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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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051 エピローグ

「・・・」


 俺は開いた口が塞がらなかった。

 同じく隣にいる幼女も口を開けたままぽかーんとしている。


「……僕は君に恋をしていたのかもしれない。君を助けたいと思ったのも本当だ。でも、やり方が正しかったかどうかは、今ではもう分からないな」


 自嘲気味にそう話すユウリ。

 いや、ちょっと待ちなさい。

 なんか頭が混乱して、いまいち把握できていない。


「ええと、ちょっと待って。アークランドで俺を手伝ってくれた錬金術師って……。え? お前、あのユリィか?」


 錬金術師ユリィ・ナシャーク。

 2周目ですでにやることが無くなった俺は、暇つぶしに世界各国をまわって魔術禁書の情報を集めていた。

 その時に手伝ってくれたのが彼女だ。


 連邦国を端から端まで回って、所在を確認できたのは三つの魔術禁書だった。

 でもどれも俺の得意属性に当てはまらなかったし、とりあえずそのままにして帝国に帰っちゃったんだけど――。


 ユリィ・ナシャーク……。

 ……ユウリ・ハクシャナス?


 うそーん。


「……カズハ。貴女……本物の勇者様だったのですか? しかも過去に二度も私と契約を済ませていた? だからあの時、《精霊の丘》で私の申し出を断って……?」


 幼女が下を向きながらわなわなと震えている。

 やばい。

 あの時もかなりいい加減な返答をして、幼女を怒らせてドラゴンに変身されて。

 んでもって喰われそうになって、面倒くさいから《緊縛》で能力を封じてお持ち帰りしちゃったんだっけ。


 今思い返してみても、なんて罰当たりなことを……。


「落ち着け、ルル。ほら、あれだ。お前があまりにも可愛くて、つい悪戯目的――じゃなくて、ええと……そう! 元勇者としての威厳を保つために――!」


「……ずっとおかしいと思っていたんです。勇者としての波動は感じるのに、貴女は女性だったから契約が出来ない――。力を持っているのに、魔王は倒したくない、世界を平和にしたくない――。セレンはもう、知っているのですね? いつからか、貴女といつもコソコソ話をするようになったのも、それが理由ですか?」


 下を向いたまま幼女が俺に迫ってくる。

 こわい。

 もう俺は陰魔法も使えないから、もう一度ルルの能力を封印することも出来ない。

 今度こそ喰われる。

 死ぬ。


「ゆ、許してくれルル! いつか話そうと思ってたんだけど、なんかこう言い出せなくて! だから、落ち着こう! な? 今更俺を喰ったってお前が腹を壊すだけ――」


 恐怖に怯え、とりあえず平謝りする俺を無視し。

 ついに幼女が俺の腹に顔を埋め――。


 ……ん?

 顔を、埋め……?


「……貴女はいつも、そうやって……大事なことは何も教えてくれなくて……。ひとりで全部決めて……全部解決して……」


 俺の腹に顔を埋めながら、震えた声を押し出したルル。


「……泣いているのか、ルル?」


「泣いてなんていません! ……泣いてなんて……」


 そのまま静かに俺の腹で泣いたルル。

 ずっと彼女に秘密にしていたことを、俺は初めて後悔した。

 最初から、話しておけば良かった。

 あの時、精霊の丘で彼女と再会したときに――。


 俺はルルの頭を撫でながら、ユウリに向き直る。

 俺やセレンと同じく、性転換をして『3周目』を迎えた元錬金術師の女性――。

 確かによく見るとユリィの面影がある。

 あの研究所に囚われていた子供も、本当に『ユウリの子』だったんだな。

 ルーメリアが言っていた言葉の本当の意味が、今ようやく分かった。


「……お前がラクシャディアでレイさん達を襲撃したのも、俺に魔術禁書を集めさせたのも、その『四宝』を神となったゲイルに融合させることが目的だったんだな」


「ああ、そうさ。さっきも言ったけど、これがあれば君や僕の『呪い』は断ち切られる。繰り返しの人生はこれで終わるんだ」


 ユウリは胸元から七色に光る宝石を取り出した。

 これがあれば魔王の口からこぼれ出す『宝玉』によるループを阻止できる……。


「ゲイルのことはどうするつもりだったんだ? こいつを神にしちまったら、世界を破滅させるのは目に見えていただろう?」


「そうだね。でも、僕がそれをさせないさ。この『四宝』には魔術禁書の・・・・・力を封じる・・・・・ことができる・・・・・・という、別の用途もあってね」


 にやりと笑いそう答えたユウリ。

 俺は再び唖然としたまま、はぁ、と深く溜息を吐いた。


 全てはユウリの思い通りに事が進む予定だったというわけだ。

 ルルと契約し正式に勇者となり、勇者の剣を装備して真魔王を撃破。

 その後に登場するであろう真真魔王(?)を倒し、《宝玉》を出現させ、これを《四宝》で打ち消し世界のループを止める。

 世界を破滅させようとするゲイルは、同じく《四宝》により能力を封じる。


 これがユウリの描いた本当のシナリオというわけだ。

 恐らくエアリーやルーメリアはこのことを知っている。

 デボルグに打ち明けなかったのは、奴の性格を考えてのことだろう。

 熱血漢のあいつは、色々と面倒臭そうだからな。

 気持ちは分かる。


 俺は泣きやんだルルを放し、ユウリの元へとゆっくり歩く。

 ――でも、それでも。

 俺は奴に言わなければならないことがある。


「お前が考えていたことは分かった。俺の呪いを断ち切ろうとしてくれたことも感謝する。結果だけ見ればお前は世界を平和にし、皆が幸せになれる世の中を作ってくれたんだと思う」


 俺の歩みに合わせ、ユウリが立ち上がる。

 その眼はしっかりと俺に注がれ、覚悟のある表情をしていた。


「でもな、ユウリ。お前は俺の仲間を傷つけた。ルルを泣かせた」


「ああ。分かっている。覚悟も、出来ている」


 ユウリはゆっくりと目を瞑った。

 おれは拳を握り、そして――。


 ――力いっぱい、ユウリの顔面を殴り飛ばした。


「っ――!」


「カズハ!」


 その場に崩れたユウリ。

 ルルが俺を止めようと間に割って入る。


「……止めないでくれ、精霊族の少女よ。僕は全てを覚悟して、今回の計画を実行したんだ。エアリーも、ルーメリアも、僕に騙されていただけだ。すべての責任は僕一人にある」


「ああ、そうだな。で? どうやってその責任をとるんだ?」


 指の骨を鳴らし、ユウリを睨みつける俺。


「もういいでしょう! もう、やめてください……!」


 幼女が俺の服を引っ張る。

 でも、まだだ。

 ユウリの言葉を聞きたい。


「責任は……この僕の命で――」


「それが気に入らねぇ」


 もう一度反対側の顔を殴る俺。

 再び地面に崩れたユウリは、苦しそうな表情で、しかしそれでも立ち上がる。


「……ぐっ、ならば、どうしろと……!」


 俺を睨みつけるユウリ。

 その目はまだ、未来を見据えていた。


「子供はどうすんだよ。世界のループは? お前にはまだやることがたくさん残ってるんだろう? 俺に殺されて、それで満足か?」


「《四宝》は君に渡す……! 子供はルーメリアに任せてある……! 世界の平和と呪いの解消は君がすればいいだろう……?」


「やだ。面倒臭いのきらい」


「っ――!」


 俺のいい加減な言葉に声を失うユウリ。

 しかし、ルルだけは違った。

 俺のこのパターンを彼女はもう、何度も経験しているのだから。


「まさか、カズハ……」


「ならばどうしろと! 僕は、僕はどうやって罪を償えばいいんだ……!」


 声を振り絞るように叫ぶユウリ。

 拳を下ろした俺は、後ろを振り返りこう言った。


「俺の仲間になれ。エアリーも、ルーメリアも、お前の子供も……そこのゲス神様も含めて」


「え……?」


 再び言葉を失うユウリ。


「だってそうだろう? 子供を育てるって大変だぞ。ルーメリアに任せたら絶対に非行に走るだろうし。エルフ犬は俺のペットみたいなもんだし、ゲス神様は放っておいたらどうせまた悪さするんだろうし」


「カズハ……」


 ほっとした表情のルル。


 さて、これからが大変だ。

 大所帯になるのは大歓迎なんだけど、俺は今、世界中の国から狙われている大犯罪者だ。

 あ、ていうことはユウリ達も大犯罪者の一味になるってことか。

 ちょうどいいや。

 それをこいつらの『罰』っていうことにしよう。

 うん、それがいいかも。


「……カズト……。君っていう奴は……」


 それだけ言って、そのままぶっ倒れたユウリ。

 今の俺に二発も殴られたんだ。

 立っていられるだけでも奇跡みたいなもんだろ。


「……ん……はっ! こ、これは一体……! カズハ様……!」


「あ、ようやく目が覚めたか」


 目を覚ましたグラハム達。

 一部始終を説明するのも面倒だから、全部ルルに任せちゃおう。



「あー、マジで今回は疲れたぁ。陰属性まで失っちまうし、これからどうすっかなー……」



 その場で大の字で寝転がり、今後のことを思案する。


 でもまあ、なんとかなるんじゃね?


 こんなことは日常茶飯事だし。


 あーあ、腹減ったなぁ……。




 ちょっとだけ、昼寝しちゃおうっと。

















第三部 カズハ・アックスプラントの誤算



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