのまま扉に手を触れてみました。

 そしてそーっと開けてみます。


「……失礼しまーす」


 小声でそう言いながら扉を開きました。

 中は真っ暗で、上も下も分からないような世界がそこにはありました。

 右に視線を向けると、大きなモニターがあって、そこに海が映し出されています。


「……カズハ、様?」


 暗がりの中から声が聞こえてきました。

 そちらに視線を向け目を凝らしてみると、巨大な機器に無数のケーブルで繋がれたエアリーの姿が――。


「…………おい、お前。その姿は――」


 俺は絶句します。

 そこには変わり果てたエアリーの姿があったからです。


「み、見ないで下さい……! こんな醜い姿をカズハ様に見られたくありません……!」


 エアリーは顔を覆い泣き出してしまいました。

 これは恐らく、デボルグ先生が言っていた『新生物キメラ因子』の影響か……?

 ジェイドの野郎になにかの薬物でも注入されたのだろうか。


「くく、よくここまで辿り着けたましたね、魔王カズハ・アックスプラントよ」


「……てめぇ」


 異空間すべてに反響するような声が広がった。

 そして上空からふわりと舞い降りてきたのは、俺が初めて見る男だった。


「お初にお目に掛かります。私はこの国の王、ジェイド・ユーフェリウスと申す者です。……いや、『世界の王』と言ったほうが正しいかな」


 地上に降り立ったジェイドは余裕の表情を俺に向けた。

 あー、確かに見たことがある。こういう系の顔。

 精霊王に深く関わった奴はきっとみんなこんな顔をするんだろうね。

 ……反吐が出るぜ、まったく。


「貴女のことは全て知っておりますぞ。『性転換』、『繰り返しの人生』……そして『異世界の者』だということも。我らが神、精霊王の怨敵。そして我らが世界ギルド連合の最大の脅威。このまま生かしておくにはあまりにも危険過ぎる」


 一歩、また一歩と俺に近づいてくるジェイド。

 つまり、俺がここに一人で来ることも計算済みだったと言いたいわけだ。

 最初から・・・・狙いは・・・俺一人だったと・・・・・・・。そういうことか。

 そう考えると、俺は何故か自然と笑みが零れてしまった。


「……おや? どうして笑うのですか? 貴女は今ここで死ぬのですよ? 助けに来た仲間を取り戻せず、惨たらしく四肢を捥がれて、精霊王の御霊が宿っている私に凌辱されて絶命するのです。貴女も本望でしょう? ようやく繰り返しの人生から解放されるのですから」


 奴の言葉を鼻をほじりながら聞いてきた俺は、周囲を見回します。

 この異空間だったら存分に暴れられるかな。

 あいつの狙いが俺だったんなら好都合だ。

 仲間達がこれ以上あいつから被害を受ける可能性が低いんだから。


「お生憎様。繰り返しの人生のほうは、もうケリが付いてんだよね。お前、俺のことを何でも知っているっつう割にはそんなことも知らないんだなー」


 俺の言葉に一瞬だけ眉を顰めたジェイド。

 ということは、魔王城の地下であのラスボス魔王と戦って宝玉を封印したことは世界ギルド連合には知られていないということだ。

 俺が危険度『4S』に認定されたのは、あくまで・・・・普通の魔王を・・・・・・倒して・・・魔王城を・・・・奪還したこと・・・・・・が理由――。


「カズハ様……! もう……もう私のことは忘れて下さい……! こんな姿になってまで、助けていただいても、もうカズハ様達の元になど戻れませんから……」


 エアリーが俺とジェイドの話に割って入ってきます。

 まあ、確かにエアリーの見た目は随分と変わっちゃったから可哀想だとは思うけど。

 ……いや、可哀想というより……もっと可愛くなっちゃった?

 だって――犬耳が生えてるんだもん。


「いや、お前それめっちゃ似合ってるんだけど。正真正銘の『エルフ犬』じゃん。アレだろ? たぶん犬型のモンスターの遺伝子とか注入されたんだろ? 尻尾も生えちゃってるみたいだし」


「きゃうぅ……! い、言わないで下さいぃ……! 気にしているのですからぁ!」


 ……うん。エアリーは、エアリーでした。

 ていうか俺からしたら犬耳付いていようが、尻尾が生えていようが全然気にならないんだけど……。

 だってミミリもウサ耳とウサギ尻尾付いてんじゃん。ラピッド族なんだから。

 これはある意味、ジェイドのおっさんがグッジョブしたと言ってもいいかも知れない……。

 不謹慎だけど。


「お喋りはそこまでにしていただきましょうか。……エリアル女王陛下。少し魔力をお借りしますね」


「う……」


 後ろを振り向き、手に持っていた魔道杖をエアリーに向けたジェイド。

 そして次の瞬間、異空間全体に無数の大型モニターが出現した。


「これは『魔法便』を応用したゲヒルロハネスの新技術です。まだ実験段階ではありますが、連邦国の科学はすでにここまで進歩しているのですよ」


 モニターに映っているのは世界各国の映像だ。

 ラクシャディア共和国、ユーフラテス公国、ゲヒルロハネス連邦国。

 主要三カ国以外にも様々な小国の首都や街にいる人々が映し出され、皆一斉にこちらに視線を向けていた。


「今、こちらの状況は全て世界中に配信されております。ゾクゾクしませんか……? 歴代最悪と言われた魔王を、世界中の人々が見ている目の前で、私が打ち倒すのです。そしていずれ世界は統一されるでしょう。魔王の驚異が無くなった、平和で素晴らしき世界――。新しき『法』と『秩序』。我々・・による『完全なる統治』――。ああ、これぞ精霊王が求めた世界……!」


 大きく腕を広げたジェイドは自分の言葉に酔いしれています。

 なんか言っていることはそれなりにまともっぽく聞こえるんだけど、やってることがやってることだからなぁ。

 まあ、言うまでもなく異常者の考え方だよね。

 エルフィンランド兵のお給料を知ったら、誰でもそう思うんじゃないかな。

 国民がみんな奴隷になっちゃうぞー。一部の人間しか幸せになれないぞー。


「さあ、ショータイムの始まりです……! 我が魔力とゲヒルロハネスの科学力に屈しなさい! 悪の権化、魔王カズハ・アックスプラントよ……!!」


 魔道杖を構え、魔力を高めていくジェイド。

 でもね、ごめん。

 お前が何だかんだ言っている間、俺は画面に向かってピースサインを送っていました。

 これ、俺の仲間達やエリーヌとかも見てるのかなぁ。

 おーい、俺めっちゃ格好良く映ってるかー?

 エアリーが本当のエルフ犬になっちゃったぞー。

 すぐに終わらせて帰るから、豪勢な料理を用意しておいてくれよー。タオー、ミミリー。


 ――とまあ、全世界が見守る中、俺とジェイドの死闘が始まりました。




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