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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第三部 カズハ・アックスプラントの誤算
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021 精霊族と人間族と魔族

「おう、うめぇなこれ。おかわりくれ」


 お昼時。

 俺達パーティはタオの作った料理を取り囲むように座っている。


「……どうして赤髪が普通に食卓に着いてるアルか……」


「え? どうしてって……。こいつも反省しているみたいだし……」


 タオの鋭い目つきが俺に突き刺さる。

 穴空きそう。


「……といいますか、何故《緊縛》を解いているのですか……? 私は一向に解いて貰っていないのですが……」


 隣にちょこんと座っているルルがジト目で俺を睨む。

 そこいらのヤンキーよりよっぽど怖い……。


「まあ、いいじゃねぇかよ。同じ釜の飯を喰ったら仲間みたいなモンだろう? ほれ、おかわりくれ」


「お前が言うなアル! まったく……。相変わらずカズハは何を考えているのかさっぱりアルね……」


 文句を言いながらデボルグの茶碗を受け取りおかわりを用意するタオ。

 昨日はあれだけ荒れていたのに、今日はいくらか落ち着きを取り戻した様だ。

 たぶんセレンが説得してくれたんだろう。

 マジありがたい。

 ていうか元魔王とは思えない……。


「いけ好かないねぇ……」


 さっさと食事を終えたアルゼインは席を立つ。


「おい、どこ行くんだよ」


「酒場」


 それだけ告げたアルゼインは手をヒラヒラとさせ部屋を出て行ってしまう。

 まあ、納得は出来ないだろうな。

 あとでちょこっとフォロー入れとくか……。


「……」


 無言で食事を摂るセレン。

 そして彼女をじっと見つめるデボルグ。


「……なんだ」


 デボルグの視線に気付き、ぶっきら棒にそう答えるセレン。


「俺ぁ、魔王って男だと思ってたぜ……。それがこんなボインの姉ちゃんだったなんてな……」


 デボルグの視線はセレンの半分露出された胸に集中している。

 男だったらまず目が行くから仕方が無いんだろうけど。


「……今はもう、違う。我はこやつに囚われた、ただの魔族にしか過ぎない」


「いでで! おいセレン! なんで俺の耳を引っ張るんだよ! 千切れる! やめて!」


 涙目で訴えかける俺。

 わけわかんない。

 暴力反対!


「はぁ……。何だか昨日、激怒したのがアホらしくなってきたアル……。もうみんな食べたアルね? 片付けるアルよ?」


「最後、もう一杯おかわりくれ」


「お前はちょっとは遠慮するアルよ!!」


 タオに鬼のように怒られたデボルグ。

 肩を竦め、爪楊枝でシーハーやっている姿が余計タオに火を点ける。

 もう勝手にしてください……。


「……」


「ん? なんだ、ルル?」


 俺の裾を軽く引っ張るルル。

 その目は先程とは違い真剣そのものだ。


「……ちょっと話があります」


「へ? ああ、いいけど」


 椅子から降りたルルは食器を台所へと片付け別の部屋へと向かった。

 俺は頭を掻きながらその後に続く。


「こらカズハ! あんたも食器を片付けるアルよ!」


 後ろでタオが叫んでいたがスルーの方向で……。





「なんだよ、話って」


 ソファに深く腰を沈めながら向かいに座るルルに尋ねる。


「……昨日の話の続きです。ユウリ・ハクシャナスが『勇者』に内定したという……」


 何故か彼女は悲しそうな表情をしている。

 うーん。

 これマジな話の方か。


「カズハも知っているでしょう。『勇者』とは精霊族と人間族の間に作られた『英雄』です。元勇者であったゲイル・アルガルドは精霊王と契約を結び、勇者として覚醒しました。……その後、精霊王にその身を乗っ取られはしましたが」


「へー、そうなんだ。じゃあ、ユウリが勇者として覚醒する為には精霊の力が……ん?」


 既に精霊王はこの世にはいない。

 俺がぶっ倒しちゃったから。

 火の魔術禁書を使って。

 という事は――。


「……はい。いずれ私はユウリの元へと行かなければなりません。彼と契約し、勇者の力を覚醒させる――。それが精霊族としての私の務めなのですから」


 ルルは何故か悲しそうに顔を伏せる。

 精霊族としての務め。

 過去2回、俺が勇者になった時もルルと契約を交わした。

 それを今度はユウリが――。


「やだ」


「……はい?」


 俺の言葉に目を丸くするルル。


「お前、やらない」


「……あの」


「俺が《緊縛》を解かなかったら、どちらにしても力を解放することは出来ないんだろう? だったらユウリと契約することも出来ないんじゃね?」


「……ええ、まあ……」


 何故か少しだけ顔を輝かせたルル。

 なんでだか良く分からないけれど。


「じゃあ、それで良いじゃん。ユウリも勇者にはなれない。俺はお前を手放さない。これぞ一石二鳥」


「……」


 大きく伸びをしてソファに大の字で寝転がる。

 いやー、簡単に解決したね。

 ユウリのざまぁ。


「……私、夢を見るんです」


 顔を伏せたまま話し始めるルル。

 俺は寝転がりながら彼女の話を聞く。


「その夢の中で、私は勇者と契約を交わしました。そして魔王を打ち倒し、世界は平和を取り戻しました」


「へぇ、良かったな。良い話や」


 彼女の見た夢とは、前世の記憶なのだろうか。

 だったらその勇者とはきっと俺のことだろうな。


「でも……勇者はいなくなったのです。平和になった世界で、彼だけは存在しませんでした。私は何度も何度も彼を探し、世界中を彷徨いました。それでも見付からなくて……私は……」


「おいおい。どうして泣いてんだよルル……」


 急に幼女の頬から涙が流れて焦る俺。

 やめて!

 すっごい罪悪感が俺を襲うから!


「……いつも……そこで目が覚めるんです……。お礼も言えず……いなくなった勇者を当ても無く探し続ける日々……。人々は勇者の存在を忘れ、精霊の存在を忘れ、まるで何事も無かったかのように……」


「ストップ!」


「? ……カズハ……?」


 泣き止まないルルについ叫び出してしまう俺。

 なんか俺が泣かしたみたいになってるから!

 すっごい心苦しいから!


「とりあえずお前、精霊とか辞めたらいいんじゃね? セレンみたいに」


「……え?」


「別に精霊族とか人間族とか魔族とか関係無くね? 楽しかったら良いじゃん、それで。俺、争い事とか嫌いなんだよね。疲れるし」


「疲れるし……」


 俺の言葉に驚愕の表情を向けるルル。

 いやだって、疲れるだろ。普通に。


「ユウリの奴も何を企んでんのか知らねぇけど、俺がぶっとばしてやっから。あのイケメン顔に青あざつけてやるし。マジで」


「……」


 徐々に顔色が良くなってきた様子のルル。

 なんだぁ。

 結局ルルも俺に緊縛されたままの方が幸せそうじゃん。


「なあ、ルル」


「……駄目ですよ」


「ハグし――駄目かよ!」


「ええ、駄目です」


 いけると思ったけど駄目みたい……。

 

 でも、いつかきっと首を縦に振らせてみせる。


 

 そんな気合に満ちた午後だった訳で――。


 
















デボルグ「そういえばおめぇも良い乳してやがんな」

タオ「なに触ろうとしているアルかあああ!」

デボルグ「うう……! 俺の呪われた右腕が勝手に……!」

タオ「こいつどうにかしてくれアル! ただの変態アルよおおお!」

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