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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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048 もう二度とこの剣は使いたくありません。

 無事タオとミミリの服を購入した俺は、彼女らと別れて街を出た。

 二人ともこれから闘技大会の予選に参加するみたいだけど、さすがに予選くらいは勝ち上がると予想。

 明日の出発前には本戦の第一試合が開始されるみたいだから、それだけ観戦して帝都に向かうことにしました。


「ええと、確かこの辺りに……。……お! あったあった」


 エーテルクランから北に30ULほど歩いた先にある、小高い丘。

 周囲が毒の沼地に犯されているため、滅多に人も動物も立ち寄らない場所だ。


「ここなら試し斬りしても被害は出ないだろ。人いないし」


 腰に差した二刀を眼前に構え、まじまじと眺める。

 ……。

 ゼギウス爺さん、よくこんな危なっかしい剣を加工できたな……。

 まだ鞘から抜いていないのに、ヤバいくらいの魔力が刀身から溢れ出してる気がする。

 『早く抜いてぇ……! 早くヌイテェ……! 生き血吸いてぇ……! 喉がカラカラだぜぇ……!』みたいな幻聴が聞こえてきそう……。


「……そー」


――ゾクゥッ!!


「…………パチン」


 ……ちょっとだけ鞘から抜いてすぐに戻しました。

 やっぱ、これヤバい剣だね!

 軽く抜いただけで俺の魔力がガンガン吸われてるのがすごく分かるね!


「なんだっけ……。『俺の魔法遺伝子に反応して、俺の魔力を切れ味に還元する』だっけ? で、『抜いている最中は属性が無効化される』とかも言ってたよな……」


 ゼギウスから教えてもらった剣の特性を思い出す。

 剣を抜くと得意属性も弱点属性も無効化されて、鞘に戻すと属性も元に戻る。

 つまり魔法を使うときは剣を鞘に収めていないと使えない。

 そんで、敵が俺の弱点属性に対して攻撃を仕掛けてきたときは、剣を抜いて防御すれば被ダメージを減らせる……ってことかな?


「……今の状態の俺にはまったく必要のない性能ですね」


 すでに『筋肉最強! マッチョ万歳!』な戦乙女になってしまった俺は、素手で地面に隕石が落ちたくらいの大穴を開けることが可能だ。

 その状態の俺がこんな禍々しい剣を使わなきゃいけない状況になったら、世界が破滅するどころの騒ぎじゃないだろ。

 ていうか魔法だって本当に使えるようになるか分からんし。


「……。まあいいや。人生何が起こるか分からないからな。検証するに越したことはない」


 二刀のうち一刀を地面に置き、ちょっとだけ後ろに下がる。

 そして腰の辺りで鞘を抑え、居合のような姿勢で剣を構えた。

 鞘に剣を収めたまま使える、一番弱い片手剣スキルは《ファスト・ブレード》だ。

 汎用性の高い《スライドカッター》の半分以下の威力で、最近じゃ滅多に使わないスキルなんだけど。


「さっと抜いて、さっと戻す……。うん。これでいこう」


 何度も頭の中でイメージする。

 さっと抜いて、さっと戻す。さっと抜いて、さっと戻す……。


「……」


 丘に吹く風が一瞬止んだ。

 今だ――!


「《ファスト・ブレード》!!」


 片手剣スキルを発動し、黒剣を素早く振り抜く。

 抜いたと同時に赤黒いオーラに身を包まれ、がくんと急激に魔力が吸われる感覚に襲われた。


「さっと戻す!! ……痛てっ!? 焦ってちょっと手斬っちゃった!」


 鞘に戻す瞬間、鞘を持つ側の手を負傷。

 ちょっと血が出ちゃった……!

 せっかくイメージトレーニングしたのに!


………………ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


「ん?」


 なんか遠くの方から地鳴りが聞こえてきました。

 え? 地震?


「…………」


 目を凝らして音の方角を見てみると、丘の遥か先にある、アゼルライムス帝国で一番大きなアゼレスト山脈が徐々にずれていくのが確認出来ました。


「…………」


 ええと……うん。

 今の状況を冷静にまとめようか。

 えー、俺は今、目の前の丘に《ファスト・ブレード》を使いました。

 で、見事に斜めに斬れたわけなんだけど……。

 それがどうして、アゼレスト山脈まで同じように斜めに斬れたのかな……。

 ……。


「……ま、まぁ、あそこに人は住んでいなかったと思うし、もしかしたら俺のせいじゃなくて、たまたま同じ時間に天変地異が起きて山がずれたっていう可能性もあるし……。大丈夫、きっと許してもらえる!」


 現実から目を逸らした俺は、そっと剣を拾い、その場を去ろうとします。


『ニン……ゲン……』

『ナマミノ……ニク……』


 ボコボコと音を立て、毒の沼地から這い出してきたゾンビ系モンスター。

 何だよ! 今忙しいんだよ!

 俺が山脈を崩壊させたってバレたらアゼルライムス王にめっちゃ怒られるんだから!


「どいて! うわ、めっちゃ出てきた! なんでこのタイミングなんだよ!」


『ニク……クイタイ……』

『クワセロ……シンセンナ……ニク……』


 地面から腐った手が伸び、足首を掴まれる。

 次から次へと這い出して来るゾンビ達。


「……そうか! この剣の邪悪なオーラがこいつらを引き寄せてるのか……! あ、ちょっと! どこ触ってんだよ!!」


 あっという間に何十体ものゾンビに囲まれ、もみくちゃになってます。

 クサいし、ドロドロだし……!

 ええい! まとめて吹き飛べ!!


「おんどりゃああああああああああぁぁぁ!!」


 その場で一回転し、回し蹴りを炸裂。

 一瞬で全てのゾンビ達が吹き飛び消滅したのはいいけど、もう全身泥まみれ。

 マジで最悪……。


「……駄目だ。また服屋に寄って新しいの買わなきゃ。くそっ、ついてねぇ……」


 大きくため息を吐いた俺は、そのままトボトボとその場を後にしました。





 服を買って宿に戻った頃には日が暮れ。

 俺はそのまま大浴場に向かいました。


「……はぁ。やっとドロドロと臭いが取れた……。もうやだ。今日はもう風呂上がったら寝よう」


 身体を綺麗に洗い終わった俺は湯船に浸かる。

 そして目を閉じ、今日起きたことを記憶から消去する。


 あの剣――なんちゃら黒双剣は、もう使わないほうがいい。

 明日になったら雑貨屋で頑丈な鎖でも買って、絶対に鞘から抜けないようにグルグル巻きにでもしておこう。

 俺だったら剣を抜かなくても、鞘だけで十分戦えるし。

 あの刀身に宿る強大な魔力を封じているほどの鞘だから、ちょっとやそっとじゃ壊れないだろ。


「ゼギウス爺さんに見られたら何か文句言われそうだけど、あれは作った爺さんが悪い。俺が悪いわけじゃない」


 何度も自身にそう言い聞かせ、俺は風呂から上がる。

 その際に少しだけ左手が気になり、視線を落とした。


「……? さっき切っちゃった指の間が、もう治ってる……」


 というか、治っているどころか、傷痕すら残っていない。

 ……どういうこと?


「……うん。どうせもう抜くことないから、どうでもいいや。寝よう」


 風呂を出た俺は身体を拭き、宿へと戻った。

 明日はエリーヌに会う日だ。

 なんかしょっちゅう会っている気がするけど、それは過去の世界の話。

 魔王を倒してから彼女に会うのは、今回が初めてだ。


 色々と、話そう。

 過去で起きたことも、これからのことも。

 もう彼女に嘘を吐く必要はない。

 俺の想いも含めて、全部、彼女に――。


 

 ……アゼレスト山脈のこと以外は。


















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