三周目の異世界で思い付いたのはとりあえずまた縛ることでした。
沈黙に包まれる魔王城。
俺は人差し指を魔王に向けたまま、今言ったことを後悔している最中です。
どうしよう……!
なんでこんなことを言ったんだ、俺……!
『……おぬしは何を言っておるのだ? 今、我が欲しいと、そう聞こえたように思うのだが』
「……はい。なんか勢いで、そう言っちゃったみたいです……」
恥ずかしくて顔から火が出そう……。
でも言っちゃった手前、取り消すわけにもいかないし……。
だってほら、俺って頑固だから。
『……はっ! おぬしまさか、我に気があるのか!』
「ちちち違げぇし! そういう意味じゃねぇし! 勘違いすんじゃねぇ!」
ドン引きしている魔王。
いやいやいや、ちょっと待って!
もう一度最初からやり直させてください……!
『ふふ……ふはは! 貴様、面白い奴だな……! 良いだろう、我が欲しいのであれば自らの力で奪ってみせよ! 万が一、貴様が勝つようなことがあれば、我を好きにしてもよいぞ!』
「へ……?」
なんか知らんけど良い方向に話がまとまった……?
勝ったら好きにして良いってことは、魔剣を貰っても良いってことかな。
……もしかして、これって超ラッキーなんじゃね?
『ふ、怖気づいたか。無理もない。世界最強たる我に敵う者など、この世におるはずがない。いくら貴様が我と同じ魔剣を持つ者であっても、使いこなせなければ何も意味は…………おい。貴様、何故魔剣を床に置く?』
「え? あ、いや、俺が本気出しちゃうと一瞬で勝っちゃうから、手加減しようと思って」
魔剣に続き勇者の剣も床に置きます。
そしてウインドウを開き、アイテム欄からツヴァイハンダ―を取り出しました。
『手加減をする? くく、小娘風情が何を言うかと思えば……。そんな挑発に我が乗るとでも思っておるのか? くだらん茶番はやめて、さっさとかかって来るがよい』
再び魔剣を構えた魔王は徐々に魔力を高めていく。
うーん、冗談とかじゃないんだけどなぁ。
……ああ、そうか。
レベルを表示すれば納得してくれるか。
「ええと、ほい」
ウインドウを操作し設定を『現在のレベルを相手に知らせる』に変更。
途端に俺の頭上に『LV.99』の表記が出現する。
『な……なんだと!? レベルが99……!?』
急に表情が変化した魔王。
良かった。ようやく納得してくれたっぽい。
「あ、ついでにこの大剣。ゼギウスっていう鍛冶職人に作ってもらったんだけど、中身は『木の棒』だから」
『ゼギウス……? まさか、鍛冶職人ゼギウス・バハムートのことか……! ……そうか。貴様、あのゼギウスと知り合いか。ならば遠慮はいらんな……!』
あれ? 意外な反応……。
もしかして魔王もゼギウスと知り合いとかなのかな……。
まあいいや。
こいつを倒せば魔剣が手に入るっぽいし、暇つぶしも兼ねて軽く運動しよう。
「仮にもお前、魔王だから魔法とスキルは縛らねぇよ」
『!! 当然だ……! この小娘があぁぁ!!』
ぷっちんと血管が切れる音が聞こえました。
うわ……。もうマジで目からビームが出そうなくらい俺を睨んでる……。
ていうか『縛る』で意味が通じるんですね。
もしかして魔王も縛りプレイが好きだとか……?
『黒銀の闇よ、怨念の元に全ての正義を喰らい尽くせ! 《ダークサーヴァント》!!』
「いきなりキターーーーーーー!!!」
異空間から出現した八本の黒槍が俺を取り囲む。
それと同時に地面を蹴った魔王は、猛スピードで突進してきた。
『死ねええぇぇぇ!!!』
合図と同時に黒槍の雨が俺を目掛けて降り注ぐ。
まあ、パターンはいつも一緒だな。
勇者は闇属性が苦手なんだから、闇魔法で攻撃するのは当然なんだけど。
「深遠なる我が炎よ! 業火に焼かれし魂をその身に刻み込め! 《エンゲージブレイズン》!!」
火魔法を詠唱すると、俺を中心に火柱が舞った。
その火に焼かれ黒槍は全て消滅した。
『ちいぃ!』
咄嗟に軌道を変え、炎を避けた魔王。
しかしすぐに体制を立て直し、再び俺に向かってこようとする。
「はいはーい。続けていきまーす」
空間をタップしウインドウを出現させる。
そして魔法欄から火魔法を選択し『ファイアランス』を使用。
無詠唱で出現した炎の槍は一直線に魔王を目掛けて飛んでいく。
『無詠唱……!? 貴様、魔道士でもないのに何故……!?』
うん。ごめん。
ウインドウから直接魔法が使えるのは、チート転生者の特権なんです。
つまり、普段詠唱しているのはカモフラージュのためってことだね。
『くっ……! 水龍神よ! 我を守りし盾となれ! 《ウォーターウォール》!!』
水魔法を詠唱し、防御を固めた魔王。
ということは、やっぱり前世と一緒か。
魔王の得意属性は『闇』と『水』。
転生しても属性だけは変化なし、か……。
ジュワっと大きな音を立て消滅した炎の槍。
しかしすでに地面を蹴り跳躍していた俺は、魔王の頭上から大剣を振り下ろした。
「もーらいっ」
『ぐっ……!!』
ガン、という音が鳴り響き魔王の持つ魔剣を弾きました。
慌ててそれを拾い上げた魔王だったけど、すでにチェックメイト。
大剣の切っ先が魔王の首を捉えています。
『……負けた? この我が……こんな小娘に、これほどまでに呆気なく……?』
大きく肩を落とした魔王。
どうしよう……。
なんかプライドを深く傷つけちゃったみたい……。
まあ仕方ないよね。
魔法を二回使っただけで勝っちゃったわけだから。
「今のなしにする? 俺はいいよ。何回やり直しても」
どうせ暇つぶしの人生だ。
とことん魔王に付き合ってやってもいい。
『こ、こんな屈辱は初めてだ……! 殺してやる……! 今言ったことを必ず後悔させてやる……!!』
再び目からビームが出そうな勢いの魔王。
そして俺は二時間ほど魔王と遊んだわけでして――。




