018 なんか俺が関わるとややこしい事になるみたいです。
魔王城グランザイム――改め、アックスプラント城。
一部が崩落した魔王の間の床を最果ての街の職人さんたちに早急に修復してもらい。
とりあえずここをそのまま王の間として使わせていただくことにしました。
「いやー、座り心地いいなぁ。この王座」
俺はフカフカの王座に腰を下ろし足を組む。
うん。
なんかようやく王様になった気分。
「そんな悠長なことを言っている場合ではないじゃろう。最果ての街の者まで巻き込みおって……。この阿呆が」
「ゼギウス。だから俺、女王様」
俺の右に立ち髭を弄っているジジイをジト目で睨む。
どうしてみんな俺のことを馬鹿にするの!
「しかしお爺様。カズトは世界を平和にした本物の『勇者』です。現にアゼルライムス王は世界ギルド連合に働きかけ、魔王の脅威から世界を救ったカズトと、僕らの犯してきた『罪』を帳消しにするように動いてくれています」
俺の左に立ち、ゼギウスに抗議をしてくれるユウリ。
俺を庇ってくれるのはめっちゃ嬉しいんだけど、お前が近くにいるとフェロモンで頭くらくらするからあまり近づかないで欲しい……。
「まあ罪を犯したのはカズハ一人なんだけどねぇ。まったく、いつまであたいらはあんたに振り回され続けなきゃならないんだい?」
王座の後ろに寄りかかり、魔剣の柄で俺の頭を小突くアルゼイン。
痛いからやめなさい。
この褐色ボイン酒乱剣士が。
「アルゼインの言うとおりアルよ! うちの家族だって姉妹は全員この城の厨房に住まわされちゃったアルし! 道道飯店はどうするアルか!」
これから昼食の準備をするのだろう。
お玉を持ったまま俺に抗議するチャイナ娘。
彼女の言うとおり、タオの姉のニオと妹のリオ、シオ、ミオの計四人の姉妹がこの城で勤めることになったのだ。
「あっちは親父さんとお袋さんの二人で回せるって言ってたぞ。で、この城の厨房を道道飯店の二号店として無償で貸し出しますよーって言ったら喜んでくれたし」
「そ、そんなの詐欺アルよ! 魔王城の厨房でお店を開いたって、客なんか来ないアル!」
「来るじゃん。俺達が」
「……嗚呼……。おとん……カズハにまんまと騙されたアルね……」
そのまま膝から崩れ落ちたタオ。
騙したとか言われても、俺はちゃんと親父さんに説明したもん。
『親父さん……。ちょっといい儲け話があるんだけど、話だけでも聞かない? 実は道道飯店の二号店を無償で出店できるっていう話なんだけど……。家賃? いらないよ。俺と親父さんの仲だろう? ちょっと立地条件は悪いんだけど、味で勝負している道道飯店だったらすぐに繁盛すると思うよ。ふふふ』って。
「タオ。諦めるしかありませんよ。このろくでなしが世界を救ったのは紛れもない事実なのですから」
幼女がタオを慰めている。
……今の言葉で俺も傷ついたから慰めて、ルル。
「して、カズハ。アゼルライムス王に頼ってばかりのつもりではあるまいな」
「当たり前だろゼギウス。エリーヌにも迷惑かけちゃってるし、ここは俺が世界にドーンと名乗り出て――」
「それは止めたほうが良い」
「え? どして?」
ユウリに止められ困惑する俺。
俺の計画では『今までごめんちゃい! 魔王倒したから許してちょ!』って誠心誠意謝るつもりだったんだけど……。
「相変わらず馬鹿だなぁカズハは。あんたは今、最上級の『SSS』ランクの犯罪者なんだよ?」
「うん」
「しかも魔術禁書を三つも抱えているだろう? でも世界ギルド連合は三つどころじゃなく、他にも隠し持っていると確信してるだろうよ」
「うん?」
アルゼインの言わんとしていることがさっぱり理解できずに首を捻る。
その様子を見てまた魔剣の柄で俺の頭を小突いたアルゼイン。
「つまり、君が消失させた《火属性》と《陰属性》。世界ギルド連合は君が《火の魔術禁書》と《陰の魔術禁書》を使用したことを知らない」
「…………あー、そういうことか。世界のお偉いさん方はその二つの魔術禁書も俺が隠し持ってるって思ってるというわけか。納得」
俺の言葉にユウリは首を縦に振った。
まあ確かに両方隠し持ってたけど。
一個は俺の服の中、もう一個はルルの背中に。
「……まさか、カズハ。その他の七つの魔術禁書もどこかに隠し持って……?」
「持ってるわけないだろ! どんだけ信頼ないんだよ俺はっ!」
俺の叫びが王の間に木霊する。
でも全員俺をジト目で睨むばかり。
ホント勘弁してください。
俺をもっと信頼してください。
「つまり君は世界にとって『最も恐れられる人物』になってしまった。魔王を倒したことにより、更に箔が付いた形で」
「……はぁ。まったくつまらん箔じゃな。それに巻き込まれる者の身にもなって欲しいものじゃ」
ゼギウスの深いため息に皆が賛同する。
じゃあ、俺にどうしろっていうの!
謝ったって許して貰えなさそうなのは何となく分かってたけど、謝るだけでもしといたほうがいいんじゃないの!
「これは僕の提案だ。最終的な決定権はカズトにある。上手くいくとは限らないけれど――」
ユウリの提案。
それは――。
◇
魔王城の臨時リビングルーム。
タオの四姉妹が俺達全員と城の内装工事を受け持ってくれている職人さん達に食事を振る舞ってくれる。
「あー、美味かったぁ。やっぱ道道飯店直伝の飯は最高だな。ミミリー。お茶ー」
「はい、カズハ様」
うさ耳メイドにお茶を用意してもらい、食後のティータイムに入る。
何か知らんがレイさんが悔しそうな視線を向けているが、面倒なので無視することにして、と。
「はいはい、注目ー。午前の重役会議の結果を伝えまーす」
昼食を食べている全員に聞こえるように俺は大きな声で話し始めた。
さすがに今回は全員俺に注目してくれている。
普段からこういう感じだと俺も気持ちよく喋れるんだけどね。
「まずはユウリ宰相から、世界情勢についてー」
俺が指名するとユウリは立ち上がり、今現在の世界情勢について皆に説明した。
俺が魔王を倒した後、まず初めに動いたのはアゼルライムス帝国だ。
これは俺がエリーヌと連絡を取り合い、勇者を輩出してきたアゼルライムスの功績を世に認めさせるためのパフォーマンスの一環。
実際に魔王を倒したのは勇者ではない俺だったが、『戦乙女』としての名は世界中が周知していたことと、元々勇者候補になるつもりで王に謁見を申し出ていた過去が取り上げられる形となり。
世間的に俺は『勇者』として遜色ない活躍を見せ、世界に平和を齎した立役者として広まったみたいです。
でも世界ギルド連合は、俺と仲間達を危険人物として扱ったまま。
俺の犯罪者ランク『SSS』も未だに取り下げられず、膠着状態が続いています。
ユーフラテス公国は予想どおり、元アックスプラント王国に聖堂騎士団を派遣。
誰もいない城はあっという間に制圧され、ついでに城の周囲に住み着いていたゴブリン達も綺麗に討伐されたみたい。
ラクシャディア共和国とゲヒルロハネス連邦国は様子見の姿勢のまま。
でも内部で色々動きがあるらしく、不気味っちゃあ不気味とも言えるのかな。
「エルフの国《エルフィンランド》とドワーフの国《ドベルラクトス》は人間族同士の争いには介入しない。これはもう精魔戦争時代からの遺恨みたいなものだからね。もしも協力を持ちかけるのであれば、この二つの国ということになるけれど……」
ユウリは一旦説明を止め、エアリーとゼギウスの顔を交互に見た。
当然二人ともそれぞれの故郷の出身だ。
国を出て人間族と共に生活をしている種族はかなりの数が確認されている。
ラビット族のミミリもそのうちの一人だ。
でも彼女の故郷の国は何百年も前に滅んでしまっているけれど。
「……私の国であれば、協力を持ちかけることは可能だと思います」
先に口を開いたのはエアリーだった。
神妙な面持ちだけど、それでもしっかりと全員の顔を見回して話している。
「以前、エルフィンランドはアルゼインさんに救われたことがありました。エルフの里でアルゼインさんを知らぬ者などいません。エルフの民は決して恩を忘れない種族ですから」
エアリーは感謝の念を込めてアルゼインに視線を向けた。
一時期は敵として俺達の前に立ちはだかったエアリー。
その表情はアルゼインに対し、図らずも恩を仇で返すことになってしまったことに対する謝罪の念を示しているのかもしれない。
「あー、そんなこともあったねぇ。でもまあ、あれは成り行きだったから仕方なく手助けしただけだよ。謝礼金だってたんまりと貰ったし、恩に感じることなんてないんだけどねぇ」
「そんなことはありません……! あの時、アルゼインさんがいなかったら……」
「はいはい、ストーップ。お涙ちょうだいは会議が終わってからにするようにー」
話が長くなりそうだったから強制的にストップさせました。
そしたら全員からブーイングの嵐。
……俺、本格的に皆から嫌われてるっぽいかも。
「ワシの国は難しいかも知れんのぅ。元々ドワーフは人間嫌いじゃし他国と関わりを持つことを嫌がる種族じゃから」
「そういや爺さんも最初は俺に冷たかったよなぁ。剣を鍛えてもらおうと何度も通って、ようやく鍛えてくれるかと思ったら莫大な鍛冶料を請求してきたりして」
「……お前さんにそんなヒドイ真似をした覚えなどありゃせんのだが」
「あ、ごめんごめん。覚えてないよね。一周目の話。俺、ループ上がりだから///」
「……」
俺の渾身のジョークを誰も笑ってくれません……。
職人さん達にいたっては、お互いに顔を見合わせて首を捻っちゃってるし。
「ならば、まずはエルフの国《エルフィンランド》と同盟を組むための策を講じよう。それと同時に各国へと派遣させるメンバーを決める」
「派遣? 停戦交渉のためってことか?」
デボルグの質問に首を縦に振ったユウリ。
これがユウリの言っていた『提案』。
俺が出向くと厄介だから、信頼する仲間達に任せようという判断――。
「ラクシャディア共和国、ユーフラテス公国、ゲヒルロハネス連邦国にそれぞれグループで向かってもらう。各国には魔法便で会談日程を伝える。エルフィンランドのほうはエアリー、アルゼインは動かせないだろう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。エルフィンランドはまだしも、戦争を仕掛けてこようとしている国に停戦交渉に向かうっていうのは危険なんじゃないの?」
慌てて口を挟んだリリィ先生。
しかしこれについてもユウリはすでに策を練っていた。
「僕らには今、三つの魔術禁書とこの《四宝》がある。力が失われたとはいえ、元は四つの神器――。勇者の剣や魔王の剣にも匹敵する、精魔戦争時代の遺産だよ」
皆の前に魔術禁書と四宝を取り出したユウリ。
それに皆の視線が集中する。
「……つ、つまり、どういうことなのでしょうか」
生唾を飲み込んだグラハムだったが、事態は飲み込めていない様子だ。
馬鹿グラハムでも分かるように説明したって、ユウリさん。
「《闇》、《気》、《氷》――。この三つの魔術禁書に対応する得意属性を持っている者をリーダーとし、その補佐として神器を装備できる者を充てる。つまり、これは『保険』だよ。皆の命を守るための最低限の保険だ。もちろん、禁書を使っては駄目だ。『使おうと思えば使える』という脅しに使うだけの物として所持をしておく」
――ユウリの言葉の続きを皆が固唾を飲みながら見守った。
【出向メンバー選出】
エルフの国《エルフィンランド》
〇エアリー・ウッドロック 装備:神器【弓】
〇アルゼイン・ナイトハルト 装備:魔王の剣【咎人の断首剣】
ラクシャディア共和国
〇レインハーレイン・アルガルド 装備:氷の魔術禁書
〇ゲイル・アルガルド 装備:神器【刀】
〇グラハム・エドリード 装備:竜槍【ゲイヴォへレスト】
ユーフラテス公国
〇ルリュセイム・オリンビア 装備:気の魔術禁書
〇ルーメリア・オルダイン 装備:神器【扇】
〇リリィ・ゼアルロッド 装備:聖杖【フォースレインビュート】
ゲヒルロハネス連邦国
〇セレン(正式名は非公開) 装備:闇の魔術禁書
〇デボルグ・ハザード 装備:神器【爪】
〇ユウリ・ハクシャナス 装備:勇者の剣【聖者の罪裁剣】 魔王の剣【咎人の断首剣】
お留守番
〇カズハ・アックスプラント
〇タオ
〇ミミリ
〇ゼギウス・バハムート
※得意属性に関しては『登場人物紹介3』に記載してあります