023 魔法都市アークランド
「くっ……! おいカズハ! サボっていないでお前も戦え!」
魔剣を振るいながらアルゼインが俺に向かい怒鳴る。
鼻くそをほじっていた俺はその声にびっくりして指を鼻の奥深くにぶっ刺してしまう。
「いきなり怒鳴るなよ! 鼻血でる所だったじゃないか!」
「ふざけていないでアルゼイン達を援護するアルよ!」
後ろでルルを保護しながらアルゼインらに付与魔法を掛けてサポートに徹しているタオ。
お前いつから支援キャラになったんだよ。
「この辺りは結構モンスターも強いからなぁ。頑張れよー、インフィニティコリドルー」
「お前も手伝うアルよ! このクソ赤髪野郎!」
今度はデボルグに突っ掛かるタオ。
カルシウム足りてないんじゃないかな。
そんなに怒ってばっかりだとお肌に悪いと思うよ。
「ちぃ……! 皆下がっていろ!」
モンスターに囲まれたセレンが一際大きく跳躍する。
そして魔剣を仕舞い、中空で詠唱を始めた。
「我が身に宿りし《水》の力よ。その根源たる神に魂の導きを――」
「おー。奥の手出しちゃうか、セレンー」
「何をまたのん気な事を……! 皆! 一旦後ろに下がるアル!」
タオの掛け声により一斉に後ろに下がる面々。
そして何故か俺を盾にしている。
どういうつもりなのお前ら。
「――――《荒れ狂う海の悪魔》――――」
セレンが水龍神を召喚する。
割れた地面から出現した竜はモンスターの群れを一斉に丸呑みにしてしまう。
「あの……。俺、びっちょびちょなんですけど……」
皆が俺を盾にした理由はこれか。
病み上がりの俺を水浸しにして、何が楽しいのお前ら。
酷くね?
「すまんカズハ! 二匹ほど逃した! 最後のとどめを頼む!」
セレンの叫び声が聞こえる。
確かに前方からは水龍神の丸呑みから逃れたモンスターがこちら目掛けて突っ込んで来ている。
あれはこのモンスターの群れのボス格かなにかだろうか。
ゴツゴツとした岩石のようなモンスターだ。
「デボルグ。最後くらい仕事しようぜ」
「ああ。まあ、最後の締めくらいはな」
俺は背負った得物を手に取り構える。
随分と久しぶりに手に取った剛炎剣ドルグドグマ。
相変わらず無駄に重い。
返品したいこれ。
一方デボルグも戦闘モードに入る。
そういえばこいつは何も得物を装備していない。
完全にヤンキーの喧嘩スタイルだな。
ただこいつの『燃える拳』は本当に手数が多くて厄介だ。
瞬間移動と炎の拳。
出来ればもう二度と戦いたくは無い。
「来るぞ」
「ああ」
咆哮を上げながら向かってくる二体の巨大なモンスター。
俺とデボルグは同時に地面を蹴る。
「《フルスイング・インパクト》!」
「《グランディア・バースト》!」
俺の大剣スキルとデボルグの闘拳スキルが同時に発動する。
衝撃と同時に遥か彼方にすっ飛んで行くモンスター。
「ててて……。硬ってぇなぁ……」
痛そうに拳を擦るデボルグ。
ていうか岩石型のモンスターを殴るお前の神経がおかしいと思われ。
どんな拳してんの。
「つ、強いアル……。カズハはまだしも、デボルグも化物だったアルか……」
顔面蒼白でその場にへたり込むタオ。
「お? チャイナ姉ちゃんは俺に惚れちまったか。そうかそうか。乳揉んでもいいか」
「いい訳あるかああああああああああああああ!」
バチン!
「痛てっ! ビンタするこたぁねぇだろう!」
「こっちに寄るな! この変態赤髪野郎が!」
相変わらずうるさいデボルグとタオ。
何だかんだで相性良いのかな、この二人は……。
「助かったぞカズハ。済まない。取り逃がしてしまって」
軽く汗を拭きながらセレンが声を掛けて来る。
なんかセレンも随分と従順になっちゃったな。
やっぱ元魔族だから、自分よりも強い奴には従っちゃうものなのかな。
あ、いや、今も魔族か。
「全く……。カズハは私らをこき使い過ぎじゃないかねぇ。もう少し女王らしく部下の事を労わったらどうだい?」
「お前が言うな! お前が!」
普段全然仕事もせずに酒を飲んだ暮れてるアルゼインにだけは言われたくないよ!
こういう時くらい率先して仕事しなさい!
どうしていつもサボろうとするの!
サボりたいのは俺の方だっつうの!
「さあ、もうお喋りはそれくらいにして先に進みましょう。モタモタしているとまた大群が襲ってきますよ」
厳しく場を纏めた幼女。
言っちゃ悪いがお前が一番仕事していないんだけどね!
力を拘束している俺の言う台詞じゃ無いけど!
「……何ですか。何か言いたいことでもある顔ですね」
「なんでもないです」
厳しく追求してくる幼女から目を逸らす。
ここで何か言ったら、また俺はボコボコにされてしまう。
精神的に。
「はぁ……。あたいはいつも思うんだが、カズハは強いのか弱いのか、一体どっちなんだろうねぇ」
ヤレヤレと肩を竦めながらそういうアルゼイン。
皆同感といった表情で首を縦に振っている。
俺は腕をびしっと伸ばし「異議あり!」と声を荒げる。
当然のように無視する俺の部下達。
もうみんな嫌い……。
「もうそろそろ日が落ちる。暗くなる前に魔法都市に到着した方が良いと思うが」
「セレンの言うとおりアル。ほら、落ち込んでいないでさっさと歩くアルよ」
俺の尻をぺしぺしと叩くタオ。
人のプリッけつで遊ばないで下さい。
「よし。じゃあ俺も――ぐほっ!」
俺の尻に手を伸ばそうとしたデボルグの鳩尾に肘鉄を入れる。
ホントこいつはエロの塊だな。
《緊縛》を解かなきゃ良かったかな……。
俺達は悶絶するデボルグを置いて先へと進む。
◇
「うわぁ……! 凄いとこアルね……!」
前方に広がる煌びやかな都市。
もう日が暮れかかっているというのに、まるで昼間の様な明るさだ。
「魔法都市アークランドは別名『眠らない都市』って言われてるからな。魔法技術も盛んな都市だけど、歓楽街とかも結構人気があるんだぜー」
「……どうしてそんな事を知っているのですか」
俺の説明をジト目のまま聞くルル。
当然、昔来た事があるから知っているんだけど。
『前世』で。
「歓楽街ねぇ。おいセレン。さっそく酒場に顔を出してみようか」
「おいこらそこの呑み助。遊びに来たんじゃねぇぞ」
さっそく目的を忘れているアルゼインを窘める俺。
ここにはルーメリアがいる筈だ。
そして捕らえられている俺の仲間が――。
「でももう日が落ちます。どこか宿を取って、明日早朝からそのルーメリアという女性を探した方が良いのではないでしょうか」
「そうアルよ。一日中明るい都市だからって、ルルちゃんは夕方過ぎたら眠くなるアルから」
「……タオ。そういう意味では無いのですが……」
子供扱いされたルルが急に落ち込み始める。
慌ててフォローに入るタオ。
あーあ、俺知らね。
「まあ、確かにそうだなぁ。ここに来るまでに結構体力を消耗しちまったし……。宿を取って一泊してから捜索するか」
俺はそう言いながらデボルグに視線で合図する。
何も言わずに皆に分からない様に首を縦に振るデボルグ。
恐らくアルゼインはセレンを誘って酒場に直行するだろう。
ルルの事はタオに任せておけば安心だ。
ならば俺はデボルグを連れてルーメリアを探そう。
デボルグならば居場所くらいは知っているだろう。
(皆が休んでいるうちにちゃちゃっと解決出来ればベストだな……)
仲間を無事に返してくれるのであれば、闇の魔術禁書など惜しくも無い。
取られたら取り返せば良い。
こんな本よりも仲間の命のほうが100万倍は大事だ。
「さて、と」
俺は大きく伸びをし、眼前に広がる魔法都市を眺める。
仲間を救出したら、ついでだからこの都市で魔法遺伝子の研究をしている研究者どもを片っ端からぶん殴っていくか。
そうすればユウリの方から顔を出してくるかも知れない。
いつまでも踊らされてる俺達では無い。
別に暴れちゃいけないと魔法便の指示には書いていないんだし、あいつの計画の裏をかいてみるのも面白いのかも知れない。
(ルーメリア……。待ってろよ。お前の洗脳、俺が解いてやっからな)
密かに気合を入れた俺は都市へと向かう。




