047 水着姿のチャイナ娘とウサ耳娘って需要ありますかね。
「いやー、食った食ったぁ。味はともかく、量はすげぇからなぁ。エーテルクランの飲食店は」
パンパンになったお腹をさすり、雑貨店を冷やかしに回る。
そろそろタオたちも闘技大会の受付を終えて試合を始める頃だろう。
日も暮れそうだし、軽ーく観戦したら、俺も新しく作ってもらった武器の試し斬りとかしたいし。
人気の無い荒野かどっかを探さないとね。
間違えて街をひとつ滅ぼしちゃったら取り返しがつかないから。
一通り雑貨店を回り、露店でアイスを買った俺はその足で闘技場へと向かう。
もうこんな時間だというのに、会場入り口は闘技大会の参加者で溢れ返っていた。
「すげぇな、数が……。一体何人参加してるんだ?」
人ごみを掻き分け、受付のねーちゃんの横に立てられているボードを確認する。
今大会も各ブロックに分けられていて、トーナメント方式を採用しているようだ。
優勝賞金は2000万Gか……。
前に俺が参加したときよりも、賞金が倍になっていやがる。
「ええと……『今大会は参加者多数のため、参加受付の前に事前審査があります』?」
その下には昨日の時点での参加者数が記載されていた。
52401人。
今日のこの混雑ぶりを見ると、すぐにでも六万人に達しそうな勢いだ。
「賞金も参加者も前回の倍……。開催期間は最長一ヶ月だから、確かに事前審査とか必要かもな……」
この混雑は事前審査とやらのせいか。
通常だったら参加証を見せるだけでいいもんな。
受付も簡単だし、誰でも参加できたはずだし。
「あ、ちょっと、そこのお姉ちゃん。この『事前審査』って何のことか教えてくれる?」
たまたま近くを通りかかった運営側っぽい姿格好をしている姉ちゃんを捕まえて詳細を聞いてみる。
「はい。かしこまりました。詳しくはあちらのギルドボードに記載してあるのですが、今大会に参加するために新しく設けた『三つの審査』をクリアする必要が御座います」
以下、お姉ちゃんの説明の要約。
①個人武器の使用を禁止。暗器等の隠し武器も禁止。運営側が用意した大会用の『片手剣』『短剣』『大剣』『槍』『斧』『杖』および素手での競技
②アイテムの使用制限。各自回復アイテムは一回まで使用可。使用可能アイテムのランクは『C』までとする。その他のアイテムの持ち込みは禁止
③魔法やスキルの使用制限。束縛系、誘惑系、混乱系、状態異常系の魔法やスキル、およびそれらに類した魔法・スキルの使用禁止。付与魔法、肉体強化スキルはこれに属さない。攻撃魔法、攻撃スキルに関しては制限を設けない
以上三つの参加条件を無視し、不正を使って潜り抜けようとする輩が多いらしい。
そのために事前に綿密に審査し、不適正と思われる参加者を振るい落とす。
「使用制限に関しては、こちらで用意した能力制限用のアイテムを装備していただく形になるのですが、それらを打ち消す能力を身につけている参加者も多数おります。そういった参加者は参加を辞退していただくか、能力の破棄、およびそれに近い形での封印を運営側で確認できなければ事前審査をクリアできません」
「……うん。すごく難しくて俺にはよく分からん」
丁寧に説明してくれたお姉ちゃんには悪いが、頭が痛くなってきた俺はそっとその場を立ち去ろうとする。
まったく、どうしてこんなに参加条件が厳しくなったんだろうな。
今まで参加してきた奴で、とんでもないチート持ちでもいたんだろうか。
ホント迷惑な話だぜ……。
「……あの、もしかして貴女は……いや、そんなことありませんね。彼女は今、世界的犯罪者として指名手配を受けているはずですから」
「ぎくり」
冷や汗を掻いた俺は、そのまま硬直してしまう。
もしかしてこの姉ちゃん……。
どこかで見た顔だと思ったら、前に俺が大会に参加したときに参加賞を手渡しした受付の姉ちゃんか……?
「ひ、人違いではないでしょうか……! それじゃ、俺……わたしは、これで!」
「あ……」
忍者のように素早くその場を立ち去りました。
髪型や服装は変えてあるけど、あんまりウロウロしてると鋭い奴には勘付かれちまうかもな……。
まだここがアゼルライムス帝国だから、そんなに俺を敵視している人間が少ないってだけだし。
一応、帝国を救った戦乙女だから。俺。
「あ、カズハ。来ていたアルか」
「おま……! 馬鹿!」
「ほぇ……? ひぇ!?」
たまたま俺を見つけたタオが、参加者のごった返している会場で俺の名を呼んだ。
俺は素早くタオの口を塞ぎ、大慌てて会場から外に出る。
「もご! もごもご! ……ぷはっ! いきなり何をするアルか!」
「そりゃこっちの台詞だろ! あんな混雑してる場所で堂々と俺の名前を呼ぶんじゃねぇ!」
「……あ」
ようやく自分のしでかしたことを理解した様子のタオ。
「俺達は今、世界ギルド連合から指名手配されてんだぞ! ……まあ、アゼルライムスだとそんなに手配書が出回ってないし、俺らを狙うのは賞金首を狙う暗殺ギルドくらいだと思うけど……」
「そ、そうだったアル……。確か私も手配書で危険度『B』に指定されていたアルよね」
「……お前、まさか本名で参加登録していないよな?」
一応、確認だけしておく。
さすがの俺だって前回のときは偽名を使ったり変装したりして参加したんだから。
「そこは大丈夫アルよ。事前審査っていうのが厳しかったアルけど、本名までは調べられなかったアルから。登録名は『マオ』にしておいたアル。でも念のため、闘技場に上がるときはチャイナ服は止めようと思うアル」
「ああ、それがいいな。……で、ミミリは?」
「彼女はまだ事前審査中アルね。手配書にも載っていないアルし、本名で登録しても問題ないと思うアルけど、彼女も『ミミ』で偽名登録するみたいアル」
それを聞いて胸を撫で下ろす。
どのタイミングで俺の新しい仲間が手配書に載っちまうか分かったもんじゃない。
まあゲイルが載るのは全然構わないんだけど。
むしろ思いっきり載ってもらったほうが良い。
世界を崩壊させた罪で。
「よし。じゃあミミリ呼んできて服買いに行こうぜ。二人分買ってやるから」
「本当アルか! カズハが初めて女王らしいことを言っているアル……!」
「……お前、超エッチな水着とかにしてやろうか。観衆の目が集中して戦い辛くしてやろう」
「……謝るアル。それだけは心底勘弁して欲しいアル……」
本気で怯えた顔をしているタオ。
ていうかそんな格好で大会に出たら、滅茶苦茶目立っちまって正体がバレるだろ。
とりあえず地味で無難な服を買ってやろう。
「あ……皆さーん! 私も登録終わりましたよー!」
闘技場の入口からミミリの声が聞こえてきた。
ちょうどいいから、このまま三人で雑貨店に向かおう。
ミミリたんにはどんな服がいいかなー。




