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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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034 3周目の異世界が大変なことになってました。

「あー、相変わらず寒ぃなここ。早く来ねぇかなぁ、あいつら」


 魔王城にある隠し部屋で身を顰めるようにして勇者の到着を待つ俺。

 魔王軍に帝都を襲われてからちょうど一週間。

 俺はその間、闇ブローカーから巻き上げた金で最果ての街で豪遊してました。

 ……まあ『豪遊』って言っても、毎日道道タオタオ飯店に通って飯を食ってたってだけだけど。


「なんか最近調子が悪いんだよなぁ。片頭痛もひどいし。生理はまだだったと思うんだけど……うーん」


 魔獣王ギャバランを倒した次の日辺りから徐々に体調が悪くなってきた気がする。

 頭痛以外にも眩暈とか吐き気とか。

 もしかしたらこの寒気も、この魔王城が寒いんじゃなくて、熱が出てるとかかも……。


 とにかく、ここにカズト達が来て魔王を倒してくれたら俺は元の世界に戻れる。

 皆きっとビックリするぞ。

 大好きな女王様が過去の世界で大金を稼いで現世に戻ってきたって知ったら。


 あ、ちなみにギャバランを倒したあとのお話。


 魔王軍のアゼルライムス城襲来は世界中の政府に伝えられ、早急に魔王を打ち倒さねばならないと『世界ギルド連合』でも全会一致で決定。

 そしてカズトは正式に『勇者』と認められ、無事に任命式も終えたあとに皇女エリーヌと結婚。

 つまり帝都では、この一週間で二回も宴が行われたということだ。

 人間ってすごいよね。

 あれだけ帝都に大きな被害があったすぐ後だっていうのに、盛大にパーティとか開いちゃうんだもん。


「……まあ、それも俺が無双したから、死者が一人も出なかったからなんだけどね……へくしっ! うう、サブい……」


 過去が変われば、未来が変わる。

 たとえどう変わろうとも、俺は後悔などしない。

 ……と思う。たぶん。


「あ、きたきた。じゃあ後は頼んだぜ、勇者カズト様よぅ。俺はグラハムとリリィが死なないように、影でサポートしてやっから」


 勇者一行の到着を確認した俺は、暗闇の中に気配を消した。





「ここが……魔王のいる部屋か」


 グラハムの声が少し震えている。


「ええ。ついに来たわね。皆、準備はいい?」


 リリィが背後にいる三人に振り返り、声を掛ける。

 ……ん?

 『三人』?


(おいおい……。どうしてエリーヌまで一緒に来てるんだよ……)


 天井に張り付いたまま、俺は目を丸くしてしまう。

 先日勇者と婚姻したばかりの皇女が、なぜ魔王城に……?


「カズト様、グラハム様、リリィ様。決して足手まといにはなりません。ですから、全力で魔王と戦い、そして必ずや打ち倒して下さいませ」


 丁寧にお辞儀をしたエリーヌ。

 それに快く返事をしたグラハムとリリィ。


「じゃあ作戦通りに行くぞ。俺とグラハムが前衛。リリィは中衛から絶え間なく魔王を魔法で攻撃。エリーヌは後衛でパーティの回復に専念だ」


「おうよ!」

「分かったわ」

「皆さんの命は必ず私が守ります」


 四人の意志が一つに纏まる。

 そしてついに魔王へと続く扉が開かれた。


(ああ、そういうことか。エリーヌも回復魔法のエキスパートだもんな。きっとアゼルライムス王に無理を言って、魔王討伐の旅に同行させてもらったんだな……)


 過去が変われば、未来が変わる。

 すでにここはもう、俺の知っている過去ではない。


(……となると、もしかして……)





「はあああぁぁ! 《デルタブレイク・ソード》!!」

「この世に悪の栄えた試しなし! 大! 演! 舞!」

「火と光の融合を! 《神聖なる大炎槍シャイン・クリムゾンスピア》!!」


 三人の猛攻が魔王を襲う。


『ぐ……!』


 辛うじて攻撃を防いでいるが、反撃の暇を与えられない魔王。

 カズトの剣とグラハムの槍の連携には、確かに『一瞬の隙』があった。

 それがリリィの特大魔法による攻撃で見事にかき消されている。


「皆さん! 魔王の闇魔法が来ます! 《ダークネス・シールド》!」


 ようやく反撃に移ろうかという魔王の闇魔法も、エリーヌにより防がれてしまう。

 そしてまたカズトらの猛攻につぐ猛攻。

 これではさすがの魔王でも手も足も出ない。


(すげぇ……。完璧なフォーメーションだなこりゃ。エリーヌがいるだけで、こんなに違うなんて知らなかった……)


 これでは俺の出る幕など無い。

 つまり、このままグラハムもリリィも死ぬことなく、魔王が倒されるということ――。


(あ……また頭痛……。んだよ、こんなときに……)


 キーンという音が脳内に響く。

 何なんだろう、これ。

 ヤバい……気持ち悪すぎて吐きそう……。


ガキィィン!


『しまっ――!』


「チャンスだカズト!」

「今よ! カズト!」

「カズト様!」


 グラハムの槍撃が見事魔王の剣を弾いた。

 仲間の視線がカズトに注がれる。

 すでに地面を大きく蹴っていたカズトは渾身の力を勇者の剣に込める。

 その剣に左手を滑らせ、火属性の付与魔法を唱えた。


 火の赤と剣の光が調和する。

 次の瞬間、大きく燃えさかった勇者の剣が魔王を目がけて振り抜かれた。


『あ…………あああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」 


 魔王の劈くような叫び声。

 しかしまだ生きている。


「グラハム! リリィ!」


「分かっている! これが最後だ!」

「ええ! 特大のをお見舞いしてやるわ!」


 竜槍を地面に叩きつけ跳躍するグラハム。

 目を閉じ、自身の持つ最高の魔法を詠唱するリリィ。


『に、ニンゲン如きが……! 我を打ち倒そうなど、あってなるものか……! 一人ぐらいは道連れにしてやるわ……!!』


「! エリーヌ……!」


「え……?」


 瀕死の魔王はエリーヌに狙いを定めたようだ。

 大きく手を広げ、残された魔力を暴走させ、発動した。


「ちぃ! 間に合わん!」

「逃げて! エリーヌ皇女!」


 すでに最後の攻撃を発動しているグラハムとリリィは間に合わない。

 手を伸ばすカズトを横目に、魔王は死に際に狂ったような笑みを浮かべた。


「カズト様……!」

「エリーヌーーーー!!」


 ――させるわけねぇだろ。


「え?」


 エリーヌを襲うかと思われた闇の魔法が真っ二つに引き裂かれた。

 まあ、当然俺がやったわけなんだけど。


「はいはい、もう終わり終わり。さっさと魔王やっちゃって」


「君は……あの時の!」


 カズトが俺に気付いたようだが、グラハムとリリィは手を休めることはなかった。

 そのまま渾身の一撃を魔王に喰らわせる。


『ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 全身を竜槍で貫かれ、リリィの魔法により燃えさかる魔王。

 これで俺の過去の旅は終了だ。

 頭痛いから早く城に帰ってベッドで横になりたい。


 断末魔の叫びが止んだ魔王の口から光る玉が零れ落ちた。

 その光が辺りを一斉に照らし出す。


「この光は……」


 淡い光に目を奪われるエリーヌ。

 そしてカズトもグラハムもリリィも、何が起きているのか理解できない顔をしている。


「お前ら、よく頑張ったな。もう俺のことは忘れちゃうだろうけど、俺は絶対に忘れない」


「? 一体何を言って――」


 カズトがそう言いかけた瞬間。

 光が大きく弾け――。


 ――そして、意識が飛んだ。





「ん……」


 目を開ける。

 そこは見慣れた魔王城の近くにある深い森。


「おお! 戻ってきた! いやー、やっぱ現世はいいね! 空気がウマい!」


 大きく伸びをし、胸いっぱいに空気を吸う。

 そして念のために所持金の確認。


「あるある! 12億G、しっかり持ってる! これだけが不安だったんだよなぁ。過去から金を持ちこせないとか、そんな縛りが発生するんじゃないかと――」


「おい、そこの罰当たりなニンゲンよ」


「うわ! ビックリした!」


 うはうはで金勘定をしていた俺に声を掛けてきたのは皺くちゃの婆さん。

 ――否、あの魔女のクソババアだ。


「んだよ、魔女の婆さんか。ビックリさせるなよ。……ていうかお前! 俺を過去の世界になんて飛ばしやがって、一体どういうつもりだ!」


「どういうつもりも何も、すでに伝えておるじゃろう。これは『褒美』じゃと」


「褒美……? ふざけんな! 俺が一体どういう目に遭ってきたか分かってんのか! 変なコスプレとか二回もさせられたんだぞ!」


 思い出したくもない、あの出来事。

 嗚呼、この記憶を消去したい――。


「……でもまあ、楽しかったといえば楽しかったし、こうやって大金も手に入ったし特別に許してやろう。良かったな魔女婆さん。俺が心の広い人間で」


 腰に手を当て、胸を張ってそう答える。

 早いとこ城に帰って仲間達に自慢しなきゃ。


「……おぬし、まだ分かっておらんのか」


「は? 何が?」


「……はぁ」


 大きくため息を吐いた魔女婆さん。

 そして俺に背を向け、魔王城の方角を無言で指差した。


「何だよ。魔王城がどうかしたのかよ」


 言った途端、またあの頭痛がしてきた。

 キーンという不快な音が俺の脳内に木霊する。


「魔王城など、存在しない」


「……はい?」


 魔女婆さんの言葉が上手く聞き取れなかった。

 ていうかさっきから耳鳴りが酷い。


「世界は滅んだ。この世界におぬしの仲間は誰ひとりおらん」


「……」


 ……一体何を言っているんだろう。

 とうとう頭がイカれたか。

 それとも俺の耳がおかしくなったのか。


「ハハ……面白い冗談を言いますねお婆さん」


「冗談ではない。そう思うなら世界を見てみるがいい」


「……」


 婆さんの言葉に背筋が凍る。

 ……いやいやいや!

 そんなことあるわけねぇだろ!


「嘘だったら承知しねぇぞ! このクソババアが!」


 嫌な予感を吹き飛ばすために、俺は地面を強く蹴った。

 そして垂直に飛び上がる。


 一瞬で上空に飛び立ち、雲を突き抜ける。

 眼下に広がるは、三周目の異世界。


 ……。

 …………え?


「……」


 放心状態のまま地面に着地する。

 何だ……?

 今、俺が見たものは、一体、何だ?



「もう一度言おうか。世界は・・・滅んだのじゃ・・・・・・。……理由は、分かるな?」



 魔女の言葉が誰も居ない深い森に響き渡った。



















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