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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず付与することでした。

 次の日の朝。

 宿を出た俺とルルはタオを迎えにいくため道道飯店へ向かった。

 昨日はちゃっかり宿で夕飯まで食べていったタオ。

 一度家に帰り、一晩掛けてじっくりと家族を説得するのだと言っていたが――。


「タオは大丈夫だったのでしょうか……。せっかく盗賊業から足を洗い、まっとうな生活を送っていたというのに、カズハの無謀な計画を手伝おうなんて……。ご両親が納得するとは思えません」


「おい幼女。無謀とはなんだ、無謀とは。魔王から剣を盗むだけだろ」


「……はぁ」


 深く溜息を吐いた幼女はそのまま首を振って先に行ってしまいました。

 ちょっと! どうして諦めたような顔をするの!

 もっと俺とコミュニケーションを取ろうよ!


「じゃあ、親方ー! 行ってくるアルー!」


「お、時間ピッタリだな。あの様子だと大丈夫そうだぜ」


 道道飯店に到着すると、予定の時間通りタオが店を出てきました。

 彼女は俺とルルを発見すると笑顔でこちらに駆け寄ってきます。

 うん。今日もおっぱいが眩しいですね。

 チャイナ服の胸元からはち切れんばかりに自己主張をしています。

 あー、眼福眼福。 

 

「お待たせアルー。じゃあさっそく北門に向かうアルか」


 そう言ったタオは何やらぎっしりと詰まっているリュックを背負っていた。

 ……もしかしてピクニックに行くと勘違いしていないか。

 昨日もそんな感じのノリだったし……。


「ん? ああ、この荷物アルか? 昨日はご馳走になったアルし、そのお返し・・・アルよ」

 

「お返し?」


 俺がそう言うと彼女は軽くウインクをした。

 まあ『後のお楽しみ』っていう意味なんだろうけど……。 


「そんなことより、どうやってご両親を説得したのですか? まさか『魔王城に向かう』というのを隠して報告したのでは――」


「へ? どうしてアルか? ちゃんとそのまま報告したアルよ。でも『ちょっと魔王から剣を盗んでくるアル~』って言ったら、家族全員椅子から転げ落ちたアル」


「あ、当たり前です……! どうしてカズハも貴女も、事の重大性に気付かないのですか……! 二人揃って馬鹿なのですか!」


「おい幼女。誰が馬鹿だ。俺をそこのチャイナっ子と一緒にするな」


「それはこっちの台詞アル! 最初は私も驚いたアルけど、あまりにもカズハが平然と魔剣を奪うって言うアルから……!」


「おい! 俺のせいかよ! 盗んでくれるって提案したの、お前じゃねぇか!」


 店の前で三人で騒いでいると、徐々に野次馬が集まってきました。

 あかん。このままだと道道飯店にも迷惑を掛けてしまう……。

 ここの親父さん怒らせると怖いから、さっさと北門に向っちまおう。


 飲食街を抜けると巨大な鉄の門が見えてきた。

 あれがこの街をモンスターの侵入から守っている、文字通り鉄壁の門だ。

 あの門を潜るとデビルロード以上に凶悪なモンスターと頻繁に遭遇するようになる。

 勇者パーティでも平均レベルが35以上はないと厳しいかもしれないな。


「さあ、ここから先は気を引き締めていかないと危険だからな。二人とも俺から離れるんじゃないぞ」


「……ルルちゃん。本当にカズハは大丈夫アルか? 最果ての街まで到着できるくらいだから、腕っぷしは良さそうアルけど……」


 俺の後ろで小声でルルに話しかけているタオ。

 どうやら今になってビビり始めたらしい。 


「はい。頭のほうは空っぽですが、強さだけは保証します。頭のほうは空っぽですが」


「聞こえてんだよ! この毒舌幼女っ! 二回も言うんじゃねぇ!」


 俺が叫ぶとタオの後ろに隠れてしまった幼女。

 しかし軽く舌を出して俺を挑発している……!

 ぐぬぬ……! もっとキツイ緊縛を掛けてやろうか……!


 タオが門兵に話しかけ、巨大な鉄門を開けてもらう。

 するとその先にもう一つ同じ鉄門が見えてきた。

 門の開閉には危険を伴うので、モンスターの奇襲対策をしているわけですね。

 一度後ろの門を閉めてから、前の門を開けてもらうと、そこには険しい山道が出現。

 ここを数日掛けて登っていくと、ようやく魔族と人間族の領土の境に到着します。


「……私も覚悟を決めなきゃ駄目アルね」


 そう言ったタオは腰に装備していた短剣を抜いた。


「へぇ、随分と変わった形の短剣だな。ラクシャディア共和国とかに流通してそうだけど」


 歪な形の短剣は、持ち手の部分にも特徴があった。

 なんていうか、メリケンサックと短剣が一緒になった感じかな。


「詳しいアルね。これは『短刃拳ナックルダガー』っていう武器アル。カズハの言う通り共和国製アルよ」


 そう答えたタオは続けざまに風魔法を詠唱した。

 ふーん。タオの得意属性のひとつは『風』かぁ。


「これは……付与魔法エンチャントですね」


 幼女の言葉に頷いたタオ。

 付与魔法により彼女の持つ短刃拳が淡く緑色に輝き始めた。


「『速度上昇魔法レイト・エンハンスメント』。普通は人に使う付与魔法アルけど、私は武器に付与するアル。こうすると効果時間が飛躍的に高まるアルよ」


「あー、それは俺も聞いたことがあるなぁ。そのかわり、武器を落としたり一旦手から離したりすると効果が切れちゃうっていうあれだろ」


 通常は人やモンスターに使用する魔法でも、使い方次第でアレンジが出来る。

 大抵はそのアレンジも意味が無かったりするんだけど……。


「この短刃拳は五本の指に鉄の輪を通すアルから弾かれることが滅多に無いアル。それに指が自由に動かせるアルから、『盗む』のにも便利アルしね」


「なるほど……。良く考えられているのですね」


 タオが手を開いたり閉じたりしてルルに説明してくれている。

 魔法のアレンジって結構難しいんだけど、意外に頭が良いのかなこいつ……。

 武器の形状と付与魔法、自身の特性の三つが上手く合わさってるし。

 速度が上昇したおかげで攻撃回数も上がるし、『盗む』の成功率も上がるからね。

 もちろん回避率や行動力も上がるし……。

 これなら俺のスピードにも、ある程度は付いてこれるのかな。


「あ、そうそう。いい機会だからタオのもうひとつの得意属性と弱点属性を教えておいてよ」


 彼女が使用できる魔法や弱点を知っておくとサポートがしやすい。

 まあ、備えあれば憂いなしってことだな。


「……女の子の弱みを握って、どうするつもりアルか?」


「……いや、どうもしないから」


 俺は小さく溜息を吐いて首を捻る。

 どうしてこう、ルルもタオも俺を疑おうとするのだろうか……。

 まったく理解できません。


「パーティメンバーの状態を知っておくのは常識だろう? ちなみに俺の得意属性は『火』と『陰』。弱点属性は『光』と『闇』だ」


「弱点属性が『光』と『闇』……? へぇ、勇者候補たちと同じアルか」


 俺を見て考え込む素振りを見せたタオ。

 うん。だって元勇者だからね。

 俺は胸を張りピースでタオに返しました。

 ……そしたら彼女は首を振って鼻で笑いました。

 なに今の!? ムカつく!!


「仕方ないアルね。私の得意属性は『風』と『体』。弱点属性は『火』と『土』アルよ」


「ふーん。で、そのチャイナ服の属性は?」


「土耐性アル」


 タオはチャイナ服に刻まれた土属性の紋章を俺に見せた。

 なんとまあ、運が良いこと。

 これだったら俺の火魔法で彼女の弱点を補うことができる。


 前にも話したと思うけど、この世界での防具の役割は『弱点属性を補う』こと。

 防具屋で購入できる防具には、それぞれ一種類だけ属性が付加されています。

 タオが装備しているチャイナ服には土耐性が付加されているので、残る彼女の弱点は『火』のみ。

 でも俺が火魔法を使えるおかげで、彼女に火の付与魔法を掛けてあげることができるんですよ。

 そうすれば一時的に弱点がなくなるので、即死ダメージに怯えることが減ったってわけだね。

 弱点属性に対するダメージがどれだけヤバいかは……もう言わなくても分かるよね。ハハ……。


「……カズハは装備しないのですか?」


「うん? 何を?」


 俺が一人黄昏ていると幼女が話しかけてきました。

 

「はぁ……。決まっているじゃないですか。『耐性付きの防具』ですよ」


「ええぇっ!? カズハの防具は耐性が付いていないアルかっ!?」


 幼女の言葉に驚いた様子のタオ。

 でもたぶん、これが普通の反応だろう。

 俺も何度も死にかけたから良く分かります……。


「うん。だってあまり金を使いたくないし、俺つよいから大丈夫かなって」


「……カズハはドMアルか?」


「……はい。恐らくドMですね。変態です」


 ドン引きしているルルとタオ。

 おい。誰が変態やねん。

 ……だがドMなのは認めよう。

 俺も闘技大会のときにそんな感じがしてました。

 どうしよう。否定できない自分が情けない。


「……否定、しませんね」


 幼女がタオの後ろに隠れました。

 若干タオも俺から離れている気がします……。


「ば、馬鹿なことを言っていないで気を引き締めろ! 行くぞお前ら!」


 俺のうわずった声が険しい山道に響き渡りましたとさ――。




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