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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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039 大聖堂崩落

「とにかく光魔法と闇魔法だ! 連発し、動きを止めろ!」


 兵長の命令により数名の聖堂騎士が魔法を詠唱する。

 詠唱とは言ってもほぼ無詠唱に近いくらい詠唱時間が短い。


「《シャインイクスプロウド》!」

「《ライトニングスピア》!」

「《ダークサーヴァント》!」

「《デビルクラッチ》!」


 四方八方から俺の苦手な属性魔法の雨あられ。

 俺は地面を蹴り、瞬時に上空へと跳躍する。


「逃がすか!」


 すぐさま反応した他の聖堂騎士数名が、さっきの鎖を俺に向かい投擲する。

 それを剛剣で切り裂き、ピコンと閃く俺。


「おお、そうか。『鎖』ってのも面白いかも」


 そのままウインドウを開き陰魔法を選択。

 その中からもう一度『鎖錠』を選択。

 長押しし、隠しウインドウを開き『大鎖錠』を選ぶ。


「馬鹿が! 何度陰魔法を使おうとも無駄だというのが分からんか!」


 ノーチャージで使用しようとする俺に向かい叫ぶ兵長。

 すでに別の聖堂騎士が陽魔法で対抗しようと詠唱を始めていた。


「あー、違う違う。まあ、見てろって」


 異次元から出現した大きな鎖。

 その先についている手錠の部分を、自身の左手に装着する。


「何をしているのだ奴は……? 拘束系の陰魔法を自分に……?」


 左手には大鎖。

 右手には剛剣ドルグ。


「《ツーエッジソード》」


 二刀流スキルを発動。

 防御を捨て、攻撃に専念するための諸刃の剣。


「やっぱ両手に武器があると安心しますねー……っと!!」


 言いながら左手に絡まった鎖を大きく振りかぶる。

 そして魔法をバンバン使ってくる聖堂騎士に向けてぶん回した。


「うおりゃあああああああああ!」


「うぎゃああああ!」

「ひいいいいいぃ!」


 10人ほど巻き込み、後方へと吹っ飛んでいった聖堂騎士。

 今の衝撃で大聖堂の入り口に立っていた像がぶっ壊れたけど、まあ良しとしよう。


「くっ……! 噂に違わぬ化物が……! 拘束系の魔法を武器として扱うなど、聞いたことがない……!」


 焦った表情でそう叫んだ兵長。

 しかしすぐに他の部隊に命令を伝えている。


(やっぱあの兵長を叩かないと厳しいか……)


 剛剣を翳し、それを足場に空から急降下する。

 出し惜しみは無しだ。

 さっき吹っ飛ばした聖堂騎士も、すぐに戦線に復帰するだろう。


「《弐乗》」


 更に陰魔法を使用。

 ツーエッジソードにより強化された攻撃力が一気に二乗され、跳ね上がる。


「《ストライプ・トラスト》」


 突進のスピードを大剣スキルで加速。

 そのまま敵集団の中心に突っ込む。


「聖盾隊!」


 俺の攻撃を予測したのか。

 兵長の命令で大盾を構えた聖堂騎士数名が前に出る。


ガキン――!


「ぐっ……!」

「重い……!!」


 何重にも重ねた大盾でなんとか俺の攻撃を受け止めた聖堂騎士。

 たぶん、初めてだ。

 『二刀流』、『ツーエッジソード』、『弐剰』のトリプルチートを受け止められたのって。


「やべぇ……。これやべぇ……」


 地面に着地し、肩をわなわなと震わせる。

 そして再び俺を取り囲む聖堂騎士たち。


「いいぞ! 戦乙女の戦意を削い――」


「楽しくなっちきたあああああああ!」


「へ――」


 歓喜の叫び声を上げながら、俺はその場で一回転。

 左手の大鎖を振り回すも、周りを囲んだ聖盾隊に阻まれる。

 が、若干整列が乱れたところを見逃すはずもなく――。


「《スライドカッター》!」


「ぐああああああ!」


 聖盾隊の1人を片手剣スキルで攻撃。

 手ごたえあり。

 俺はそのまま大盾の隙間を縫い、兵長へと近付く。


「戦乙女の狙いは兵長だ! 絶対に近づけるな!」


「《ヒルトクラッシュ》!」


 大剣スキルにより超高速の打突を繰り出す。

 それが聖堂騎士の一人の顎にクリティカルヒット。

 これで2人目。


「《フルスイング・バースト》!!」


 再び大剣スキルを発動し、3人まとめて吹き飛ばす。

 これもクリティカルヒット。

 これで5人を気絶させた。


「ちいぃ! さっきから片手で大剣スキルを軽々と使いやがって……! この化物女王がああああ!!」


「カチン」


 今、誰か聞き捨てならないこと言ったよね。

 今の俺を怒らせるとか、勇気があるというよりは無謀じゃね?


「もう一度だ! もう一度体勢を立て直し、魔法と槍の集中砲火を――」


 兵長の指揮により全員が機敏に動く。

 さきほど吹き飛ばした魔法部隊も戦線に復帰している。

 一糸乱れぬ行動。

 この統率力は世界最強と言わざるを得ない。

 けど――。


「全力って言ったよな。俺、さっき全力って言った」


 誰に言うでもなく、1人そう呟く。

 そしてそのままウインドウを開く。


「まだ何かする気だぞ! 気を引き締めろ!」


 兵長の命令が木霊する。

 すでに魔法部隊は詠唱を始め、聖槍隊、聖鎖隊、聖盾隊も構えの姿勢をとっている。

 俺は陰魔法の中でさきほど使用した『弐剰』を選択。

 それを長押しし――。


「《大弐乗》」


 俺の全身を蒼黒い闇が覆う。

 陰魔法の隠しスキルの中で、SPの大部分をもっていかれちまう大技。

 マジでこれが『奥の手』ってやつだ。


 ぐんぐんと力が沸き起こってくるのが分かる。

 二乗の二乗。

 これ使ったあとの副作用とかヤバイんだけど、まあグラハムとかリリィとかいるし。

 仲間を信じているからこそ、使えるチートってやつだ。


「あ、あの邪悪な光はなんだ……?」


 俺を取り囲む聖堂騎士が一歩後ずさった。

 強い者は、強い者の波動を感じる。

 このヤバさを理解しただけでも、お前らはマジですごいよ。

 今日は楽しかった。

 ――ありがとう。


 左手を振り上げる。

 そして鎖を振り回した。


 一瞬、音が消えた。

 聖堂騎士らは、なにも見えてはいないようだった。


ずるり――。


「……え?」


 俺の放った鎖は聖堂騎士を襲わず。

 背後にある大聖堂に向かった。

 ユーフラテスの象徴。

 世界中にいるメリサ教の信者の聖地。


ずるり、ずるり――。


「だ、大聖堂が……!」


 斜めの線が大聖堂に刻まれている。

 世界中で生産されている、もっとも硬い鋼石で作られた巨大な聖堂。

 それが今、崩れ去ろうとしていた。


ガガガガガ……!!


「な、なんということを……!!」


 乱れた聖堂騎士。

 俺は瞬時に地面を蹴り、兵長の元へと移動。


「ひっ……!」


「兵長!!」


 奴の首根っこを掴み、慌てふためく聖堂騎士に顔を向ける。


「チェックメイトだ。こいつを殺されたくなかったら、俺の言うことを――」


「命令だ! 俺の命など構うな! この悪魔を世界に放ってはならぬ! ここで止めろ! なんとしても止めるんだ!!」


 兵長は命乞いをするどころか、まったく臆せずにそう叫んだ。

 ホント、頭が下がるよ。

 こんなやつがエルザイムの部下だなんて、マジでもったいない。

 宗教を利用して、熱心な信者を騎士に仕立て上げ。

 自らの命を賭けて国を守らせ、国民を守らせる。


「……兵長……。聞いたか! 兵長の命令だ! 俺達も命を賭けるぞ! 戦乙女と刺し違えてでも、この世界は我々が守るのだ!!」


 副兵長っぽい騎士が涙ながらにそう叫ぶ。

 あーあ。

 俺、完全に悪役だなこりゃ……。


 溜息を吐いた俺は、そのまま兵長を奴らに放り投げた。

 人質をとってもまるで意味がない。

 面倒だが、ひとりひとり気絶させていくしか方法が無いか。


「ひとり3秒だとして……残り95人くらいか。ええと、うんと……」


 指で数えている間も大聖堂は轟音と共に崩れていく。

 計算が出来ないんじゃない。

 音がうるさくて集中できないだけなんだ。

 うん。


「まあいいや。やっつけたほうが早いだろ」


 奴らの統率が乱れている間にちゃっちゃとやってしまおう。

 俺の目的は、こいつらを撃破することではないんだし。


「じゃあ、もう一度いくぞー」


 俺の声に奴らの顔色が変わったのはいうまでもなく――。





 聖堂騎士100名。

 奴らを全員気絶させた頃には、大聖堂の崩落も収まり周囲に野次馬が集まり始めていた。

 そのほとんどが修道服を着たメリサ教の信者達だ。

 皆俺のことを悪魔を見るような目で見ている。

 中にはなにか叫んでいるやつとかもいるし。


「げほっ……! げほげほ……! くっ、この有様は……!」


「あ、じいさん出てきた」


 大聖堂から命辛々出てきた様子のエルザイム主教。

 俺は剣を収め、首を鳴らしながら主教に近付く。


「久しぶり、エルザイム主教。元気だったか?」


「カズハ女王……! 『恩を仇で返す』とは貴女のような方のことを言うのでしょうな……!」


 歯軋りをしながら睨みつけてきた主教。

 周りには数千という信者達が集まってきているというのに、いつもののっぺりとした表情ではないところが今の奴の心境を物語っている。


「なーにが『恩』だよ。あんな廃れた土地で10億Gもぼったくるわ、影でこそこそ奴隷商人とつるんでいるわ、真っ黒じゃねぇか、じいさんよぅ」


 俺の言葉に動揺の色を隠せない様子の主教。

 まあ、信者達にも聞こえちゃうから気持ちは分からなくもないけど。


「俺の目的は分かってるんだろう? 魔術禁書はどこにある?」


 俺の言葉に大聖堂周辺に悲鳴が上がる。

 すでに俺の悪行は世界中に広まっているみたいだから当然だろう。


「な、なんのことだか私には……」


「すっとぼけんなよ。じいさんが隠し持っている《気の魔術禁書》をよこせって言ってんの」


 更に悲鳴が上がる。

 それも当然のことだろう。

 メリサ教の教えでは魔術禁書のことを『絶対悪』としているのだ。

 まあ、禁書ってくらいなんだから、どこの宗教でも似たようなものなんだけど。

 それをエルザイム主教が所持しているなんて知れたら大問題だろうし。

 奴隷問題だってそうだろう。

 奴隷制度が禁止されている国で、主教自身が奴隷商人と繋がっているなんて笑い話にもなりゃしない。


「う……。エルザイム……様……」


 目を覚ました兵長が、震える手を主教に伸ばす。

 今の話を聞いていたのだろうか。

 目には涙を浮かべ、救いを求めるようにその手を主教の足へと――。


「……この役立たずが!」


 その手を振りほどき、兵長の頭を振り上げた足で踏みつけた主教。

 もう取り繕っても無駄だと察したのだろう。

 その顔は醜悪に満ちていて、老い先短いじいさんの顔とは思えない。


「私が! どれだけの時間をかけて! この国を作り! 信者を集め! ここまで登りつめたと! 思っているのだ!」


 何度も何度も兵長の頭を踏みつけるじいさん。

 その光景に唖然としている信者達。

 俺はつかつかと主教の前に歩み寄り、振り上げた足を掴んだ。


「いい加減にしろ、クソじじい」


「くっ、放せ! 貴様ら、何を見ている! 私を助けろ! この凶悪手配犯を殺せ!!」


 喚く主教だが、信者達は誰も動かない。


「いいか! よく聞け! この私に手を出すということは、世界中で締結されている平和条約が破棄され、再び戦争の世の中が始まるということなのだぞ!」


「うん。知ってる」


「貴様の国など、三大国が協力すれば一瞬で根絶やしにされることは承知の上だろうな!」


 三大国。

 エルザイムが言っているのは『アゼルライムス帝国』、『ラクシャディア共和国』、そしてここ『ユーフラテス公国』のことだろう。

 アゼルライムスを敵に回すということは、エリーヌも俺の敵に回るということだ。

 魔王軍討伐以外で、この三国が協力し、一国を滅ぼすなどという歴史はいままでに無いだろうな。


 しかし、俺の答えは決まっている。

 最初から、そんなものは承知の上だ。


「仲間の命が掛かっているんだ。だから、魔術禁書をよこせ」


 睨みを利かせ、足を掴む手に少しだけ力を込める。


「ひっ……! わ、分かった……! 落ち着け! ほ、ほれ……!」


 いとも簡単に懐から気の魔術禁書を取り出したエルザイム。

 権力者ほど自身の命に対する執着は大きいからな。

 脅しに簡単に屈するし。

 何の張り合いもない。


「サンキュウ。あ、それと、俺の国にいる仲間にちょっとでも手を出したら――」


 魔術禁書を受け取り、奴の耳元でそっと囁く。

 その言葉に顔面が真っ青になったエルザイム。


 さあ、そろそろ潮時だ。

 予定の時間より少し早いけど、このまま北門に向かおう。

 リリィのことだから、この騒ぎを聞きつけてすでに集合場所に待機しているだろうし。


 出来る部下を持って、幸せだよ俺は。


「覚えていろよ、カズハ女王……!」


 去り際に捨て台詞を吐いているエルザイム主教。

 あの様子ならすぐにアックスプラント王国に攻め入ることはないだろう。

 他の二国と連絡を取り合い、戦争の準備にかなり時間をかけるはず。


 あとで魔法便を使ってエリーヌに連絡を入れておこう。

 もちろん匿名で。

 全て事が済んだら、謝罪行脚でもなんでもしてやる。

 謝って許されれば苦労はしないんだけど、俺の目的は戦争じゃないし。


 レイさんを救う。

 ユウリをぶっ飛ばす。

 それで一件落着。

 あとは頭の良い仲間に丸投げして――。



「……うん。絶対に、死ぬほど、めっちゃ怒られるなこれ」




 ――俺の嘆きが誰かに聞こえたかどうかは定かではない。

















 

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