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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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042 世界に広がる波紋

「げっふ……」


「嗚呼……。カズハ様ぁ……」


 俺の胸に顔を埋めるレイさん――もとい猛獣。

 全身のありとあらゆる場所にキスマークが付けられた俺。

 なんか捕食される小動物の気持ちが分かった気がする……。


「まあ、元気そうで良かったよ、レイさん」


 俺はそのままレイさんの頭を撫でてやる。

 嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らすレイさん。

 でも、ずっとこのまま寝転んでいる場合ではない。

 というか、何故誰も俺を助けに来なかった。

 あれか。ご都合主義ってやつか。


「起きられるか、レイさん」


「はい、カズハ様。名残惜しいですけれど……」


 立ち上がり、東の海岸に視線を向ける。

 すでにそこにはエアリーの姿は無く、ドン引きした表情で立ち尽くしている3人の仲間の姿が――。


「……うん。まあ、気持ちは分かる」


 ヨロヨロとした足取りで3人の元へと向かう。

 その間もレイさんは俺の腕を掴んで離そうとはしない。

 もう完全に甘えモードに入っている。

 まあ、これが普段のレイさんと言ったらそれまでなのだが。


「……カズハ」

「カズハ様……」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 若干一名、何度もお礼を言う馬鹿がいるが無視しよう。

 とくにミミリのドン引き具合が半端無い。

 確かにレイさんの猛獣ぶりを初めて見たら、こういう反応が普通なのだろう。


「あら、新顔がおりますわね。ふうん……」


 ミミリの頭の先(というかウサ耳の先)からつま先までガン見しているレイさん。

 その風貌から何かを感じとったのか。

 レイさんの全身から嫉妬の炎のようなものが見える気がする……。


「あ、あの……初めまして。私、ラビット族のミミリと申し――」


「まずはお礼を言わせていただくわ。助けてくれてありがとう、ミミリ。でも、わ・た・く・し・の、カズハ様に手出ししたら承知しませんことよ」


 ミミリの言葉を遮り、いきなりのライバル宣言。

 俺のことをよく研究していたレイさんのことだから、俺の好みの女性まで完全把握しているのだろう。

 お礼の言葉と表情があまりにもチグハグすぎる。

 メラメラと燃え上がる瞳がめちゃくちゃ怖い……。


「はぁ……。この様子だと大丈夫そうね。心配して損しちゃったわ」


 大きく溜息を吐いたリリィだったが、その表情には笑みが浮かんでいた。


「エアリーはどこにいったんだ?」


 周りを見回してもやはり彼女の姿は何処にもない。


「先ほどのエルフ族の少女は、魔術禁書を受け取ったらすぐに帝都のほうへと走っていきましたぞ。我々も追いかけるに追いかけられず、ただただカズハ様とレインハーレイン殿の情事をこうやって拝見していることしか出来ずに……むふふ」


「キモい」


「ぶはあっ!?」


 つい拳が飛びました……。

 そのまま後方へとすっ飛んでいくグラハム。


「ルルちゃん達が心配だわ。私達もこのまま帝都に向かいましょう。……あら? 剣はどうしたの、レイ」


「あ……。そ、そうでしたわ……! 大事なことをお伝えするのを忘れておりました……! 実は――」


 慌てた様子で事情を話し始めたレイさん。

 でも大体のことは俺の想像どおりだった。


 ユウリに捕らえられたレイさんは、すぐに勇者の剣を奴に奪われたらしい。

 しかしユウリはまだ勇者として覚醒しているわけではない。

 勇者の剣は勇者にしか扱えない代物だ。

 やはり、奴の目的は――。


「これでほぼ確定ですな。ユウリの目的は『勇者』となり、レインハーレイン殿が持っていた勇者の剣と、ルル殿との『勇者の契約』。そしてもう1本の勇者の剣を手に入れること。魔術禁書を3つも集める理由は、世界に対する宣戦布告といったところでしょうか」


 顎に手を置き、そう予想するグラハム。

 皆も一様に首を縦に振っている。

 だが――。


(どうにも腑に落ちないな……。そもそもユウリはどうして、俺が・・魔術禁書の・・・・・在り処を・・・・知っていると・・・・・・予想できたんだ・・・・・・・……? それにもう1つ――)


「あの金髪の青年はこうも言っておりました。『《四宝》は《宝玉》と対になるもの』だとか『この世界の呪いを断ち切るために必要なもの』だとか。私には何のことだかさっぱりなのですけれど……」


「え――」


 レイさんの言葉に声を失う俺。

 俺の脳内で様々な疑問が1つに繋がっていく――。


 《宝玉》とは、魔王を倒したときに出現する、この世界のループの元凶となった宝石のことだ。

 俺は過去、2度も魔王を打ち倒し、その宝玉のせいでループ地獄に嵌ったのだ。

 やはりユウリの目的は、この世界を・・・・・元の世界に・・・・・戻すこと・・・・――?


 ならば、ユウリの正体はなんだ?

 どうして・・・・世界が・・・ループしていることを・・・・・・・・・・知っている・・・・・――?


「とにかく向かうしかないわね、帝都に」


 リリィの言葉に皆が首を縦に振る。

 確かにここで考えていても埒が明かない。

 真相は本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。


「行くか。帝都アルルゼクトに……!」


 

 俺の掛け声とともに、いざ帝都へと――。





 帝都アルルゼクト。

 アゼルライムス帝国の首都であり、『始まりの町』と言われる小さな街を抱える帝国の要所だ。

 俺の物語が始まった街――。

 この街には沢山の思い出が詰まっている。


「まさかここで仕掛けてくることはありますまい。賊とはいえ、これまで目立たないように魔法便で指令だけを送ってきたのですから」


 辺りを警戒しながらグラハムがそう告げる。

 確かに今までのユウリのやり方から考えるに、街中での奇襲は考えにくい。


「どうするのカズハ? エリーヌ皇女やガロン帝王に応援を要請する?」


 俺に意見を求めるリリィ。

 3つもの魔術禁書がすでにユウリに渡っているのだ。

 これが世間に知れれば、恐らく大混乱になるだろう。


「……いや、それは止めておこう。俺はすでにラクシャディアやユーフラテスで問題を起こし過ぎた。それに――」


 街角に張られている一枚の紙を指差す。

 『大犯罪者カズハ・アックスプラント』。

 見出しに大きくそう書かれ、俺の全身像が描かれていた。


「これって……! 貴女、もう『世界ギルド連合』から凶悪犯罪者として狙われているじゃない……!!」


「うん」


「嗚呼……」


 ヘナヘナとその場に崩れてしまったリリィ。

 そういえば、こいつらにはそのことを伝えていなかったっけ。

 いっけね。


「おい、リリィ! こっちには俺達の手配書もあるぞ……! なんてことだ……!」


 グラハムの指差す先には、傭兵団《インフィニティコリドル》の面々の姿が写し出されている。

 そこに書かれてる『危険度』を示すランク――。


----------

〇カズハ・アックスプラント/危険度『SSS』

〇レインハーレイン・アルガルド/危険度『S』

〇アルゼイン・ナイトハルト/危険度『S』

〇セレン/危険度『S』

〇グラハム・エドリード/危険度『S』

〇リリィ・ゼアルロッド/危険度『S』

〇タオ/危険度『B』

〇ルル/危険度『E』

〇ゼギウス・バハムート/危険度『E』

---------- 


「おー、すげぇ。お前らみんな危険度『S』だってよ」


 通常であれば世界ギルド連合から危険度『S』指定をされるだけで極悪人だ。

 ていうか傭兵団に登録していないゼギウスじいさんの名前も挙がっている……。

 これはいわば、俺の国の国民に対する世界ギルド連合からの宣戦布告というわけか。


「なにを呑気なことを言っているのよ! これはもう、本当に『戦争』よ! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!!」


 俺の頭をこれでもかと聖杖で叩きまくるリリィ。

 うん。

 マジでごめん。

 なにも言い訳できない。


「(皆さん……! あまり騒ぐと目立ちますよ……! 落ち着いてください……!)」


 小声でリリィを諭すミミリ。

 確かに数人の市民が俺達に視線を注いでいるのが見える。


「(とにかくこれはマズイですぞ……! すぐにでも身を隠さねばなりません……!)」


 グラハムの言葉ですぐにその場から立ち去る俺達。

 まさかこんなに早く手配書がアゼルライムスにまで届くとは思わなかった。

 『世界ギルド連合』、か……。

 名前だけは知っていたけど、どういう組織か詳しく知っているわけではない。

 当たり前か。

 俺が今までいたこの世界で、案件が発動したことなど一度も無いんだから。


(うーん、困った……。どうしよう……)


 今は仲間のことだけで頭がいっぱいだ。

 早くユウリとルル達を見つけて目の前の問題を解決して。

 それから早めに『ごめんなさい』の姿勢を世界に示さないと厄介なことになる。

 ……ていうか、もう、なっている。



 頭を悩ませながら俺は、アゼルライムスの街の裏路地へと、とりあえず身を隠すことに――。



















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