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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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043 神の誕生

『始まりの町アゼルライムス/裏路地』


 とりあえず身を隠した俺達は、そこでちょっと一息。

 ここは昔から隠れ家みたいな感じで使っていた場所だ。

 グラハムと談笑したり、リリィに勉強を教えてもらったり。

 まあ、色々と思い出のある『秘密基地』みたいな場所なんだけど――。


「どうするのよ! これじゃあルルちゃん達を堂々と探せないじゃないの!」


 開口一番。

 リリィの怒号が俺の耳を襲う。

 ここなら大声を出しても周りには気付かれない。

 でも、俺の耳は死ぬ。


「まあ、落ち着けリリィ。カズハ様のやってきたことは、全て仲間のためなのだ。お前だってそれくらいは理解しているだろう?」


「そうだけど……でも!」


 グラハムの言葉に釈然としない態度で食いかかるリリィ。

 ホント、全部俺のせいです。

 ごめんなちゃい。


「でもまだ、そこまで街の中は騒ぎにはなっておりませんわね。カズハ様はこの国の救世主ですから、懐疑的な見方をしている市民も多いのかもしれませんわ」


 冷静な意見を述べるレイさん。

 普段からこうだったら、俺も惚れちゃってたかもしれないけれど。


「ごめんな、ミミリ。せっかく俺の国にお前を招こうと思っていたのに、このままじゃミミリも犯罪者の仲間にされちまうし……」


「そんな……! 私は自分の意思でカズハ様について来たのですよ! それに私は元は奴隷ですから、こんなことでは全然へこたれませんし……!」


 必死に俺の言葉を否定するミミリ。

 あの手配書にはまだ彼女の名は挙がっていなかったが、それも時間の問題だろう。

 エルザイムのじじいが手回しして、リストに上げるに違いない。


「とにかく、すぐにルルちゃん達と合流して国に戻らなきゃ。今度は『世界中』が敵になったのよ? 捕まったら最後、極刑は免れないわ」


 リリィの説得力のある説明に皆が押し黙る。

 もうこれは、俺1人の問題ではなくなったのだ。

 マジでごめん。

 俺、調子に乗りすぎた……。


ピー、ピー。


「……ん?」


 周囲から音が聞こえ、皆の表情が変わる。

 この音は――。


「「魔法便!!」」


 グラハムとレイさんが同時に声を上げる。

 その直後、光に包まれた封書がどこからともなく俺達の目の前へと飛んできた。


 俺は全員の顔を見回し、封書をそっと開ける。

 

 そこにはこう記載されていた。



==========

最愛の女王様へ


貴女様のご用意くださった魔術禁書、確かに全て受け取りました

《氷の魔術禁書》、《闇の魔術禁書》、《気の魔術禁書》

この3つの魔術禁書があれば、貴女様をお救いすることができます


今、私の元には精霊族の少女がおります

そして貴女様の大事な仲間達も


これが最後の取引となります

交換条件は『精霊族の少女の力の解放』


アルルゼクトより北西にある、『始まりの洞窟』にてお待ちしております


貴女を愛する者より

==========



「『始まりの洞窟』……」


 俺とグラハム、リリィは同時に視線を合わせた。

 『始まりの洞窟』とは、アルルゼクトに一番近い大型の洞窟のことだ。

 俺がまだ勇者候補になったばかりの頃に、初めて訪れた洞窟でもある。


「確かにあの場所は隠れるにはうってつけですな。今ではもう、あの洞窟で熟練を積む勇者候補はおりませんから」


 すでにだいぶ前に洞窟内のモンスターは駆逐されたと聞いた。

 もはや廃墟と化した、まったく人気もモンスターもいない洞窟。


「ここを取引場所に選んだということは……相手もこちらの事情をすでに知っているってことよね」


 グラハムの後に続くリリィ。

 人目につかない場所を取引場所に選ぶのは当然だろうが、きっとユウリはすでに知っているのだろう。


 しかし、これはチャンスだ。

 まだユウリは俺とルルの『奥の手』を知らない――。


「どうされるのですか、カズハ様。罠の可能性もあると思いますが……」


 レイさんが慎重な意見を述べる。

 でも、俺の答えはすでに決まっている。


「行くさ。ルルが、仲間が、そこで俺を待っているんだから」


 立ち上がり、大きく伸びをする。

 もうとっくに船酔いは醒めた。

 体調は万全。

 誰にも負ける気はしない。


 俺に続き、皆が立ち上がる。

 ホント、こんな女王でマジごめん。

 全部解決したら、お前ら皆にチューしてやろう。


「……行くか! 始まりの洞窟に――!」





『アルルゼクト北西部/始まりの洞窟』



「暗雲立ち込める世界に、一筋の光を! 《ライトニング》!」


 リリィの魔法により洞窟内部に光が灯る。

 俺を先頭に、グラハム、ミミリ、リリィが横一線で中衛。

 最後尾にレイさんがつく、十字の陣形で慎重に洞窟内部を進む。


「本当によろしいのですか……? カズハ様の得物をお借りしても……」


 申し訳なさそうにそう言いながら、俺が貸した剛剣を構えているレイさん。

 彼女が持つ勇者の剣はユウリに奪われてしまっている。

 レイさんだったらその重い剣も扱えるだろうし、俺が丸腰のほうがまだ安全だろう。


「うん。いざとなったらグラハムを剣代わりにぶん回すし、大丈夫」


「なんと!」


 俺の冗談に即座に反応したグラハム。


「こんなときでも、貴女はまたそんなことを……はぁ」


 諦めたように溜息を吐いたリリィ。

 ごめん。

 性格ってすぐには変わらないものなんだ。

 まあ変える気もないんだけど。


「わ、私も足手まといにならないように、精一杯頑張りますから……!」


 炎剣を構え、緊張の面持ちのミミリ。

 今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるが、さすがに空気を読んだ俺。

 というか、リリィの視線が怖いから何もできないだけなんだけど。


ゾクッ――。


「!!」


 今、俺の全身に鳥肌が立った。

 なんだ……?

 今の感覚は――。

 これは、まるであの時のような――?



「ふふ、待っていたよ。カズト」


 洞窟の奥から、1人の青年が音もなく現れた。

 ユウリ・ハクシャナス――。

 今回の事件の首謀者。

 そして、勇者を目指す、俺と同じ『二刀流』の剣士――。


「ルルちゃん!」

「ルルさん!」


 リリィとレイさんが同時に叫ぶ。

 奴の元には後ろ手に縛られているルルの姿が――。


「……カズハ……」


 ルルが悲しそうな目で俺を見上げる。

 それだけで俺は逆上しそうな気持ちを抑えるだけで精一杯で――。


「……他の仲間はどこだ」


 震える声を抑え、何とかそれだけ答える俺。

 それに呼応するかのように、ユウリの背後からルーメリアとエアリーが出現する。


「私の無属性の魔法で一時的に眠ってもらっているわ。大丈夫、皆、生かしておいてあるから」


 ルーメリアの声が洞窟内に響き渡った。

 何故か彼女も悲しそうな顔をしている。


「……こんな形で再会するなんてな。お前らとは仲良くやっていけると思っていたのに」


 あの時――。

 闘技大会が終わった直後、俺はユウリ達4人を仲間にするかどうか、本気で悩んでいた。

 そこで声を掛けていれば、別の未来が待っていたのだろうか。

 今ではもう、どうしようもない過去の話なのだが。


「そうだね。君とはずっと、仲良くやっていけると思っていた。……いや、今からだって、仲良くやっていけるさ」


 一歩前に歩み出たユウリ。

 そして何を思ったか、俺に右手を差し伸べた。


「……何のつもりだ」


 眉をピクリと動かし、それだけ質問する。

 ピンと張り詰めた空気が、俺達を包み込む。


「見てのとおりだよ。君も気付いているんだろう? 僕の目的は君達を傷つけることじゃない……。『この世界を元に戻す』。ただ、それだけを望んでいる」


「……」


 俺は、何も答えない。

 2人の間に一瞬の静寂が訪れる。


「……何も答えてくれないんだね。でも、まあいいさ。君は僕に従うしか道はない。全てが終わったら、君は僕に感謝をするだろう。これは僕の『恩返し』でもあるのだから」


「? お前、何を言って――」


ゾクリ――!


 俺がそう答えた瞬間、強烈な鳥肌が俺を襲った。

 カツン、カツン、と足音だけが洞窟内に木霊する。



「くっくっく……」


 暗がりから現れたもう一人の人物――。

 俺は、俺達は、その人物を知っている――。


「まさか……」


 驚きのあまり口を覆ったレイさん。

 そして、その場に崩れてしまう。


「ひ……ひひひ……! 久しいなぁ、戦乙女ぇぇぇ……。ひひ、ひひひ……」


「てめぇ……。またノコノコとこういう場面で出てきやがるか……!」


 特徴的な笑い声。

 猟奇的なその笑顔を忘れるはずがない。


 元勇者、ゲイル・アルガルド――。

 精霊王にその身を乗っ取られ、魔王軍襲来とともに帝国を潰そうとした張本人――。


 しかし、精霊王は俺が発動した火の魔術禁書で完全に消滅したはずだ。


 俺は視線だけでルルに問う。

 しかし、ルルは首を横に振るだけだ。

 ということは、奴は再び精霊王にその身を乗っ取られた訳ではない――?


「彼は、この世界で『神』となる男だ。そして、君を救ってくれる男だ」


「まさか――」


 ユウリの合図と共に、ルーメリアとエアリーが3冊の魔術禁書を掲げた。

 それらが徐々に宙に舞い、ゲイルの頭上へと導かれる。


「げひゃひゃ……! いいことを教えてやろうか、戦乙女ぇぇ……!! あの時、精霊王にこの身を乗っ取られた俺はぁ……! 第3の『得意属性』を開花させたんだぜぇぇ! その意味がお前に分かるかあぁぁ!?」


第3の・・・……得意属性・・・・?」


 通常、この世界のありとあらゆる生命に備わっている『属性』は2つまでと決まっている。

 得意属性が2つ。

 弱点属性が2つ。


 俺はゲイルの2つの『得意属性』を知らないが、精霊王との融合の影響で『第3の得意属性』が開花されたとすれば、3つの魔術禁書を集めた本当の理由・・・・・とは――。


「ひーっひっひっひ!! 俺の得意属性は《氷》と《闇》だ! そして開花した第3の属性は《気》!! ならば俺はこの3属性に対し、対応する・・・・魔術禁書の・・・・・力を得る資格を・・・・・・・有している・・・・・ことになるううぅぅ!! げひゃはーーーー!!」


 3つの魔術禁書から光が漏れ出す。

 そしてそれらがゲイルに降り注ぎ――。



「ぎゃはははは!! 神の!! 神の誕生だあああああああ!! ひひゃひゃひゃ! げひゃひゃひゃああああああ!!」




 ――ゲイルの猟奇的な笑い声が洞窟内に響き渡った。



















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