017 闇の神獣ブラックレヴィアタン
「ふわぁ……。良く寝たー」
瞼を擦りながら目覚める。
予定通り昨日は一日ゆっくりと休み鋭気を養った。
熱はまだ高いままだが、身体のダルさはだいぶ軽減されたし大丈夫だろう。
「もう良いのですか? もう少し休んでいても……」
ルルが心配そうな表情で俺に話し掛けてくる。
昨日も一日中看病し続けてくれたルル。
元気になったら目一杯ハグしてやろう。
「あんまりゆっくりとはしていられないしな。それに酒場のある街に滞在してるとあいつ等が――」
そこまで言い部屋を見回す。
「……あいつ等は、まだ帰って来ていないのか」
「セレン達は連日酒場に入り浸りアルからねぇ……」
朝食を準備し終えたタオが会話に加わって来る。
ていうかあいつ等どんだけ酒好きなんだよ……。
「……まあ、仕方ないか。今回だけは大目に見てやろう」
奴隷として囚われていた時には当然酒なんて飲ませて貰えなかったんだろうし。
……飲ませて貰ってたらマジびびるけど。
「一応今朝もお粥にしておいたアルよ。食べ終わったら準備して飲んだ暮れを迎えに行くアル」
タオに促されベッドから起き上がる。
足元が少しふらつくが歩けないほどでは無い。
この調子ならもう2、3日で良くなるだろう。
食卓に着き3人で食事をする。
2人とも俺に合わせて同じお粥を食べている。
なんだかんだで俺の仲間は優しいのだ。
俺は少しニヤニヤしながらルルとタオの顔を見回す。
「……なにアルか、その顔は……気持ち悪いアル」
「ええ。凄く気持ち悪いですね」
うん。
とりあえずこの笑顔だけは止めておこう。
「で? これからまた船に乗ってゲヒルロハネス共和国まで向かうアルよね?」
食事を終えたタオが食器を片付けながら俺に質問する。
「ああ。大体2日くらいかなぁ。途中ですげぇモンが見れるぜー」
「すごい物?」
同じく食事を終えたルルが綺麗に口元を拭きながら聞いてくる。
「うん。まあ、見てからのお楽しみ」
「……若干嫌な予感がするアルけど……」
タオが俺の皿を下げながら不吉なことを言う。
ていうかほぼ当たってるんだけどね。
「さ、飯も食ったし準備して行くか。飲んだ暮れのアホ共を迎えに行かなきゃなんねぇし」
椅子から立ち上がり伸びをする。
一応もしもの時は俺の出番になるかも知れないのだ。
気持ちだけは引き締めておこう。
◇
宿を出発した俺達は酒場に向かいセレンとアルゼインを強制連行。
その足で港に向かい船に乗る。
今日からまた丸二日、船酔いとの戦いだ。
体調も万全でない俺は、船室に入るなりすぐさまベッドに横になる。
「なんかあったら起こしてちょ」
「いきなり寝て不吉なことを言わないで欲しいアルよ!」
タオのツッコミがいつにも増して激しい。
直感の鋭いタオさんマジ尊敬。
「何かが起こると言うのか? カズハ」
セレンが真剣な眼差しで俺を見下ろす。
この位置からだとおっぱいで顔が良く見えないけど。
「うん。セレンとアルゼインは出撃の準備を怠らないでくれよ。じゃ、お休みー」
「は? 私もかい? お休みって、あんたねぇ……」
船室の入り口で腕を組みながら壁に寄り掛かってたアルゼインが目をパチクリさせている。
おっぱい大きいから腕を組むのも大変ですね。
「というか『出撃』? まさか、カズハ……」
ルルが心配そうな顔を向ける。
大丈夫だって。
たぶん。
◇
港を出発してから半日。
静かだった船の揺れが徐々に大きくなって行く。
「あれは……?」
ベッドの横の椅子に座りながら読書をしていたルルが窓の外を注視する。
ていうかよく酔わないよなお前……。
俺だったら船に乗りながら読書なんか絶対に出来ない……。
「『ミネアの大渦』だよ。まあ、ちょっとした観光名所ってやつ?」
身を起こしルルと同じ様に窓から外を眺める。
船からだいぶ離れた海域に大きな渦が見える。
さて。
そろそろ奴が現れる頃だと思うんだけど……。
「なんか揺れがどんどん大きくなっていないアルか……?」
船室の台所に立っていたタオが心配そうに呟く。
その言葉に協調するかのごとく、船は大きく揺れだした。
「!! 渦の中心から何かが……!」
ルルが窓から外を指差す。
その先に見えたのは――。
「お、やっぱ来たか。ここに『火の魔術禁書』の残りカスがあるからな。前回はまだ未使用だった火の魔術禁書を持ってた時に現れたけど、絶対来ると思ってたぜ」
「前回……? 何のことを言っているのですか、カズハは……?」
あ。やっべ。ケアレスミス。
2周目のときに『火の魔術禁書』を所持したままこの海峡を越えようとして、奴に襲われたことは誰にも話していなかったっけ。
ていうか俺が3周目って話自体、ルルとタオには言ってないし。
「あー、まあ、アレだ。俺のたわごとってやつだ」
なんとなしに誤魔化す俺。
「アホなこと言ってる場合あるかぁ! どうするアルかあれぇぇ!!」
「あ、大丈夫大丈夫。セレンとアルゼインには言ってあるから」
既に船外で待機している2人の魔剣士。
2人掛かりなら多分倒してくれる筈。
前回は俺一人でも追い払えたし。
倒そうと思えば倒せたんだろうけど、その時は闇の魔術禁書を集めてたわけじゃないし、後追いはしなかっただけの話。
あいつ等もこんな大物と対峙して、今頃ゾクゾクしているんじゃないかな。
今回、俺は予定通り傍観を決め込みます。
体調悪いし。
「『闇の神獣ブラックレヴィアタン』。一切の攻撃を無効化する最強の防護壁をその身に宿す海の悪魔。でも魔剣だけは対象外。勇者の剣は弾くのに、魔剣だけは有効ってなんかズルイよねー」
「……そんな軽ーく説明されても困るアル……」
何故か床に膝を突きながらうな垂れてしまうタオ。
そんなにびびるなよー。
魔剣は効くんだから平気だっつうの。
「……いつも不思議に思います。カズハは何故、色々とこの世界の『隠された事実』を知っているのか……」
ルルが真剣な表情で俺に質問する。
もうそろそろ頃合なのかな。
話しても別に構わないと思うんだけど、どうしてもルルだけは躊躇してしまう。
どうしてだろう。
俺が実は『元勇者』だって話したら、ルルは飛び上がって喜びそうなのに。
何故か話したくない。
船が大きく揺れる。
真っ黒い怪物が徐々に近付いて来る。
船の何倍もの大きさの闇の神獣。
「ははっ! まさかこんな大物と対峙出来る日が来るなんてねぇ……! カズハと一緒にいると退屈しないで済むよ……!」
「闇の神獣ブラックレヴィアタン……。魔王軍が喉から手が出るほど欲した『闇の魔術禁書』を守る守護獣、か……」
「おや? もしかしてあんた、こいつを倒したら魔術禁書とやらを奪って魔王軍に戻るつもりかい?」
「……ふん。そんなつもりならば、とうに弱っているカズハの息の根を止めておるわ」
「はっ、そりゃそうだねぇ……! 準備は良いかい、セレン……!」
「ああ……! ここで負けたら後で何を言われるか分からんからな……! 最初から全力で行く!」
2人の魔剣士が眼前に迫る神獣に飛び掛る――。




