014 ついにきました、魔王との戦いが。
「《レイジブル・スラッシュ》!」
『ぐあああああ!』
レイさんの剣技がマント姿で顔の無いモンスターを一撃で消滅させる。
……ていうか顔がないのにどこから断末魔の叫びが?
「《ウッド・ハウンド》!!」
『ぎりゃあああ!』
地下通路の背後から迫ってきた馬鹿でかい蟻みたいなモンスターに木魔法を炸裂させたエアリー。
魔法の木でできた犬みたいなのが蟻に噛みつき鋭い牙で消滅させた。
……いや、こっちも蟻なんだけど『ぎりゃあああ!』って叫んでたし。
「随分来ないうちにこの辺りのモンスターも変わった奴が増えたなぁ。それともここが隠し地下道だからレアモンスターが出てきてるってことか?」
最前列でパーティの道案内をしてくれているセレンに質問する。
あんなモンスター、一回も見たことがないんですけど。
「我も初めて見る奴らばかりだ」
「元魔王様も知らないモンスターかい!」
つい叫んじゃいました……。
お前が知らないんじゃ俺も知らんわ!
「恐らく今の魔王により姿形を変え、変異した者たちなのだろう。魔王の領土、及び世界中にいる大半のモンスターは『魔王のもつ魔力』で生き永らえるものだからな」
「あー、そうだったな。だから俺が前にセレンをお持ち帰りして緊縛で能力を封じたときも、世界のパワーバランスが崩れちまうって思ってすぐに魔法を解いたんだっけか」
「せせせセレンさんを緊縛!? なんて艶めかしい言葉……!」
「はいはい。変態はいちいち出てこない」
信じられない速さで俺とセレンの傍に瞬間移動したレイさんをぽいっと背後のユウリに投げ渡す。
「カズトの考えそうなことだね。世界中にいる凶悪なモンスターが消滅すれば世界は平和になる。しかしいずれまた争いの火ぶたが切られてしまう――」
「当たり前だろうが。この世で一番怖い生物は『人間』なんだぜ。魔王の脅威が無くなっちまえば、今度は同じ人間同士、争うに決まってんだろ」
「はいはい。神様も何度も出てこない。お前のコメント荒れるから削除」
「うぐぉ!?」
ゲイルの口にその辺の岩を押し込み黙らせました。
めんどくせぇ神様はこれくらいの雑な対応で十分だ。
「今の各国政府の標的は俺になったわけだし、魔王を倒しても戦争にはならないだろ。魔王以上の脅威として俺を認識するだろうし、より密接に各国とも良好な関係を築くんじゃないかな。……アックスプラント王国以外」
「それに気付いておきながら、それでも魔王を倒すと?」
セレンが真面目な顔で俺を振り返りそう言った。
俺はウインクをしながら親指を一本立てて返答してやった。
「……はぁ。初めから魔王討伐を世界への手土産に許しを乞うつもりではなかったわけか」
「いんや、とりあえず謝るべきところには謝るよ。世界を平和にした功績は貰ってもいいだろうし、勇者を輩出しているアゼルライムス帝国も長年負っていた役目を果たせて評価されるだろうし」
「それによりエリーヌ姫やアゼルライムスにいる君の母親の無事が確保される……という筋書きかな」
俺の言わんとしていることを代弁したユウリ。
流石はアックスプラント国参謀長候補。
実家にいるお母さんも俺の本当の母親じゃないけど、エリーヌと王の厚意で生活に困らないレベルでお金を配給してもらってるし。
何度か俺の国に連れてこようとか考えたけど、たぶん俺の近くにいたほうが命を落とす危険が高いし、生活に困るレベルでお金がない国だしで諦めました!
「ふえぇぇぇ! カズハ様ぁ! 蟻さんがいっぱい迫ってきますよぅ……!」
「え?」
後ろで泣きじゃくっているエアリーに視線を向けると、その更に後方からあり得ない数の巨大な蟻の大軍が押し寄せてくるのが見えました。
うわ、キモい!
あれは無理!
「逃げるぞ! 俺ああいう艶々で足がいっぱいあるのとか苦手なんだよ! ゲイル! あとは頼んだ!」
「ふご!?」
岩で口が塞がれたままのゲイルの背中を蹴り飛ばし、蟻の集団まですっ飛ばす。
「お、お兄様!」
「レイさん! ゲイルが身を挺して蟻の進軍を押さえている間に、魔王の間に行くぞ!」
ゲイルを助けに向かおうとしたレイさんを抱きかかえ、俺達は一斉に走り出した。
「嗚呼……! お兄様のことが心配なのに……でも、でもっ! カズハ様に抱かれて私はっっ!! はあああああああんっ!!」
ビクンビクンと痙攣し、舌を垂らしながら失神してしまったレイさん。
誰だこいつ連れてきたの。
「急ごう。あれだけの大軍だとこの地下道もあまりもたない」
「あの先に見える長い螺旋階段を上れば魔王の間だ……!」
セレンの指さす先に見える天まで伸びた螺旋階段。
俺達は最速でそこまで辿り着き、一気に階段を駆け上がる。
――ゲイル。
お前のことは、決して忘れない。
ありがとう。
俺達のパーティを救ってくれて――。
◇
「うっわ、マジで魔王の間の目の前に出てこれた……!」
もう何度も見覚えのある馬鹿でかい扉。
この先に魔王の間がある――。
「ゲイル亡き今、魔王を倒せるのはこの俺しかいない。だからいちおう剣貸してくれ。格好がつかない」
気絶しているレイさんの腰から勝手に勇者の剣を引き抜き。
そしてセレンから魔王の剣を借りた俺。
やっぱ腰に二本差してると安心しますね。
「よし、これで主人公っぽくなった。ユウリ、セレン。気絶しているレイさんとエアリーを頼むぞ」
「ああ。カズトも気をつけて。しかし、『真の魔王』のほうはどうする? この『四宝』を使えるのは僕だけだ」
ユウリは懐から光り輝く四宝を取り出した。
これがないと真・魔王だか極・魔王だかを倒しても世界はまたループしてしまう。
「うーん。じゃあ合図を決めておこう。俺が極・魔王を倒せたらお前の名をでかい声で叫ぶから」
「分かった。出来れば倒す直前くらいに合図を貰えると嬉しいかな。実際に宝玉の力が発動してしまえば元も子もないからね」
「……怖いことを言いますね、ユウリさん」
でもまあ、これ以外に方法がないんだから仕方がない。
傍で一緒に戦って、何かの弾みで流れ弾でも当たって死なれたらそっちのほうが後悔するし。
「じゃあ……行ってきます!」
「無理をするなよ、カズハ」
「頑張ってください、カズハ様ぁ!」
「頼んだよカズト」
「うぅん……。カズハ様ぁ…………うふふ」
四人の声援(?)を受け。
いざ、俺は魔王との戦いへと――。