077 ハァハァ言っている巨漢の男共に囲まれて絶対絶命です。
――デボルグとセレンが合流する少し前。
「まったく、埒が明かんな。何度聞いてもこの女は自分が魔王だと言い張る……。おい! もうこれ以上の尋問は無意味だ! こいつを牢に連れて行け!」
「はっ!」
両脇を抱えられた俺は刑務官の男二人に強制的に立たされました。
もう足もガクガクで全然力が入りません。
完全に魔力が尽きちゃったかも知れない……。
俺、このまま死んじゃうのかな……。
「じきに貴様の仲間も捕まるだろう。なにせ我らが監獄の所長と副所長が向かっておられるからな。『双剣のマルピーギ』と『十手のスパンダム』と言えば、南西島で知らぬ者など一人もおらんほどの猛者だからな」
俺を尋問していた刑務官がなんかゴチャゴチャ言っているけど、俺の耳には届きません。
ああ……。お花畑が見えてきた……。
「主任。今空いている牢ですと、奴らのいる場所しかないのですが如何致しましょう」
「あそこか。くく、良いじゃないか。この女も少し怖い目に会えば、反省して本当のことを話す気になるかも知れん」
「畏まりました。では侵入した賊と遭遇しないよう、職員通路から地下二階へ連れて行きます」
そう言い残した刑務官は俺を連れ、尋問室を出ました。
そしてすぐに俺は目隠しをされ、通路を歩かされます。
「…………俺、どこに連れて行かれるんでしょうか」
「黙っていろ。着けば分かる」
俺の脇を抱えている刑務官はそう言って何も教えてくれません。
なんか段々怖くなってきました……。
どうしよう。拷問の機械とか置いてある牢とかに入れられたら……。
俺、また泣いちゃうかも……。
しばらく歩くと刑務官は立ち止まりました。
そして俺は目隠しを乱暴に取られます。
「おい、新入りだ。お前らの好きにして良いぞ」
ドン、と背中を押され牢にぶち込まれる俺。
中は真っ暗で何にも見えません。
そして外から牢に錠を掛けられます。
「……女?」
「へへ、女だ……。女のすっげぇ良い匂いがする……」
暗がりに目を凝らすと、いくつもの赤い光が見えてきた。
……いや、あれは……『目』?
「ああ、言い忘れた。好きにしても良いとは言ったが、殺すなよ。この女にはまだ聞きたいことがあるからな」
「ぐへへ、分かってますよ、刑務官殿。女なんて何年ぶりだろうな……。涎が止まらねぇぜ」
「……」
呆れた表情のままその場を後にした刑務官達。
そして暗がりから現れたのは巨漢の男が……六人?
みんな俺を見て涎を垂らしてハァハァ言っています。
……うん。
…………あれ? これって、俺、もしかして――。
「あ、その、どうも。ええと、あんまりこっちに近づかないでもらえますか。怖いです」
「女だ! 女が来たぞ!」
「どわっ!?」
一気に俺の周りに群がる野獣共。
ヤバいヤバい……!
今の俺は魔力が枯渇してて、まったく力が出ないのに……!
え? ちょっと! 囚人服を無理矢理脱がすんじゃない!
いやいやいや! ちょっと待って!
こんな飢えた巨漢の男共が六人とか……!
いや、それ以前に、俺、男だから!! ちょっと無理! 止めなさい!!
「だ、誰か……助けてーーーーーーーーーーー!!!」
絶対絶命。
こんなことになるなら、さっさと死にたい……!
どんな仕打ちだよこれ! 俺の最期がこんなんなんて、絶対に嫌だーーー!!
ガンッ――。
「がっ……!」
「……?」
今まさに俺の胸に手を伸ばしてきた巨漢の一人が急に前のめりに倒れました。
あれ、何か頭にタンコブが出来てる……。
「おい、あんたらいい加減にしなよ。あんな刑務官の言いなりになりやがって」
「ね、姉さん……! てっきりまだ寝ているものかと……」
牢の奥から現れたのは、赤い長い髪に赤い目をした巨乳系のお姉さんです。
あれ、女いるじゃん。
誰だよ、女がいないとか言った奴……。
……言っていないか、誰も。
「…………ん? …………え? アルゼイン!! アルゼインじゃん!!」
「はぁ?」
俺はフラフラした足取りで男共を掻き分け、女の元に歩きます。
髪の色も肌の色も全然違うけど、顔とおっぱいの大きさはアルゼインにそっくりだ。
「お前を探してたんだよ! ……ていうか、どうしてこんな監獄に入れられてるんだ?」
女は俺の目をじっと見つめたまま、顎に手を置き何かを考えています。
そして閃いたのか、ニヤリと笑いこう言いました。
「……そうか。お前さんが『カズハ』だね。噂には聞いていたけど、まさか紅魔の里の監獄にまで来るとはねぇ」
女が前に出ると、巨漢の男共は気絶した一人を引きずって奥へと下がりました。
なんかこの人、奴らのボスっぽいですね……。
でも良かった。俺の貞操はギリギリで守られたみたい……。
……ていうか、どうして俺の名前を知ってるの?
「ここに来たってことは、目的は私らだろう? ジェイドの陰謀を阻止し、エルフィンランドを解放するために、あんたはここに来た」
「……はい?」
女の言っている意味がさっぱり分かりません。
ジェイドって誰やねん。
……あ、思い出した。確かザノバのおっさんやデボルグが言ってた悪そうな奴か。
でもエルフィンランドを解放するなんて、そんなこと考えたこともないし……。
俺の目的はエアリーとアルゼインを仲間として取り戻すこと。
それ以外はオマケみたいなものなんだけど……。
「……その顔はよく分かっていない顔だねぇ。アルゼインの言っていた通りだ。馬鹿で間抜けで、何も考えずに行動する阿呆がいつも一緒にいると言っていたよ」
「誰が馬鹿で間抜けで阿呆だっ! ……ていうか、もしかしてお前――」
今になってようやくピンと来ました。
この監獄の地下二階に捕えられている奴らは、デボルグ先生は紅魔族だって言っていた気がする。
考えることは全部あいつとセレンに任せていたから、俺は暴れることしか頭になかったんだけど……。
つまり、この女の正体は――。
「はぁ……。私の名は『レベッカ・ナイトハルト』。アルゼインの姉だよ。そしてこの監獄に囚われている紅魔族の長だ。刑務官の一人に金を握らせて、ある程度はアルゼインから情報を得ているから、あんたのことも知っている」
「アルゼインのお姉さん……。どおりで顔がそっくりなわけだ」
これだけ似てたら肌と髪の色くらいでしか判断できないな……。
まあ、それは良いとして、ちょっと色々と教えてもらおう。
その前に死んじゃうかも知れないけど……。
「あの、ちょっと今、俺の頭脳というか、俺の代わりに考えてくれる人(セレンとデボルグ)がいないんですけど、ついでに死にそうなんですけど、この国の状況とか簡単に教えてくれます?」
まあ聞いたところで覚えられないんだろうけど、このお姉さんだったら色々と本当のこととか知っていそうだし……。
後でここを脱出できたら、二人にもう一度説明してもらえば良いし。
「エルフィンランドの状況、ねぇ。少し長くなるけど、まあ時間はたっぷりあるからね。いいよ。そこに座りな。この国の現状、そして私ら紅魔族がしたこと。――そして、エリアル女王とアルゼインの状況も含めて、全部あんたに教えてあげるよ」
そう言ったレベッカは俺を床に座らせました。
でもたぶん俺、説明を聞き終わった頃には死んでいるんじゃないかな――。




