019 再登場
無事に闇の魔術禁書を手に入れた俺達一行は、海峡を抜けゲヒルロハネス連邦国へと到着。
港町ガイトですぐに宿を取り旅の疲れを癒すことに――。
「あー、ようやく体調が戻ってきたっぽい」
貸切の露天風呂で一人風呂に入る。
セレンとアルゼインは例によって酒場に直行。
タオとルルは夕食の準備の為の食料調達に向かっている。
久々の一人の時間。
うん。
こういう時間も大切だよな。
「魔法都市アークランドか……。俺が昔行ったときは、別になんの変哲もない街だったけどなぁ」
ある程度強力な魔術師がギルドで雇えるくらいで、特に目立った街ではなかった魔法都市アークランド。
それが今回では無属性の魔法の開発、謎の《夢幻魔道士》という新職業が生み出された街ということになっている。
以前にも考察したとおり、恐らくその街でルーメリアと対峙することになるのだろう。
そこで囚われている俺の仲間は一体誰なのだろう。
セレンやアルゼインみたいに奴隷商人に捕まっていたりするのだろうか。
「……まぁ、目的が分からねぇからな。でも今回はヘマはしねぇぞ絶対」
風呂から上がり拳を強く握る。
前回は赤髪変態野郎に一杯食わされたのだ。
変なドレスは着させられるし、氷の魔術禁書は盗まれるし……。
今度会ったら百発はぶん殴ってやらないと気が済まない。
あいつ硬いからそれぐらい殴っても死なないだろ、きっと。
「よう、俺のことでも考えてたか」
「うおっ!?!?」
いきなり後ろから声を掛けられ叫んでしまった。
ていうか、まさか――。
「なんだ? また風呂か。カズハ、お前もしかして俺に裸を見せたくてわざとぶべふっ!!」
ニヤニヤと俺の全身を舐めるように眺めていた赤い髪の男を、渾身の力でぶん殴る。
「デボルグ!! てめぇ……! よくもその薄汚い面を俺の前に晒せたなゴルァ!」
俺の全身に闘気が迸る。
というかほぼ殺気。
ここで会ったが100年目。
「ちょ、待った! 話せば分かる! あれには海よりも深い訳が――」
「《鎖錠》」
陰魔法を発動。
異空間より出現した黒鎖がデボルグを拘束する。
「うおい!! ちょっと待てって言ってんだろ! ずっとお前らを尾行てたんだよ! お前が一人になるタイミングを見計らってだな――」
「《緊縛》」
続けざまに陰魔法を発動。
黒鎖で拘束されたデボルグの足元に幾何学模様の魔法陣が出現する。
そしてその魔法陣から眩いほどの光が――。
「くそ! 聞く耳持たねぇ女王様だぜ……! 《瞬――」
「させねぇよ」
定番の瞬間移動の魔法を使い、《緊縛》が発動する前に逃れようとするデボルグ。
しかし俺がそれを許さない。
奴が消える寸前で首根っこを掴み、そのまま自身の顔に奴の顔を近づける。
「うふふ。ねぇ、デボルグぅ……」
猫撫で声でそれだけ告げる俺。
完全に萎縮してしまったデボルグ。
そしてそのまま《緊縛》が発動。
奴の全身に蒼い拘束具が取り付けられる。
「あ……ああ……」
全ての力を封じる《緊縛》。
無力となった赤髪の男は裸の俺に首根っこを掴まれ持ち上げられたまま。
さあ。
覚悟はいいか。
「貴方は今ぁ、私の緊縛でぇ、完全に力を失ったからぁ、ご自慢の防御力とかぁ、無いに等しいのよねぇ」
一つ一つ区切りながら、気持ち悪いほどの女声を発し、奴の耳元で囁く俺。
驚愕の表情を向けるデボルグ。
そして命乞いをするかのように、奴は口を開く。
「……色っぽいな、カズハ……」
「お前は最後まで変態阿呆野郎か赤髪いいいいいぃぃぃぃ!!!」
渾身のストレートがデボルグの腹筋にめり込む。
まあ、死なない程度のストレートだけど。
そのまま露天風呂の壁に激突するデボルグ。
一発KO。
「……はぁ。ていうか何しに来たんだよこいつ……。阿呆か」
白目を剥いて気絶しているデボルグを見下ろしながらそう呟く。
まさかユウリを裏切ってきたとか言うのではあるまい。
どうせ俺が入浴中なのを狙って闇の魔術禁書を奪いに来たとかだろうな。
「こいつの《緊縛》は解かねぇ方がいいな。万が一奪われて瞬間移動されちまったら追いかけようも無いし……」
もしくは逆にこいつを人質として捕らえておくか。
そうすれば闇の魔術禁書を渡さずに済むのかも知れない。
利用価値はありそうだ。
「とりあえず…………もっかい風呂に浸かろーっと」
デボルグをそのまま放置し、もう一度湯に浸かる俺。
ああ、疲れが取れる……。
◇
「……で、人質にしたと」
宿の一室。
酒場から帰って来たアルゼインが腕を組みながらそう言う。
「阿呆アルか……この赤髪は……。闇の魔術禁書を奪いに来て、逆に囚われるなんて……」
「でもこちらからしたら好都合ですね。《緊縛》も《鎖錠》も掛けてありますし、逃げられることはまず無いでしょうし」
タオとルルが交互に拘束されたデボルグを興味深そうに覗き込む。
「しかしカズハ。こいつに人質の価値などあるのか? 捨て駒だとしたら厄介だぞ。早急に殺してしまった方が良い」
「お前なぁ。もう魔王辞めたんだから、そんな怖いこと言うなよ……」
セレンを嗜めるようにそう言う俺。
命は一つしか無いんだから大切に使おうよ。
「う……」
「あ、目が覚めたアルよ」
気絶から目覚めたデボルグは眩しそうに目を細めている。
奴を取り囲む女5人。
まあ精霊や元魔王や人外認定の俺が混ざっているけれど。
誰が人外だ、誰が。
「……くっ、いてぇ……。全身が死ぬほどいてぇぞ、カズハ……。もっと優しく殴れや」
「それだけ憎まれ口叩けりゃ大丈夫だろうが。で? 何しに来た? ユウリの差し金か?」
腕を組み仁王立ちのまま質問する俺。
「……だから最初から説明しに来たんだが……。それをいきなり殴りつけやがって……」
「そりゃ殴るだろ! お前何度目だよ! 俺の入浴シーンに現れたの!」
もう一度ぶん殴ろうとしたが、セレンとアルゼインに止められる。
後ろから羽交い絞めはいいんだけど、背中にアレを押し付けるのはやめてね。
「それは、アレだ。俺の愛情表現ってやつだ」
「ただの変質者だろお前えぇぇ! 離せ! 俺こいつぶん殴る! 離せセレン! アルゼイン!」
暴れる俺を何とか取り押さえようとする二人。
取り押さえるのはいいんだけど、顔にアレを押し付けて窒息させようとするのはやめてね。
「……何だかカズハと良い勝負アルね……」
「……そうですね。この変態具合というかなんというか……」
溜息を吐くタオとルル。
俺がいつお前らの入浴シーンを覗いたっつうんだよ!
……。
……いつも一緒に入ってたね!! ごめん!!
「まあ、聞け。俺が再びお前の前に姿を現した理由……。まあ、言い訳だと思ってくれて構わない」
「……んだよ。聞いてやるよ。その後でもう一発ぶん殴る」
冷静になりデボルグの話しを聞く。
どうせろくでもない話なんだろうけど。
今は少しでも情報が欲しい。
そして徐に口を開いたデボルグ。
彼の発した事実とは――。
A.ユウリが実は女の子だった
B.デボルグが実は女の子だった
C.グラハムが実は女の子だった
D.ゼギウスが実は女の子だった




