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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず持ち帰ることでした。

「はぁ、はぁ……。る、ルルちゃん、本当にこっちで合っているアルか……? ここは迷路になっていて目が回りそうアルよ……」


「はい。間違いありません。この扉の向こうにカズハの魔力を感じます」


「うわっ! 何アルか……? この禍々しい黒銀の扉は……?」


ギギギィ――。





 急に大扉が開き、驚いて後ろを振り向く。

 そこには肩で息をしているタオとルルの姿があった。


「あれ? 外で待ってろって言ったのに、わざわざここまで来たのかお前ら」


「カズハの帰りが遅いから心配になって見にきたアルよ! ……って、そこに倒れているのは誰アルか?」


 俺の足元に倒れている魔王を見てタオが驚きの声を上げる。

 まあ確かに一目で魔王とは分からないよね。

 どう見てもコスプレ好きの姉ちゃんにしか見えないから。


「この邪悪な魔力は……! タオ! 近づいてはいけません! カズハの足元に倒れている女性は、魔王グランザイムです!」


「……魔王? この大人っぽい女の人がアルか?」


 タオがルルと俺の顔を交互に見ている。

 だから俺はうんうんと頷いてあげました。 


「それにしても、よくここまで辿り着けたな。すっげぇ迷路だったろ、ここ。ていうかモンスターに遭遇しなかったんか?」


 確か魔王城にはうじゃうじゃとモンスターがいたと思うんだけど……。

 どうしたんだろ。お昼休憩中とかかな。


「確かに迷路でしたが、不思議とモンスターには遭遇しませんでした。……でも今はそれより、説明をしてください」


「説明? 何の?」


「とぼけないでください……! この状況を見ればカズハが魔王を打ち倒したことくらい一目瞭然です! なのに何故、とどめを刺さないのですか!」


 俺に詰め寄ってくる幼女。

 いやだって、倒したらアカンでしょう。

 そしたら床が崩れてラスボス戦に突入しちゃうから。

 もうループは勘弁してください……。


『ぐぐ……! おのれ……! この我が……世界最強たる我が……小娘なんぞに……!』


「うわ! 目を覚ましたアルよ!」


 慌ててルルの後ろに隠れたタオ。

 そんなに怖いんだったら大人しく外で待ってれば良かったのに……。


「カズハ! 魔王にとどめを! 世界の平和のためには、魔王を倒さねばなりません……! そして貴女がこの世界の本当の『勇者』に――」


「やーだ」


「「はあぁ!?」」


 俺の返答にルルとタオが同時に叫んだ。

 それを無視して俺は陰魔法を詠唱した。

 次の瞬間、倒れている魔王の周囲に魔法陣が出現し蔦状のものが生えてくる。


「な、何をしているアルか……?」


「いや、この魔法はまさか……! カズハ!!」


 蔦は魔王の首や手、足に絡みつく。

 そして徐々に魔王の魔力を奪っていく。


「おい。そこのボインという名のもとに生まれてきた魔王」


『ぐっ……! 我を変な名で呼ぶな……! あの娘が言うとおり、早く我を殺せ……!』


 いやだから、お前を殺したらこの後大変なことになるんだっつうの。

 それに勝負に勝ったら俺の好きにしていい約束じゃん。

 ていうか、さすがは腐っても魔王様ですね。

 緊縛の発動がなかなか終わりません。


「ちょっと質問があるんだけど、お前の魔力が消耗したら魔王城のモンスターが出現しなくなるの?」


『……それを聞いてどうするのだ?』


「いや別に。俺の仲間がここまで無事に来れたってことは、そういうことなのかなって思っただけ」


 もうそろそろかな。

 緊縛がしっかりと発動すれば魔王の魔力は封じ込まれる。

 そうなればモンスターも出て来なくなって、一石二鳥になるんじゃないかと思うのですが。


『……確かに我が眷属である魔王城周辺のモンスターは弱体化するだろう。しかし我を殺さぬ限り、世界に平和など永久に訪れんわ……!』


「ふーん。じゃあ、ちょうどいいや」


『…………は?』


 呆気に取られている魔王。

 ルルもタオも開いた口が塞がらないまま、ただ茫然と突っ立っている。


「俺が求めているのは世界の平和とかじゃないから。俺の平和だから」


 魔法陣が一際大きく光り輝いた。


『ぐぐ……ぐぐぐ……! ぐわあああああぁぁぁ!!!』


 叫び声を上げた魔王はそのまま失神してしまった。

 彼女の全身にはルルと同じく、青と金の紋章が刻み込まれた拘束具が装着されていた。


「よーし、完了。さあ、さっさと街に帰ろうぜ。もう腹減って死にそうだよ」


 床に置いたままの二本の剣を拾い上げ、俺は大きく伸びをした。

 いやー、楽しかった。

 色々と大剣の使い方も試せたし、そろそろ新しい大剣スキルとかを習得したほうが良いかも知れない。

 熟練度もかなり溜っただろ。なんたって魔王と二時間も戦ったんだから。


「……カズハ」


「……ちょっと、一言言っても良いアルか」


 ルルとタオが下を向いたまま小刻みに震えている。

 どうしたんだろう……。

 お腹でも痛いのかな……。


 ――そして次の瞬間、二人は顔を上げてこう叫びました。


「「お前は一体、何をやってんだああああぁぁぁ!!」」





 静かになった魔王城。

 そこで一人正座をさせられている哀れな少女がおります。

 …………俺です。


「聞いているのですか、カズハ?」


「……はい。聞いています」


 さっきからずっと幼女の説教を聞かされています。

 どうして魔王を倒さずに捕えたのか。

 世界の平和より自分の平和を優先するなどあり得ないとか。

 いい加減私の緊縛を解いてくれとか。馬鹿とか。阿呆とか。

 …………もう死にたい! 辛い! 膝が痛い!


「まさか魔王まで捕えちゃうアルなんて……。カズハは本当に規格外アルね」


「でへへ」


「褒めていないアル! ルルちゃん! このお馬鹿は全っ然反省していないアルよ!」


 ……うん。

 もうこの世に俺の味方なんてどこにもいないんですね。

 いいもん。グレてやるもん。


「……これからこの魔王をどうするつもりなのですか?」


「持って帰る」


「「……はぁ」」


 深く溜息を吐いたルルとタオ。

 どうでもいいけど、そろそろ正座を解いても良いでしょうか……。


「魔王をこのまま連れて行くとして……それからのことは考えているアルか?」


「国つくる」


「……タオ。もう諦めましょう。カズハに何を言っても意味がありません」


「国つくるの! お金貯めて国つくるのー!」


 ああもう!

 足も痺れて痛いし、正座やめっ!

 こんな冷たい床でどうして俺が正座しないといけないの!

 おかしいだろ! 二人とも馬鹿ー!


「はぁ、そうアルね。さっきから、すっとぼけたことばかり言っているアルし……。魔王の瘴気にあてられて、ついに頭がおかしくなったアルね。……いや、元々おかしいアルか」


「おいっ!」


「とにかく、魔王が目覚める前にどうするか考えないといけません。どうにかこの魔王城ごと次元の彼方にでも封印できれば良いのですが……。永遠にそこで眠ってもらうのも良いですね」


 ……なんか幼女が物騒なことを言っています。

 こういう奴は一度怒らすと手に負えないタイプだから、今後言動には気を付けよう……。


「う……ううう……」


「! 魔王が目を覚ましたアルよ!」


「カズハ! 本当にどうするのですか!」


 いや、だから最初から言ってるだろうが。

 持って帰るんだっつうの。


「……? ここは……? !! 小娘……!!」


「あ、ちょっとタンマ。足痺れてるからもう少し待って」


 両足を伸ばして擦ったまま立ち上がった魔王を見上げています。

 うん。しばらく立てないかもしれない。

 ちょっと触るだけでピリッてなっちゃって痛い……。


「貴様……! まだ我を愚弄するのか……! ……あ……」


 急に力なくその場に倒れ込んだ魔王。

 あれだけ激闘して、その後に魔力を封印されたんだ。

 常人だったら数日は目を覚まさないはずなんだけど……。


「無理すんなよ。それに約束しただろ? 『俺が勝ったらお前を貰う』って」


「……またぶっ飛んだ約束をしたアルね」


「もう嫌です……。カズハの話を聞いていると、こっちまで頭がおかしくなりそうです……」


 ついに泣き出してしまった幼女。

 それを慰めるタオの目にも涙が見える。

 だって勢いで言っちゃったモンは仕方ないだろ!

 俺だって恥ずかしくて顔が真っ赤になったんだから!


「……そうか。そうだったな……。我はもう、お前の物なのだな。こんな屈辱を受けながら、自分で死を選ぶことも出来ぬとは……」


 大きく肩を落とした魔王さん。

 まあ運が悪かったと思うしかないよね。

 俺というチート転生者に出会ったのが運の尽き……って感じで。

 よし。だいぶ足の痺れも収まってきたし帰るか。


「よーし、お前ら! 最果ての街に帰るぞー!」


 立ち上がった俺は満面の笑みで三人に向かいそう言いました。

 

 でも誰も笑顔で返してくれなかったのは、言うまでもなく――。




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