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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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029 竜槍使いと聖杖の賢者

「グラハム! そっちにも一匹行ったわ!」


「はっはっは! このグラハムの背後をとろうなど笑止千万! うおりゃあああ!!」


 叫びながら竜槍を振り回すグラハム。

 その間に魔法を詠唱するリリィ。


「この辺りもけっこうモンスター共が凶暴になったんだなぁ。昔はそこまで大したことなかったけど……」


 頭の後ろに手を組みながら物思いに耽る。


 魔法都市アークランドは2周目の転生のときに暇潰しに遊びにきた場所だ。

 その頃はまだ俺も男だったから、歓楽街に行ってイケイケねーちゃんと遊んだりもした。

 もちろんエリーヌには内緒で。


『キリ! キリリ!』


「おおー。あれなんてめっちゃ攻撃力の高い《キリキリ麒麟》じゃん。おーい、お前らー。あの麒麟の鎌攻撃は気をつけろよー。真っ二つになるぞー」


 前方で威嚇をしているのは上半身がカマキリみたいになっている麒麟だ。

 ここら一帯にはああいった珍しいモンスターが出現する。

 確か魔法遺伝子の研究で失敗し、野に放たれたモンスターが生態系を乱してどうたらこうたらとか――。


「簡単に言わないでよ! そんなに危ないモンスターなら貴女も少しは手伝いなさい!」


 珍しく焦っているリリィ。

 彼女の周りにも数体のモンスターが取り囲んでいる。

 あの様子だと、やはり昔よりもかなりモンスターが手強くなっているっぽい。


「大丈夫。お前らならなんとかなる。頑張れ」


「鬼! 悪魔! カズハの馬鹿!」


 ものすごい怒られました。

 あまりリリィを怒らせると後が怖いからどうしよう。


「手出しは無用ですぞカズハ様! これしきの事で音を上げていてどうするリリィ!」


 迫りくるモンスターを蹴散らしリリィの元へと駆け寄るグラハム。

 お互いに背をつけ背中越しに会話をしている。


「だってここのモンスターの強さは尋常じゃないわよ……! 王都に襲来してきた魔王の手下と同格か、それ以上じゃない……!」


「え? マジで? そんなに強い?」


 リリィの言葉に少し驚く俺。

 しかし今までに彼女の検証が外れたことはない。

 王都に襲来してきた魔族達は、1周目の俺達では全く歯が立たないくらいの凶悪揃いだった。

 だから王都は半壊し、エリーヌは命を落とすことになったのだが。


「そんなことは百も承知! カズハ様もそれを知っていて、あえて俺達にこの場を任せているのだぞ!」


「……へ?」


「カズハ様! ここは私達にお任せください! 決してお手を出してはなりませんぞ!」


 そう叫んだグラハムは、竜槍を上空で大きく振り回し敵を威嚇する。


「もう……知らないからね……!」


 グラハムに背中を押された形となったリリィ。


「あー、ええと、お前ら。ちょっと言いにくいんだけど、先に謝っておくことが――」


「行くぞ! リリィ!」


「分かってる!」


 完全にやる気モードに入っちゃった2人。

 ホントごめん。

 そんなに強いとは思っていなかった。

 でもやる気出ちゃった2人を止められるほど発言力もありません。

 マジごめん。


(まあ、ヤバそうになったら助太刀に入れば問題ないんだけど……)


 しばらく様子見をすることに決めた俺。

 頑張れ。

 親友ども。





「リリィ! 付与魔法エンチャントを!」


「ええ! 『天と地に蔓延る悪しき者達に裁きの鉄槌を!』 《サンダ・リジョン》!」


 天高く竜槍を掲げたグラハムに上空から稲妻が落下する。

 これ最初やられたときは本気でビビった。

 感電して死ぬんじゃないかと。


「もうひとつ! 『その身に宿りし眷族を解放せしめん!』 《アトリヴュート・リバイバー》!」


 今度はリリィを中心に淡い光が放射される。

 それぞれが秘めている2種類の得意属性の力を一時的に解放し、防御力を飛躍的に高める範囲魔法だ。


「相変わらずチートだよな……。《大魔道士》って……」


 通常ならば自身が持っている2種類の得意属性に関与する魔法しか使えないこの世界で、リリィは全ての属性魔法を使用することが出来る。

 しかも先程グラハムに使用した付与魔法。

 この世界には通常《雷属性》などは存在しないのだ。

 あれは《火属性》と《水属性》の魔法を混ぜ編みだした、彼女のオリジナル魔法だ。

 そして――。


「ふふふ……ふわーっはっは! 行くぞ! このグラハムの力、とくとその目に焼き付けるが良い!」


 青白く光り輝く竜槍を構えたグラハムは高笑いをしながら跳躍する。


「!! ちょっと! ここでその技・・・を使ったら私まで――」


 咄嗟に闇魔法を詠唱し異次元の空間に身を隠すリリィ。

 そして次の瞬間には俺のすぐ横へと出現する。


「天! 地! 開! 明! 《グランド・バスター》!!」


 モンスターの集団に急降下しながら竜槍を地面に叩きつけるグラハム。

 地面へ衝突した大槍の衝撃とともに、大規模な放電が起こる。


「今だリリィ! ……おや? リリィはいずこへ……?」


「避難してるに決まってるでしょうが! この馬鹿グラハム! ……もう……」


 感電し、身動きが取れなくなっているモンスターの集団に魔法の詠唱を始めるリリィ。

 流石は付き合いの長い2人だ。

 連携もばっちり出来ている。

 と思う。


「――『神の怒りは自然の怒り、大地の怒り。数多の嘆きと共に全てを一掃せん!』 《ランドスパウド》!!」


 聖杖が一際大きく光りだし、敵集団に巨大な竜巻が襲い掛かる。

 これは《風属性》と《気属性》で作り出した特大魔法だ。

 詠唱に時間が掛かるから、こういった連携プレイでしか使用できないのが難なのだが。


「おー。全部すっとんで行ったー。すげー。リリィー」


「もう! 手伝ってくれないのなら黙っててよ! 気が散って仕方ないわよ!」


 ものすごい怒られました。

 ていうか怒りすぎじゃね?

 暇なんだから実況くらいしたって良いじゃん。

 なんて言ったらボコボコにされるから言わないけど。


 遥か上空に飛ばされたモンスターは完全消滅。

 上空からは素材とGが降ってくる。

 あまりにも暇だから、それくらいは俺が集めてやろう。


「次だリリィ! まだまだうじゃうじゃと居やがるぞ!」


 グラハムが指差す先には別のモンスターの集団がこちらを威嚇している。


「もう勘弁してよ……。SPが追いつかないじゃないのよ……」


 魔法の連続使用により疲労の色を隠せないリリィ。

 まあでも、大魔道士様は普通の職業の奴らよりもSPの自動回復速度は段違いに速いんだけど。

 ちょっとグラハムが時間を稼いでくれたら、またどデカイやつを使えるようになるんだろうし。


(全然こいつらだけで大丈夫だな……。なんか昔よりも強くなっている気がするんだけど、気のせいかな……)


 俺は当然3周目なんだから強いのは当たり前として。

 グラハムやリリィは周回特典なんか無いはずなんだけど……。


「……うーん。分からん。まあいいや」


 すぐに考えることを諦めた俺は、ひたすら素材とGを拾い集める。

 素材なんて売っても二束三文にしかならないんだけど、とにかく今は金が無い。

 少しでも金に換えられるものだったら、アイテム欄いっぱいに持って帰るつもりだし。


 建国してからホント、貧乏生活まっしぐらになってしまいました。

 2億Gとか持っていた時代が懐かしい……。


「アッー! リリィ! 早く……! 俺の尻が奴らに狙われて……! アッー!」


「うるさいわね! 貴方それわざとやってるんでしょう! もう少しで回復するからもうちょっと頑張ってよ!」


 執拗に尻ばかり狙われているグラハム。

 でも何故か嬉しそうな顔で逃げ回っている。

 もう知らん。


 俺は再び歩き出す。

 このペースで行けばある程度旅費も貯まるし、まともな宿にも泊まれるだろう。

 酒癖悪い奴らとは別行動にしたし、死角は無い。

 たぶん。


「先に行ってるぞー。倒したら素材とGを集めるのを忘れんなよー」


 俺の言葉に背後でリリィがまた何かを騒いでいたが、耳を塞ぐ。

 

 

 そのまま延々と北へ――。


















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