026 最後の指令
「あ、帰って来ましたね」
宿に戻るとさっそくルルに見つかる俺。
「どうせこんな事だと思っていたアルよ。まったく……」
タオが諦めたようにそう言い笑う。
「あー。お前らまだ起きてたのか。良い子は早く寝ないと駄目なんだぞー」
頬を掻きながら満足げな表情の俺はそのままソファにダイブする。
時刻はもう深夜をとうに過ぎている。
研究所に忍び込んだり歓楽街に行ったり。
俺はもうおねむさんです。
「で? 救出したのは誰なのですか?」
「リリィとグラハム。いまデボルグと一緒に酒場に行ってる」
枕を抱きながらベッドの上をゴロゴロしながら答える。
うん。
抱き心地とか最高。
「はぁ……。いきなり酒場直行アルか……。でもまあ、アルゼイン達と合流してそのうち戻って来るアルね」
「そゆこと。俺、酒飲めないし、お前らの顔見たかったし……ぽっ」
頬に手を当てて渾身の『恥ずかしがりポーズ』をとる。
……。
…………。
うん。
白い目で見られただけで終わった……。
「でもこれで残ったのはレイだけですね。彼女はいったいどこに囚われているのでしょうか」
椅子から降りたルルは俺のベッドのわきにちょこんと座る。
「うーん。まだ分かんねぇけど、そのうちまた奴から連絡が――」
ピー、ピー。
「……来たアルね」
「……うん。きたある」
タオの口真似をしながら俺は届いた魔法便を開封する。
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拝啓
いかがお過ごしでしょうか
私は元気です
次の指令が最後となります
《気の魔術禁書》をご用意ください
貴女様の最後のお仲間であるレインハーレイン様と交換させていただきます
受け渡し場所は帝都アルルゼクト
何卒宜しくお願い致します
エアリー・ウッドロック
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「エアリーって……。前にカズハが言っていたエルフ族の子アルよね」
横から文書の内容を盗み見たタオが顔を近づけてそう話す。
あんまり近いとチューしちゃうぞ。
「最後の受け渡し場所が帝都……。カズハ、これは……」
真剣な表情でそう答えるルル。
「ああ。多分お前狙いだな」
文章をルルに渡し、俺はまたベッドに横になり思案する。
連絡を寄こしてきたのがエアリーだとは意外だが、ダミーの可能性もある。
あのペット犬にこんな丁寧な文章が書ける気がしないし。
しかしどちらにせよ《気の魔術禁書》を手に入れて、俺達はレイさんを救出しなければならない。
そしてルルの想像どおり、そこにユウリが待っている筈。
帝都で精霊であるルルと正式に契約を交わし『勇者』となる――。
これが奴の狙いか。
(勇者になれば帝国軍を率いて魔王の討伐に向かうことが出来る……。そして地下に眠る真・魔王だか極真・魔王だかを倒せば――)
奴は俺の夢に出てきてまで、俺の『無限ループ』を止めると言い放った。
何か策があるのか?
普通に魔王を討伐しただけでは『宝玉』の力でまたループが始まるだけなのに――。
「……ん? 『宝玉』……?」
魔王を倒すと必ず出現する宝玉。
そういえば、レイさん達はラクシャディア共和国の重要文化財を護送中にモンスターに襲われて――?
「なあ、タオ。なんつったっけ。あのー、レイさん達が見つけたっていう重要文化財って」
「? いきなり何アルか? 重要文化財……?」
「確か……《四宝》ではなかったでしょうか」
タオの代わりにルルが答える。
「四宝……宝玉……まさか……」
その《四宝》があれば、宝玉の力を封じることが出来る――?
だからユウリはレイさん達を襲った――?
魔術禁書を集めさせているのは、確実に魔王を仕留めるため――?
(いやいやいや。なんでそんな回りくどい真似をする……? 俺の『無限ループ』を止めるためだったら、俺の仲間を誘拐なんかせずに、直接俺に話を持ちかけてくれば済むじゃんか)
わざわざ俺を怒らせて敵に回して、一体ユウリに何の得がある?
俺は別に勇者だった頃に未練なんてないし、奴が勇者になりたいって言うんだったら喜んで協力しただろう。
(あー、でもそうしたら精霊であるルルも皇女であるエリーヌもユウリに譲らなきゃいけないのか……)
勇者になった者は例外なく皇女と結婚するしきたりがある。
いや、でもそれは以前の法律の話だ。
今は女でも他種族でも勇者になれるように法が変わったはず――。
「だああああ! もうあたま痛い! あいつは一体なにを考えてるんだよ!」
「恋の病アルか」
「ちげぇよ! お前、今の流れ聞いてただろ! いちいち突っ込ませるなよ!」
思いっきり唾を飛ばしながらタオに詰め寄る。
押し倒すぞこの野郎。
「ユウリは勇者になり、カズハ以上の力を得ようとしているのでしょうか。そして魔術禁書を集め、魔王を倒そうとしている……。ならば私は、彼に協力する義務があることになります」
「ルルちゃん!?」
ルルの意外な言葉に驚くタオ。
「私は精霊族です。勇者に相応しい者と契約を結び、憎き魔王を打ち倒し、世界に平和を齎す――」
ベッドから降りたルルは俺達に背を向けそう答える。
俺は何も言わずに、その後姿を眺める。
「ちょっとカズハ! 黙っていないでルルちゃんを説得するアルよ!」
ルルと俺の顔を交互に見ながらタオが騒ぐ。
しかし俺は何も答えない。
「……カズハ。貴女は何を望みますか?」
すっと振り返ったルル。
その表情は凄く大人びていて。
彼女が見た目どおりの年齢でないことを示していて。
俺はひとつ大きく溜息を吐く。
そして何度も言ってきた言葉を彼女に伝える。
「俺の平和」
「……」
「……」
2人とも口を開けたまま沈黙する。
そんな顔になられたって俺は知らない。
本心を述べただけだから、きっと俺は悪くない。
「……ぷっ」
「……カズハ。やっぱりカズハはカズハアルね……ぷぷっ」
2人とも声を押し殺すように笑っている。
本当に嬉しそうに。
どうしてそんな表情で笑えるのか、俺には理解が出来ないけれど。
「お前ら酷くね? 俺いまめっちゃ真剣に答えたんだけど」
何故か俺も彼女らと一緒に笑ってしまう。
でもきっと。
これが俺の求めた『俺の平和』なのだろう。
(レイさん……。ちゃっちゃと最後の魔術禁書を集めて迎えに行くからな)
ユウリが何を考えていようと、俺の平和を脅かすのならばぶっ飛ばすだけだ。
俺はお前に『救ってくれ』と頼んだ覚えはない。
俺は俺で平和を勝ち取る――。
ルルとタオの笑顔を見ながら、俺は静かに決意する。




