060 古代の科学者はなんてモンを作ったんだ。
伝説の鍛冶職人ゼギウス・バハムートが俺のために作ってくれた二本の黒剣。
――《血塗られた黒双剣》。
今さっきまで正式名すら忘れていた禍々しい剣だけど、使い方をおさらいしておきます。
この黒剣は鞘に納められた状態だと普通の剣とさほど変わりない感じなんだけど。
鞘から抜いた途端に死ぬほど重たくなって、剣から発生した赤黒いオーラが俺の全身を覆います。
このオーラが俺に宿る魔力を吸って、それを切れ味に変えているみたいです。
赤黒いオーラに覆われている状態だと、俺の得意属性・弱点属性は共に無効化されてしまいます。
今の俺は火魔法と陰魔法を消失しているから、弱点である光魔法と闇魔法だけ無効化されるので総合的な防御力はかなり高まるってことなのかな。
ここで問題なのは、今の俺の魔力でどのくらい抜刀していられるかってことなんだけど――。
「……まぁ、使ってみないと分からないよね」
俺の眼前で天に向かい咆哮を続けている土の神獣は全長20メートルを優に超えているだろう。
何千年も眠りについていたのか、全身の所々に錆だか苔みたいのが付着しています。
あれを全部綺麗に磨いて、奴の身体の至るところに埋まっているゼノライト鉱石を採掘したら全部でいくらになるんだろう……。
『グオオオォォォォ!!』
俺の心の声が聞こえたのか。
土の神獣は咆哮と共に大きく腕を振りかぶり、俺に目がけてその腕を振り下ろした。
「あっぶ……!! あんなのまともに喰らったら一発で死ぬだろ!!」
巨体に似合わず意外なスピードで拳を振り下ろしてきたので、ビックリして心臓が止まるかと思いました。
大きいのに速いなんて、そんなチートいりません!
「あかん。最初から全力でいかないと死ぬ」
大きく深呼吸し、心を落ち着かせます。
そしてふと土の神獣に目を向けると、今度は何やら両腕を前に構えているではありませんか。
……嫌な予感がする。
『ウガアアアアァァァ!!』
ズババババババ!!
「うおっ!? 何だ!? マシンガン!?!?」
両手から指を弾くように何かを打ち出してきた土の神獣。
あれは――ゼノライト鉱石か!
ズバババババン!!
「いたい! ハチの巣にされる!! マジ無理!!」
鞘で何とか防いでいるが、弾の数が多すぎる。
ていうかマシンガン撃つゴーレムって何だよそれ!
そのうちビームとかも撃ってくるんじゃ――。
「……」
俺と目が合った土の神獣はおもむろに口らしきものを開けました。
そこに何やら大きな魔力が集まってきている気がします。
「…………本当に?」
俺の質問に答えるかのように、土の神獣の口に集束した魔力が一気に拡散しました。
「ちょっ、待――」
ひゅん、という音が一瞬だけ聞こえ。
大きくその場を跳躍した俺は後方の海に視線を向けます。
――ドゴオオオオオオオオォォォォン!!!
「……」
レーザーは見事、海に照射されました。
漁船とかに当たっていないことを願おう……。
『ギギギ……ギガガガ……』
「マシンガンにレーザー……。どこかの国の機械兵かなにかですかね……」
魔術禁書を作りだしたのは、魔法遺伝子の研究を進めた古代の知勇アーザイムヘレストの子孫だと聞いたことがある。
その魔術禁書を守るために神獣がいるのだとして、その神獣は一体誰が作ったんだろう。
「ラクシャディアの古代図書館で文献を漁れば何か出てくるかもしれないけど……。今は完全に国交断絶状態だからな。今はいいや。あんまり考えない」
土の神獣は次の攻撃に備えるため、再び魔力を収束し始めている。
さすがにあのレーザーは連発できないか。
マシンガン攻撃による手数で圧倒し、魔力が集まったらレーザーでドカン。
言ってしまえば中距離攻撃型のボスモンスターってとこか。
「速いと言っても俺以上のスピードじゃないし、懐に潜り込めれば勝てる。……よし」
『ウガアアアアアア!!』
ズババババババン!!
再びマシンガン攻撃を繰り出してきた土の神獣。
俺は正確にそれを避けつつ距離を詰める。
「《スライドカッター》! 《ストライプ・トラスト》!!」
避けきれない弾丸は納刀したままの黒剣で弾き返す。
この距離で抜刀はまだ危険だ。
だって抜いたら超重くなるんだもん、この剣。
土の神獣の足元まで近づいた俺は、今度は二刀流スキルを発動する。
「まずは膝から! 《ツインブレイド》!!」
ドゴン、という音と共に納刀状態の剣を土の神獣の膝部分に発動。
少しだけ体制を崩したのを見逃さず、俺はそのまま奴の身体を駆け上がった。
「スベる! 苔やら錆やらで上手く登れない! もうやだ!」
『ギギギ……』
土の神獣さんと一瞬目が合いました。
意外と可愛い目をしているんですね。
「……じゃねぇだろ! 口開いてるじゃん! レーザーぶっ放されちゃう!!」
わき腹辺りまで登り、そこで上空へ跳躍する。
そのまま俺を追い、天に向かいレーザーを照射した土の神獣。
「《エアギア・シュート》!!」
上空で片手剣スキルを発動し、その反動で高速移動し間一髪セーフ。
でもちょっとだけ前髪が焦げた……。
「てめぇ……! 女の子の髪はとっても大事なんだぞー!」
『ギギ……?』
また土の神獣さんと目が合いました。
その目、ぶっ潰してやる!!!
鞘から二刀を同時に抜く。
黒剣から赤黒いオーラが発生し、俺の全身を覆っていく。
「おらあああああ! 《エクセル・スラッシュ》!!」
両腕を伸ばし土の神獣の目に向かい急降下。
二刀流スキルと急激に重くなった黒剣の混合技!
言葉どおり『重い一撃』を喰らいやがれ!!
ズガン!!
『グアアアアアアァァァァァ!!!』
見事右目に突き刺さった黒剣。
そのまま後方に倒れ込む土の神獣。
「見たか! これが俺の力だ!!!」
土の神獣の目から剣を抜き、天に翳す。
「あ……! 魔力が吸われる……! 鞘は……鞘はどこ! あれ、この剣、手から離れない! 鞘はどこー!」
ブンブンと手を回しても一向に俺の手から離れる気配の無い二本の黒剣。
無理に振り回すと肩が脱臼しそうだし、何なのこれ……!
「あ、あった! 早く……! 早く鞘に戻さないと……!」
『ギギギギ……』
浜辺に落ちていた鞘を拾い、再び剣を鞘に納めた。
勢い余って上空で鞘を投げ捨てちゃったから危なかった……。
ていうか、抜いたら手から剣が離れないなんて知らないよそんなこと!
これ鞘無くしちゃったら延々と魔力を吸われ続けて死ぬじゃん、俺!!
「ゼギウス爺さんめ……! そういうことは先に言っておいてよ!!」
これアレだ。
二刀同時に抜刀したらアカンやつや。
一刀は予備で腰に帯刀しておいて、もう一刀を基本は抜刀術みたいな感じで使わないと駄目だ。
二刀流スキルは納刀状態でも使えるのは知っているから、もし使いたい場合は左手に鞘を持っておけばいい。
右手に黒剣。左手に鞘で二刀流。
危なくなったら即納刀。
絶対に鞘は投げ捨てたら駄目。死ぬ。
『௧ஊ௩௪௫ ௯௰௱கஅ உஔகட ணதநன ௩௪௫௬௭ ஆஇஈஉ ஊஎஏ கஙசஜ ஞதநன
ப௭௮க ஙசஜரலள……』
土の神獣が詠唱を始めました。
あー、はいはい。いつものパターンね。
土の禁術を使って俺もろとも自爆、みたいな。
「まあ、大体使い方分かったし、これで終わりにすっか。危なくなったら即納刀。絶対に鞘は投げ捨てたら駄目」
何度も復唱し、黒剣の使い方を頭に叩き込む。
そしてとりあえずその場に一刀を置き、もう一刀を納刀状態のまま身体の前に翳した。
「これで終わりだ。楽しかったぜ、土公神。――――《絶・ツーエッジソード》!」
隠し二刀流スキルを発動と同時に、抜刀する。
右手に黒剣。左手に鞘。
防御を捨て、全ての魔力を黒剣に。
そして、俺は地面を蹴った。




