024 潜入捜査
「(……おいデボルグ)」
「(あ? 話しかけるんじゃねぇよ。潜入捜査の意味がねぇだろうが)」
「(いや……潜入捜査ってお前……)」
俺達は今、魔法都市アークランドのとある研究施設に潜入している。
予定どおりタオとルルを宿に残し、夜の街へと俺を連れ出したデボルグ。
アルゼインとセレンは速攻で酒場に向かって行ったから、そこで夜を明かすつもりなのだろう。
そして俺。
何故か白衣に身を包み、結んでいた髪を降ろし、黒の伊達眼鏡をかけている。
デボルグは赤い髪を黒く染め、同じく白衣を着ているのだが――。
「(確かルーメリアってこの街の歓楽街で踊り子をやっているんだろう? どうして先に研究施設に潜入しなくちゃいけないんだよ!)」
確かに研究者達を片っ端からぶっ飛ばそうとか考えていたが、それは仲間を救出したあとの話だ。
こんなところで時間を喰ってる場合じゃないんだが……。
「(まあ、付いて来いって。ルーメリアと話をつけるんだったら、まずはここであれを手に入れなくちゃならねぇからな)」
「?」
デボルグは一体なにを探すつもりなのだろう。
というか何故俺はこいつの指示どおりに施設までノコノコと付いてきてしまったのだろう。
「おや、新人の研究員かな? こんな時間に何の用かね」
白髪の爺さんが俺達に声を掛けてくる。
確かに24時間研究室は空いているとはいえ、深夜に見慣れない研究者が訪問したら怪しまれるに決まっている。
「お疲れ様です。リーングランド支部からの要請で、例の研究資料のサンプルをいただきに来まして」
白衣の胸元からIDの入った身分証明書を見せるデボルグ。
俺も奴に続き身分証明書を提示する。
当然、偽造したものなのだが。
「ほう。リーングランドからとは、遠路遥々ご苦労様ですな。……はて? あそこの支部に女性の研究員など居りましたかな……」
「(やば……)」
白髪の爺さんが俺をマジマジと眺めている。
どうする?
ていうかそれぐらい調べておけよデボルグの奴……。
事前に分かっていれば男性研究員に変装してたのに……。
「こいつはまだ新米の研修員なんですよ。ほら、いかにも勉強不足って顔をしているでしょう?」
デボルグが笑いながら俺の顎を掴む。
その手に思いっきり噛み付いてやろうかと思ったが、デボルグの足を踏むだけで我慢する俺。
当然、爺さんには見えないように気を付けながら。
「……まあ、いいでしょう。例の研究資料のサンプルですな。一番奥の部屋に仕分けしたサンプルが保管されておりますゆえ、ご自由にお持ち下さいな」
そう答えた爺さんは懐から鍵の束を取り出し、そのうちの1本をデボルグへと手渡す。
「ありがとう御座います。サンプルを頂いたら鍵をお返ししますので。おい、行くぞ」
「え? あ、はい……」
さりげなく俺の腰に手を回したデボルグ。
そしてさっさと行けと言わんばかりに押してくる。
ボロが出る前に退散しろということなのだろう。
なんだろう。
何故か無性にイライラする。
この施設の雰囲気がイライラの原因なのだろうか。
長い施設の廊下を進み、角を曲がる。
途中で数人の研究員とすれ違ったが軽く会釈をして事無きを得た。
そして目的の一番奥の部屋へと辿り着く。
「ふぅ……。ここまでは順調だな。一瞬ヒヤヒヤさせられたが」
デボルグが軽く額の汗を拭いながらそう呟く。
「……お前、さっきさりげなく俺の尻を触っただろう」
「ああ。ばれたか」
俺は他の研究員に見られないように思いっきり奴の背中を抓る。
言葉にならない呻き声を上げるデボルグ。
今度やったらマジ殺す。
部屋の鍵を回すデボルグ。
床に光が燈り、自動的に扉が開いた。
恐らくこれも魔法の力なのだろう。
どんな仕組みなのかさっぱり分からないが。
「うわ……」
部屋に入った途端、俺は溜息を漏らす。
白一色で統一された、無駄に広い部屋。
中央には台座のようなものが置かれている。
あれがデボルグの言っていたサンプルか?
デボルグの後に続き、俺は台座の前まで歩む。
円柱状に立てられた台座の上には透明なドーム型の枠がはめられている。
その中に何か蠢くものがあった。
いや、これは――。
「……おい、デボルグ。なんだ、これは?」
「……」
何も答えず、デボルグは鍵束から先程とは違う鍵を取り出す。
そして台座についている鍵穴にそれを通す。
台座全体に光の筋が浮かび上がり、ドーム型の枠が自動的に開かれていく。
「おい! 答えろよ! なんでここに――」
「説明は後だ。このサンプルをルーメリアとの交渉材料にする。もしかしたら今頃、あのじじいがリーングランド支部に問い合わせをしているかも知れない。時間は無いぞ、カズハ」
そう答えたデボルグは台座に眠るそれを抱きかかえる。
デボルグの腕に抱かれたそれは、静かに眠っているように見える。
アークランドの研究施設で魔法遺伝子の研究に用いられていたサンプル――。
――それは紛れもなく、人間の子供だったのだ。




