067 今までの人生で一番つらい出来事に遭いました。
【注】後半は神視点です。サブタイトルと違い全然シリアスじゃないので読み飛ばしたら駄目です!
「もう満足だろう。これ以上の訓練は周囲に被害を与えるばかりか、近隣住民に帝国兵を呼ばれかねない。こちらの準備は整った。さっそくエルフィンランドに向おう」
いつの間にか俺とデボルグの戦いを黙って観戦していたセレンが俺達に声を掛けてくる。
その後ろにはすっかりセレンに懐いた様子のドラゴンゾンビの姿が見える。
「まだだ……! カズハの本気を引き出すまで、俺は――」
「何を焦っているのだ? こやつの本気を引き出そうなど考えるだけ無駄だぞ。我も昔はそうだった。魔王城に乗り込んできたこやつと本気で戦ったものの、こやつは鼻をほじりながら我を翻弄し、終いには我の力を封印するだけに飽き足らず、魔王城から我を拉致し、身勝手な理由で強制的に仲間に加えたくらいだからな」
「耳が痛い! 何も言い返せない!」
セレンの一言一言に俺の精神は追い詰められていく。
いやー! それ以上言わないで!
「俺は別に焦ってなんか……。……いや、お前の言う通りかもしれねぇ。こいつの《制限解除》が封印された今、俺らの戦力は激減したんだからな。普段からこのアホ頼みでなんとか乗り切ってきたが、今回ばかりは敵が多すぎる。なんたって世界中の国が敵に回っちまったからな」
「むしろ俺が焦ってるけどね! この勝負に負けたら裸エプロン着ろとか言われたし! セクハラ反対! 男女差別反対!」
「……とにかく、アルゼインとエアリーの問題を早急に解決しなければならん。行くぞ」
声高らかに叫んだ俺を無視したセレンはデボルグと共にドラゴンゾンビのところに向かいました。
無視が一番堪えますね!!
「勝負は一旦お預けだ。裸エプロンの件は許してやる。だから早く来い。出発するぞ」
「イエッサー! ボス!」
物凄い怖い顔で俺を振り返ったデボルグに対しビシッと敬礼の姿勢で返答しました。
何だかだんだん慣れてきた自分が嫌になる……。
『ギュワァ』
「頼むぞドラビン」
「ドラビン!?」
「そうだ、ドラビンだ。名前が無いと可哀想だろう? だから我が名付けた。ドラゴンゾンビだから、ドラビン」
『ギュワワ!』
……うん。
まあ、ネーミングセンスとかは突っ込まないでおいてあげよう……。
「お、意外と乗り心地良いじゃねぇか。でも、本当に大丈夫なのか? 翼もボロボロだし、所々腐ってやがるし……」
「ああ、飛行に問題はない。問題があるとすれば乗る場所だけだ。我がドラビンの首に乗り操縦するとして、デボルグが背に乗るのだとしたら、あとは乗れる場所はあそこしかない」
セレンが指差した場所はドラゴンゾンビの背中の後方部分。
ちょうど尻尾の付け根あたりなのかな。
そこが腐っていて大きく穴が開いていて、人一人がすっぽりと収まるような空間が広がっていて――。
「……」
「……」
……うん。
どうして二人とも無言で俺を見るの?
…………え?
もしかして、俺にあの腐っててドロドロしてる場所に乗れってこと?
「いやいやいや。待ちなさい。俺、今さっきお風呂に入ったばかりなんですけど」
「俺じゃ身体がデカくてあの腐った穴に入りきらねぇな。セレンは操縦しないといけないし、おめぇしかいねぇだろ」
「うそおおおお!? え? だって腐ってるんだよ!? なんか変な汁とかウジ虫みたいなのとかめっちゃ湧いてるじゃん!? そこに乗るの!? ちょっとマジ無理なんですけど! いくら俺が変人でもこれは耐えられないです、ボス!!」
「…………乗れ」
「…………はい」
デボルグさんの顔がもはや人間を超えたなにかに見えたので諦めました……。
俺は死んだ魚のような目をしたまま、何やらグッチョグッチョと蠢いている謎の空間に片足を入れてみます。
にゅろん。
「ひいぃい!!」
ガサガサ。ビチビチ。
「何かいる!? 腐りすぎて、新たな生命が誕生しちゃってる!? 無理無理!! これ絶対無理!!!」
「よし、みんな乗ったな。ではドラビン。遥かなる大地、エルフィンランドへ」
『ギュワワァ!!』
「ちょっと待ってえええええええ! ひいぃ! なんか首筋からムカデみたいなのが入ってきた! ちょ、ちょ、なにこのナメクジみたいなの!? ヒル!? やめてーー! あ、なんか足からも入ってきたああああああ!! ああああああああああああああああああーーーーー!!!」
俺の叫び声とドラゴンゾンビの鳴き声が天に響き渡る。
大きく翼を広げ、あっという間に地上から羽ばたき――。
――そして俺達は空を駆け抜けていった。
◇
「……」
「おーい、カズハ。そろそろアゼルライムス帝国を抜けるぞ。下を見てみろよ。大地があんなにちっちゃく見えるなんて、すげぇよな」
「…………おうち帰りたい…………もう穢されたの…………一生消えない心の傷…………何も考えない…………何も感じない…………」
「よほど追い詰められたのだな。心を閉ざすことで身体中を這い回っているウジ虫のことを考えないようにしているようだ。カズハにも弱点があったとは知らなかったな」
「あー、そういうことか。まあでもこいつ馬鹿だから、あっちに着いたらすぐに元気になるだろ。このまま順調にいけばあと半日ほどでエルフィンランドに到着するだろうからな。問題は『四つある島』のどこに上陸するかだが……」
「恐らく皇女であるエアリーは首都のある南東島にいるだろう。アルゼインのいる妖竜兵団の本拠地は北東島だ。順当にいけば、このどちらかになるが」
「いや、相手はあのアルゼインだ。俺らの思考を予測して迎撃部隊を用意しているだろう。あのフェアリードラゴンの軍勢との空中戦だけは避けたい。となると、航路で向かった場合と同じく南西島に上陸するか、それとも北西島にするか……」
「南西島といえば通称『紅魔の里』だったな。以前は反王政勢力である紅魔族らに南西島全体が支配されていたと聞いたことがある。それを解決したのがアルゼインだとも」
「ああ。それに紅魔族は魔族の血とエルフの血が混ざった混血種族だ。エルフィンランド政府の発表では反王政勢力は全て捕えられ、南西島にある監獄に収容されている、ということらしい」
「……何が言いたいのだ、デボルグ?」
「つまり『死刑』にはなっていないっていうことさ。理由は分からんが、国家反覆罪は相当に重い罪だろう? いくらエルフの血が魔族の血よりも濃いからといって、生かしておくには危険じゃねぇのか? アルゼインが『英雄』と称されたこの事件――。ここに問題解決のヒントがあるんじゃねぇかと思ってな」
「まさか……。監獄に囚われている紅魔族を我らで解放すると……?」
「ああ。そうなればエルフィンランド国内は再び混乱する。厄介な妖竜兵団の奴らの守備が薄くなれば、エアリーやアルゼインと会える確率も増す。……が、問題なのはその『紅魔族』だ。やたらと気性の荒い戦闘民族っつう話だが、どこまでが本当の話なのかが分からねぇ。俺らの目で実際に確認して、話を聞いてから判断するしかねぇだろうな」
「……では、南西島――『紅魔の里』に降り立つとしよう。ドラビン」
『ギュワワァ!』
速度を上げたドラゴンゾンビは帝国領を超え。
大海原へと翼を羽ばたかせて行った。
紅魔族はカズハらの味方となるのか。
エアリーやアルゼインに仲間の声は届くのか。
そしてカズハは――。
「…………良い子になろう…………もう二度と悪さはしません…………調子に乗りません…………だから許してください…………」




