045 竜の炎
ユウリに囚われたまま、ルルの全身に光が宿る。
幾何学模様の魔法陣が彼女の足元に出現し、ルルの本来の力を抑制している拘束具が徐々に解かれていく。
ユウリは知らない。
精霊族である彼女の本当の力を――。
俺が初めてルルと出会ったのは1周目の世界での『最果ての町』付近の草原だ。
そのときはすぐに彼女と契約を交わし、本物の勇者となることが出来た。
2周目でもほぼ同じ。
魔王軍の王都襲来を防いだ功績で、すでに勇者に内定していた俺は、彼女と契約してもう一度魔王を打ち倒した。
しかし、3周目だけは違った。
ユウリがもしも、俺と同じく『世界のループ』に巻き込まれた人間だったとして。
3周目限定であるルルの本来の力を知る由もない――。
「いっけええええ! ルル!!」
俺の掛け声でルルが首を縦に振った。
パリンと音を立てて、拘束具が完全に消失する。
『精霊の名の下に、力を解放せしめん』
目を瞑り、ルルがそう唱えた瞬間――。
「こ……これは、まさか……!」
事態に気付いたユウリは一旦その場を退ける。
その間もルルは光に包まれたまま、徐々に巨大化し――。
「ルルルルルちゃん!? なにアルかこれはああああああ!?」
「いいからタオ! あんたは後ろに隠れていろ!」
慌てふためくタオを宥め、アルゼインが皆をグラハムらの元へと誘導する。
『グオオオオオオオオオオオオオオン…………!!!』
竜化したルルの鳴き声が銀世界に木霊する。
これがルルの本当の姿だ。
この力を封印するために、俺は彼女に『緊縛』を掛けたのだから。
「おい、赤髪の男。貴様はこちらの味方として考えてもよいのだな」
「当たり前だろうが! あんなユウリやルーメリア達を見てられるかってんだ! 俺が目を覚まさせてやるぜ!」
「良い答えだ」
デボルグの答えに満足した様子のセレン。
一箇所に集まった仲間達は、動揺しているユウリ達に狙いを定めている。
「ひゃーっはっは! こりゃおもしれぇ! やれやれ! 殺し合え! ひゃっはーー!!」
俺の作戦を余興のひとつとして捉えているゲイル。
奴にとってみれば、ドラゴンなんぞ恐れるに足りない存在なのだろう。
「如何いたしますか、ユウリ様」
「うん。予想外だったけど、目的は変わらない。あのドラゴンを無力化して、僕は『勇者』とならなくてはならないんだ。世界の為――そして僕達の未来の為に」
「……分かりました」
ユウリの言葉にそれぞれの武器を構えるルーメリアとエアリー。
そしてユウリも腰に差した3本の剣から2本の『魔王の剣』を選択する。
あれらは全て、俺が仲間に託した最強の剣だ。
勇者の剣である《聖者の罪裁剣》。
魔王の剣である《咎人の断首剣》。
奴はここから更に、もう一本の『勇者の剣』をルルから奪おうと考えている。
確かにそれぞれ特徴の違う癖のある剣だから、二刀流である奴にとったら使い分けたいと考えるのは当然のことだろう。
しかし、本来奴は勇者となるための『資格』を持ち合わせていない――。
ゲイルやレイさん、そして俺のように『資格』を持つ者でなければ、そもそも勇者の剣を扱うこともできない。
勇者の資格――。
それは生まれ持った2つの『弱点属性』が鍵だ。
《光》と《闇》の属性を弱点として抱えたものだけが勇者の『資格』を持つという、この世界の決まり。
それ以外の者が勇者となるためには、相当な訓練と忍耐が必要となる。
あの極悪魔王を倒すには、勇者の剣は必須だろう。
それを2刀所持し、二刀流のスキルを発動すれば確実に倒すことができる――。
これがユウリの描いたシナリオか。
「タオさんとミミリさんは後ろに下がっていてください! ミミリさん、その剣をアルゼイン様に!」
「は、はい!」
レイさんの指示によりミミリが炎剣をアルゼインに託す。
「あたいでいいのかい? セレンはどうするんだ?」
「我には《闇》の魔法がある。それに赤髪も丸腰だしな」
「けっ、俺の武器は昔っからこの拳一本なんだよ! 剣が無いくらいで慌てるお前らと一緒にすんな!」
デボルグの意気に苦笑するアルゼインとセレン。
あれならば連携に問題はなさそうだ。
「リリィさんはあのエルフの少女を! グラハムさんは《無》の魔法を使う女性のほうをお願いします! 私とアルゼイン様、セレン様、デボルグさんはルルさんの加勢を! あの金髪の殿方は信じられない強さですから……!」
レイさんの指示に皆が首を縦に振った。
『ググググ……!!』
大きく口を開いたルル。
その口に徐々に光が集約していく。
あれは、あの時、俺に放った竜の炎……!
「来るよ。あれが放たれたら、3方に散るんだ」
「はい」
「了解しました」
ユウリの指示に返事をする2人。
そして――。
『災いの元には、灼熱の裁きを――。《竜の炎》!!』
――これが彼らの戦闘の合図となった。




