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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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027 別行動

「あー、マジ良く寝たー」


 大きくあくびをしながら目覚める。


「お。やっと起きたアルね」


「おはよう母さん」


「誰が母さんアルか!」


 鬼のような顔をしたタオは手に持ったお玉を思いっきり投げてくる。

 俺は忍者のような素早さでそれを避ける。


「朝から何をしているのですか……」


「おっす。おはようルル」


 お皿を手に持ったルルに挨拶し、俺はベッドから飛び降りる。


「あれ? 結局あいつらは帰ってこなかったのか?」


「そうみたいですね。私もさきほど起きたばかりなので分からないですけれど」


 そう答えたルルは丁寧にお皿をテーブルに並べる。

 うんうん。

 きっと良い奥さんになれるぞお前。


「たぶんまだ酒場で飲み明かしてるんじゃないアルかねぇ。カズハ、朝食を食べたら呼びにいくアルよ」


「えー。やだよー。酔っ払いの相手すんの」


「いいから行くアル」


 タオが凄い目で俺を睨む。


「行ってきてください、カズハ」


 幼女まで俺を見放す。

 うん。

 何度も言うけど、俺、女王様なんだけど。

 お前らの上司。

 うん。


「仕様がねぇなぁ……」


 納得のいかないまま、俺は食事が用意された席へと着く。


「珈琲でいいですか?」


「あ、うん。ありがと」


 カップを用意したルルは手際よく珈琲を淹れてくれる。

 前はこんなことしてくれなかったのに。

 ようやく俺のことを認めてくれるようになったか。

 でも女王とは認めてくれないのね。


 

 珈琲を堪能し、手早く食事を済ませた俺は宿を出て酒場へと向かう。





「……」


 酒場へ到着した瞬間、俺は絶句する。


「ああ、カズハか。ということは、もう朝か?」


 ケロリとした表情でセレンが俺に声を掛ける。

 彼女の前には積み上げられた空のグラスが天まで聳え立っている。

 なにそのグラスの数。


「まだまだ飲み足りないねぇ。宿に戻ったら飲み直すかね、セレン」


 アルゼインの前にもセレンと同じくらいの量の空きグラスが聳え立っている。

 ていうか今なんつった?

 飲み足りない?


「ふふ、この2人と飲んでいると飽きないわ。久しぶりのお酒だったし、私も少し酔っちゃった」


「……お前も底なしだったな……リリィ……」


 酔ったという割には全然ケロリとしているリリィ。

 流石にセレンやアルゼインほどは飲んでいないみたいだが、それでも結構な数のグラスが空いている。


「で、そこの馬鹿2人はお前らに潰されたと」


 彼女らのすぐ脇でいびきを掻きながら寝ているデボルグとグラハム。

 何故かデボルグは上半身裸で。

 グラハムは下半身に下着だけ穿いていて、尻の部分がTバックみたいになっていて。

 そして2人抱き合ったまま寝ているというカオス状態。

 なんなのコレ。

 ていうかなんでTバックになってんの。


「最近の男はてんで駄目だねぇ。これくらいの酒で潰れちまうなんて」


「いや……どう考えてもお前らのほうがおかしい」


 俺はだらしない格好で眠っている2人の男をたたき起こす。


「いて!」

「アッー!」


「ほら、しっかりしろ。水でも飲むか?」


「……あ? カズハか……? う、頭がいてぇ……」


 フラフラと頭を抱え起き出すデボルグ。

 そして何気なく手を伸ばし俺の胸を触ろうとする。

 俺はその手をそのままグラハムの尻へと向ける。


「アッー! カズハ様……! そんな……!」


「てめぇカズハ! 何てモンを触らせるんだよ!」


 頬を染めたグラハムと激怒するデボルグ。

 それを見て笑い出すセレン達。


「いいからもう行くぞ。午後にはこの街を出るからな。それまでに酔いを醒ましておけよ」


 そう言い捨てた俺はカウンターに向かい、お勘定を済ませようとする。


「マスター。いくら?」


「お会計でございますね。しめて200万Gとなります」


「……えっ」


「200万Gとなります」


「……」





 酒場を出た俺達一行は一旦宿へと戻り、今後の作戦を練ることにした。

 こいつらが一晩で飲んだ酒代のせいで俺の財布はスッカラカン。

 いやもう、ホントマジでどうしよう。

 怒りを超えて悟りを開いてしまいそう。


「――二手に分かれる? 最後の魔術禁書を集める組と、帝都へ向かう組にか?」


 俺の出した案を繰り返すセレン。


「ああ。ユウリの狙いは恐らくルルと最後の魔術禁書だ。奴は正式な勇者となり、魔王を打ち倒そうとしている。どうして3つも魔術禁書が必要なのかは分からないが、ルルはまず間違いなく狙われるだろうな」


 精霊との契約を交わし、勇者として認められれば最後のイベントが発動する。

 最強の勇者の剣である《聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマー》を獲得する為に必要なイベントだ。

 しかしユウリは既にレイさんを人質にとっている。

 つまりは俺がレイさんに預けてあるもう一本の・・・・・聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマー》は、奴が所持している可能性が高い。


「まさか……。ユウリは2本の・・・勇者の剣を・・・・・手に入れようと・・・・・・・……?」


 俺の言わんとしていることを予測するルル。


「そうだろう? デボルグ」


「……ああ。ユウリはカズハと同じ《二刀流》のスキルを獲得している。最強の勇者の剣を2本と3つの魔術禁書を使い、魔王城の地下に眠る化物を倒す――。これが奴の描いたストーリーだ」


 いつもとは打って変わり真剣な面持ちで話すデボルグ。

 どこまで本当の情報を話しているのかは定かではないが、今更裏切るつもりもないだろう。


「勇者の剣を《二刀流》で扱うというのも驚きだけど、3つも魔術禁書を集めて使いこなせるもんなのかねぇ……」


 俺と同じ疑問を口にするアルゼイン。

 やはりどうしてもそこが引っ掛かる。


「でもとにかく、ルルちゃんだけは絶対に守り通さないといけないってことアルよね! じゃあ、今までどおりカズハとルルちゃんは同じ組で――」


「いや、今回は俺とルルは一緒に行動しない」


「え?」


 俺の言葉に最初に反応するルル。


「最後の魔術禁書――《気の魔術禁書》は俺とグラハム、リリィで手に入れる。デボルグ、セレン、アルゼイン、タオはルルを保護しながら帝都に向かってくれ」


「ちょ、ちょっと待つアルよ! 私達がルルちゃんを帝都に連れていく? どうしてわざわざ敵の近くにルルちゃんを連れていかなくちゃいけないアルか!」


 椅子から立ち上がり声を荒げるタオ。


「……何か策があるのか。カズハ」


「まあな。理由は帝都で合流したときに話す。それまでは内緒だ」


「どうしてアルか?」


 皆の視線が俺に集まる。


「それも秘密」


「……ふざけているアルか? 流石の私も怒るアルよ」


 珍しくタオが本気で俺を睨む。

 その様子に場の空気が一瞬にして凍りつく。


「……カズハ」


「なんだ、ルル」


 その重苦しい空気を一番最初に破ったのはルルだ。


「……信じても、良いのですね?」


「ルルちゃん?」


 ルルの一言にタオが驚愕の表情でそう答える。


「ああ。俺を信じろ。お前は絶対にユウリに渡さない。俺が今までに嘘を吐いたことがあるか?」


「はい。いっぱいあります」


「おい」


 真剣な表情でそう答えるルルについ突っ込む俺。

 空気読め、幼女。

 重苦しい雰囲気だっただろ今。


「……はぁ。本気なんだかふざけているんだか、さっぱり分からないアルよ……」


「まあ、これがカズハだからねぇ。私達は振り回されて、最後には勝手に解決するんだろうし」


 テーブルに顔を伏せるタオと手に顎を乗せてニヤニヤするアルゼイン。


「とにかく。我等はルルを守りながら帝都に向かえば良いのだな。落ち合う場所は?」


「帝都のすぐ近くの東海岸にしよう。たぶんお前らと同じくらいに到着するだろうから、直接向かってくれ」


 セレンの問いに答える俺。


「東海岸って言えば、以前の帝都襲来のときにカズハ達がラクシャディアの政府専用船で向かった港よね……」


「その節は力及ばず……! 本当に申し訳なかった……!」


 悔しそうにそう話すリリィとグラハム。

 あの時は精霊王に意識を乗っ取られた勇者ゲイルに帝都を落とされかけたのだ。

 アルゼインやリリィ、グラハムが居てくれなかったらきっと俺達は間に合わなかった。


「他に何か質問は? ……無ければこれで解散だ」


 椅子から立ち上がる面々。

 長く続いた旅もこれが最後になる。


「なあ、ルル」


 セレンらに付いていこうとするルルに声を掛ける。


「なんですか?」


「最後だし、ハグしてもいい?」


 駄目だと言われると分かっているのに、毎度同じ質問をしてしまう。

 しかし、今回はルルの表情が普段とは違った。


「……いいですよ」


「……今、なんと?」


 一瞬、自分の耳を疑った。

 今、「いいですよ」って言った?


「聞こえなかったのならいいです」


「聞こえた! 今『いいよ』って言った! ほら! 俺の胸に飛び込んでおいで!」


「嫌です」


「うそーん」


 その場で泣き崩れる俺。

 今期一番の絶望を味わいました……。


 でも、ふと顔を上げるとそこには口に手を当てて笑っているルルがいて。

 そして軽く溜息を吐き、俺の傍まで寄ってきて。


「今回だけですよ」


「え――」


 そう答えたルルは泣き崩れた俺を優しく抱きしめてくれて。


「……ルル?」


「何も言わないで下さい。貴女は色々喋りすぎですから」


「うぐぅ」


 まるで母親に諭された子供の様に。

 俺は彼女の腕に包まれていて。


(まあ、いいか。俺がハグするんじゃなくて、ルルにハグされちゃってるけど……)


 俺は静かに目を閉じる。

 彼女の鼓動が聞こえてくる。

 

 俺は絶対にルルを手放さない。

 ルルだけじゃない。

 俺の仲間は誰ひとりとして手放さない――。


「さあ、もう行きますね。リリィ、グラハム。カズハを宜しくお願いします」


 俺から身体を離したルルはセレンらの後を追う。

 別れは寂しいが、少しの間の辛抱だ。

 ちゃっちゃと《気の魔術禁書》を手に入れて、ユウリをぶっ飛ばせばそれでお終いだ。


「おっしゃ! 幼女パワーで元気でた! 行くぞ! リリィ、グラハム!」


 気合の雄叫びを上げた俺は、セレンらと反対の北門へと歩を進める。

 

 

 向かう先は――。


















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