017 俺のステキ提案をぜひ聞いて下さい。
ラスボス魔王を俺達が倒したという吉報は瞬く間に世界中へと広がっていった。
ここから先の未来は、二度のループを繰り返してきた俺でも知らない世界だ。
さあ、これからどうしようかと思った俺に一つの妙案が浮かぶ。
俺はそれを実行に移すため、魔法便を使いアックスプラント国に手紙を飛ばした。
ゼギウス宛に送られた手紙に書かれたのは、たった一行の文章。
『話があるからみんな最果ての街まで至急集まるように。 お前らの天使カズハちゃんより』――。
◇
そして、一週間後――。
「カズハ様ぁ! 皆さん到着したみたいですよぅ!」
「おうふ!?」
宿のベッドでいい気分で寝ていた俺に飛び乗ったエルフ犬。
見事に俺の鳩尾に足がめり込み、俺はくの字に曲がる。
「あ……。つい勢い余ってしまって……。ごめんなさい、カズハ様ぁ」
「勢い余って女王の腹に飛び乗る部下なんていりません! おすわり!」
「くうぅん……」
俺の命令どおりベッドの下に正座したエアリー。
エルフ耳も垂れてしまい、本当の犬みたいに反省のポーズをしている。
「ちょうど良かったですわ。朝食の用意も整いましたし、皆で食事にしましょう」
「……レイさん。朝ご飯を用意してくれたのは嬉しいんだけど、その裸エプロンはやめよう。グラハムが鼻血を出してぶっ倒れるか、デボルグがセクハラをしだすから」
「もちろん、この裸エプロンはカズハ様に見てもらうためだけに着ておりますから、すぐに着替えますわ」
「……あそう」
通常営業のレイさんを無視し、俺はベッドから降りる。
大きく伸びをし、朝食が用意してあるリビングルームへと向かった。
扉を開けるとすでに俺の仲間が勢揃いしていた。
ゼギウスにルル、タオ、ミミリ。
ユウリにデボルグにルーメリア。
セレンとゲイルとアルゼインは……すでに酒を飲んで盛り上がっているし。
「おーっすお前ら。……あれ? グラハムとリリィは?」
全員呼んだはずなのに、二人の姿が見えない。
レイさんとエルフ犬は後から来るとして。
「お二人は街の方々に事情を説明中です。なにせこれだけ賞金首が一堂に会してしまっているので……」
遠慮がちにそう答えたミミリ。
今日もうさ耳がフサフサで可愛いよミミリたん……。
「カズハ。私達は何も聞かされていないまま国を空けて来たのですよ。早く事情を説明してください」
「そうアルよ。……私なんて実家の親や兄弟に見つかりでもしたら殺されてしまうアルし……」
幼女とチャイナ娘が怖い顔で俺を睨んできます。
久しぶりに会ったってのにその態度はさすがの俺も凹んじゃうかも。
「あー、でもタオの親父さんにはもう説明してあるぞ。だからタオがこの街に来てることもバレバレだ」
「はぁ!? 何勝手にバラしているアルか!? アホアルか!?」
「あほじゃないある」
適当にタオにそう答えた俺はとりあえず席に座る。
腹が減っては戦ができぬ。
話は朝飯を食いながらでも構わないだろう。
すでに勝手に酒を飲んでいる馬鹿三人もいることだし。
「んじゃ、とりあえず……いっただっきまーす」
「人の話をちゃんと聞くアル!」
「……タオ。カズハが人の話を聞かないことは、今に始まったことじゃないですよ……。私達も食べましょう。でないとすぐに無くなっちゃいそうです」
「う……。ルルちゃん、随分たくましくなったアルね……」
観念して朝食に箸をつけることにしたタオ。
他の皆もこれを見て各々箸をとり、しばしの朝食タイムが始まった。
「あ! もう食べてます! ほら、レイさん! 私達も席に着きましょう!」
「か、カズハ様の隣は私が座りますわ! どいてくださいまし! デボルグさん!」
遅れて登場したエルフ犬とレイさんが急いで席に座る。
「いて! ケツで押すんじゃねぇよレイ! セクハラすんぞ!」
「私のお尻はカズハ様だけのものですわ! しっしっ!」
「貴方達ねぇ……。朝から不謹慎極まりないわよ」
「朝から露出度の高い服着て朝飯喰ってるお前にだけは言われたくない!」
「朝から露出度の高い服着て朝食を食べているルーメリアさんにだけは言われたくありませんわ!」
デボルグとレイさんの叫びが見事に重なる。
……まあ、確かにルーメリアの格好はどう見ても娼婦の格好だなあれ。
「尻と聞いて参上つかまつりましたグラハムで御座います!」
バンっと大きな音を立て、扉を開き登場したグラハム。
うん。
誰も今、お前など呼んでいない。
「はぁ……。ようやくこっちが片付いたと思ったら、さっそく朝から騒がしいこと」
グラハムの後ろから顔を出したリリィ先生。
大きくため息を吐き、そのまま空いている席へと座った。
「おーし、これで全員揃ったなー。じゃあ、注目ー」
仲間を全員見渡し、席を立った俺。
……でも注目してくれたのはミミリたんと鼻息を荒くしているレイさんの二人しかいない。
「お前ら注目しろよ! とくにそこの飲んべぇ三人! 一体朝から何本空けてんだ!」
「カズハも何か飲むか?」
「ミルクください!」
セレンが俺の言葉に反応し、テーブルの隙間を縫うように俺に向かいミルクを滑らせた。
それをキャッチした俺は腰に手を当てたまま一気に飲み干す。
ゴクゴクゴク……。
「……じゃなくて! 俺の話を聞けえええ!」
バンっとテーブルを叩き強制的に皆を俺に注目させる。
一体こんな融通の利かない奴らばかりを仲間にした馬鹿は誰だ!
もっと女王様を敬いなさい!
まったくもう……。
「……えー、この度わたくしことカズハ・アックスプラントは魔王を打ち倒し、世界に平和を齎しました」
数人は俺の話に耳を傾けているけれど、それでもほとんどのメンバーは聞き流しているようにしか見えません……。
もういいや。
適当に今後の方針を話して終わろう。
「今の俺の国、すなわちユーフラテスから10億で買い取ったアックスプラント王国ですがー、老朽化と水害によりまともに住める国じゃありません。ていうかユーフラテスにも喧嘩を売っちゃったので、あの土地で暮らすのは危険を伴うっつうのはお前らでも分かるよなー」
……まあ水害が起きたのはセレンが最強の水魔法を唱えてリヴァイアサンでどっかーんってなっちゃったのが原因なんだけど。
※要『閑話 セレニュースト・グランザイムの反逆計画。』参照
「なので引っ越すことにしました。以上」
それだけ言って席に座った俺。
もう自棄食いしてやる。
皆まともに俺の話なんか聞いてくれないんだもの。
「引っ越す? 何処にじゃ?」
ゼギウスの爺さんが俺に質問する。
……爺さん。髭にめっちゃソース付いてるから、まずはそれを拭け。
「何処にって決まってるだろ。魔王城に」
何気なくそう答えた俺。
でもこの言葉を聞いた瞬間、全員がしんと静まり返った。
「……うん? あれ、どうしたの急に。みんな静かになっちゃって。もぐもぐ」
あれだけ俺を無視していた仲間達が俺に視線を注いでいる。
いや、今頃注目されても困るんだけど……。
「……まさか……私達全員をこの街に呼んだのって……」
ルルが震える声で静寂を破った。
なんか知らんが顔が真っ青だ。
「うん。一度国に戻るのも面倒臭いからさ。せっかく魔族もいなくなったんだし、魔族の領域ってめっちゃ広いじゃん? 他の国に取られる前に俺の国にしちゃえば一石二鳥。あんなボロい城よりもよっぽど魔王城のほうがしっかりしてるし、なんたって難攻不落の城だからな。セレンがいるから全部分かるし問題はないだろ」
「問題ないだろって……。そんな重要なことを……」
頭を抱えてしまったリリィ先生。
他の皆も似たような顔をしている。
「ち、ちょっと待つアル……! さっき『私の実家に説明しに行った』って言ってたアルよね! それってまさか――」
「うん。道道飯店だけじゃない。この街の町長にも話をつけてある。もぐもぐ」
「……カズハ。まさかそれで、こんなにあっさり私とグラハムの説得を町民が受け入れて……?」
事情を察した様子のリリィ先生。
でもグラハムの頭の上にはまだ『?』が浮かんだままだ。
……仕方ない。
馬鹿でも分かるように説明してやるか。
俺は口を布で拭き、もう一度立ち上がって言った。
「この『最果ての街』の町人も全部、俺の国の国民になってもらう。お前らが到着するまでの一週間、俺が何もしてこなかったとでも思ったのか? これでも一国の女王様だぞ。エヘン」
「……」
「……」
一瞬の静寂。
俺は胸を張り皆を見回したのちにウインクをした。
そして――。
「「「何勝手にそんなことをしてくれてんだ!!! このアホ女王があああああああああ!!!」」」
……あれ?
どうして俺……怒鳴られてんの?




