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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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049 逃げるようにエーテルクランを出発しました。

 次の日の朝。

 闘技場に向かった俺は本戦に出場を決めたタオとミミリを応援するため選手控室へと向かった。

 昨夜は夜遅くまで行われた予選を勝ち抜き、連日の試合に臨む二人。

 まあ普段モンスターと戦ってばかりの俺らだから、そんなことは屁のカッパって感じなんだろうけど。


「あ、カズハ。応援に来てくれたアルか。……って、その剣、どうしたアルか?」


 控室の扉を開けるとタオが出迎えてくれた。

 部屋の中を確認すると、他にいるのはミミリだけだ。

 これなら偽名を使わなくても安心か。


「うん。ちょっと軽く封印しておこうと思って。さっき雑貨屋に寄って頑丈な鎖と錠を買ってきたんだよ」


 ジャラリと音を響かせ、鎖でグルグル巻きにされた黒剣を取り出す。

 雑貨屋で購入したのは『ヴェリウム金属』と呼ばれるこの世界に存在するちょっと硬めの金属に、陰属性の魔法が注入された魔法の鎖だ。

 俺が昔よく使っていた陰魔法の《緊縛》を、鍛冶段階で金属内に閉じ込めたんだって。

 たぶんゼギウス爺さんが作った炎剣ドグマも、そんな感じで作った武器なんだろうね。

 俺、鍛冶についてあんまり詳しくないから知らんけど。


「封印、ですか。そういえば昨日、アゼレスト山脈で大規模な崩落があったと聞きましたけど……」


「ぎくり」


「ああ、それなら私もさっき受付のお姉さんに聞いたアル。予選の最中だったからぜんぜん気付かなかったアルけど、こっちのほうまで地鳴りが聞こえてきたみたいアルね。お姉さんの話だと、地殻変動にしては崩落場所がおかしいし、火山が噴火したわけでもなさそうだし、肉眼で見る限り『まるで何か巨大な剣で斬られたかのような跡』が残っているとか言っていたアル」


「へ、へぇ~」


「……」

「……」


 二人の無言の視線が俺に突き刺さる。

 俺は冷や汗を流しつつ、視線を宙に泳がせてしまう。


「……アゼレスト山脈。その剣で試し斬りしたアルか?」


「……してません」


「アゼレスト山脈といえば、世界三大山脈のうちのひとつとして世界遺産にも登録されています。それを誰かが故意に崩壊させたとあったら、その責任は重大だと思うのですが……」


「故意じゃねぇし! この剣が悪いの! 俺が悪いわけじゃ――――あっ」


「……」

「……」


 ……つい、本音を漏らしちゃいました。

 俺の馬鹿!

 どうしてこんなに簡単に釣られちゃうんだよ!


「……ホント、すいません。昨日ちょこっと剣の性能を調べてみようと思って、そーっと片手剣スキルを使ってみたんです。そしたらギュイーンってなって、ズバーンってなって、それから遠くのほうからゴゴゴゴって音が聞こえてきて……。だから封印しました。ホント、ごめんなさい」


「あほアルかっ!! だからひとりで行動させたくなかったアルよ! 『問題を起こさない』って約束したのを忘れたアルかああぁぁぁ!!」


「ごめんなさい! ごめんなさい! だからすねを蹴らないで! 痛い!」


 鬼のような形相でタオが俺の脛を何度も蹴ってくる。

 まるでヤンキーからカツアゲされているみたいだ!


「どうしましょう……。アゼルライムス帝国は私達に対して友好な姿勢でしたけど、自国の世界遺産を崩壊させたと知られたら……」


「あ! そうだ! 良い方法がある! 俺が昔覚えた陰魔法の《癒着》とか使えるんじゃね? いまいち使い方が分からなくて放置してた魔法なんだけど、俺が陰魔法を取り戻したらその魔法を使って無理矢理崩れた山をくっつけちゃえばいいんだ!」


「……嗚呼……もう駄目アル、この女王……」


 俺の提案を聞き、膝から崩れてしまったタオ。

 そして彼女の肩に優しくそっと手を添えるミミリ。

 いやいやいや!

 結構良い考えだと思うんだ!

 ていうか、それしかない!

 俺のこの溢れんばかりの魔力を行使すれば、不可能なことなどない!


「そうと決まれば、さっさと帝都に向かってエリーヌに事情を説明してこなくちゃ! 俺が魔法を取り戻せば全てが丸く収まる! じゃあ、そういうことで! お前ら、試合頑張れよ!」


 それだけ言い残し、俺は一目散にその場から逃げた。

 ……いや、逃げたんじゃなくて、帝都に向かった。


「あ……ちょっとカズハ! …………行っちゃったアル」


「大丈夫なのでしょうか……。また向こうで問題を起こしてくるんじゃ……」



 ――後に残された二人は、がっくりと肩を落としておりました、とさ。





 エーテルクランの街を逃げるように出発した俺は、南に約900ULの位置にある帝都アルルゼクトへと向かう。

 道中では雑魚モンスターに何度も遭遇するが、鼻息だけで撃破。

 そのうち瞬きだけでも倒せるようになるかもしれないね。


「帰ったら絶対にゼギウスの爺さんに怒られる……。各国を説得しに行ってるルルやリリィにも怒られるだろうし、ルーメリアやアルゼインあたりは遠回しに嫌味とか言ってきそうだし……。嗚呼……超憂鬱……」


 俺はどうして、いつも問題を起こしてしまうんだろう。

 何かに呪われてるのかな……。

 ループの呪いは解けたはずなのに……。


 エリーヌにはアゼレスト山脈の件は黙っていようと思ってたけど、一瞬でタオやミミリにバレたくらいだからたぶん無理だ。

 ここは正直に全部話して、気分をスッキリさせておこう。


『グオオオォォォ!』


「うるせぇな! 今真剣に悩んでる最中なんだよ!」


 カキーーーン!


 全身が岩石に包まれたような中型の竜系モンスターが咆哮を上げつつ突進してきたので、俺は黒剣を振りかぶり場外ホームランで撃退。

 音速で吹っ飛んでいったモンスターは一瞬でお星様になりました。


 とにかく、だ。

 今は調子に乗らず、大人しく、姿勢を正して、エリーヌに会いに行くこと。

 そして早急に俺の得意属性を取り戻して、再び魔法を使えるようにすること。


「のんびり旅をするつもりだったのに、いつも俺、走ってばっかりだな……!」


 俺の嘆きが平原に木霊する。



















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