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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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056 何だかシリアスな話みたいだけど、俺にはそんなの関係ありません。

【注】アルゼイン視点です。ちょこっとシリアスなので読み飛ばしてもOKです!

 エルフ族の国、《エルフィンランド》――。

 四つの島国からなる小国は今、苦渋の選択を迫られていた。


 精魔戦争から数千年の歳月が経った今でも、彼らは頑なに人間族を拒み続けている。

 そんな彼らに変化が見られてきたのはつい最近のことだ。

 長年行方を眩ませていたエルフ族の皇女、エリアル・ユーフェリウスがエルフ族の戦士アルゼイン・ナイトハルトと共に帰国したのだ。


 病魔を患い死去したばかりのエルフの女王の後継者争いが絶えない中、皇女の帰国に国民は安堵した。

 すぐさま国を挙げて宴が開かれ、新しい女王による王政が敷かれた。

 制限君主制であるエルフィンランドでは絶対王政とは違い憲法による権力の分散が図られている。

 分散とはすなわち、二権分立――『王政』と『民政』である。


 そして新しい憲法に明記された『人間族との調和』。

 主要六カ国の一員ながら、長年世界ギルド連合と距離を保ってきたエルフィンランドにとって、これは大きな躍進と思われた。

 だが――。





「アルゼイン様がお戻りになられました!」


 城に戻ると、兵士らが一斉に私に敬礼をした。

 私はそれを一瞥し、傍らにいる兵士に魔剣を預ける。


「女王陛下に伝言を。無事に魔王の能力を封じ、世界ギルド連合との盟約を果たしたと」


「はっ!」


 すぐさま女王のいる宮殿に向かった伝令の兵士。

 私は鎧を脱ぎ、玉座に座る。


「あーあ、疲れた。ねえ、なにか飲み物を用意してよ」


「かしこまりました。シャーリー様」


 すぐ横にある別の玉座に座る女戦士。

 シャーリー・マクダイン。

 エルフ族と吸血族のハーフであり、民政を仕切っている妖竜兵団のナンバー3にあたる将軍だ。


「アルゼイン様。お身体の具合は如何でしょう。魔術禁書は強大な魔力を消耗すると聞きます。消失した陽魔法によるお身体の影響も調べなくてはなりません」


「ねえねえ、レイヴン。前から聞きたかったんだけど、あなた隊長のことが好きなんでしょう。私のことはこんなに心配してくれたことなんて一度も無いのに」


 茶化すように玉座に座ったまま下から見上げるようにそう言ったシャーリー。

 男の名はレイヴン・リンカーン。

 生粋のエルフ族の戦士であり、父はエルフ族の英雄とも呼ばれた男だ。

 シャーリーと同じく妖竜兵団に所属する将軍であり、隊長補佐でもある。


「……お前は何を言っているんだ? アルゼイン様のおかげで今の我々があるのだぞ。エルフ族の救世主であり、行方不明だったエリアル皇女を我が国に連れて帰ってくださったのだ。お身体の心配をして何がおかしい」


「エリアル姫様を連れ戻したのは余計だったんじゃない? 姫様が戻らなければ王室もそのまま崩壊してただろうし、私ら妖竜兵団がこの国の代表として民主主義の名の元に世界と対等に渡り合えただろうに」


「それは違うな。お前も見ていただろう。あの骨肉の後継者争いを。『王政』と『民政』――。これら二権のバランスがとれてこそ、我らがエルフ族は繁栄し続けることができるのだ」


「繁栄、ねぇ……。姫様はあんなだし、隊長は腰抜けだし、こんなのが国の代表だと思うと悲しくなってきちゃうわ」


「……」


 そのまま視線だけを私に向け、ニヤリと笑ったシャーリー。

 彼女の挑発は昨日今日に始まったものではない。

 特に私に対する言動は、同じく純血のエルフ族ではないことに対する当てつけなのだろう。

 長年奴隷として虐げられてきた『ダークエルフ族』。

 奴隷制度が廃止されていないこの国から逃げてきた母は海を渡り、アゼルライムス帝国で兵士として働いていた父と出会った。

 そして生まれたのがこの私――。

 高貴な少数種族である吸血族とエルフ族のハーフであるシャーリーがやっかむのも無理はない。


「アルゼイン様。姫との会談にはまだ時間が御座います。少し休まれては如何でしょうか」


「……そう、だな。そうさせてもらおう」


 確かに少しだけ眩暈がする。

 これが陽の魔術禁書を使用した副作用なのか、単に疲れが出ているだけなのかは分からない。

 それに、この玉座はあまり座り心地が良くない。

 私には不釣り合いなのだ。

 『人の上に立つ』ということ自体が、そもそも私には向いていない。


「では、お部屋にご案内いたしましょう」


「必要ない。お前は隊長補佐としてまだ仕事が残っているだろう」


「あら、フラれちゃったわね、レイヴン」


「……だから、何度言ったら――」


 言い合う二人をそのままにし、私はその場を後にした。





 ――私が『エルフ族の英雄』と呼ばれたのは、とあるエルフ族の問題にギルドとして派遣され、それを解決したことがきっかけだった。


 エルフィンランドにある四つの島国の北西島――通称『エルフの里』と呼ばれる島で起きた内部紛争。

 レイヴンの父である里の族長が、彼を失脚させようとする反対勢力に捕えられ、無実の罪に着せられていた。

 反対勢力はそのほぼ全てがダークエルフ族で構成されていた。

 彼らの主張は、奴隷制度が廃止できない原因は『王政』にあり、その王族の一員であるエルフの里の族長が権力を握り、法律で制定されているはずの制限君主制に違反しているとの内容だった。


 両者の間に入り、まずは人質の解放を要求するも、彼らはそれに耳を貸さず。

 悩んだ末、私は自身がこのエルフの里の出身だと明かし、母がダークエルフ族だと明かした。

 同じ『奴隷の血』が流れている者が、族長の解放を求める――。

 数日に及んだ交渉の末、ようやく話し合いの場を設けることに成功した私は、諜報ギルドに集めさせていた資料を彼らに提示した。


 そこに記載されていたのは、彼らが主張していた事とはまったく異なる内容だった。

 エルフの里の族長は制限君主制に違反などしておらず、むしろ奴隷制度反対派として長年活動してきた功労者だったのだ。

 さらにそこには彼ら反対勢力を偽の情報で操った者の名まで記載されていた。

 南西島にある反王政勢力である『紅魔兵団』。

 精魔戦争時代に魔王軍に蹂躙されたエルフ族の末裔で構成された右翼兵団には少ないながらも魔族の血が混ざっていた。

 本当の敵が誰なのかが明確になり、彼らと共に南西島へと攻め入り、紅魔兵団ら全てを拘束することに成功したのだ。


 英雄アルゼイン・ナイトハルト――。

 その名は瞬く間にエルフィンランド全土へと広がっていった。





 自室の扉を開き、大きく息を吐く。

 どうやら今の今まで全身が緊張していたようだ。

 軽く首の骨を鳴らし、テーブルに置いたままのウイスキーに手を伸ばす。


「…………カズハ…………」


 かつての仲間の名を知らず知らずのうちに呟いていた。

 後悔など、していない。

 彼女と出会う前からずっと、この未来は用意されていたのだ。


 エアリーも同じことを考えているだろう。

 彼女は私と違い、ずっとカズハのことを想っていた。尊敬していた。信頼していた。


 ――だが、彼女は皇女だ。

 女王が死去した今、国に戻り国民を守る義務がある。

 しかし、彼女だけで国を支えていくことは出来ない。

 この国は『王政』と『民政』の微妙なバランスにより成り立っている。

 民政側にも誰かが必要だ。

 女王に即位したエアリーを、王政の外から支える『協力者』が――。


「……裏切り、憎しみ、悲しみ。その全てが私に集中する。……それでいい。それが私の望みだ」


 アックスプラント王国の国費から盗んだ金は全て奴隷解放のための資金に充てた。

 エアリーはそのことを知らないし、これから栄えていくエルフィンランドに盗んだ金を充てたくはない。

 世界ギルド連合との盟約を果たした今、国を運営していくための援助金は潤沢に回ってくるだろう。

 世界は今、第25代魔王――カズハ・アックスプラントの挙止に注目している。

 今がエルフィンランドを立て直すチャンスなのだ。


 ――だが。

 少しでも気を緩めるとカズハの笑顔が脳裏に浮かんでくる。

 彼女は私の悪事を知っていたはずなのに、それを何も言わずに見逃してきた。

 私がアックスプラント王国建国時には幹部として招くように言ったときも、彼女は笑いながら二つ返事で首を縦に振った。

 普段からろくに仕事もせず、ただダラダラと酒ばかり飲んでいても、決して私を解雇しなかった。


「……」


 ――考えることを止めよう。

 いつまでも心を乱されていては国を立て直すことなどできない。

 きっとカズハは仲間を連れ、この国を攻めてくるだろう。

 エアリーを取り戻すために。


 そして――。


「…………ちっ」



 ――私を、取り戻すために。


















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