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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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025 グラハムの悲劇

 研究所をあとにした俺達は、そのまま歓楽街へと向かう。

 デボルグの腕に抱かれた赤ん坊はスヤスヤと眠ったままだ。


「おい、デボルグ……。その子ってまさか――」


「お? 目が覚めちまったみたいだな」


 赤ん坊が薄目を開ける。

 そしてデボルグの顔を見た瞬間、大きな声で泣き出した。


「カズハ。パス」


「え? あ、おいこら! なんで俺に渡す!?」


 歓楽街を走りながらデボルグは俺に赤ん坊を手渡す。

 え?

 どうしたらいいのこれ?


「あー、これはアレだな。腹が減ったんだな」


「腹が減ったって言われても……。俺なんにも持ってないし……」


「カズハ。ミルクだ、ミルク」


「ミルク?」


 デボルグが俺の胸を指してそう言う。


「出るかっ!!」


「出すんだ、カズハ」


「お前アホだろっ!!!」


 空いている手でデボルグの後頭部をスコンと殴る。

 なんで俺の乳からミルクが出るんだよ!


「あ、ちょ、こら! 待って! 出ないから! おいデボルグ! お前が変なこというからこの子が――」


 俺の胸をまさぐる赤ん坊。

 あれ、なんだろう。

 徐々に母性本能が擽られて、俺、ミルクが出そうに――。


「――なるわけないだろっ!」


「……お前、なに一人で騒いでんだよ。アレか。ちょっとそういうのに興味持ってたりするのか」


「持ってない! 断じて持ってないっ!!」


 街行く人々が俺達ふたりを遠巻きに見ている。

 駄目だ。

 完全に目立っている。

 白衣を来た2人の男女が、赤子を抱いて騒いでたら目立つに決まっているのだが。


「だあああ! 走りづらいし、これもういらね!」


 その場で白衣を脱ぎ捨てる。

 伊達眼鏡も近くを通り掛かった街の住人のおでこに引っ掛ける。


「なんだよ。せっかく似合ってたのによ。新人研修医みたいでムラっときたんだが」


「知るか! お前の趣味に付き合ってられるかよ!」


 赤子はなおも俺の胸を執拗にまさぐる。

 どうすりゃいいんだよ!

 赤ん坊の世話なんてしたことないから分かんないし!


「そこを右だ。あそこに見えるショーパブでルーメリアは働いている」


 デボルグの指差す先には、かなり大きめな店が門を構えていた。

 煌びやかに装飾された店外が目に入る。


「ていうかなんでルーメリアは勇者候補に昇進したのにショーパブで働いているんだ……?」


「さあな。昔からの付き合いとか、そんなんじゃないのか」


「まさか……ユウリがそういうのが好きだとか……?」


 あのイケメン勇者候補が女に困るはずが無い。

 ということは奴の趣味かこれは。

 ルーメリアを洗脳してショーパブで働かせている?

 わけ分からん。


「一気に行くぞ。説得は俺がするから、お前は赤ん坊の方を頼む」


「えー。俺、子供苦手なんだけどー」


 胸から赤子を引き剥がし、なんとか抱えている状態の俺。

 正直この子を交渉の道具に使うのは賛成しない。

 ていうかさっさとルーメリアに返したい。

 俺、ミルク出ないし。


 俺達は店のドアを勢い良く蹴り壊す。

 そして、俺は凍りつく。

 

 俺の目の前にいたのは――。





「ああっ! 女王様っ! ああっ! もっと俺の尻を執拗に叩いて!」


「・・・」


「このオス豚が! これがいいのかしら!」


「あああっ! もっと! もっと下さい!」


「・・・」


 俺とデボルグは2人して絶句する。

 店内にいるのは3名。

 ステージになんか凄い格好で鞭を持って立っているルーメリアと――。


「カズハ! 来てくれたのね! もう、遅いわよ!」


 ステージの右奥で手足を錠に繋がれているリリィ。

 見たところ彼女はどこも怪我をしている様子は無い。

 問題なのは――。


「アッー! これはキツイ……! キツイが、それが良い……! ルーメリア様! 女王様! もっと! もっと俺の尻を!」


「……おい、カズハ。あの馬鹿は誰だ?」


「……いや、多分、人違いだと思う」


 ルーメリアの前で四つん這いになり、歓喜の声を上げている人物。

 アゼルライムス一の槍の使い手。

 俺の『1周目』からの親友――だった男。


「ふふ、来たわねカズハ。!! その子は……!」


 鞭を振り上げる手を休め、ルーメリアは目を見開く。


「……デボルグ。どういうつもりかしら? 貴方、ユウリ様を裏切るつもりなの?」


「アッ!」


 グラハムの尻を蹴り飛ばしたルーメリアは一歩こちらへと近付く。

 すっ飛んでいったグラハムは恍惚の表情のまま気絶してしまった。

 もうそのまま死んだほうが良いと思う。


「裏切るんじゃねぇ。俺は目が覚めたんだ。だからお前も――」


 デボルグがルーメリアの説得を始める。

 なんだかやたらとシリアスな内容が飛び交っている。

 しかし俺の頭には一切その内容が入ってこない。

 全てはこのアホのせいだ。


「カズハ……。ごめんなさい。ちょっとした油断で捕らえられちゃって」


 すまなそうな表情でリリィが謝罪する。

 まともな仲間はお前だけだよリリィ。

 マジで。

 もう色々嫌になった……。


「やることが汚いわよ! 子供を人質にとって恥ずかしいと思わないの!?」


 明らかに動揺しているルーメリア。

 先に人質をとったのはそっちなのに、そんなことにも気付いていない。

 母親とはこういうものなのだろうか。

 普段の冷静な姿とはあまりにもかけ離れている。


「あー、ちょっとストップ」


「なんだカズハ。交渉は俺がやると――」


 口を出すなと言いたげなデボルグを俺は制する。


「結局よく分かんないんだけど、要は全部ユウリが悪いってことなんだろう? 俺はこいつらが無事ならそれで良いんだ」


 そう言い、ルーメリアの前に近付く。

 鞭を構え警戒するルーメリア。


「赤ん坊は返す。それとこれが『闇の魔術禁書』だ。ホレ」


「! 馬鹿野郎……! 両方とも渡してどうすんだよ!」


 後ろからそう叫ぶデボルグ。

 もう交渉とか説得とかそういうの面倒臭いんだよ。

 やめやめ。

 さっさと宿に帰ってお風呂入りたい。


「……」


「これでそこのアホとリリィは返してくれるんだろう? 次の指令は『気の魔術禁書』か。どこに持って行けば良い?」


 当然、俺は気の魔術禁書の在り処を知っている。

 そして恐らく、最後に待っているのはエアリーと人質であるレイさんなのだろう。

 ユウリが何を企んでいるのかは分からないが、奴の最大の目的は恐らく俺の『ループ』にあるのだろう。

 ならばこれは俺の問題だ。

 これ以上周りの人間を巻き込むのは得策ではない。


「……ありがとう、カズハ」


「え?」


 赤ん坊を愛おしそうに抱きしめたルーメリア。

 そして銀に輝く鍵束を俺に寄こす。


「次の指令はユウリ様から届くと思うわ。それまでに気の魔術禁書を手に入れておきなさい。それと――」


 ルーメリアは右手を掲げ何かのアイテムを使用する。

 恐らくは転移系の魔法アイテムだろう。

 消えゆく瞬間、彼女はこう続けた。


「――この子は私の子ではないわ。ユウリ様の子よ」


「はぁ? ユウリの子って……」


 俺の問いに答える間もなくルーメリアは光と共にその場から消え去った。

 俺は後ろに立っているデボルグを睨みつける。


「……おい、デボルグ」


「何だよその目は。俺は一言もあの赤ん坊がルーメリアの子だとは言ってねぇぞ」


「普通はそう思うだろう! お前、俺を騙したな!」


「勘違いしたお前が悪い」


 そう言い俺から鍵束を受け取ったデボルグはリリィの錠を外す。


「はぁ……。なんだか良く分からなかったけど助かったわ」


「そっちの気絶している方はどうする?」


 尻を突き出したまま気絶しているグラハムに向きそう言うデボルグ。


「このまま置いていこう。あいつは俺の仲間じゃない。人違いだ」


 リリィに肩を貸し、俺達3人は店をあとにする。

 この店の扉とか蹴り壊しちまったから、請求されるのはグラハムだろうし。

 というかこの街の警備兵に捕まるだろう。

 おつとめ、ご苦労様です。


「でもいいの? 魔術禁書をあんなに簡単に渡してしまって……」


「ああ。まあ、なんとかなるだろ」


 俺は頭の後ろで手を組みながら適当に答える。

 その様子を見て苦笑しているデボルグ。


 もしかしたら、デボルグはこうなることを予想していたのかもしれない。

 あの赤ん坊がユウリの子だと知っていたら、俺はルーメリアに手渡さなかっただろう。

 とんだ策士だな、この赤髪野郎は……。


(もしかしたらデボルグが一番喰えねぇ相手なのかもな……)


 でもまあ、俺が決めたことだ。

 こいつが何を企んでいようと、仲間を取り戻せれば別にどうだっていい。

 俺は世界を救いたい訳じゃないし、征服したい訳でもない。

 

 ただ、仲間と楽しく生活できればそれでいいのだから――。


「か、カズハ様っ! 俺を忘れてますよ! あっ、尻が痛い! でもそれもまた良い!」


 店の入り口でグラハムらしき声が聞こえたが、俺達は聞こえない振りをする。

 さあ、さっさと宿に帰って温泉でも入ろう。



 歓楽街にグラハムの叫び声が木霊する。


















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