三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず街を出ることでした。
「じゃあな、カズハ。また闘技場で会おう」
ようやく帰ってくれたアルゼイン。
俺はもう疲れ果ててぐったりです……。
「おぬしも厄介な相手に目を付けられたもんじゃて」
新たに湯を沸かすゼギウス。
でもその言葉にちょっとカチンときちゃいました。
「爺さんのせいだろうが! 仲間になってくれるどころか弱みを握られただけじゃんかよ!!」
「まあ、そう興奮するでない。あのアルゼインを欺くことは難儀じゃ。取引も成立したのじゃし、とりあえず茶を飲んで落ち着けい」
「あ、はい。いただきます」
ゼギウスの淹れてくれた茶を飲んでとりあえず深呼吸します。
まあ確かにもう終わったことは仕方ないね。
これからのことを考えますか。
アルゼインが持ち出してきた取引は二つ。
俺の秘密を絶対に漏らさない代わりに、俺が建国した際にはその国の要人として彼女を招き入れる事。
つまり幹部にしろってことだね。
まあ、あいつ強いし、軍の大将を任してもいいとは思うけど……。
で、もう一つが――。
「これからどうするのじゃ? 二つ目の取引を成立させるには、色々と準備が必要じゃろう」
「うーん。まあ適当に頑張ってみるけど、まずは闘技大会のほうをどうにかしないといけないし……。それが終わったら行ってみるよ」
茶を飲み干し、俺は椅子から立ち上がりこう答えた。
「――魔王の城に」
◇
「勝者ぁぁ! カズハ・アックスプラントぉっ!!」
――それから更に十日が経過した。
適度にランキングを勝ち上がった俺は現在176勝54敗の成績。
当初の目標は100位入賞だったけど、色々とやることが出来たし、そろそろ潮時だろう。
試合を終え舞台を降りた俺は真っ先に闘技場の受付に向かった。
「お疲れ様です。『カズハ・アックスプラント』様ですね。本日のご用件は?」
「あ、ええと、ランキング確定の処理をお願いします」
「ランキング確定ですね。少々お待ち下さい」
受付の姉ちゃんが処理をしている間、俺は受付の横の椅子に座って足を組み考える。
『ランキング確定』とは途中棄権する選手に対する措置で、前回も俺はこれを利用した。
自身の闘技場におけるランクが決定すると、それを元にギルドで傭兵の登録ができる。
ランクが高ければ高いほど高報酬のクエストを受けることができるし、高い指名料を得ることもできるのだ。
傭兵の登録には1000位以上の入賞証明が必要となる。
たぶん俺はすでに100位台の後半くらいには入賞確定だろうし、これ以上縛りプレイで手加減するのも飽きたしで、ちょうど頃合いだと思います。
「お待たせいたしました、カズハ・アックスプラント様。今現在ですとランキング順位が185位で確定となりますが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「ではこちらにサインをお願いいたします」
受付の姉ちゃんの差し出したカードに署名し、証明書の発行が完了。
これで俺は傭兵としてギルドで働くことが可能となった。
そのまま俺は闘技場を後にし、エーテルクランの街を出発する準備をする。
「アルゼインは何位くらいに入賞すんのかなぁ……。たぶんトップ5は確実だろうなぁ」
あいつに勝てそうな奴といえば、俺の知り合いだとグラハムかリリィくらいしか思い当たらない。
前世であいつを仲間にしていれば、もっと楽に冒険を進められたんだろうなぁ。
どうして今まで出会わなかったのかが不思議なくらいだ。
まあとりあえず、俺は俺がすべきことをしますかね。
まずは今の『縛り状態』の解除から。
俺はウインドウを開き、アイテム欄から『SPポッド』を選択して使用した。
するとたちまち全回復する俺のSP。
次にスキル欄から『ツーエッジソード』を選択。
その項目のすぐ横にある解除ボタンを押してスキルを解除する。
諸刃の剣が解除され、俺の攻撃力・防御力ともに通常に戻りました。
さらに魔法の欄から陰魔法を選択。
『解呪』という魔法を使用し呪い状態を回復する。
すると装備していた呪いアイテムである『ドレインバッジ』が外れ地面に落ちた。
これにより元の通りに自動SP回復が作用するというわけだ。
最後に偽物の大剣をアイテム袋に仕舞い、代わりに勇者の剣と魔王の剣を取り出した。
約二十日ぶりの愛剣を手に、俺は軽く素振りをする。
あ、そうだ。俺の得意属性のこと、まだ話してなかったよね。
弱点属性は前も話したとおり『光』と『闇』の二つ。
そして俺の得意属性は『火』と『陰』の二つです。
通常、魔法を習得できるのは自身の得意属性に合った属性だけなんですよ。
つまり俺は火魔法と陰魔法しか習得できないってわけ。
でも物事にはどんなものでも例外っていうのがあって、例えばリリィみたいな大魔道士は全ての属性魔法が習得できます。
まあ得意属性以外の魔法は威力が半減しちゃうっていう条件付きではあるんですけどね。
それでも強いことには変わりが無いです。
だって相手の弱点を積極的に攻めることができるんだから、威力が半減でもダメージ補正が250%でしょう?
遠距離でも使用できるし、付与魔法で効果を増大させれば更にヤバいことになるし。
そもそも魔法を使用するのに必要なSPは時間と共に回復していくし……。
どんだけチートなんだよ! っていう話ですよ。
世の中不公平ばっかりだな。
だんだん勇者の剣と魔王の剣の感触が戻ってきましたね。
手加減しすぎて疲れちゃったから、そろそろ大暴れでもしようかな。
「さあ、準備運動はもう十分だ! いっちょう、行きますか!」
俺は遥か彼方にある巨大な山岳に向かい叫ぶ。
「二本目の魔剣を、かっぱらいに!!」