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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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030 3人の夜

 

 辺りは既に真っ暗闇。

 延々と北に進んだ俺達3人は、何も無い湿原で夜を明かすことに決めた。



「いやー、疲れたねー」


 大きく伸びをしながら即席のベッドに寝転がる俺。


「貴女はべつに何もしていないでしょう……。まったくいつもいつも……」


 ぶつくさと文句を言いながらリリィは火を囲い溜息を吐いている。

 イライラはお肌に良くないよ。


「ベッドの寝心地はいかがでしょうか、カズハ様」


「うん。まあまあ」


 このベッドはグラハムが組み立ててくれたものだ。

 まあ、流石に俺も女王なんだし、部下にこれくらいさせてもバチは当たりません。


「今夜は随分と冷え込みますな。どれ」


「どれ、じゃねぇ。なに人のベッドで添い寝しようとしてる。この変態が」


 ベッドに潜り込もうとしているグラハムの後頭部をパコンと殴る。

 軽く舌を出し、照れ笑いをしたグラハム。

 ごめん。

 すごい気持ち悪い。


「あとどれくらいで港に着くのかしら。流石にもう疲れたわよ、私も……」


 膝に頭を付けうな垂れるリリィ。

 アークランドを出発してからほぼ半日戦闘続きだったのだ。

 もう皆ヘトヘトだろう。

 俺も素材やGを拾い集めるのにものすごく疲れたよ。

 うん。


「そういえばカズハ様。お持ちになっている大剣は、いつものツヴァイハンダーでは無いのですね」


「え? あー、これ? うん。ゼギウスのじいさんに特注で作ってもらったんだけどさぁ。めっちゃ使い辛いんだよね」


 他の荷物とともに雑に置いてある剛炎剣ドルグドグマ。

 いったい何時から使っていないのだろう。

 氷の神獣と戦ったとき以来だっけ……。

 もはや重たいだけの荷物と化してるけど。


「へぇ、火属性の武器ね。消失した貴女の火属性をこれで補おうって訳ね」


「お、流石はリリィさん。そういう話題には喰い付きますか」


「もう……。茶化さないでよ。疲れているんだから」


 そうは言いつつも立ち上がったリリィは剛炎剣をベタベタと触っている。

 あまり指紋つけないでね。


「ふーん……。これ、普通の大剣じゃないわね。ええと……」


 ガシャンと音を立てた剛炎剣は2つに分かれる。


「おお! これは凄い! 奇剣という訳ですな!」


 歓喜の声を上げるグラハム。

 ていうかリリィよ。

 お前、その剣が二刀に分離するのをそんなにすぐに分かっちゃうとか……。

 俺がそれに気付くのに一体どれだけ掛かったと……。


「ゼギウスさんも粋なものを作るわよね。大剣と二刀の片手剣の切り替えが出来る火属性の武器なんて」


 炎剣ドグマを掲げながらリリィが溜息を吐く。

 もう一方の剛剣ドルグはグラハムが勝手に触ってるし。

 お前らほんと自由だな。


「でも、やっぱりおかしいわよね」


「え? なにが?」


 急に話題を変えてきたリリィ。

 俺のどこがおかしいと言うのか。


「あの日、火の魔術禁書を使用した貴女は火属性を消失してしまった――。だからこそ、こういった方法・・・・・・・で失った属性を補わなくてはならない」


 あ、そっちか。

 いきなり俺に喧嘩売ってるのかと勘違いしちゃった。


「まあでも、別に火属性が無くてもあまり困らないけどなー」


 鼻をほじりながらそう答える俺。


「それは貴女が化け物だからよ」


「失敬な!」


 叫んだら思いっきり指を鼻の奥に……。

 痛い……。


「違うわよ、真面目に聞いて。本来ならば一度きりの大魔術である魔術禁書を使用するということは、それに相応したリスク――『属性の消失』を伴うってことよ。まあ、それに見合うだけのとんでもない力が秘められているのは確かなんだけど……」


「あれだろ? それが分かってるからユウリは3つもの魔術禁書を必要としているんじゃね? 一回使って、もしも失敗したら二度目は無いんだし」


 それ一つで世界を崩壊させるだけの力を秘めた《魔術禁書》。

 しかし何らかの理由で不発する可能性だってある。


「そこまでして世界を破滅させたいのでしょうか。そのユウリとかいう男は……」


 珍しく真剣な表情で会話に加わってくるグラハム。

 普段からこういう態度だったらこいつもモテ男になれただろうに。


「ユウリの目的は俺にも分からん。あの子供・・・・だって本当は誰の子なのかも謎だしな」


 捕らえられていたリリィ達との交換条件で手渡した子供。

 ルーメリアは『ユウリの子』だと言っていたが、果たしてそれは真実か否か――。


「真相は未だ謎、ね……。まあいいわ。どうせカズハがあっさりと解決しちゃうんだろうし」


「人任せかっ!」


 ベッドに立ち上がりつい叫んでしまう俺。

 お前らユル過ぎだろ!

 もっと気を引き締めなさい!


「か、カズハ様……! もっとおみ足をお上げになってくださぶはあっ!!」


「なに下から覗こうとしてんだよこのカス野郎がっ!!」


 グラハムの側頭部を渾身の力で蹴り飛ばした俺。

 またもや嬉しそうな顔でスッ飛んでいくグラハム。

 もう駄目だこいつ……。


「とりあえず今夜はもう寝ましょう。身体中が筋肉痛で仕方ないわ……」


 大きく欠伸をしたリリィはそのまま毛布に包まって寝てしまった。

 もはやグラハムのことは気にしないらしい。

 そのスルー力、俺にもください。


 遠くの方でピクピク痙攣しているグラハムを横目に俺もベッドに横になる。

 リリィの寝息を聞いていると、不思議と気持ちが落ち着いて眠くなってくる。


(あ、やばい……。俺も眠い……)


 そして俺もまどろみの中へ――。





「ん……」


 目を覚ますと既に日が昇っていた。

 隣ではリリィがまだ静かに寝息を立てている。


「ハッ、ハッ、ハッ! おはよう御座いますカズハ様! 良い朝ですね!」


 少し離れた場所でグラハムが上半身裸で腕立て伏せをしている。

 なんかうるさいと思って目覚めたら、原因はお前かグラハム……。


「どうですかカズハ様! ご一緒に朝の筋トレでも!」


「うん。遠慮しとく」


 気持ちの悪い暑苦しい笑顔のグラハムをスルーした俺は、大きく伸びをする。

 その姿を鼻の下を伸ばしたグラハムがガン見している。


「……あんだよ」


「! い、いえ! 何でも御座いません!」


 あからさまに焦った表情で腕立て伏せを再開するグラハム。


「お前、今、俺の、胸を、ガン見、してたよな」


「!! け、決して! そんなことは!」


 どんどん腕立て伏せのスピードが早くなっていくグラハム。

 なんか額に変な脂汗とか浮いているし。


「もう……うるさいわね。何なのよ朝から……」


 不機嫌そうな声で目を擦り起き上がるリリィ。

 大魔道士様は朝が苦手なようです。


「いやさ、聞いてくれよリリィ。こいつがさ、俺の胸を見て鼻の下を伸ばしててさぁ」


「!!! カズハ様! 私は決して! 決してそんなことは!!」


 既に3倍速くらいで腕立て伏せをしているグラハム。

 動きがすごい気持ち悪い。


「胸って……。貴女、前よりだいぶ大きくなったんじゃない?」


「うん」


 両手を胸に寄せ強調する。

 自分でも結構でかくなったと思う。


「……はぁ……。カズハ? 貴女、透けてるわよそれ……」


「へ?」


 リリィの言葉に反応したのか。

 グラハムの腕立てが5倍速になった。


「……」


「ハッ! ハッ! ハッ!」


「……」


 グラハムの声だけが、何も無い湿原に木霊する。


「もう……。厚手の布を巻かないとみっともないじゃないのよ……まったく……」


 厚手の布。

 いわば俺のいた世界でいうブラジャーみたいなもの。

 うん。

 つまり俺はノーブラ姿をグラハムにガン見されたってことか。

 大きく欠伸をして、背筋を伸ばした際に。


「……グラハム?」


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 大量の脂汗を掻きながら俺と目を合わせようとしないグラハム。


「……ちらっ」


「ハッ!!!」


 服の裾をたくし上げた瞬間、すごい形相でこちらに振り向いたグラハム。

 うん。

 こいつ馬鹿だ。


「……リリィ。こいつに雷落として」


「はいはい」


「ちょっ!! カズハ様! リリィまで……!」


 腕立てを止めたグラハムは悲壮な表情で俺達に訴える。

 しかし詠唱を止めないリリィ。

 俺はニヤリと笑い――。


「威力は最大で」


「はいはい」


「ちょっ!! 待っ――――」


 

 何もない湿原。

 

 上空には言葉どおり暗雲が立ち込め。

 

 一筋の雷光が一人の馬鹿に落下する。

 

 

 めでたし、めでたし――。


















グラハム「アッーーーー!!」

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