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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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054 陽の魔術禁書ってある意味最強魔法かもね。

「……」


 一際大きなフェアリードラゴンに跨り、上空から俺達を見下ろしているアルゼイン。

 その目は氷のように冷たく、表情からは一切感情が読み取れない。


「カズト……。これは……」


 何か言いたげなユウリだったが、俺の横顔を見て口を噤む。

 さすが優秀な補佐官は俺の心を読むのが早い。


「アルゼイン様。如何致しましょう。このまま魔王城を落とし、世界ギルド連合に我らが軍の名を知らしめましょうか」


 兵の一人がアルゼインに話しかけている。

 様子から察するにおそらく妖竜兵団の幹部かなにかだろう。


「……いや、いい。カズハを――第25代魔王を侮るな。お前らが束になったとしても勝ち目はない」


「はぁ? 勝ち目はない? そんなへっぴり腰でよく隊長なんてやっていられるわね」


 その横にいる女兵士が肩を竦めている。

 こいつも幹部の一人だろうか。

 アルゼインを含めたこの三人が乗るフェアリードラゴンには特別な装飾が施されていた。


「……カズハだけではない。奴の部下たちも、その一人一人が一騎当千級の猛者どもだ。まともに戦って敵う相手ではない」


「……ちっ、この腰抜け隊長が」


「おい、シャーリー。口の利き方に気を付けろ。今は目の前の敵に集中するのだ」


「はいはい、っと」


 幹部の男に窘められ、バツが悪そうな表情をした女幹部。

 それでもアルゼインは無表情のままだ。

 ……とまあ、会話が聞こえてきたわけじゃないから口の動きから推測しただけだけど。


「おい! アルゼイン! てめぇ、他国の軍隊なんざ率いてきて、何してやがんだ!!」


 溜らず上空に向かい叫んだデボルグ。

 俺のすぐ横で急に叫ぶから、今俺の耳はきーーんって鳴ってます……。


「……」


 それでもアルゼインは何も答えない。

 ただ冷たい氷のような目で俺達を見下ろすだけ。


「……操られているのか? だとしたら、一緒にエルフィンランドに向かったエアリーも危険というわけか。ユウリ、魔剣を我に」


 ユウリの腰に差してある魔剣に視線を落とし、渡すように促すセレン。

 しかしユウリは静かに首を振り、それを拒んだ。


「……?」


 何故、魔剣を渡してくれないのか理解できず首を捻ったセレン。

 俺は横目でそれを見たあと、大きく息を吸った。


「おーーーい、アルゼインーーー!! 聞いてくれよーーー! 俺、魔王に認定されたっつうのに、こいつら誰も驚いてくれないんだよーーー!!」


 両手を伸ばし大声で上空に向かい叫ぶ。

 そしたら俺の仲間たちはみんな頭を抱えて蹲りました。

 ……どうして?


「……何、あれ。あんなのが魔王? 噂に聞いていたのと全然違うんだけど」


「戦乙女カズハ・アックスプラント……。世界を救い、そして世界を滅ぼす悪魔、か。我が姫は奴を崇拝していたようだが、それも今日で終わりだ。……アルゼイン様」


 幹部の男に促され、アルゼインは一瞬だけ表情を曇らせた。

 だがすぐに表情を戻し、懐から一冊の書物を取り出した。


「……へ?」


「あれは……!」


『……௧ஊ௩௪௫ ௯௰௱கஅ உஔகட ணதநன ௩௪௫௬௭……

 ஆஇஈஉ ஊஎஏ கஙசஜ ஞதநன ப௭௮க ஙசஜரலள……』


 アルゼインの周囲に強大な魔力が膨張していく。

 まるで太陽のような紅い球体から発せられた閃光に、魔王城全体が照らし出されていく。


「《陽》の魔術禁書――――」


 魔術禁書の詠唱がこんなに早く終わるはずがない。

 つまり、アルゼインはすでに時間稼ぎをしていたわけだ。

 『魔術禁書の詠唱を心の中でする』――。

 俺がゲイルとの戦いで実践してみせた方法を、彼女は真似たのだ。


 詠唱が終わり、彼女は呟く。

 そして陽の禁断魔法が発動した。


「――――《法則復元ロウ・レストレイション》――――」


 一瞬にして凝縮した光が俺の身体を貫いた。

 まるでレーザービームのようなそれは、俺に避ける間も与えてくれなかった。


「カズハ……!!」


 あまりの出来事に仲間達が俺の周囲に駆け寄る。


「……あ? 傷一つ付いてねぇぞ。どういうことだ……?」


 どさくさに紛れて俺の服を捲って身体の状態を確かめているデボルグ。

 でも俺はそれどころじゃありません。


「目がーーー! 目が潰れたーーー! レーザーの光で目が潰れたーーー!!」


「……」

「……」


 その場でゴロゴロして悶絶するも、誰もなにもコメントしてくれません。

 眩しい!

 目がチカチカする!!


「……これでカズハに掛けられた『陰の禁断魔法』は封印した。陰と陽は裏表……。再びこの世界の『法』に縛られた彼女は、神でも悪魔でもない。ただの人間だ」


「なら、もうここに用は無いわね。姫様からも、魔王とその仲間は殺すなって言われてるし……。力を封印しちゃえば、あとは他の国がなんとかしてくれるんでしょう?」


「我らは人間族同士の争いには介入しない。だが世界平和協定条約の第三条第四項を無視するわけにもいかない。これが最大限の譲歩だ。ラクシャディアとユーフラテスもこれで納得するだろう」


 上空の三人はそれぞれ背を向け、兵士らに撤退の指示を出している。

 つまりエルフィンランドの奴らの目的は、俺の力を封印することだったみたい。

 それにしても目が痛い。


「おい、追わなくていいのかよ! 一体、何がどうなってやがんだ!」


「ユウリ……。貴様なら何か知っているのだろう? それに……カズハも」


「はぁ? 『知っている』って……お前ら、何を隠してやがんだ?」


 デボルグとセレンに詰め寄られるユウリ。

 ようやく目が見えるようになった俺は埃を払って立ち上がります。

 そして引き上げようとしている妖竜兵団に向かい、再び叫びました。


「アルゼインーーー!! 分かってると思うけど、お前も、エアリーも、絶対に迎えに行くからなーーー!! お前が何をしようと、俺の仲間なんだからなーーー!!!」


「……」


 俺の声が届いたのか。

 一瞬だけ動きを止めたアルゼインだったが、こちらを振り向くことはなかった。


「アルゼイン様」


「気にするな。約束は守る。今更裏切るわけがない。……裏切れる、わけがない」


「どうだか。姫も隊長も、ずいぶん長いことあの魔王の元にいたみたいだし? 情が移っちゃってるんじゃない?」


「……その口、二度と利けないように斬り落としてやろうか」


「おお、こわ。失礼いたしました~」


 魔王城から去っていく妖竜兵団たち。

 そして一気に静かになった空。


「あー、ビックリしたー。まさか魔術禁書を使ってくるとは思わなかったー」


 そう言いつつ空間をタップし、自身のレベルを表示させる。


「レベル99……? カズハのレベルが元に戻っている……?」


「うん。陰の禁断魔法の《制限解除リミッター・ブレイク》と陽の禁断魔法の《法則復元ロウ・レストレイション》は表裏一体の魔法だからな。あいつがどうやって陽の魔術禁書を手に入れたのかは知らないけど、まさかこんな場面で使われるとは予想もしてなかったよ。あっはっは」


「笑いごとじゃねぇだろ! いい加減説明しやがれ! どうしてアルゼインは裏切ったんだ? 操られているんじゃないのか? エアリーはどうなったんだよ!」


 デボルグに胸倉を掴まれて前後に揺らされます。

 ……おい、お前。

 それどさくさに紛れて俺のおっぱい触ってるだろ。

 ていうか胸倉を掴んでいるというより、胸を掴んでいるだろ。


キーーーン!


「あ……が……」


 デボルグの下腹部を蹴り上げたら前のめりに倒れました。

 セクハラ野郎はそこで気絶でもしていなさい。


「セレン。エリーヌ達を起こしてきてくれ。とりあえず俺とユウリが知っていることを全部話す。……ったく、どうしてこんなに色々と同時に問題が起きるんだか……。全然ゆっくりできねぇじゃん。俺、昼寝したいのに」


 ということで。

 皆を集めてアルゼインの秘密を暴露しちゃおうと思います!


 ……まあ、俺がユウリに調べさせて判明した範囲内だけどね。



















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