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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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066 男には、負けられない戦いがある。

「まずは先手必勝! 《光龍波》!!」


「ちょ、ええええ!?」


 デボルグが突き出した拳から光の龍の波動が俺に目がけて突進してくる。

 これは……何の魔法だ?


「そおい!」


 仕方なく黒剣を抜いた俺は光の龍を一刀両断。

 縦に真っ二つに斬り裂かれた龍はその場で消滅した。


「おせぇ! 《デリンジャー・エルボークラッシュ》!」


 上空にデボルグの叫び声が聞こえ、振り向きもせずに俺はバックジャンプでそれを回避。

 速攻タイプの戦術は相変わらずか……!


「ばーか。引っ掛かりやがって」


「……え?」


 ニヤリと笑うデボルグに気を取られた瞬間――。


ドゴン!


「いてぇ! え? え? なに!?」


 背中に強烈な衝撃を受け、そのまま前のめりに倒れてしまう。

 さっきから何をしてるんだよこいつは……!


「くっそ! よく分からないけど、頭キタ! ぶっとばしてやる!!」


 そのまま前転し、直後に地面を大きく蹴る。

 いくらレベルが99に戻ったからといって、デボルグのスピードに劣る俺ではない!


炎の神ヴリトラよ! 我を守る盾となり、その身に業火を喰らい尽くせ! 《トレメンダス・ブレイズン》!!」


「ああっ! それ俺の十八番おはこの火魔法!」


 俺の右こぶしがデボルグの顔面を捉えようとした瞬間。

 炎の巨人が召喚され、俺の攻撃が弾かれてしまう。


光の神ルーグよ! 我に変わる剣となり、俗世に勇名を轟かせよ! 《ルーファス・ディバインソード》!!」


「ええええええ!?」


 炎の神とは対照的な能面みたいな顔をした光の神が俺の目の前に召喚される。

 やたらと長い二本の腕にはノコギリみたいなギザギザの剣と透き通った透明な剣を構えてるし。

 ……なにこれ。


『キ……キキ……キキキ……!!』


「笑ってる!? 能面なのに笑ってる!? 怖い!!」


 首がもげるかと思うほど横に傾けたまま笑った光の神は、恐ろしいほどの速さで斬撃を繰り出してくる。

 もう、何が何だかさっぱり分かりません!

 黒剣で防御するだけで手一杯なんだけど!


「だから、余所見をしてんじゃねぇよ」


「あ――」


 いつの間にか俺の背後に回っていたデボルグ。

 その右手には、あの『爪』が――。


「俺の勝ちだな」


「むっ! まだまだですから!」


 すかさず左手でもう一刀の黒剣を抜き、爪を弾く。

 あぶねぇ……。

 一本背中に背負っておいて助かった……。


「《ツインブレイド》! 《スライドカッター》!」


 渾身の力を込めた剣スキルで俺を取り囲む二匹の神を瞬殺。

 振り向きざまにもう一閃かましたけど、すでにデボルグは後方に退避済みでした。


「ちっ、どんだけタフなんだよお前は……!」


 肩を大きくグルグルと回し、悪態を吐くデボルグ。

 俺は慌てて二刀を鞘に納めて一安心。


「はぁ、はぁ……。あかん……これめっちゃ疲れる……。ていうか、お前! 今のなんだよ!」


「あ?」


「『あ?』じゃねぇよ! 最初の光の龍といい、今の気味悪い能面といい! お前の得意属性は《火》と《気》のはずだろ! ていうか光属性はお前の弱点属性だろうが!」


 この世界には『属性のルール』が存在する。

 使用できる魔法は得意属性である二つの属性しかないはずなんですけど!


「言ったろ。『爪』の力を見せるって。これが神器――『四宝』の力だ」


「説明が雑! もっと分かりやすく!」


 自棄になった俺はとりあえずストレスを発散するために叫びます。

 だって無性に腹が立つんだもん!

 チートは俺だけで十分だっつうの!


「はぁ……。説明しなくても分かるだろうが。つまり、この『爪』を装備している間は、俺の得意属性に《光》が追加されるっつうわけだ。当然、弱点属性からも排除される」


「そんなん反則だろ! どんだけ強くなっちゃうんだよ!」


「お前にだけは言われたくねぇんだが……。ちなみにそれだけじゃねぇぞ。最初使った魔法の《光龍波》は気属性と光属性を合成した、俺だけのオリジナル魔法だ。本来はリリィのような大魔道士にしか使えない大技だが、これも『爪』の恩恵っつうわけだ」


「合成魔法まで!? チート反対! 断固拒否!」


 まるで駄々っ子のように叫ぶ俺。

 でもこれでさっき背後に受けた衝撃の正体も分かった。

 たぶん光魔法の《シャインイクスプロウド》を気魔法で加工して、俺に気付かれないように背後に仕掛けておいたってところだろうな。

 いやらしい攻撃をしおって……!


「これで分かったか? 今の俺はお前と張り合えるくらいの力を手にしたんだ。お前の弱点である光属性を徹底的に攻めれば、俺にも分があるっつうわけだ」


 再び爪を構えたデボルグ。

 ……確かに、これはヤバい。

 一見脳筋っぽいデボルグだけど、実は戦略家なのは俺もよく知っている。

 俺の動きとか弱点とかを研究された上に、爪のチートが重なるとかなり厳しい。


「どうしよう。負けそう。チート爪にこのクソ黒剣が完全に劣ってる。これだったら前の剛炎剣のほうがまだ使い勝手が良かった気がする。どうしよう。もう降参してもいいですか」


「……本気で言ってるんだったら、俺はてめぇに幻滅するぜ。そんなヤワな奴を王として認めるわけにはいかねぇ」


「最初から認めてもらってる気が一切しないんですが!」


「うるせぇ。だったら本気を出せ。そしてその黒剣とやらを早くマスターしてみせろ」


「え……?」


 デボルグの言葉にキョトンとする俺。

 黒剣をマスターしろ……?

 え? もしかして、俺のために戦ってくれてる……?


「な、なんだよ、その顔は……」


「……えーと……もしかして、その…………ツンデレ?」


「誰がツンデレだ!!」


「ひいぃ!!」


 鬼の形相で光龍波をぶっ放されました……。

 相変わらずヤクザ並みに怖いですね!


「俺が勝ったら一日中裸エプロンを着させるからな。覚悟しろや、カズハ!」


「ちょっと待てい!! 勝手に決めんじゃねぇよ、コノヤロウ!!」


 でもこの鬼畜デボルグならやりかねない……!


 ――この戦い、絶対に負けるわけにはいかない!





「随分と遅くなってしまったな……。だが、これでエルフィンランドに渡ることが――」


 ドラゴンゾンビを連れたセレンが村を迂回し砂浜に到着した。

 しかし彼女はそこで立ち止まる。


「……何をしているのだ、あいつらは」


『グルゥ……?』


 彼女の目の前で繰り広げられてるのは、二刀の黒剣を構えたカズハと爪を構えたデボルグとの死闘。

 両者とも一歩も引かず、必死の形相で激戦を繰り広げている。


「これは訓練か……? しかし、あの追い詰められたようなカズハの表情と、獲物を狩るかの如く鋭い目つきをしたデボルグは一体……?」


『グルルゥ……』


 セレンは知る由もない。


 これが裸エプロンを賭けた、男同士(?)の負けられない戦いだということを――。


















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