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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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048 双魔剣士 VS インフィニティコリドル

 さらに同時刻――。


 魔剣を二刀構え、ゆらりと風に揺らめく金髪の青年。

 二刀流の使い手など、戦乙女以外には彼しか存在しない。

 そして彼の未知なる職業――《双魔剣士ダブルキャスト》。

 同時に扱えるのは、魔法も同じこと。

 

 『二刀流』と『同時魔法』――。

 これに世界最恐の魔剣、《咎人の断首剣クリミナルダークネス》が二刀も加われば、世界は彼にひれ伏すとしか考えられないだろう。


「1対5か……。世界最高レベルと称される傭兵団《インフィニティコリドル》の主要メンバー3人と戦えるなんて、光栄だよ」


 彼の表情は、どことなく憂いに満ちていた。

 映す瞳は、これから死闘を繰り広げる好敵手ではなく、未来を見据えている。


「けっ、何が『光栄だ』だよ。ラクシャディアの一件を忘れたとは言わせないよ!」


 炎剣ドグマを構え、闘気を高めていく褐色の肌の女剣士。

 愛剣を奪われたその恨みを隠すことなく、殺意のある目で金髪の青年を睨みつける。


「貴様にその剣は相応しくない。それは魔を宿したものだけが扱える邪悪な剣だ。命が惜しくば、すぐに我に返せ」


 同じく愛剣を奪われた黒鎧の女性剣士。

 邪悪な闘気を全身から発散させ、氷のような視線を彼に向けている。


「ふふ、僕が魔を宿していないと?」


 挑発的な笑みを浮かべる金髪の青年。

 憂いの表情は消え、ゆっくりと魔剣の切っ先を彼らに向けた。


「いい加減、目を覚ませユウリ! てめぇはあのゲス野郎に騙されているだけだ! 何が『神』だ! お前が本当に望んでいた世界は、そんなんじゃねぇだろう!」


 拳を握りしめ、かつての仲間に思いの丈をぶつける赤髪の青年。

 血気盛んな彼が、人生でようやく得た『親友』という言葉。

 しかし、二人はすれ違う。


「……残念だよ、デボルグ。君ならきっと、僕のことを理解してくれると思っていたのに」


「うるせぇ! 俺がてめぇの目を覚まさせてやんぜ! あのゲス野郎をぶっ飛ばすのはその後だ!」


 そう叫んだ赤髪の青年は、真っ赤な闘気を全身から発散させた。

 燃えるような赤は、金髪の青年の青い闘気と反発する。


「皆さん……! 同時にいきましょう! ルルさんの『竜の炎』に合わせ、手数で攻めればどうにか……!」


 白銀に輝く鎧を纏った女性剣士が全員に指示を出す。

 一度敗北した相手に、二度の敗北は許されない。

 多勢に無勢とは、彼女の信念に反する行為だが、相手の強さは常軌を逸している。


 全員が視線を合わせ、意志の疎通を図る。

 数々の死闘を潜り抜けてきた彼らに、もうこれ以上の言葉はいらない。


『グオオオオオオン……!』


 竜の咆哮が銀世界に響き渡った。

 直後、再び竜の口に炎が集約していく。


「……世界は……」


 金髪の青年がぽつりと呟いた。

 それは誰に言うでもなく、自身に言い聞かせるものだった。


「僕が……救う!」 


 青年の叫びと共に、再び竜の炎が銀世界を焼き尽くした。


 ――そしてこれが、戦闘の合図となる。





「《スライドカッター》!」

「《ダークサーヴァント》」


 竜の炎を跳躍で回避したユウリに追撃を仕掛けたアルゼインとセレン。

 異界から出現した無数の黒銀の刃と合わせ、剣閃が舞う。


「《アイスシールド》」


 ユウリの前方に氷の盾が出現し、すべての攻撃を受け止めた。


「甘いぜ! 《グランディア・バースト》!」


 炎の拳を纏ったデボルグがユウリの死角から攻撃を仕掛ける。


「見えているよ」


 スッと2本の魔剣をクロスさせ、炎の拳を受け止めたユウリ。

 拳と剣の間に大きな火花が散り、小爆発が起こる。


「まだまだですわ! 《レイニースラッシュ》!」


 爆炎に紛れ、ユウリの背後から無数の突きを繰り出したレイ。

 その細い身体から想像もつかないほどの猛攻。


「《無双氷輝剣アハト》」


 二刀の魔剣に《氷》と《光》の魔法が宿り、同じく無数の突きを繰り出したユウリ。

 それぞれの剣撃が衝突し、互いに消滅する。


『やはり彼の強さは本物……! ならばもう一度竜の炎を――』


 苦戦する仲間を援護するため、もう一度大きく口を開けたルル。

 しかし、3度目の炎は発動することはなかった。


「《ゲートフリーズ》」


『!?』


 ユウリの氷魔法により、徐々に足元から凍っていくルル。


「ルルさん!」


「行かせないよ。《ダブルインサート》」


「ぐっ……!」


 二刀の魔剣を蟹鋏のように繰り出したユウリ。

 それを剛剣でなんとか防いだレイ。


「セレン!」


「ああ」


 お互いに視線を合わせ、同時に詠唱を開始したアルゼインとセレン。

 レイがユウリの行動を防いでいる間に、自身の持つ最強の魔法を繰り出そうとしている。


「《光》の眷属たちよ! あたいにその力をよこしな! 《全てを焼き尽くすデッドエンド・光子砲レィザー》!」

「我が身に宿りし《水》の力よ。その根源たる神に魂の導きを――《荒れ狂う海の悪魔リヴァイアサン》!」


 双方から最強魔法が放たれた瞬間、レイはその場を飛び退いた。

 光の波動と水竜の容赦ない攻撃――。

 これを喰らって無事でいられる人間など、いるはずもない。


「こっちは任せろ!」


 衝撃と同時にデボルグがルルの救援に向かう。

 そして炎の拳で氷の壁を破壊する。


「やった! 直撃だよ!」


「……」


 喜ぶアルゼインとは対照的に、爆炎の中を見据えたままのセレン。


「……まさか……」


 2人と共に地面に降り立ったレイが驚愕の表情に変わる。


 ――そこには、無傷のままの青年の姿が。

 あれだけの猛攻を受け、一筋の血すら流していない。


「……化け物かい、あいつは」


「ああ。もしかしたら、カズハに匹敵する力を持っているのかもな」


「カズハ様に匹敵……!? そんなこと、あるはずがありませんわ……!」


 戦慄する3人の剣士。

 もはや力の差は歴然――。


「ふふ、もうおしまいかな? 今度はこちらから行くとしよう」


 再び魔剣を構えたユウリ。

 不敵な笑みを浮かべた青年は、切っ先を彼女らに向け急降下した――。





 もう、どれくらいの時間が経過したのか。

 すでにエアリーとルーメリアは敗北し、勝利したグラハムとリリィも戦線に加わっていた。

 1対7となった激戦でも、ユウリの優勢は変わらない。

 仲間たちは皆傷つき、ユウリだけが無傷のまま、時だけが過ぎていった。


「う……。皆さん、大丈夫……ですか?」


 額から血を流し、仲間の安否を気遣うレイ。

 まだ死者はいないものの、かろうじて立っているのがやっとの仲間達。


「ここまで力の差があるもんかねぇ……。こんな思いをするのは、人生で2度目だよ……まったく……」


 悪態を吐いたアルゼイン。

 片膝を突き、どうにか倒れずにいる状態を保っている。


「さあ、もういいだろう? 精霊族の少女を僕に渡してくれれば、皆生かして帰すと約束しよう。これ以上は無駄な時間だ」


 魔剣を鞘に納め、ゆっくりと近づいてくるユウリ。

 しかし、彼らはルルの前から離れようとしない。


「……ルルさんはどうなるのですか?」


 ユウリの質問に答えるレイ。

 『皆生かして帰す』とは、ルルも含まれているのかという確認だ。


「彼女は僕と共に世界を変えるために必要な人材だ。当然、僕と一緒に来てもらう」


 ユウリの言葉に、一瞬静寂が訪れた。

 そして誰とも言わず、鼻で笑う声が聞こえてくる。


「……くく、じゃあ交渉は決裂だな」


 立ち上がり、再び剣を構えるアルゼイン。

 それに呼応するかのように、皆が立ち上がる。


「……何故だい? たった一人の少女を差し出すだけで、他の者の命を救うと言っているんだ。その子も別に命を奪うわけじゃない。勇者としての契約を済ませ、僕が世界を救うまで、僕の傍に――」


「それが駄目だと言っているのだ。ルルを渡すわけにはいかない」


 ユウリの言葉を遮るように、セレンが答える。

 かつては精霊族と魔族という関係だった彼女らだが、今は違う。

 すでに長い時間を共に過ごしている『仲間』なのだから――。


「……『仲間』とは、そういうものを指す言葉なのではないでしょうか」


 レイの鋭い視線がユウリの目を捉える。

 彼に従う2人の仲間を、彼はどう思っているのだろう。

 世界を救うためには、多少の犠牲は止むを得ないと考えているのであれば、分かり合えるはずもない。


 下を向き、何かを考えている様子のユウリ。

 しかし、彼の口から発せられた言葉は、『交渉決裂』の言葉だった。


「……仕方ないね。君達にも強い『想い』があるのと同じく、僕にも『目的』がある。だから、僕も本当の力・・・・を君達に見せよう」


 そう答えたユウリは、再び2本の魔剣を抜いた。


「来るぞ……! 気合入れろよてめぇら……!」


 拳を強く握りしめ、デボルグが叫ぶ。

 

 目を瞑り、魔法を詠唱しているユウリの周囲に青と白の光が集約していく。

 それらがそれぞれの魔剣と共鳴し、徐々に融合していった。


「これが僕の持つ《氷魔法》と《光魔法》の最強魔法……」


 両の魔剣を高々と掲げ、同時魔法の詠唱が止んだ。


「《地を凍らせるグランディア・氷の無慈悲剣アイスブレイド》」


 右手に掲げた魔剣に氷属性の最強付与魔法が掛かる。


「《空を切り裂くスカイハイ・光の断罪剣ラスタージャッジメント》」


 同じく左手に掲げた魔剣に光属性の最強付与魔法が掛かる。


 共鳴が収まり、青と白の輝きが魔剣の黒と完全に融合する。

 《双魔剣士ダブルキャスト》の最終奥義にして最強の魔法。

 しかし、ユウリはこれだけに留まらない。


「《ツーエッジソード》」


「!! まさか……そのスキルは……」


 属性魔法を宿した2本の魔剣が再び共鳴する。

 この世界で戦乙女しか使用できないとされた、隠しスキルである『ツーエッジソード』。

 防御を捨て、攻撃を特化させる二刀流スキルのうちのひとつ。


「僕だって、今までずっとサボっていたわけじゃない。鍛錬に鍛錬を重ねて、ようやく習得したんだよ。これでもう、僕はカズトにだって負けない」


 ユウリの信念が、彼をここまで強くしたのだ。

 二刀流と二刀流スキル。

 同時魔法に最強の付与魔法。

 もはや、この世界で彼に敵う者は『神』以外には存在しない――。



「さあ、もう終わりにしよう。この世界に『平和』をもたらすために――」



 ――ユウリの声が銀世界に木霊し、2本の魔剣から剣閃が舞った。


















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