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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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075 神の爪を持つ赤髪はただのセクハラ野郎です。

デボルグ視点です!

「ったく、カズハの野郎……! 死にはしねぇだろうが、面倒ばかりかけやがって……!」


 次々と襲い掛かってくる刑務官達。

 俺はセレンと二手に分かれ、紅魔族らが収容されているとされる地下二階を隈なく探している。

 カズハが敵に捕らえられてから、すでに一時間が経過した。

 あの黒剣から吸い上げられる魔力の量がどれくらいなのかは分からないが、あまりモタモタしているとカズハの野郎が干からびちまう。


 彼女が刑務官らに捕えられた後、俺は視界の隅でこの収容所の所長の手に黒剣が渡ったのを確認した。

 奴からあの剣を取り戻して、別の刑務官が所持している鞘に収めればカズハは助かるはずなんだが――。


「いたぞ! 囲い込め!」


「ああ、うっぜぇなぁ! 一体どんだけいやがるんだよ、てめぇらはよ!!」


 倒せど倒せど刑務官らが無限に出現し、俺の行く手を阻んでくる。

 それに奴らが扱っている警棒――。


「大人しく捕らわれろ! 《パラライズ・ビー》!」


「来やがった……!」


 刑務官らが警棒を振るうと、異空間から大量の蜂が出現した。

 それらが痺れ効果を持った針を俺に向け突撃してくる。


「おらあぁ! 《ラウンドホース・ブレイズン》!!」


 その場で一回転し、炎を纏った蹴りを繰り出す。

 次々と燃え上がり消滅していく蜂の集団。

 しかし刑務官らは次の攻撃に備えている。

 先ほどから俺はこの奴らの連携攻撃に苦戦しているのだ。


 奴らが使用しているのは、恐らくゲヒルロハネス製の警棒だ。

 そして無詠唱により発動している魔法は、かの国で研究中の新たな十三番目の属性、無属性の魔法――。

 何故エルフィンランドにある収容所で、まだ各国で正式に流通していない研究途中の他国の武器が使用されているのか――。


「副所長! 奴の得意属性は『火』のようです! まずはあの厄介な火の攻撃を止めるべきかと!」


「ああ。前衛三名はそのまま痺れ蜂を継続。他二名は毒蛇を。お前は水魔法で奴の火を止めろ」


「イエッサー!」


 副所長と呼ばれた男の命令で、刑務官らの士気が上がった。

 だが勝機は俺にもあった。

 あの男の腰に差さっている鞘――。

 あれはカズハから取り上げた黒剣の鞘だ。


「……くく、良いねぇ! まずはてめぇから鞘を奪って、次に所長が持ってる黒剣を奪えば俺らの勝ちだ!」


「? 鞘を奪う……? そんなことをして、何になると言うのだ?」


 俺の言葉の意味が理解できない様子の副所長。

 まあ、そうだろうな。

 そしてお前に説明してやる義務も時間も、俺には無い。


「……? お、おい……。あの『爪』は……?」


 不敵に笑う俺を見て、刑務官のひとりが後ずさった。

 光輝く爪を装備した俺は、ぼそりと呟くように魔法を詠唱する。


「――《光速》」


ひゅんっ――。


「うわあああぁぁ!」

「ひいいいぃぃ! け、警棒が一瞬で……!」


 痺れ蜂を出現させようとしていた三人を一瞬で無力化した。

 警棒は爪に引き裂かれ、ただのガラクタと化す。


「か、神の爪……! 副所長! 奴は魔王軍幹部のひとり、危険度S級の『神の爪デボルグ・ハザード』ですっ!! うがああああぁぁぁ!!」


「何故こんな場所に魔王軍が……! ひええぇぇ!」


 毒蛇を召喚しようとしていた二人を同時に倒し、残りは二人。

 いくら無詠唱で無魔法を唱えられたとしても、俺はそれより更に速い・・・・

 光魔法と気魔法の合成魔法『光速』。

 もはや俺を止められるのはカズハかユウリか、あのゲス神様くらいしかいないだろう。


「……良いだろう。相手に不足はない」


「ふ、副所長!」


「お前はすぐに所長に報告を。もう一人の賊も恐らく魔王の幹部だろう。今、所長自ら殲滅に向かっているはずだ。ここは俺一人で良い」


「……い、イエッサー!」


 副所長に命令され、残った一人の部下は慌てて逃げようとこちらに背を向けた。

 カズハの黒剣を奪った所長は、セレンが相手をしているのか。

 ならさっさとこいつを倒して加勢に行ってやらないと――。


ひゅん――。


「おっと。これ以上、かわいい部下を傷つけないでもらいたい」


「!!」


 立ちはだかる副所長の脇をすり抜け、部下の背後に爪を向けた瞬間――。

 ――俺は何故か一瞬で元の位置に・・・・・引き戻されていた・・・・・・・・

 これは一体どういうことだ……?


「……てめぇ、今、何をしやがった?」


 奴は他の刑務官のような警棒を構えてはいない。

 なのに無詠唱で何かの魔法を使ったのか……?


「それはこちらの台詞だ、犯罪者デボルグ・ハザードよ。恐らく、その『爪』の効果なのだろうが、人間の常識をあまりにも超え過ぎている。その力は悪が手にするものではない。大人しく、こちらに渡すのだ」


「……」


 奴は俺の持つ『神の爪』を欲している……?

 誰からか命令でもされているのか、それとも――。


「……はっ、欲しけりゃ力ずくで奪ってみせるんだな。俺はてめぇが持ってる『鞘』に用がある」


「ほう? 先ほどもそのようなことを言っていたが、そんなに大事なものなのか。この鞘が」


 腰に差した鞘を抜き、まじまじと眺める副所長。

 ……奴の得意属性は何だ?

 さっきの魔法は光魔法か? それとも体魔法か?

 俺の立っている位置を一瞬で替える魔法――。


「……考えても分からねぇか。俺の『光速』と、奴の魔法――。どっちが速えぇか、試すしかねぇ……!」


 言い終わるか終わらないかのタイミングで地面を蹴る。

 手を伸ばし、奴の持つ鞘に手が届きそうな、その瞬間――。


「!? また……!!」


 見えない力で強制的に元の位置に引き戻される。

 それと同時に地面を蹴った奴は、十手のような棒を抜き振りかぶった。


「ちっ……!」


 咄嗟に頭部をガードする。

 今までの刑務官と比べると格段に速いが、それでも俺の敵じゃない――。


ガンッ!


「ぐっ……!?」


 わき腹に鉛がめり込むような感覚。

 視線を降ろすと、そこには先ほど防御したはずの十手がめり込んでいた。

 どうなってやがんだ……?

 俺が目で追えないほどのスピードを、奴は持っているとでも言うのか……?

 ……いや、違う。

 これは――。


「悪は滅せよ。世界はエルフィンランドと共にあり」


 再び十手を振り上げた副所長。

 今の一撃で、多分あばら骨にヒビが入ったのだろう。

 もしかしたらあの十手に、相手の防御力を一時的に下げる魔法でも付与してあるのかもしれない。

 次の一撃をまともに喰らったら致命傷になりかねない――。


 俺は目を閉じる。

 強制的に元の場所に引き戻す魔法――。

 死角から繰り出される攻撃――。

 ……確か、そのような攻撃パターンを持っていたモンスターがいたはずだ。

 刑務官達はゲヒルロハネス製の警棒を使っていた……?

 ――ゲヒルロハネスに生息する、モンスター?


「そうか……!」


 俺は光魔法を自身の目に付与する。

 すると俺の背に一本の糸のようなものが付着しているのが確認できた。

 そして奴に視線を戻すと、十手を持ち振り上げた手とは別の手が・・・・、隠し持った十手を横から振りかぶり俺の腹部を狙っているのが見えた。


「《ファイア・ランス》!」


「!!」


 上空に爪を向け、自身の背に火の槍を喰らわせた。

 燃え上がる上着と共に、背に付着した糸が焼き切られる。

 そして神速で奴の背後に周り十手の攻撃を避ける。


「てめぇの正体……。ゲヒルロハネスで研究してるっていう、『新生物キメラ』か!」


 ゲヒルロハネス連邦国で長年研究されている魔法遺伝子。

 その副産物として手に入れた技術は無属性因子だけではない。

 『新生物キメラ』――。

 他の種族との混血ではなく、人の手で強制的に作られた新たな種族。

 この野郎は恐らく、ゲヒルロハネスに生息する蜘蛛型モンスターの遺伝子を注入されたエルフ族だろう。


「……くく、だから、どうした? 同盟国であるゲヒルロハネスの技術を我が国に生かして何が悪い? この身体は良いぞ。凄く、心地が良くて、ジェイド様には、これ以上ないほど感謝を、している」


 バキバキと音を立てて、本性を現した副所長。

 こいつはもう……ただのモンスターだ。

 エルフィンランドの宰相、ジェイド・ユーフェリウス。

 ……そうか。こいつが黒幕か。


「……? 何故、笑う? 死ぬのが、惜しく、ないのか?」


 蜘蛛男が首を傾げてそう言った。

 だから、俺はそいつを見上げて言ってやったのさ。


「あぁ? ちげぇな。ようやく理解したからだ。エアリーとアルゼインが、悪い奴に騙されているだけだっつうのがな」



 ――俺は地面を蹴り、奴に爪を振り下ろした。




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