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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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059 先人には心から敬意を払うべきです。

 港町グランザルに到着した俺達はそこで一旦解散した。

 デボルグは港に向かい、小型船の購入交渉を。

 セレンは酒場に向かい、旅立つ前に一杯やって英気を養いに――。


「……って、こんなときでも酒を飲むのかよ! これだから魔族ってやつは! プンプン!」


 中央市場でひとり大声で叫ぶと、周囲にいた買い物客が次第に俺から離れていきます。

 ……あかん。

 いちおう変装はしているけど、今や俺は世界中のギルドから命を狙われる身なのだ。

 なるべく目立たないように行動しないと、色々と面倒臭いことになる。


――チクリ!


「いてっ!! なんかケツに刺さった!?」


 急に尻を針で刺されたような痛みを感じ飛び上がる。

 これは……毒針?


「油断したな魔王! その毒針はアゼルライムス最大のモンスターでもあるグランドドラゴンさえも痺れさせ、行動不能にさせるほどの猛毒を仕込んだ針だ! お前ら! 今がチャンスだぞ!」


 フードを被った冒険者風の男が叫ぶのと同時に、別の二人の男が俺に襲い掛かってきた。

 一人は棘のついた鞭のような武器で俺の全身を拘束し。

 もう一人は光魔法を詠唱し、俺の周囲に徐々に光の檻が出来上がっていく。


「貴様の弱点は《光》と《闇》! この拘束系の光魔法でお前を生け捕りにし、このままギルド本部へと連行してやる!」


 完全に光の檻に捕えられた俺を見て勝利を確信する三人の冒険者達。

 はぁ……。

 街に到着して早々に襲撃されるなんてついてねぇ……。


「あー、お前らさ。どこの国のギルドに所属してんの? その恰好だとラクシャディア?」


 痛む尻を擦りながら質問する。

 なんかだんだん尻がジンジンしてきたし……。


「くく、いつまでそんな軽口を叩いていられるかな……? もうそろそろ意識が朦朧とし始めてきただろう? このまま大人しく俺達と共に来てもらう――」


――ジャキーン!


「……へ?」


 一瞬のうちに光の檻が砕かれ、光魔法は消失した。

 俺は黒剣を鞘に収め、今度は全身を拘束している棘鞭に手を掛ける。


「えい」


ブチブチブチ!!


「ええええええ!? その鞭はラクシャディア製の剛鋼を練り込んで強化した破壊不可能と言われた鞭なのに……!?」


「!! おい、お前! 余計なことを……!」


「……へぇ」


 ニヤリと笑った俺の顔を見て青ざめる三人の冒険者達。

 俺は再び黒剣に手を伸ばし、格好良く刃をぺろっと舐めて威嚇しようと少しだけ鞘を抜きます。


「あ……。やっぱ力が抜ける……。意識飛びそう……」


「チャンスだ! もう一度光魔法を――」


「ええい! この使えない剣め! えい! えい! えい!」


ゴン! ゴン! ボコン!


「う……が……」


 三連続で冒険者達の頭を叩き一瞬で撃沈。

 もう剣というより鈍器だなこれ……。


「何故……? 毒針が効いていたんじゃないのか……?」


 先ほどのフードの男が顔を上げ、俺に手を伸ばします。

 俺は後ろを振り向き、こう叫んでやりました。


「俺のケツ筋を舐めんな!!!!」


「ケツ…………筋…………パタリ」


 気絶してしまった冒険者を背に、俺は髪をかき上げ勝利のポーズを決めます。

 だって観衆が見てるんだもん。

 ポーズくらい決めなくちゃね。


「あの魔王……半端ねぇぜ……」

「一体どんなお尻をしているのかしら……」

「あれが噂に聞く魔王カズハ……。噂ではアゼルライムスの姫が行方不明になっているのも、あの魔王が誘拐したせいだとか……」

「いや、それだけじゃないぞ。我が国の宝とされている勇者と精霊も、あの魔王が誘拐したらしい。戦乙女とまで言われた国の救世主が、まさかそんな外道だったとは……!」


「……」


 ……うん。どうしよう。

 ぐうの音も出ない!


「あー、ちょっとそこの観衆達」


「きゃああ! 魔王がこっちを向いたわ!」

「逃げろ!! 誘拐されて死ぬまで強制労働を強いられるぞ!!」


「……」


 阿鼻叫喚。

 一瞬で俺の周囲からは人っ子一人いなくなりました。


「あんのギルド公報を書いたやつ……! 絶対に許さないもん……!!」


 目に涙を浮かべた俺はそっとその場を立ち去りました。


 泣いてなんていないもん!





「はぁ……。どうすっかなぁ……」


 街の片隅にある廃墟に身を隠し溜息を吐く俺。

 デボルグが帰ってくるまで暇だけど、街をうろつくわけにもいかないし。

 変装したって髪型と服装を変えたくらいじゃ熟練のギルドの奴らだったらすぐにばれちゃうし……。


「ていうかセレンは堂々と酒場に向かったけど大丈夫かよ……。いちおうあいつも手配書載ってんのに……」


 ……いや、ここは逆に考えよう。

 手配書に載っているような凶悪犯罪者がこんなに日が高いうちから堂々と酒場に行くわけがない、と。

 世界ギルド連合が最も危険視しているのは俺なんだし、案外他の仲間達は狙われていないのかもしれない、と。

 ていうか奴らも今までの傾向から、俺じゃなくて仲間を狙ったら俺が逆上して暴れ回るということは嫌でも知ってんだろ。

 今しがた俺を狙ってきた冒険者はラクシャディアからの刺客なんだろうし、アゼルライムスにあるギルドはエリーヌの親父さんが抑えてくれているみたいだし。


「でもどうしよう……。ガロン王も俺のことを認めてくれたとは言っても、さすがに女同士の結婚までは認めてくれないんじゃなかろうか」


 エリーヌは王に手紙を残したと言ってたけど、俺が親だったら納得できないと思うし……。

 むしろ『大賛成だ!』とか言われたら俺のほうが王の頭を心配してしまうし……。


「……まあいいや。あんまり深く考えるのはやめよう。それよりもやるべきことをやっておかないとな」


 よいしょっと立ち上がり、俺はこっそりと裏門から街を抜け出した。

 ここから海岸線に沿って北東に10ULほど向かうと精魔戦争時代に作られたとされる寂れた古墳がある。

 今は誰も住んでいないその場所に目的のもの・・・・・が隠されているのだ。


「あいつは神獣の中でも一番カタイからな。レベルが99に戻った俺とこの黒剣で、何ターンで倒せるのか試すのにちょうどいい」


 道中のモンスターを瞬殺しつつ最速で古墳へと向かう。

 勝手に街を抜け出したと知られたらまた皆に怒られるから、戻って来る前に決着をつけておこう。

 うんうん。俺、策士。


 砂浜を抜けた先の丘に小さな古墳が見えてきた。

 断崖絶壁のすぐ上に立てられた古墳なんだけど、地元の人からは『なんでこんな場所に古墳なんて立てたんだろうねー』って昔から不思議がられているみたいです。

 その崖をちょちょいと登って古墳の内部に侵入します。


「失礼しまーす」


 崩れかけた瓦礫の建物の中を慣れた足取りで進む俺。

 そして古墳の中心に立てられた巨大な石碑の前で、神妙な面持ちをしながら掌を合わせてお祈りをします。

 数千年前の戦争では、数多の種族がこの海岸線で志半ばで命を落としたと聞いています。

 その戦死者を敬い、こうやってお祈りすることは人間族として当然の行いだよね。


「…………はっ!」


 バリーン! と音を立て崩れ去っていく石碑。

 俺の感謝の正拳突きが見事炸裂し、巨大な石碑の内部から一冊の書物が出現しました。


「数多の命よ……。無事に天界へと誘われますよう……」


 涙を拭き、俺は宙に浮かぶ書物に手を伸ばしました。

 そう――これは禁断の魔術禁書。

 そしてこの古墳の名称は『土公神の古墳』――。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 書物から眩い光が発生し、古墳全体が大きく揺れ出しました。

 俺はうそ泣きを止め、一旦その場から退避します。


『グググ……!! グオオオオオオオオォォォォ…………!!!』


 地の底から響いてくるかのような叫び声で俺の耳がきーんって鳴ってます。

 断崖絶壁が崩れ、古墳そのものが立ち上がりました。

 ……いや、違うか。

 古墳じゃなくて、魔術禁書を守る土公神ゴーレムだな。

 あ、ちなみにこの崖から採れる鉱石は『ゼノライト鉱石』と呼ばれていて、世界で一位二位を争うほど硬い石なんですよ。

 つまり、この馬鹿でかいゴーレムは全身がゼノライト鉱石で出来ているアホみたいにカタイ神獣だってことだ。


「よーし! やる気でてきた! 久々に全力で戦えるぜ! ひゃっほう!!」


 二刀の黒剣の鎖を解き、俺は大きく息を吸い、吐いた。

 六つ目の魔術禁書――『土の魔術禁書』。

 それを手に入れて俺は、アルゼインとエアリーを迎えに行く……!


 土の神獣VS魔王カズハ。


 勝負の行方は――。

















 

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