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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず山を登ることでした。

 俺がアルゼインに持ち掛けられた取引の二つ目。

 これから向かう魔王城に住む、この異世界の諸悪の根源――『魔王グランザイム』を倒し、奴の持つ魔剣を奪い、彼女に譲渡すること。

 今の俺だったら奴を倒すことなんて造作もないことなんだけど……。

 最大の問題は『魔剣をドロップするかどうか』ってことなんだよね。


 今持っている魔剣は一周目のラストで魔王を倒したときに、奇跡的にドロップした激レア装備だし。

 二周目でもう一度倒したときには当然ドロップしなかったわけで……。

 多分ドロップ率は1%未満なんじゃないかな。

 100回魔王を倒しても、一本手に入るかどうかって感じ。

 うん。無理。どないしよ。


 ……だが諦めるのはまだ早い!

 魔王城に向かう途中にある『最果ての街』という場所でアイテムのドロップ率を飛躍的に高める道具が売っているのだ!

 めちゃくちゃ高くて手が出せない代物なんだけど、背に腹は代えられない。

 約束を破ったらアルゼインに俺の秘密をバラまかれちまう。

 そうなったら俺の計画は台無しだ……!


 ちなみにこの二十日間で稼いだ金は約10万Gほどです。

 闘技大会のランキング確定で8万Gの賞金と、周囲のモンスターを狩りまくって2万Gくらい……だったかな。

 日給に換算すると約5000G。

 まあエーテルクラン周辺でこのくらい稼げたら多いほうだと思います。

 現在の所持金、185847739G。

 ……うん。

 こうやって見てしまうと全然増えていないように感じる……。


「でもまあ、どうするかは最果ての街に着いてから考えるか! そおぃ!!」


『ギャギャン!!』


 エーテルクラン近辺に出没するモンスターを蹴り飛ばしつつ金を拾い、俺は先へと進む。





 歩き続けて三日が経過しました。

 鍛えているとはいえ、さすがにもう足がパンパンです。

 でもこれからが勝負。 

 何故かというと、今、俺の目の前には断崖絶壁が立ちはだかっているからでして――。


「毎回思うんだけどさぁ! いい加減、ここ道作れよおぉぉ!!」


 俺の叫びが雲を突き抜け周囲に木霊する。

 しかし、ここを登らないと魔王城はおろか最果ての街にすら到着できない。

 最果ての街は人間族と魔族の領土のギリギリにある街だから、仕方ないといえばそれまでなんだけど……。


『カー! カー、カー!』


「ああもう! うっぜぇなぁ! こっちにくんなよ!!」


 飛行タイプのモンスターに尻を突かれ、足で撃退しつつ崖を登る。

 パンツが破れるからやめなさい!

 さすがに尻丸出しで崖を登るのは恥ずかしいから!


「くそっ! 《迅速》!」


 陰魔法を唱え、敏捷力を強化。

 尻を守りつつ崖を高速で登ります。

 

 ――そして二時間後。


「だああぁぁ! もう疲れた! おうち帰りたいー!!」


 なんとか崖を上りきり、一面見渡す限りの草原に到着しました。

 そこで倒れるように横になった俺は足をジタバタさせます。

 レベル99でもこの崖を登るのは正直しんどい。

 ていうか空を飛ぶ魔法とか無いんですかね! この世界には!

 あとは一瞬で目的地に到着できる魔法とか!

 勇者やってた頃は何度も王様に呼び出されて、その度に何日も掛けて帝都に戻ったりしたんですけど!

 ああ、もう嫌だ! 思い出しただけで腹が立つ!


『……あなたは、誰?』


 どこからともなく声が聞こえ、俺はジタバタを止めます。

 いや、これは俺の頭に直接響いてきたのか……?

 ……あ、そうか。

 ここはもう『精霊の丘』だったっけ。

 すっかり忘れてた。


『この波動……。私には分かります。あなたは、勇者様ですね?』


「あ、違います」


『…………』


 即答したら黙っちゃいました。

 いや、だって勇者じゃないし。

 嘘は言ってませんよ、わたしは。


『……こほん。もう一度お聞きします。あなたは、この先にいる諸悪の根源、魔王グランザイムを倒すために、精霊の丘を訪れた勇者さ――』


「違います」


『…………』


 また黙っちゃいました。

 というか混乱しているみたいです。

 俺は起き上がり、そのまま先に進もうとしました。


『あ……ちょっと待ちなさい。勇者ではなくとも、あなたから感じる力はまさしく勇者そのもの――。つまりあなたは選ばれし者です。今後現れるであろう勇者と共に魔王を倒し、この世界を平和に導く義務があります』


「ありません」


『なっ……!?』


 今度は絶句してしまった精霊。

 だって勇者じゃないのに義務とか言われても、知らねぇし。

 ていうか魔王倒したら裏ボス出てきて、俺はまたループしちゃうだけじゃん。

 もういい加減、勘弁してください。


『……あくまで、勇者様の力にはならないと言い張るわけですね?』


「言い張るっていうか……。俺の尊厳と自由を主張しているだけなんだけど……」


 相変わらず話にならんな、精霊様は。

 当時は何も疑問に思わなかったけど、これは人権侵害だろ。

 やっぱ勇者って奴隷職だよな。

 今までよく耐えたと自分を褒めてやりたいくらいです。


ゴゴゴゴゴ……!


「え……? 地震……?」


 急に地面が大きく揺れ、立っているのもやっとな感じです。

 ていうか危ねぇな!

 目の前は崖なんですけど!

 ここ崩れたら死ぬやろ!


『あなたには、お仕置きが必要のようです』


「なんで!? 意味分かんねぇ!?」


 精霊がそう言った直後、地面が大きく割れた。

 だから危ないっつうの!

 こういうのはもっと安全な場所でやってよ!


『グオオオオオオォォォンン…………!!』


 地面から這い出てきたのは、超巨大なドラゴンです。

 ……うん。

 なにこれ。初めての展開なんですけど。

 え、ドラゴンじゃん。マジで?

 三周目にして初めて見たんですけど……!

 どういうことですか……!?


『世界の均衡を揺るがす力――。勇者でも、魔王でもない者が持つには相応しくない力――』


 ドラゴンの口に凄まじい波動が集約していく。

 周囲の空間が歪み、俺の皮膚がピリピリと反応する。


『世界の災いとなる前に、この灼熱の業火で消し炭にしてあげましょう……!』


 大きく口を開いたドラゴンは俺目掛けて炎を吐こうとする。

 あれを喰らったらいくら俺でも無事じゃ済まないかもしれない。

 ていうか精霊の真の姿ってドラゴンだったのか……。

 いやー、三周目でもまだまだ勉強になるもんだなぁ。


 俺はウインドウを操作し火魔法の欄を出現させる。

 ええと、どれで防ごうかなぁ。

 ていうか考えている暇なんてないから、これでいいかな。


『あなたに灼熱の裁きを――。《竜の炎ドラゴンブレス》!!』


炎の神ヴリトラよ! 我を守る盾となり、その身に業火を喰らい尽くせ! 《トレメンダス・ブレイズン》!!」


『なっ……!?』


 竜の炎が吐かれた瞬間、俺の目の前に炎の巨人が出現。

 まあこの魔法は、全ての火属性を防ぐ防御魔法といったところかな。

 いやー、助かった。俺の得意属性が『火』で良かったー。


 直後、ドオンというけたたましい音と共に巨人に炎がぶち当たった。

 その炎を笑い声を上げ吸収していく巨人。 

 まるで怪獣戦争だな……。

 一般人が見たら、この世の終わりと思われかねない……。


 さあ、精霊さん。

 お次はどう出るのかな……?




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