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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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045 そろそろ本気で隠居生活を考えています。

 ということで、魔王城を出発した俺達三人はゆっくりまったりのんびりとアゼルライムスへと向かいました。

 途中の最果ての街でタオの親父さんの店に挨拶に向かい。

 早い昼飯を食っていた大工さん達に大浴場の件とかもついでにお願いして。

 精霊の丘に到着した頃には二日目の夜を迎えていました。


「今夜はここに泊まるアル。ミミリ、テントの準備を手伝ってくれるアルか?」


「はい。もちろんです」


 なるべく傾斜の少ない場所を選び、タオとミミリは手際よくテントを張っていきます。

 俺はボケーっと星空を眺めながら、何も考えずに草原に寝転がっています。

 そしたら急に寝袋が頭上から落ちてきました。


「ぶぎゃん!」


「なーにをサボっているアルか。女の子二人が一生懸命テント作りをしているというアルのに」


 寝袋を投げた犯人はタオか……!

 鼻が潰れたじゃないか!


「なんで女王の俺がテント作りを手伝わないといけないんだよ!」


「じゃあカズハは夕飯抜きで良いアルね?」


「手伝います! 誠心誠意、手伝います!」


 くそ……!

 タオお母さんには逆らえない……!


「あ、でも食材探しも必要ですね。この辺りは食べられる野草が多く生えていますし……」


「それもそうアルね。カズハがテント作りを手伝っても邪魔なだけアルから、野草を探してもらうアルか」


 手伝おうとした俺を尻目にタオとミミリが勝手なことを言い始めた。

 邪魔者扱いをされる女王って、一体……。


「わーったよ! 探してくればいいんだろ!」


 半ば自棄になった俺はそのまま精霊の丘を駆け抜けていった。

 泣いてなんていないもん。

 めっちゃ美味そうなキノコとか採取してくるもん。


「ふふ、タオさん、カズハ様の扱い方が上手なんですね」


「まあ、付き合いだけは長いアルからね。私とルルちゃんが、今までどれだけ苦労してきたことか……」


 二人の会話は俺には聞こえず、丘に吹く風に流されていく。

 絶対、びっくりするくらいの野草を見つけ出してやるぜ……!





「うん。飽きた。もうこれくらいでいいや」


 ある程度の野草やキノコを採取した俺は再びその場で寝転がる。

 今夜は風が心地良い。

 この辺りは精霊の力に守られているのでモンスターも出てこれないし。


「魔王倒してから、狂暴化したモンスターも明らかに激減したからなぁ。世界は平和に向かいつつあるってか」


 でも魔物が減ったら、今度は人間同士の争いに発展しつつある。

 ……まあ、それはほとんど俺のせいなんだけど。


「精霊王、ゲイルにラスボス魔王……。ほんっとアホみたいに強い奴らばかり相手にしてきたから、今、この瞬間の平和がめっちゃ幸せだなぁ……」


 大きく手足を伸ばし、草木の香りを胸いっぱいに吸い込む。

 俺が望む『俺の平和』――。

 早いとこそれを実現させ、さっさと城の屋上で家庭菜園でもやりながら隠居生活を送りたい。


「あ、いたいた。こんなところでサボっていたアルか。野草は集めたアルか?」


 怖い顔をしながら俺を迎えに来たタオお母さん。

 テントの方角に視線を向けると、小さな煙が上がっているのが確認できた。

 すでに夕飯の準備はある程度整っているっぽい。

 あとは俺が集めた野草やらキノコを焼いて、食卓に添えれば準備完了。


「うん。ほい、これ」


 籠に集めたそれを乱雑にタオに渡し、今度はうつ伏せに寝転がる。

 この草原の匂いが堪らない。

 自宅にあるベッドの毛布の次に好きな匂いだ。


「またそんな場所でゴロゴロして……。服が汚れるアルよ……」


 文句を言いながらも俺の横にちょこんと腰を下ろしたタオ。

 もろにパンツが見えているんですが、お母さんは気にしないみたいです。


「なあ、タオ。今回の騒動が収まったら、俺、女王の座を降りてもいいかな」


「はぁ?」


 首を傾げたタオお母さんは、めっちゃ変な顔をして俺を見下ろしています。


「国はユウリかゼギウスに任せておけば大丈夫だと思うんだよね。ていうか俺が女王をやってるから、色々問題が生じてくるんだと思うし。そろそろ夢の隠居生活を送ろうと考えているんですが」


「……」


 俺の独り言にも似た言葉に対し、タオは何も答えてくれない。

 でも嫌な空気とかじゃなくて、なんていうか、優しい時間が流れているとでもいうのか。


「大金も手に入ったし、ずっと続いてた財政難も解決するだろう? 皆も俺がやらかしちゃった騒動を収めようと一生懸命動いてくれているし、そのタイミングで国の代表が変われば色々平和的に解決すると思うんだよね」


 そうなれば、人類が悲願し続けてきた世界的な平和が訪れることになる。

 それはつまり『俺の平和』ともマッチングするし、幾度となく続いてきたループ現象はすでに終焉を迎えているし。

 良いこと尽くめじゃね?


「……カズハはそれで、本当に良いアルか?」


 風に靡く髪をかき上げ、タオが俺を見つめてそう答える。

 何だかいつにも増して女っぽい。

 ……タオらしくない。


「うん。皆がいてくれれば、俺は何だっていいや」


 そう、軽く答えた。

 きっとこれは俺の本心だろう。

 過去の世界に飛ばされて、俺はそれを再確認できた。

 

 もう、『自分だけが覚えている』なんて、真っ平ごめんだ。

 仲間と共に記憶を継承し、限られた人生を余すことなく生きて。

 それから死にたい。


「……らしくないことを言って、何を一人で格好つけているアルか」


「いて!」


 ぺしっと後頭部を叩かれ、慌てて立ち上がる。

 今すごい格好良いこと言ったと思ったのに!


「ミミリが待っているアル。早く戻って夕飯にするアルよ」


「はーい」


 タオお母さんの言うことを聞き、野草の入った籠を持ってテントに向かいます。


 母は強し……!





「あー、旨かったぁ。ごちそうさまー」


 タオの料理をたらふく食った俺は、そのままテントの中に潜り込む。

 後片付けは頼んだぞ、タオ、ミミリ。


「ふふ、まるで子供ですね。カズハ様」


「もっと大人になって欲しいアルけどね……」


 テントの外で俺の悪口が聞こえた気がするが気にしない。

 もう慣れてるもん。


「今夜も早く寝て、明日は夜明けと共に出発するアルよ。精霊の丘を下ってエーテルクランの街までは一気に向かいたいアルし」


「そうですね。丘を下ればモンスターも出てきますから、気を引き締めていかないと」


「……そういえばミミリはカズハからもらった剣、ずっと使っているアルか?」


「はい。《炎剣ドグマ》。ちょうど私に使える大きさの細剣ですし、私の弱点属性の《火》も防いでくれますから……」


「ああ、確かミミリの装備品は陽耐性の装備だったアルね。これで二つの弱点属性をカバーできているアルから、ちょうどいいアルね」


 二人の会話が子守唄のように俺の耳に少しだけ届いてくる。

 嗚呼……お腹がいっぱいで、もう眠たい……。


「私も昔は戦力のひとりに数えられていたアルけどね……。カズハがどんどん化物みたいな仲間を集めるアルから、まったく出る幕がなくなったアルよ」


「ふふ、私もそうです。でも自分の身くらいは自分で守れるようになりたいので、時間を見つけて地道に訓練しているんですよ」


「本当アルか! 普段あれだけ働いてくれているアルのに……。今度誘ってくれるアルか? 私も最近お腹周りが気になってきて……。訓練ついでにダイエットも兼ねたいアルし」


「ええ、もちろんです。私とタオさんは得意属性も弱点属性も近いですから、お互いに知恵を出し合って身を守る術を勉強していくのも良いですよね」


 徐々に瞼の重力に逆らえずに、俺は瞳を閉じていく。

 もう駄目。眠い。


 明日も良い日になりますように……。


 おやすみ!


















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