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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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036 魔女婆さんは色々とヒントを残してくれてました。

 不気味なほどに静かな森。

 俺は項垂れたまま魔女の言葉をうわの空で聞いている。


「どうした。戦乙女ともあろう者がこの程度の試練をクリアできぬか」


 魔女の言葉が遠くに聞こえる。

 

 ――俺は、間違っていたのだろうか。

 ――俺はただ、過去から逃げていただけなのだろうか。


「……ふむ。やはりおぬしの弱点はここ・・じゃな。そしてそれを補ってきたのが、おぬしの信頼する仲間達――。ならばもう答えは決まっておろう」


 魔女が俺の傍に近づいてくる。

 俺はぼうっとしたまま顔を上げる。


 魔女の視線が俺の瞳を捉えた。

 そこに映った俺の姿の、何とも情けないこと。


 ……ホント格好悪いな、まったく。

 こんなんだから皆に心配ばかりかけちまうんだ。

 でも……俺には出来ない。

 何度同じ場所に飛ばされたって、目の前で殺されようとしている仲間を見捨てるなんて。


 ――絶対に、俺は、しない。


「……いいぜ、何度でもあらがってやるよ」


 俺は立ち上がる。

 そして闘志を胸に魔女を睨みつける。


「世界がどれだけ変わろうと知ったことか。俺の過去も、現在も、全部ひっくるめて、仲間は全員助ける。誰にも文句は言わせねぇ」


「それは自身の『弱さ』を克服したことにはならんぞ」


「知らねぇよ、そんなこと。たとえ過去とはいえ、助けられるはずの仲間を見殺しにすることが『強さ』だっていうなら、そんなモンはいらねぇ。クソ喰らえだ」


「その考えはいずれ、おぬしの命を奪うことになるじゃろう」


「やってみろよ。俺が死んだら今度は魔王にでも神にでも転生して、この世界のルールを根底から覆してやる」


 俺の言葉を聞き、じっと目を見つめてくる魔女。

 俺は目を逸らすことなく魔女の目を見返す。


「ふぉっふぉっふぉ。ならば抗ってみるが良い。果たしておぬしに覆せるかの。歴史の強制力を」


 魔女が杖を構え、天に大きく円を描いた。


「時間を少々巻き戻す。過去に飛ばすのではなく、おぬしの記憶を継続させたまま、な」


 時間を戻す……?

 この前みたいに、あの霧の先に俺を突き飛ばして過去に送り込むんじゃなくて……?


「日付は……そうじゃな。魔王軍襲来の前日にしようか」


 円の先に別世界の空間が開く。

 そこにアゼルライムス城が見える。


「……一日あれば・・・・・おぬしなら・・・・・何とか・・・出来るじゃろう・・・・・・・


「え……?」


 魔女の言葉の真意を測ろうとしたが、すでに俺は円に吸い込まれ――。


 ――そしてそのまま気を失ってしまったのだった。





「ん……」


 目を覚ます。

 辺りを見回すと、ここがアゼルライムス城にある庭園だと分かる。


「戻って来ちまった……。でも、魔女のあの言葉・・・・……」


 『一日あれば、おぬしなら何とか出来る』?

 あれはどういう意味だ……?


「いやいや、それよりも今はいつ・・だ? あのクソババアは魔王軍襲来の一日前だって……」


 とにかく今の俺の現状を把握したい。

 あの魔女は『時間を巻き戻す』と言っていた。

 ということは――。


「あ! マジだ! 12億Gがそのままある! ……っつうことは、闇ブローカーを騙して金を奪って、火の魔術禁書を返しにアゼルライムスに来た『時間』に戻されたということか?」


 過去に飛ばしたり、時間を戻したり。

 一体何者なんだよあのババアは……。


「またお会いしましたね。泥棒さん」


「うわ!」


 いきなり後ろから声を掛けられて心臓が止まりそうになる。


「必ずこの場所に戻って来られると思っておりました」


「あ……。エリーヌ……」


 彼女の姿を確認し、涙が出そうになっちまった。

 俺は目を逸らし、情けない姿を見られないようにする。


「貴女には聞きたいことが山ほどあります。オルガン様の像から奪ったものは何なのですか? 私の唇を奪った理由は、何なのですか? 貴女は一体、何者なのですか?」


 俺に詰め寄るエリーヌ。

 ……そうだ。思い出した。

 オルガン像から火の魔術禁書を拝借して、それを返しに来た途中でエリーヌに再び出くわしたんだ。

 彼女はずっと俺が戻ってくるのを待っていた。

 陰魔法の『隠密』で気配を消して――。


「……」


「どうして黙っているのですか? 何も仰らないというのであれば兵士を呼びますよ」


 ――俺は、エリーヌを救いたい。

 明日には命を落とす彼女を、見殺しになんて出来ない。


 考えるんだ。

 どうしたらエリーヌを救えるか。

 どうしたら未来の仲間を救えるか。


「……お答えにならないのですね。ならば本当に兵士を――」


「ちょっと静かにしててエリーヌ」


「え……? きゃっ!!」


 兵士を呼びに向かおうとしたエリーヌの腕を取り、こちらに向かせ、抱きしめる。

 俺の胸にエリーヌの顔が蹲る。


「何を……! 放して下さい……!」


 彼女を抱きしめたまま、俺は考える。

 何故魔女は一日だけ俺に猶予を与えた?

 魔王軍が襲来するまでの一日で、俺に何が出来る?


「放さないのでしたら、私の陰魔法で――んん!?」


 彼女の唇を俺の唇で塞ぐ。

 途中で魔法の詠唱を強制中断され、顔を真っ赤にしたまま硬直するエリーヌ。


「ん……んん……」


 目がトローンとしたまま脱力していくエリーヌ。

 陰魔法……陰の魔術禁書……。

 エリーヌの体内に封じられ、彼女の死に発現する忌まわしき呪いの書……。

 

 彼女を死なすことなく、魔術禁書だけを取り出すことは出来ないのだろうか。

 魔法……魔法遺伝子…………取り出す?


「………………あっ!!!」


 エリーヌから唇を離し、叫ぶ。

 俺の手から崩れ落ちたエリーヌは、膝から脱力し地面に両手をついてしまう。


「ユリィ……! あいつだったら、どうにか出来るかもしれねぇ!」


 アークランドにある魔法遺伝子の研究施設……!

 あのセクハラ爺も俺の失った『火』と『陰』の得意属性を復活させられるとか言ってやがったし……!

 消失した魔法遺伝子を復活させるだけの技術があるんだったら、体内に封印された魔術禁書を取り出すことも出来るんじゃね……?


「うわ……鳥肌立って来た……。あの魔女ババア、いくつも『ヒント』を残してんじゃねぇか……!」


 一日の猶予。

 このアゼルライムス城からゲヒルロハネス連邦国にある魔法都市アークランドまでは、今の俺の足で最速で半日で到着できる――!


「うぅ……。二度も知らない女性に唇を奪われて……。もうお嫁にいけないです……」


「エリーヌ! 行くぞ!」


「……はい? え? あ……ええ!?」


 地面に倒れたまま頬を染め、涙を流していたエリーヌを抱え。

 俺は庭園から跳躍し、城の城壁をひとっ跳びした。


「ど、どこに連れていくつもりですか! 放してください!」


「いいから暴れんなって! またキスすんぞ!」


「うぅ……。じょ、女性同士でそんなことをして、貴女はおかしいと思わないのですか……!」


 恥ずかしいのか、それともキスをされるのが嫌なのか。

 顔を背けたまま俺にお姫様抱っこをされて足をばたつかせるエリーヌ。


「理由は走りながら説明する! とにかく時間がないんだ!」


 もう彼女には全部話そう。

 信じてくれるかどうかは分からないけれど。



 そして俺達は最短でゲヒルロハネス連邦国へと――。


















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