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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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072 何を言っても怒られるけど決してめげません。

 エルフィンランド南西島、通称『紅魔の里』。

 四つある島の中では一番小さく、自然が豊かな島だ。

 精魔戦争時代ではこの土地は魔族の領土であり、近隣にある三つの島に住むエルフの民とは常に衝突を繰り返していた。

 精霊軍を援護していたエルフの民は戦争に負け、魔族が世界を支配する暗黒の時代に突入する。

 美女が多いとされるエルフ族は魔族の慰み者となり、子を孕むことで生き永らえるしかなかった。

 魔族とエルフ族の血を受け継ぐ、忌まわしき紅魔族。

 しかし、のちに人間族が生まれ、人間とエルフとの子――ダークエルフ族が出現したころにはエルフの民は一丸となり打倒魔族を掲げたのだ。

 時代は変わり、徐々に勢力を拡大する人間族は魔族に奪われた土地を次々と奪い返した。

 そしてついに魔王の領土デモンズテリトリアまで奴らを退け、残るは魔王と幹部、そして生き残った魔族だけとなった。

 今から十年前の話である――。


「有名な話だな。当時は魔族の血を引いているということで、エルフの中では紅魔族が奴隷扱いをされていたと聞く。それが時代が変わるにつれ、ダークエルフ族が引き継ぐ形になったと」


 紅魔の里に降りた俺達はセレンの先導に従い鬱蒼と生い茂った森の中を進んだ。

 魔族特有の目でこういったゴチャゴチャした森の中でも迷わずに目的地まで進めるらしいです。

 まあ、あの魔王城近辺も似たような感じだからな。

 変な形の木とかいっぱい生えてるし。


「皮肉なもんだよ。人間族が優位になっていくにつれ、人間族の血を引いたダークエルフ族の立場が徐々に悪くなっていったんだもんな。まあ奴隷制度を認めてるっつうくらいだから、人間族に対する嫉妬の裏返しか何かなのかね」


 苦虫を噛み潰したような顔でデボルグが続けた。

 確かにこの世界は差別やら人権侵害がめっちゃ多いからな。

 アゼルライムス帝国だって、ついこの間まで男尊女卑の国だったし。

 俺がその認識を根底から覆してやったけど!


「まあそんな話はどうでもいいんだけど、そんなことよりドラビンを帰しちゃっても良かったのか? 俺らの貴重な足だったのに」


 二人の後を付いて行きつつ、俺は口を挟む。

 紅魔の里に降りた直後、セレンはドラゴンゾンビを国に帰したのだ。

 なんか知らんがお互いに抱き締め合い、泣きあっていたけど……。


「あの『弓』から逃げ続けるのに相当体力を消耗させてしまったからな。それに祖国に嫁と子供を残してきたらしい。そんなことも知らずに我は奴を眷属としてしまった……。これからは自分と家族の幸せを考えて、生きて欲しいと思ってな」


「いやいや! 色々とおかしいから! そもそも死んでるから! だってゾンビでしょう!? 幸せを考えて生きるってどういうこと!?」


「ゾンビの何が悪い。お前みたいな考えの奴が差別を生むのだ。そういう性根の腐った奴が我は一番嫌いだ」


「いや腐ってんのはあいつだから! ていうかお前、そんなお涙頂戴キャラじゃないだろ! 今の話聞いたら歴代魔王もビックリだよ!」


 ……。

 あ、いや、俺が現職魔王の時点でご先祖様も椅子からひっくり返ってるかもしれないけど……。


「……話はそこまでだ。見えてきたぞ」


 デボルグさんの視線の先を辿ると、大きな監獄が見えてきました。

 あれが反乱軍が収容されているっていう監獄か。


「なんか俺、デボルグと一緒だといつもどこかに侵入してね?」


「そう言えばそうだな。まあ、これも運命だと思えばどうってことねぇだろ。行くぞ」


 休む間もなくデボルグは気配を消したまま監獄の見張りの兵に向かって行きました。

 あいつ何だか生き生きしてないか……。


「我らも向かおう。すでに敵には誤情報が流れているはずだ。警備が手薄な内に、捕えられている紅魔族と接触する」


「はーい」


 セレンの言葉に従い、俺もデボルグの後に続くことにしました。

 さてさて、どうなることやら……。



「はっ!」


「う……ぐぅ」


 難なく警備兵を気絶させ内部に侵入することに成功しました。

 ていうか全然、建物自体がショボい。

 鉄格子もゼノライト鉱石を使ってないし、金が無いと刑務所もこんな感じになっちゃうんですね。


ピー、ピー。


「ああ、来た来た。ザノバのおっさんから刑務所の内部地図。ええと……」


 届けられた魔法便を開き、添付された地図と文章を確認する。

 ふむふむ。紅魔族は地下二階に収容されていると。

 収容人数は八百人かぁ……。

 これ全員解放したら大騒ぎになるよね……。

 ふふ……ふふふ……。


「何をニヤニヤしてるんだ、てめぇは。俺らにも見せろ」


 デボルグさんに魔法便を奪い取られ、俺は口を尖らせます。

 それを見ていたセレンに頭をナデナデされ何とか機嫌を取り戻しました。


「奴らの頭の名は……『レベッカ・ナイトハルト』か。……ん? ナイトハルト?」


 デボルグが硬直する。

 ええと、ちょっと待って。

 色々と頭が混乱してきました。


「アルゼインと同じ『姓』……。確か奴は父が人間族で母がエルフ族ではなかったか?」


「ああ。しかしこの情報が確かならば、アルゼインと同じ姓を持つ紅魔族が奴らの親玉ということになる。……いや、ちょと待てよ。反乱軍が・・・・死刑にならずに・・・・・・・拘留された・・・・・ままの理由・・・・・――」


「あー、はいはい。まだザノバのおっさんの手紙には続きがあるよ。ええと、『この情報は国家機密ゆえ、決して外部に漏らさないで頂きたい』だって。漏らしてる本人が言っちゃった。駄目じゃん、あのおっさん。隊長失格だな」


 俺が口を挟むと二人とも怖い目で睨んできました。

 せっかく場の空気を和ませようと思ったのに……。


「つまり反乱軍の長が『ナイトハルト姓』だと知られれば民政が傾く――。しいては王政にも歪みが生じ、自国のみならず他国にも隙を与えることに繋がるわけか。決まりだな。このレベッカという奴はアルゼインの身内の者だろう。死刑にならなかったのも、これが理由ってわけだ」


「なんだぁ。じゃあアルゼインは『英雄』でも何でもないじゃん。身内が国で暴れてて、それを止めに行っただけじゃん。それがいつの間にか英雄扱いされて? 周りに担がれて妖竜兵団の団長になって? そんで俺らから金を盗んで国に流して? うわー、あいつのイメージとぴったりー」


 俺が口を挟むと、再び二人は怖い顔を向けました。

 ……もう何も言いませぬ。


「それだけが理由とは思えんがな。だがエアリーもアルゼインもお互いに別々の理由を持ちながら、協力関係を築くに至ったのは事実のようだ。しかし解せんな。そう上手く、双方とも『王政』と『民政』という二大王政のトップに君臨できるものなのか?」


 そう言い首を捻るセレン。

 俺はむいっと口を一文字に閉じるしか出来ません。


「……恐らく、まだ『裏』があるな。まずはこの紅魔族の長に会って話を聞くしかねぇか」


 デボルグの言葉に頷くセレン。

 俺も一応うんうんと頷いておきます。


 まあ、何だかんだ言っても俺はエアリーもアルゼインも信じてるから。

 たぶん、いるだろう。『黒幕』が。

 俺はそいつをぶっ飛ばして、仲間を取り戻すだけだ。

 あとついでにエルフィンランドも貰っちゃうけどね☆


 俺は二人に見えないように不敵な笑みを浮かべていたわけで――。


















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