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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず嘘を吐くことでした。

「あの…………誰ですか?」


 意味が分からん。

 このコスプレ姉ちゃんはどうして魔王の玉座に堂々と座っているんでしょうか。

 あたま大丈夫なのかな……。

 ……いや、ちょっと待つんだ。

 よく状況を見て考えろ。

 もしかしたら魔王の妹さんかも知れないじゃないか。

 たまたま魔王が留守をしていて、この城を守っている……とか?


『貴様は……女か? ……いや、違うな。……ふっ」


「おい今俺の胸見て言っただろ! 失敬な奴だなお前!」


 魔王の妹らしき姉ちゃんを指差し怒鳴りつけると、姉ちゃんは足を組み直し俺をじっと見つめました。

 ……あの赤い目は確かに魔族の証だ。

 じゃあやっぱり妹さんかな。

 そんなの初耳なんですけど……。

 でもまあ、一応聞いてみよう。


「なあ姉ちゃん。魔王はどこいったのか教えてくれよ」


「……おかしなことを聞く奴だな。貴様の目の前におるではないか。この世界最強にして、恐怖の象徴である魔王グランザイムが」


「……」


 なんか話が通じていないっぽい。

 目の前って言われても、どこにも見当たらないんですけど……。

 魔王グランザイムっていったら、めっちゃ身体がデカくて異様な雰囲気を醸し出しているおっさんのことなんだけど……。

 うーん、どうしよう。


『貴様は何故一人でここにおるのだ? 他にも仲間がいるだろう。憎き・・大槍使いの男と・・・・・・・魔術師の女・・・・・が』


「……へ?」


 憎き大槍使いの男……?

 それってたぶんグラハムの事じゃね?

 じゃあ魔術師の女っていうのはリリィの事……?

 ……どうなってんの?


『似合わん女装などして我を愚弄するのもいい加減にしろ……!』


「いやいやいや! 女装とかじゃないから! 変な言いがかり付けるのはやめてください!」


『我が最強の魔剣、咎人の断首剣クリミナルダークネス――。この世に二本とあるはずのない魔剣を貴様が持っていることが何よりの証拠……!』


 玉座から立ち上がった姉ちゃんは腰に差した剣を抜いた。

 ……あれ? 魔剣を持ってるってことは……?

 ……。

 …………。

 あ、そういうことか。

 可能性があるとすれば、ひとつだけ――。


「お前……『前世の記憶』があるんだな?」


『……くく……くはは! 前世の記憶だと? 貴様は何を言っている? 我は今日という日を予言しておったのだ! 毎晩毎晩、夢に出てくる憎き勇者ども……! 一度ならず、二度までも我に勇者の剣を突き立てた愚か者をこの手で捻り潰せる日を、今か今かと待っておったのだ……!』


「……」


 ……うん。

 いや、それたぶん予言とかじゃなくて、一周目と二周目の記憶の断片なんだと思います……。

 つまりこいつは、『俺と同じくこの世界をループしている魔王』ってことだ。

 条件は一緒。

 三周目で何故か女に転生してるところまで、ね。


『勇者が憎い……勇者が憎い……。夢の中とはいえ、我を愚弄した勇者が…………憎い!!』


「おっと」


 いきなり魔剣を振り抜き、斬撃を飛ばしてきた姉ちゃん――もとい三周目の魔王。

 俺はそれを素敵ステップで避ける。


『……ほう? 我の一撃をかわすとは……。さすがは勇者といったところか』


「いやだから勇者じゃねぇし」


 どうしよう。血の気が多いところは前世とまったく変わっていない。

 説明しようにも本人は『予言』ってことで納得しちゃってるから、聞く耳持たないだろうし。

 ていうか本当のことを言っちゃったら、余計に俺が憎くなって殺しにかかってくるだろうし……。

 どうしたもんか。 


『……ふん、怖気づいたか。まあよい。見たところ貴様も嘘は言っていないようだ。さしずめ勇者の血縁者……といったところか。死にたくなくば、今すぐここに勇者を差し出せ。奴の仲間である大槍使いの男と魔術師の女もだ』


 魔剣の切っ先を俺に向け睨みつけてくる魔王。

 どうやら俺が女だということはギリギリ容認してもらえたみたい。

 ……うん。

 ちょっとだけ凹んでいる俺がいる……。


『どうした? ここで死にたいのか? それとも褒美が欲しいのか? ……良いだろう。もしも憎き勇者ら三名を我に差し出せば、何でも望むものを一つだけ与えよう』


「え? マジで? 今、『何でも』って言った?」


『……あ、ああ。言ってみろ。我が用意できぬ物など、この世に存在せぬからな」


 あれ? これってもしかして良い話なんじゃない……?

 どうやって魔剣を奪おうかと考えていたけど、貰えるんだったらそれが一番楽な方法なわけだし。

 問題はどうやって俺の身代わりを用意するかってことなんだけど……。

 ……。

 ………。

 ……うん。まったく思い付かない……。


 それにどうせ魔剣なんてくれないだろうしなぁ。

 魔族が約束を守るなんて聞いたこともない。

 危ない危ない。

 罠に掛かるところだった。 


『言うてみよ。おぬしが欲しい物は何だ?』


 俺がモジモジしていると魔王が答えを催促してきました。

 なので俺は真っ直ぐに前を見て、ビシッと人差し指を魔王に向けてこう言いました。


「………………魔王が欲しいです!!」


「………………は?」




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