046 ちょうどいい訓練場所が見つかりました。
「ふわあぁぁ……よく寝たー」
むにゅ。
「ん?」
寝袋から腕を伸ばし大きく伸びをしたところで何かを掴んだ。
しかも両手同時に。
右手と左手で大きさの違う、悪魔的に柔らかいそれらは――。
「あ……ん……」
「むにゃむにゃ……。カズハ……ちゃんと歯を磨いたアルかぁ……にゃむにゃむ」
……うん。
ミミリとタオのおっぱいでした……。
そういえば、この狭いテントで三人並んで一緒に寝たんだっけか。
「おーい。起きろー。朝だぞー。おっぱい一号、おっぱい二号ー」
むにゅ。むにゅ。
起きないと、もっと揉むぞー。
「…………あ、おはようございます。カズハ……様?」
「うん。おはよう、ミミリ」
ようやく起きたおっぱい一号。
否、ミミリたん。
「……。あの、どうして私の胸を……その、楽しそうに揉んでいらっしゃるのでしょうか?」
「早朝から握力アップの訓練と言えば納得してもらえるでしょうか」
「……はぁ」
さして気にもせず首を傾げるだけのミミリたん。
この反応は、完全に俺を女の子扱いしちゃってますね。
なんか寂しい……。
「……カズハ」
「あ、タオも起きたか。おは――」
ガンッ!!
「……ッ痛って!! お前! それ鍋の縁……! 超いてぇ!!」
「朝から勝手に人の乳を揉むからアル。そんなに死にたいアルか」
中華鍋を構え、めっちゃ怖い顔で闘気を高めていくタオ。
鍋裏じゃなくて縁を使って殴ってくるあたり、本気で俺の頭蓋骨を陥没させようという気満々なのが分かる……!
もしかして、鍋を構えたタオが世界最強にして最恐なのではないのか……!
それにしても痛い!
涙が止まらない!!
「ここは……逃げるが勝ち!」
「あ! 待つアル! 逃がさないアルよ!」
慌ててテントを飛び出す俺と、般若のような顔で追いかけてくるタオ。
今日も俺達パーティは、平和そのものです――。
◇
「タオさん!」
「分かっているアルよ! 同時にいくアル!」
朝の騒動が終わり、無事に精霊の丘を下った俺達一行。
エーテルクランの街までは、残り二時間ほどという距離まで歩いてきました。
俺は朝の粗相で荷物持ちに降格。
ミミリとタオは訓練を兼ねて、パーティの先頭に立ってモンスターと戦っています。
……ていうか重い。この遠征セット。
「自然の驚異をその身に刻め! 《ローズトーン・リストレイション》!」
「ナイスアル! はああああぁぁ!! 《波動衝孔掌》!!」
木魔法で召喚した巨大なバラでモンスターを拘束&継続ダメージを与えたミミリ。
そこに体魔法と格闘スキルの融合技でトドメを刺そうとするタオ。
うん。いい感じの連携技。
『ギ……ギギギ……!』
「まだ倒れないアル……!」
しかし攻撃力が弱いのか。
モンスターを仕留めきれずに悔しがるタオ。
「大丈夫です……! これで……!」
すかさず地面を蹴り、タオの背後から飛び出し追撃を喰らわそうとするミミリ。
彼女の手には刀身に炎を纏った炎剣ドグマが。
「はあああああぁぁぁ!!」
空中で一回転し、そのまま炎剣を振り下ろしたミミリ。
剣撃と同時にバラの蔦に火が燃え移り、火だるまになり消滅したモンスター。
「おー、ちゃんと炎剣も役立ってるじゃん」
「あ……ありがとうございます!」
俺の言葉が嬉しかったのか。
顔を真っ赤にしつつ慌てて頭を下げたミミリ。
「はぁ……。この辺りのモンスターは帝国内でもそこまで強くないアルのに……。どんどん自信が失われていくアル……」
最後の渾身の一撃で仕留められなかったのがそんなにショックだったのか。
大きく肩を落とし溜息を吐いたタオ。
「嘆いてばかりでは駄目ですよ、タオさん。一人では難しくても、二人で協力すればちゃんと倒せたじゃないですか。私ももっと精進しますから、一緒に頑張りましょう?」
「ミミリ……。うん、そうアルね……! 今の連携も悪くなかったアルし、付与魔法を上手く使えば攻防にもっと幅が広がるアルし……」
俺のことなどまったく無視して、二人でワイワイ反省会を始めちゃってる……。
何度も同じことを言わせてもらうけど、俺……女王……。
「おーい。反省会はエーテルクランに到着してからでもいいだろ。さっさと行こうぜ。俺、お腹空いちゃったー」
二人の間に割って入り、強制的に会話を中断させました。
女の子の話って長くなるから、こうでもしないと日が暮れちまう。
……でもまあ、訓練か。
俺自身は強くなりすぎちゃったから、こういうのって何か羨ましい気もする。
目標を持つのって大事だし、こいつらの訓練に良さそうなものを探してやるのもいいのかも……。
◇
無事にエーテルクランに到着した俺達は宿に直行。
このまま今日はこの街で夜を明かして、明日には帝都に到着する予定だ。
「なんだか中心街のほうが騒がしいアルねぇ……」
「何でしょう。見に行ってみましょうか」
タオとミミリに誘われて、俺も渋々中心街へと向かうことにした。
まだ日も高いし、今日は飲食街で食うのもいいかな。
「あれは……」
ミミリが指差す方角には、屈強な戦士達が出入りする闘技場が立っていた。
「あー、そうか。闘技大会やってんじゃね? 魔王も倒されてこの辺りも平和になったから、今回はずいぶん参加者が多そうだけど……」
「……平和になったら闘技大会の参加者が増えるアルか。なんだか変な気もするアルけど、案外そんなものなのかも知れないアルね」
呆れた様子でそう答えたタオ。
まあ言いたいことは分からなくもないが、一種の祭典だからな、これ。
「皆さん、実力がありそうな方ばかりですね……」
ミミリが炎剣の鞘をギュッと握り締め、参加者の列を眺めている。
ふーん……。
そういうことか。
「よし。お前ら参加してこい」
「……え?」
「はぁ?」
俺の言葉が聞き取れなかったのか。
素っ頓狂な顔をしたまま微動だにしないミミリとタオ。
「ここまで来れば、後は帝都に行ってエリーヌに話をつけてくるだけだろ? そんなの俺一人でも十分だ」
「で、でも……」
「カズハを一人にするなとゼギウスさんに言われているアルよ。どんな問題を起こすか分からないアルから」
「一体どんな女王なんだよ俺はっ! 大丈夫だっつうの!」
「……」
「……」
……二人ともめっちゃ信用していない目をしてる。
さすがに凹むわ!
「……じゃあ、ここに『絶対に帝都で問題を起こしません』と誓約書を書くアル。それと、ゼギウスさんにはこの件を内緒にすると約束するアル」
「た、タオさん……?」
「実は私もいつかは闘技大会に参加したいと思っていたアルよ。今の自分の実力がどれくらいなのか、ミミリは知りたくないアルか?」
「それは……」
タオに問い詰められ、言葉を返すことができないミミリ。
ていうか誓約書を書かされる俺って一体……。
まあ、書くけど。
「ほい。これでいいか?」
誓約書をタオに渡し、俺は帝都の方角を指差す。
「明日の昼くらいに俺一人で帝都に向かうから、お前らは闘技大会の受付を済ませておけよ。たぶん受け付け順にすぐに試合が始まるから、装備とか体調管理とか注意な。エリーヌを連れてきたら、ユウリ達の状況を魔法便で送って知らせてもらって、まだ城に到着しないようだったら、お前らの試合結果が出るまでこの街に滞在する。以上。解散」
そこまで言って、俺は頭の後ろに手を組み飲食街へと足を向けた。
後ろで何か言っているのが聞こえるけど、追ってこないところをみると、まあ納得したんだろうな。
あとでアイスとか食べながら試合を観戦させてもらおう。
どうせゆっくりの旅なんだし、こういう暇つぶしも必要だろ。
――ということで。
お腹が空いた俺は、飲食街の中を一人で食べ歩きすることにしましたー。