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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第四部 カズハ・アックスプラントの世界戦争
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027 俺にこんな格好をさせるとは、死にたいんでしょうかこいつは。

「……ん」


 あれ?

 俺、いつの間にか寝ちゃってた……?


「・・・・・・・・・!」

「・・・! ・・・・・・!!」


 なんだか周囲が騒がしい。

 ええと、たしか受付の姉ちゃんに食事を用意してもらって。

 瑠燕リュウヤンの客ということで特別に個室でゆったり休ませてもらっていたはずなんだけど……。


「さあさあ、お次は本日の目玉商品でございます!!」


「……へ?」


 ザザっという音と共に、眩い光で目を眩ませてしまう。

 一体どうなってんの……?

 ていうか、ここは何処……?


「本日ラストの競売商品! 博識かつ聡明な皆様には、この商品にどれだけの価値があるのか説明するまでもありません! 世界に二つと無い《火の魔術禁書》で御座います!!」


 おおお、という地鳴りのような歓声が上がる。

 徐々に目が慣れてきた俺は薄目を開け、周囲の状況を確認した。


 ……うん。

 なんか知らんけど、すでに競売が始まってるっぽい。

 そして何故か俺は牢に閉じ込められたままステージに上がってるんだけど。


「そして今回は特別に若い女奴隷もサービス致します! 落札価格は100,000,000Gからお願い致します!!」


「2億!」

「2億5000万!」

「3億5000万!!」


 次々と手を上げ、提示額を叫ぶ金持ちども。

 まったくこいつらときたら、魔術禁書だけじゃ飽き足らず奴隷まで買おうとするなんて……。

 ……。

 …………うん。


「奴隷って俺のことかああああああああ!!!」


 つい牢にしがみ付いて叫んじゃいました。

 ていうか全身が何故かすーすーするし。

 ……。

 …………うん。


「しかもどうしてバニーガールみたいな格好にさせられてんの俺えええぇぇ!?!?」


 ようやく自分の姿に気付きました。

 いや、俺だってバニーちゃんは好きだけど!

 でも自分がこういう格好をするのは好きじゃない!!


「4億!!」

「7億7000万!!!」


 一気に金額が跳ね上がり会場にどよめきが走る。

 何というかこの独特な、狂気に満ちた会場の雰囲気。

 でもまあ、いつでも逃げ出せるし、いくらまで値段が跳ね上がるか確認してからでもいいか。


「くく、悪いなぁ、盗賊の姉ちゃん。しかし騙されるほうが悪い。安易に相手を信頼したお前の負けだ」


「あ、瑠燕。お前もいたんだ。全然気づかなかった」


 俺を捕えている牢の脇に瑠燕ともう一人の黒服が立っていた。

 最後の競売品だから主催者自ら壇上に上がったってことなんだろうけど。

 でもまあ、つまりこいつは最初から俺に金を渡す気はなかったということだ。

 それどころか俺を眠らせて捕えて、奴隷として魔術禁書と一緒に販売するという外道中の外道。


「8億2000万!!」

「9億!!」


「見てみろ。俺の予想通り、このまま落札価格は10億を超えるぞ。過去最高額だ……! くく、笑いが止まらねぇなぁ……!」


 顔を手で覆い、来賓者たちに猟奇的な笑みが見えないように笑っている瑠燕。

 今すぐその顔をぶっ飛ばしてやりたいところだけど、何故か全身に力が入らない。

 うーん……。

 なんでや。


「10億!!!」


「とうとう10億が出ました! さあ、他にいらっしゃいませんか! 火の魔術禁書と若い女奴隷!」


 10億Gが提示された途端、会場からは声が上がらなくなった。

 悔しいけど瑠燕の予想額は当たったわけだ。


「10億250万!!」


「おおっと! 250万アップが提示されました! 他にいらっしゃいませんか!」


「くく……! おい、盗賊の姉ちゃん。250万はきっとお前の値段だぜ。安く見積もられたもんだなぁ……! くく、くくく……!」


 笑いが堪えられないのか。

 手で隠しきれておらず、隣の黒服が渋い表情をしている。

 ていうか、絶対殺す。

 こんな恥ずかしい格好をさせられて、大衆の目に晒したこいつを生かしておく道理など無い。


「……なんだ、その目は。逃げようったってそうはいかんぞ。お前に掛けた陽魔法は明日の朝までは解けないからな」


「陽魔法……? ああ、そういうことか」


 俺の全身のダルさは、陽魔法の《虚脱》だろう。

 これを掛けられたから俺は気を失っていたというわけだ。

 そして継続的にダルさが残る。


 ……でも、何だかおかしい。

 確かに魔法の効果ではあるけれど、こんなに効き目が現れるはずがない。

 だって俺の弱点属性は《光》と《闇》だもん。

 それ以外の属性魔法は、今の俺のレベルだったら基本的な魔法耐性値だけでも防げそうなものだ。


「(もしかして……。得意属性が・・・・・全部消失した・・・・・・のも関係しているのか……?)」


 ……可能性はある。

 魔法の属性は魔法遺伝子との関連性で成り立っているらしいし。

 俺の遺伝子は急激に変化してしまったのだから、突然変異みたいなので魔法全般に弱くなってしまっても、別におかしくはないだろう。


 そういえば、あのラスボス魔王と戦ったときだって、奴の魔力にかなり苦戦した。

 これだけレベルが高い俺が、いくらラスボス魔王とはいえ、倒すのにあれだけ苦労するか?

 かなりギリギリの戦いじゃなかったっけ……?


「他に御座いませんね! ……それでは《火の魔術禁書》と女奴隷!! 1,002,500,000Gで落札です!!!」


 さあ、これで競売は終了した。

 問題はどうやってこの牢から脱出して、金と魔術禁書を奪うかだ。

 すっごいダルし眠いし、気を抜くとまた気絶しちゃいそう。

 この牢もなんか硬いし、もうちょい回復しないとへし折ることは出来ないっぽい。


「落札者はシュナイゲル・アラモンド卿だな。ゲヒルロハネスで流通業の一手を担う大富豪。だが陰ではかなり特殊な性癖・・・・・を持っているとの噂だ。まあ、頑張るんだな」


 俺を一瞥した瑠燕はそれだけ言って去っていった。

 きっとこれから厳重体勢の中、金と商品の受け渡しが行われるのだろう。

 ああ、もうダルい。

 ちょっとだけ寝よう。


 俺は静かに目を瞑る。

 そして今しがた瑠燕が言った言葉が脳内で木霊する。


 『特殊な性癖』――。

 うん。

 なんかすごいヤバそうな感じしかしない。

 

 受け渡される前に逃げよう。

 それまでに急速回復に専念せねば。


















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