013 神様ってきっと友達とかいないんだろうね。
「あわわ……! こんな崖に橋を作ったなんて……! 落っこちたら一巻の終わりですよぅ……!」
デモンズブリッジに到着した俺達は眼前に迫る魔族の領域まで全力で走り抜ける。
「あれが魔王城グランザイム……!」
レイさんの指さす先には森に囲まれた大きな城が月夜に照らされている。
「魔王の領域……。昼夜問わず魔王の闇の力により暗黒に閉ざされた土地。僕の前世の研究では魔王から溢れ出す強力な《闇属性》が関与していると結論付けた場所だ」
「へー。前世っていうとあれか。錬金術師の姉ちゃんだった頃か。おいセレン。ユウリの研究結果、合ってるのか?」
最後尾にいるセレンに声を掛ける。
が、俺の声が聞こえなかったのか、セレンは渋い顔のまま魔王城を見上げたままだ。
「おーい、セレンちゃん」
「……え? ああ、すまん。何の話だったか」
俺の問いに取り繕ったような笑顔を見せたセレン。
元魔王様がそんな笑顔になったらアカンやろ。
「……けっ。魔族の姉ちゃんの気も知らねぇでよ。これから古巣の城の主をぶっ飛ばそうっつうのに」
「……」
ゲイルの言葉にセレンは笑顔を引っ込めた。
やっぱりセレンは連れて来ないほうが良かったかな……。
いい気分じゃないことくらいは俺だってなんとなく分かるし。
「……カズハ。我のことは気にするな。もう何度も伝えたと思うが、我はすでに魔族に未練はない」
「未練はない? お前の身体ン中に流れているのは魔族の血だろうが。そしてここは魔族の土地。こんだけアホみたいに闇の魔力が溢れていて、何も感じないわけがねぇだろうが」
「……貴様のようなクズに何が分かる」
「分かるね。俺は神だ。闇属性の魔術禁書も俺の中に取り込まれている。お前の心の中のモヤモヤも、お前の分身とも言える魔王の憎悪も、地下に眠っていやがるトンデモねぇ化物の波動も、な」
今度はセレンに食ってかかるゲス神様。
お前さっきもユウリに噛みついたばかりじゃんか……。
俺の大事な仲間の心を揺さぶるのはやめてくんないかな……。
「おい、ゲイル――」
俺が間に立って素敵フォローを入れようとしたところで、セレンが俺の前に歩み出た。
その目はしっかりとゲイルを見据えている。
「あ? 何だその目は。俺はお前が思っていることを代弁してやっただけだぜ」
セレンの目が気に食わなかったのか。
ゲイルも一歩前に出てセレンを睨みつけた。
「貴様は何も分かっていない。我が何故、カズハの傍にいるのか。我が何故、精霊ルリュセイム・オリンビアを許したのか。魔族の血などもはや関係はない。我の居場所はここしかないのだ」
「セレンさん……」
セレンの元にエアリー、ユウリ、レイさんが集まってくる。
そしてゲイルは再び孤立。
お前、絶対に友達とかできないタイプだな。
ていうか友達いないんじゃね?
「……ちっ。仲良しごっこか。見てるだけで胸やけがしてきやがるぜ……。いいか。一つだけてめぇらに教えておいてやる。これは神からの忠告だと思え。馴れ合いなんてものはな、最後まで続かねぇんだよ。嫉妬、裏切り、葛藤――。そういった『闇』の感情がまともな人間の心を支配しているんだ。てめぇらは一体何だ?」
「魔族だ」
「エルフです」
「元錬金術師の女だったな」
「変態ですわ」
「三周目で筋肉女王になりました」
俺達五人は即答する。
つまり――最初から『まともな人間』は一人もいない。
「……」
口を開いたまま黙ってしまったゲイル。
やったぜ! 神様を論破した!
……。
あれ? でも全然嬉しくない……?
ていうか『変態ですわ』って自ら言いきるレイさん、マジ突き抜けてる……。
「もう分かっただろゲイル。俺が集めた仲間達はな、まともな奴なんて一人もいないんだ」
俺は胸を張ってそう言ってやった。
……でも、この頬を伝う涙は一体何だろう。
「カズハ様にそう言われると傷つきますよぅ!」
「もっと変態寄りになっても良いですわよ! カズハ様!」
俺の両腕にそれぞれしがみ付き、嬉しそうに言い放ったエアリーとレイさん。
その光景を表情を緩めて眺めているセレンとユウリ。
「……何なんだよ……こいつらは……」
イライラしたままそっぽを向いてしまったゲイル。
さすがにもう食ってかかっても無駄だと理解したのだろう。
「お兄様にも、いつかきっと分かりますわ。私達と……カズハ様と一緒に過ごしていれば」
「……ちっ」
妹に諭され、ようやく怒りが収まった様子のゲイル。
それもこれも、全てはこの溢れ出る『闇の魔力』が悪いんじゃないかな。
いまここにいるメンバーで闇属性を得意属性にしているのって、確かセレンとゲイルだけだった気がするし。
さっさとこのデモンズブリッジを抜けて魔王城を攻略したほうがいいだろう。
「魔王城の中は迷路みたいになってるから、このまま俺が先導するぞ。みんな遅れずについてくるように!」
「ちょっと待てカズハ。実はあの迷路を進まなくてもすぐに王座に辿り着けるルートがあるのだ。先導は我に任せてくれないか」
「え? マジで! そんなルートあるの?」
「当たり前だろう。あの複雑な迷路しか通れないのだとしたら、王座から外に出るのにどれだけ時間が掛かると思っているのだ。あれは冒険者を迷わすトラップだ。橋を抜けた先の森に隠し地下道がある。そこから魔王のいる王座に直接向かえる」
「さすがは元魔王様ですわ! 惚れてしまいそう!」
「隠し地下道なんて、ワクワクしますねぇ!」
セレンの言葉に変態と犬が反応する。
ここはセレンの言葉に甘えてさっさと魔王のいる王座まで向っちまおう。
「よーし、野郎ども! 決戦の時は近いぞー! みんな一つに固まって俺から離れないようにしろよー!」
さすがにもう単独行動はさせられない。
俺でも感じる、この凶悪な闇の波動。
あの地下に眠る化物は、俺かゲイルじゃないと敵わないだろう。
いわばこの異世界で言うところの『隠れボス』の、更に先をいった『隠れボス』。
果たしてどんな戦いが待っているのやら……。




