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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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033 ラビット族のミミリ

「へぇ……。お二人はアゼルライムス出身なのですかぁ」


 港町シグマリオンにある小洒落たバーの一角。

 俺とグラハムは見事バニーちゃんのナンパに成功し、ここに連れ出したという訳だ。


「私は傭兵をやっております、グラハム・エドリードと申します。こちらは――」


「俺はカズト。こいつと同じく傭兵をやってまーす」


 男物の服を着た俺は、女とばれないように無理に低音ボイスでバニーちゃんに語りかける。

 うん。

 自分で言うのもなんだが、凄くキモイ……。

 オカマ声みたい……。


 当然俺達は素性を明かせない。

 グラハムの馬鹿は実名を名乗ったが、俺やリリィほどは有名ではないから多分大丈夫だろう。


「グラハムさんと、カズトくんかぁ。ふふ、なんだか不思議な組み合わせですねぇ」


 口元に手を当て微笑むバニーちゃん。

 その様子を見て涎を垂らしているグラハム。

 俺もちょっと油断したら口元が緩んでしまいそうになる。

 整った顔立ち、長い手足、大き過ぎず小さ過ぎない胸。

 そして、リアルうさ耳――。


「あ、ごめんなさい。私はラビット族のミミリと言います。ここ数年は公国どころかシグマリオンを出たこともないから、お二人のお話が面白くてつい……」


 うさ耳に拳を当て、軽く舌を出すミミリ。

 強烈な一撃にグラハムはノックアウト寸前だ。

 俺でさえ萌えメーターが振り切りそうなくらいだし。


「いかんいかん……! このままでは萌え死んでしまう……! こ、こほん! な、なにかお飲みになりますかな!」


 メニューを手に取り焦っているグラハム。

 その様子を見て微笑するミミリ。


「あ、じゃあ俺はミルクで」


「私は……キャロットジュースを頼んでも良いでしょうか?」


「くっ……! 美女がミルクとキャロットジュースを……! いかんいかん! 耐えろ! 我が煩悩!」


 グラハムがなんか呟きながら一所懸命自分の膝を抓っている。

 どうでもいいけど鼻息が荒くて暑苦しい。


「美女が、2人?」


「あー! きっとアレだ! もう酔ってるんじゃないかなグラハムは!」


 キッとグラハムを睨む俺。


「ふふ、でもカズトくんって女の子みたいな顔をしてますよねぇ。可愛いって良く言われないですかぁ?」


「言われます」


 即答する俺。

 この際可愛いとか格好良いとか、どっちでも良い。

 ミミリが俺に興味を持ってくれることが何よりも大切なことなのだ。

 うん。


 しばらくするとバーテンが飲み物を持ってくる。

 ちゃっかり自分の分は酒を頼んだグラハム。

 別に飲んでもいいけど自分の分は自分で払えよ。


「今夜は飲み明かしましょう! 我らの出会いに! 乾杯!!」


 めっちゃでかい声で乾杯の音頭をとったグラハム。

 他の客の視線と失笑が痛い……。





「ぐがー……ぐがー……。むにゃむにゃ……」


 結局あれから3時間ほど飲み食いした俺達3人。

 はしゃぎすぎて飲みまくっていたグラハムは酔いつぶれてしまった。

 お前なにしに来たんだよ……。


「寝ちゃいましたねぇ。でも面白い方ですよね、グラハムさんって」


「まあね。でもまあ、こいつもこんな美人と飲めて幸せだろうな」


 コツンと拳をグラハムのおでこに当てる。

 すると何故かニヤリと笑いなにかを呻きだした。

 俺達はその姿に苦笑する。


「お二人はいつまでこの町に滞在されるのですか?」


「え? あー、明日には出発するつもりだけど」


「そうですか……」


 少し沈んだ表情でそう答えたミミリ。


「いいなぁ。あちこちの国を回って、色々なものを見れて……。私は一生、この国からもこの町からも出ることは無いでしょうから……」


「ふーん……。ミミリはどうしてユーフラテスに来たんだ? ラビット族の国って確か、ラクシャディアよりもだいぶ南に行ったところになかったっけ」


「はい。ここに来たのは、御主人様・・・・が商いを始めるからって仰ったので――」


 御主人様……?

 まさか、ミミリは――。


「ふふ、その顔は気付いちゃいましたか。私、元々奴隷だったのですよぅ。でもこの国は奴隷制度が法律で禁止されてますから解放されたんです」


「ならここに居なくても好きなところに行けるじゃん」


「……いえ。結局、元奴隷という過去は消せませんので……。私の居る場所はここしか無いんです」


「……」


「あ! でも嫌という訳では無いんですよ! この国は差別が少ないですし、御主人様も私を奴隷として扱えなくなったので、生活費もしっかりと払ってくれますし――」


 慌ててミミリはこの国の素晴らしさを語り始めた。

 いつ、どこで誰が聞いているのかも分からないのだ。

 公国の悪口や主教の悪口を言った日には、周囲から『異端者』として扱われてしまうのだろう。

 『差別の無い、暮らしやすい国』というのは建前でしかない。

 どこの国にもこういった問題は必ず存在する。


(まあ、だからこそ俺は自分の国を・・・・・作った・・・ってのもあるんだけど……)


 正直、面倒臭いのが大嫌いだ。

 自由に暮らして、自分の好きなことをやれれば良い。

 そんな俺の考えに賛同する者が、自身の意思で付いてきてくれれば良い。


(……って堂々と言ったらルルとタオとセレンに思いっきり頭を叩かれたけど)


「……カズトくん?」


 いつの間にか話を終えていたミミリは俺の顔を覗いている。

 うん。

 めっちゃ可愛い。

 よし。


「なあ、ミミリ。お前の御主人様の名前ってなに?」


「え? ガレイド・ブラスト様ですけれど……」


「あー、そいつかー。なるほどなぁ」


「?」


 ガレイド・ブラスト。

 またの名を奴隷商人ガレイド。

 そういや『3周目』になってから名前を聞かないとは思っていたけど、ユーフラテスに隠れていたとは……。


「ミミリ。お前が本当に望んでいる・・・・・・・・未来ってなんだ?」


「……急にどうしたんですかぁ? もしかしてミルクにお酒が入ってたとか……」


 俺が酒に酔ってふざけているのだと思ったのだろう。

 まあいい。

 もう俺、決めちゃったから。


「おい、起きろ酔っ払い」


「うごっ! ……はっ! 私としたことが眠ってしまうとは!」


 強引にグラハムを起こした俺。

 ミミリはしきりに首を傾げたままだ。


「マスター! お勘定!」


 そのままグラハムとミミリを引っ張り店を出る。


「ど、どこに行くのですかぁ? ま、まさか如何わしいことを私に……!」


「な、なんですとぉ!? それはなんと心躍るシチュエーション――じゃなくて! カズハ様!」


「カズハ、様……?」


 首を傾げるミミリ。

 馬鹿グラハムめ……。

 でもまあ、どうせバレちゃうだろうからいいや。


「これから奴隷商人ガレイドをぶっ飛ばしにいく。リリィには内緒で」


「えっ――」

「えっ――」


 同時に素っ頓狂な声を上げたグラハムとミミリ。

 俺は真顔で2人に告げる。


「ミミリは俺がもらう。俺の国専属のうさ耳メイドになってもらう」


「……」

「……」


 同時に顔を合わせたグラハムとミミリ。

 そして――。





「「えええええええええええええええええええ!!??」」


















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